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回想記
ニューヨークマウントサイナイ医科大学脳神経外科Leonard I.Malis名誉教授のご逝去を悼む―Farewell Daddy Lenny, the Giant of the Giants in Neurosurgery―
著者: 新島京1
所属機関: 1国立病院機構滋賀病院脳神経外科
ページ範囲:P.1064 - P.1066
文献購入ページに移動先生と旧知の神経外科医であったYun Shang Huangおよび30年来の女房役であり,術前・術中のナビゲーターでもあった神経放射線科医Yun Peng HuangのHuang兄弟との関係で,彼には幼少時から実の息子のように可愛がっていただいていた.物静かな紳士であられたが博学かつ雄弁で,H. Cushing,W. Dandy,L. Davis,W. Penfield,G. Yasargil,F. Mayfield,C. Drake,J. Ransohoff,P. Jannetta,M. Samii等,そのほとんどが先生の知己である神経外科界の偉人達の世に知られていない逸話を聞かせていただくのが,お目にかかる度の楽しみであった.先生ご自身のエピソードを1つ紹介すると,新米レジデントすらまだ顔を見せない朝の6時前からHuang先生と指しでステレオフィルムの読影に没頭されている光景をルーティンのごとく目にしたものである.綿密な術前検査と手術計画は,手術室における並外れた集中力と迅速的確な決断力と相俟って先生の卓越した手術成績の源泉となっていたのであろう.部下の手術を監督しておられる時には決して手を出されることはないが,“Don't say subtotal! Encourage yourself to spend extra-one-hour for total removal. Total or else nothing!”と口癖のように叱咤激励されていた熱意には感服した.他方,80歳を過ぎてもなお勇猛果敢なスポーツマンで,夏期休暇中はダイビングとパワーボートを堪能されるのが常であった1).冠動脈bypassを受けられた10年前には,長年にわたって楽しまれ,その甲板からはRuth夫人も私も時速100マイルで振り落とされるという洗礼を受けた,愛艇“Cigarette”号を勇退させ,英国に特注した最新式大型クルーザーを購入された.その処女航海に,「ハドソン河上のニューヨーククルーズとロンドンまでの船旅をしよう」と誘ってくださったのだが,ちょうどその頃から不整脈を頻発されるようになり,愛娘Lynnのご夫君が循環器内科医をしておられるカリフォルニアへ療養に行かれることになった.経皮的心筋ablationを受けられた後,ほぼ全快されていったんはニューヨークに戻られたが,今度は同時多発テロが発生し,日米双方の往来が不自由になり,先生は療養目的でニューヨークとカリフォルニアとの行き来を繰り返されることとなったので,結局ご自身が新艇で遠出されることも私が乗せていただくことも叶わずじまいになってしまったのが心残りである.
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