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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科34巻11号

2006年11月発行

雑誌目次

離島医療と専門医の地域偏在化

著者: 吉井與志彦

ページ範囲:P.1079 - P.1080

 私が沖縄にきて,早いものでもう10年になる.この10年やってきたことの1つは,如何に沖縄に脳神経外科医を増やすかということであった.脳神経外科医の勤務内容が,忙しく,リスクも高く,しかも医師には何の特典もなく,さらに緊急手術や処置で自分の時間が思うようにとれない等が災いして,10年経つがいまだに充足していない.昨年文科省が公募した「地域医療人養成プログラム」に,これまでの人集めの苦労を基に構想した「離島医療人養成教育プログラム(RITOプロと略)」が採択され,その専門部会長を併任することになった.

 このRITOプロは,沖縄で,現在少ない脳神経外科,産科,プライマリ・ケア,麻酔科の4診療科に焦点を当て,それらの専門医を増やすために,10~20年先を考えた教育プログラムである一方,県外を含めて,既に専門医となった医師を対象に,沖縄の離島医療への貢献とRITOプロ研修医・医員への指導を担う専門医の確保を目指したプログラムの2重構造になっている.いくつかの特典を付加して,特化医療人として募集をしている.もし興味があれば,是非,ホームページ(http://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/edupro/index.html)にアクセスして欲しい.

総説

下垂体腫瘍の診断と治療

著者: 置村康彦 ,   千原和夫

ページ範囲:P.1083 - P.1092

Ⅰ.は じ め に

 下垂体腫瘍は脳腫瘍の約15%を占める比較的よくみられる腫瘍である.画像診断の発展とともに,無症状の下垂体腫瘍が偶然みつかることも多くなり,実際の罹患率ははるかに高いものでないかと想像される.下垂体腫瘍は,腫瘍容積増大による視野・視力障害,脳神経障害,頭痛などの症状と,下垂体ホルモン,およびそれが制御する下位のホルモンの過剰分泌による症状を引き起す.下垂体腫瘍の診断も,腫瘍増大による所見と,下垂体ホルモンの過剰分泌所見を確認することでなされる.機能性下垂体腫瘍の場合,下垂体ホルモンが不適切に分泌されている所見を捉えることが重要で,このために内分泌検査が必要なのである.内分泌検査成績の評価のもととなる考えには大きな変化はないが,最近の疫学成績の結果をもとに,間脳下垂体機能障害調査研究班により下垂体腫瘍の診断の手引が作成(改訂)された.治療においても,手術,薬物,放射線の3本柱の治療の位置づけに変わりはないが,薬物療法では新規治療薬の導入が始まっている.本稿では,最近の診断基準,薬物療法に重点をおいて概説する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

鞍隔膜下頭蓋咽頭腫に対する経鼻的腫瘍摘出術

著者: 阿部琢巳

ページ範囲:P.1093 - P.1108

Ⅰ.は じ め に

 鞍隔膜下頭蓋咽頭腫とは,聞き慣れない“言い回し”であるかもしれない.Fig. 1にトルコ鞍内およびその周辺の微小解剖を示す.鞍隔膜下頭蓋咽頭腫とは,鞍隔膜の下方の扁平上皮細胞群 (squamous cell nest)より発生し,腫瘍の主座がトルコ鞍内に存在している頭蓋咽頭腫のことである.逆にトルコ鞍の拡大を伴うような頭蓋咽頭腫は,鞍内から発生し鞍隔膜下に存在しているのが普通である1,33).このようなトルコ鞍の拡大を伴うような鞍隔膜下頭蓋咽頭腫は下垂体腺腫同様,経鼻的-経蝶形骨洞的腫瘍摘出術のよい適応である2,7,10,11,13,15,27-30,32-34,36,39).Fig. 2に小林らによる腫瘍の存在部位別の頭蓋咽頭腫の分類を示す 24).この分類に従うと,頭蓋咽頭腫の約70%は,鞍上部から鞍内部にかけて存在し(TypeⅠ),鞍上部に限局するものは約20%(TypeⅢorⅣ),鞍内部に限局するものは約10%に過ぎない(Type Ⅱ)35).ここでは,この分類におけるTypeⅡおよびトルコ鞍の拡大を伴う一部のTypeⅠ頭蓋咽頭腫に対する経鼻的腫瘍摘出術に関して概説する.

研究

ポリグルコール酸不織布フェルトとフィブリン糊による新しい硬膜閉鎖法―臨床応用140例の結果―

著者: 寺坂俊介 ,   岩﨑喜信 ,   黒田敏 ,   内田隆徳

ページ範囲:P.1109 - P.1117

Ⅰ.は じ め に

 脳神経外科の手術では硬膜欠損や硬膜縫合不全が生じる場合が少なからず存在する.硬膜欠損は外傷や髄膜腫の手術のみならず,外減圧術や頭蓋底手術でも起こりうる.また硬膜縫合不全は,高齢者の後頭蓋窩の手術や内視鏡手術などで硬膜の一次縫合ができない場合に起こりうる.このような場合に髄液漏やそれに引き続く感染,脳の陥頓による様々な合併症を防ぐ目的で代用硬膜が必要になる.

 われわれは2006年に生体組織に置換される代用硬膜としてポリグルコール酸不織布フェルト(PGAフェルト)とフィブリン糊との組み合わせを報告した16).この生体適合性代用硬膜は硬膜としての高い閉鎖能や膠原線維への組織置換という特徴以外に,不織布ゆえ硬膜閉鎖に縫合操作を要しないという特徴をもっていた.髄液漏が縫合操作に制限が起こる部位で起こりやすいことを考えると,この代用硬膜の特徴は硬膜閉鎖には極めて有利に働くと考えられた.

 今回われわれは,臨床上の様々な硬膜欠損や硬膜縫合不全に対する本代用硬膜の臨床応用例を報告する.

テクニカル・ノート

蝶形骨平面からの髄液漏に対する外科的治療

著者: 奥田武司 ,   北野昌彦 ,   種子田護

ページ範囲:P.1119 - P.1123

Ⅰ.は じ め に

 蝶形骨平面からの髄液漏は,前頭蓋底骨折や頭蓋底手術後の合併症として時折認められる.その閉鎖法は,開頭術による硬膜外,硬膜内アプローチが用いられているのが一般的であるが,蝶形骨平面は通常のアプローチでは最も深く,十分な術野を確保できないため,確実な再建が保障されていない.こういった蝶形骨平面の再建に関して,われわれはより広い術野が確保できる拡大経蝶形骨洞法4,6)を用い,頭蓋底の解剖学的構造を再構築することにより,より生理的な再建を行っている.本法について代表症例を呈示しながら報告する.

症例

成人発症の症候性後頭円蓋部くも膜囊胞の1例

著者: 八木貴 ,   大橋康弘 ,   中野真 ,   小川昌澄 ,   深町彰

ページ範囲:P.1125 - P.1129

Ⅰ.は じ め に

 症候性くも膜囊胞は,若年者に発症することが多いが,成人発症例は稀である22).われわれは後頭円蓋部に局在し,視野障害を発症した症候性くも膜囊胞を経験したので文献的考察を加えて報告する.

主幹動脈閉塞症に合併した多発性脳動脈瘤の2例

著者: 井上明宏 ,   河野兼久 ,   武田哲二 ,   武智昭彦 ,   河野啓二 ,   山口佳昭 ,   石井大造 ,   佐々木潮

ページ範囲:P.1131 - P.1138

Ⅰ.は じ め に

 もやもや病の側副血管には,血流負荷によると考えられる動脈瘤が生ずることは広く知られており11),同病態に合併した末梢性動脈瘤は親血管への血流負荷の変化でしばしば自然消失する7).しかし,もやもや病の病態とは無関係の特発性,アテローム硬化性中大脳動脈閉塞などの慢性閉塞性脳血管病変に,血流負荷による脳動脈瘤が合併する症例も散見されており11),このような症例に関する治療方針についてはいまだ明確なものは存在しない.今回われわれは,脳主幹動脈閉塞に合併した多発性脳動脈瘤の2症例を経験した.1つは虚血発作にて発症した非破裂性多発脳動脈瘤の症例であり,もう1つはくも膜下出血にて発症した脳主幹動脈閉塞の症例である.前者は,血行再建術を施行した後にクリッピング術を二期的に施行,また後者は一期的に血行再建術,クリッピング術を行った症例であり,両者ともに術後良好な経過を得ている.これらの2症例に関して,脳動脈瘤の発生機序ならびに主要血管の閉塞と脳動脈瘤との合併例に対する治療方針について,文献的考察を含め検討を加えたので報告する.

経蝶形骨洞手術の合併症としての巨大内頸動脈偽性動脈瘤の1例―その治療法の考察―

著者: 服部伊太郎 ,   岩崎孝一 ,   堀川文彦 ,   丹治正大 ,   五味正憲

ページ範囲:P.1141 - P.1146

Ⅰ.は じ め に

 下垂体腫瘍に対する経蝶形骨洞手術における合併症として,内頸動脈海綿静脈洞部の損傷は稀ではあるが重篤なものとして知られている1,2).なかでも,偽性動脈瘤を形成しそれが遅発性に破裂して動脈性鼻出血を来す例は,致命的な合併症として報告が散見されるが,一般にその治療は極めて困難であり有効な治療法に関して統一した意見は得られていない3-10).われわれは下垂体腺腫の経蝶形骨洞手術後8年目に,多量の鼻出血にて発症した内頸動脈偽性動脈瘤の症例を経験した.緊急血管内治療により動脈瘤のコイル塞栓術を施行したが再破裂したため,動脈瘤のトラッピングを余儀なくされた.この経験に基づき本疾患の治療法につき文献的考察を加え報告する.

頸椎症を合併したイヌ回虫幼虫移行症による横断性脊髄炎の1例

著者: 三橋豊 ,   内藤堅太郎 ,   山内滋 ,   成瀬裕恒 ,   松岡好美 ,   中村(内山)ふくみ ,   廣松賢治

ページ範囲:P.1149 - P.1154

Ⅰ.は じ め に

 本邦では寄生虫感染症は稀となり,日常診療においてわれわれ脳神経外科医の念頭に上ることは少なくなっているのが現状と考えられる.しかし,最近では,イヌ回虫,ブタ回虫症などの食品媒介寄生虫症,幼虫移行症はむしろ増加傾向を示しているともいわれる9)

 われわれは今回,頸椎症性脊髄症にイヌ回虫幼虫移行症による脊髄炎を合併したと考えられた1症例を経験した.イヌ回虫幼虫移行症による脊髄炎は稀な疾患であり,われわれが日常的に遭遇することは少ないと考えられるが,脊髄症の鑑別疾患の1つとして認識しておくことが重要と考えられたので文献的考察を加えて報告する.

連載 脳神経外科医療のtranslational research(1)

脳神経外科における疾患標的治療―分子標的治療と薬剤投与法―

著者: 齋藤竜太 ,   隈部俊宏 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.1157 - P.1165

Ⅰ.はじめに

 20世紀後半,分子生物学,遺伝子工学が革命的な進歩を遂げた.21世紀に入り,2003年4月14日,ヒトゲノムシークエンスの解読完了が宣言され,ポストゲノム時代に入った.マイクロアレイ遺伝子発現プロファイルの解析,一塩基多型 (SNP)探索による疾患関連遺伝子・治療反応性関連遺伝子の同定など,より網羅的な疾患の診断,治療反応性の評価が可能となった.また,ゲノム情報を元にしたゲノム創薬が注目され,多くの分子標的薬剤が開発され,現に癌を中心とした疾患の臨床に使用される時代となった.このような生命科学,基礎医学の顕著な進歩により,脳神経外科学が対象とする疾患にも大きな変化が生じつつある.脳腫瘍の遺伝子異常に関する知識が蓄積され,虚血脳における細胞障害機序が解明され,パーキンソン病などの神経変性疾患の発症機序が解明され,それぞれの疾患の分子遺伝学的なレベルからの理解が進んできたことで,より病因に適した治療法の探索が可能となってきた.

 一方で脳神経外科臨床においても,MRIを代表とした画像診断技術の進歩,マイクロニューロサージャリーの普及,定位脳手術の発展,ガンマナイフを代表とする放射線治療技術の進歩,convection-enhanced delivery(CED)3)を代表とする新規投薬技術の開発など,目を見張る進歩がある.このような背景の中で,今後の脳神経外科治療においては,疾患標的治療(disease targeting therapy)が1つの方法論として重要になってくると考えられる.遺伝子レベル,分子レベル,さらには手術治療,放射線治療,化学療法の面からも目的疾患に標的を定めた治療が行われ,疾患治療がより効率的かつ安全なものになる.本稿では,分子レベルでの標的化と薬剤投与段階での標的化をもとにした“疾患標的治療”につき概説する.

コラム 医事法の扉

第7回 「損害賠償」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.1167 - P.1167

 医療行為と患者側の損害発生との間に因果関係が証明されると,今度は損害賠償の問題になります.損害賠償は,通常,医療契約の履行義務を果たさなかったという「債務不履行」(民法415条)と,そもそも患者さんの生命,健康といった基本的な権利を不当な医療行為によって侵害したという「不法行為」(同709条,715条)の,どちらか一方を基礎として請求されます(両方を請求原因としてとりあげる請求権競合という考えもあります).いずれの請求原因かによって,消滅時効や,証明責任(原告と被告のどちらが証明しなければならない事項か)などの訴訟手続上の違いはありますが,原則として,賠償額には差はありません.

 損害賠償には,大きく分けて3つの問題があります.①対象(被告)は誰か,②損害の範囲はどこまで及ぶか,③実際の金額はいくらか,という問題です.

包括医療の問題点

1.DPCの概要と平成18年度改訂の骨子

著者: 神服尚之

ページ範囲:P.1168 - P.1175

 平成14年の診療報酬改訂で決定した特定機能病院(82施設)へのDPC(Diagnosis Procedure Combination)適用は,平成15年7月から本格的に稼働し始めた.その後,DPCは,試行的適用施設あるいは調査協力施設の形で民間病院に拡大しつつある.そして2006年診療報酬改訂において最後に議論されたのがDPCの拡大である.結論としては十分な検証を行うことを前提に拡大方向となった.今後,これが急性期医療全体に本格的に導入されることは避けられず,医療現場に大きな改革をもたらすことが予想される.

 DPC本体については,現在様々な評価がある.本来,DRG/PPS(Diagnosis Related Groups/Prospective Payment System)は疾患別・包括払い制度であり,アメリカで開発された後,オーストラリアやカナダさらに韓国など多くの国の医療費支払制度に利用されている.日本においても包括払い制度が検討され,開発されたものがDPCである.しかし,この2者には差異を認める.まず,①DRG/PPSが1入院単位であるのに対し,DPCは日額定額制であること,また,②疾患別コストから報酬額を決めるのが基本であるはずが,現行は前年度当該病院の医療費で病院別係数が決定されること,などである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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