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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科34巻2号

2006年02月発行

雑誌目次

熱中人

著者: 有田憲生

ページ範囲:P.119 - P.120

私の自宅は海抜170mくらいの山の中腹にある.2分も歩くと,広くひらけた崖に出る.甲山(かぶとやま),甲子園球場,大阪市内の高層ビルから泉州まで大阪平野が一望に見渡せる.関東に住む人と較べると,多分恵まれた環境である.この何年も休日の1つの楽しみは,犬と散歩することだ.以前,この欄に書かせてもらったシベリアンハスキーはこの原稿が出る頃には12歳になる.しかし今日は犬の話はやめておこう.私の趣味は犬だけではない.

 世の中には常人に理解できないことに興味を覚える人がいるようだ.「熱中時間」というテレビ番組がある.蛾の収集が趣味で,自宅の冷蔵庫に食品と蛾が並んでいる女子高生,お墓巡りに没頭する若い男性,鳥の巣の収集に全国を飛び回っている中年,ため息が出るような趣味が紹介される.

総説

血管新生研究と脳神経外科治療への展開

著者: 阿部竜也 ,   上田徹 ,   藤木稔 ,   古林秀則

ページ範囲:P.123 - P.132

Ⅰ.は じ め に

 血管新生を促進または抑制する作用を指標として,これまでにさまざまな因子が血管新生に関与することが報告された.特にVEGF(vascular endothelial growth factor, 血管内皮増殖因子)やアンジオポエチン(angiopoetin)といった血管内皮細胞に選択的に作用する分子が同定されたことによって,血管新生に関する研究はこの十年で飛躍的に進歩した.さらには血管内皮前駆細胞の発見以来,従来の既存血管内皮細胞の再形成(angiogenesis)の他に,血管内皮前駆細胞からの発生(vasculogenesis)のメカニズムが関与することが明らかになった.

 血管系は血管内皮細胞とその周囲の血管平滑筋細胞(末梢では周皮細胞)からなるが,近年これら血管系細胞の発生・分化・形体形成に関与する遺伝子群の同定も飛躍的に進み,シグナル伝達系や機能の解析もわかってきた.血管内皮細胞を誘導する因子としてVEGFとその受容体,動・静脈の分化に関与するエフリンB2とEphB4受容体システム,血管内皮細胞と平滑筋細胞の相互調節に関与するアンジオポエチン(angiopoetin)とTIE受容体システムなどさまざまな因子が複雑に絡み合いながら,血管新生に働いている.またこれらの諸因子は生理的な血管新生のみならず,腫瘍や炎症など病的血管新生にも関与している.血管新生と低酸素状態は密接な関係があるため,本稿では血管新生の概略を示し,低酸素状態における細胞のストレス応答と転写因子Hypoxia-inducible factor(HIF)に焦点をあて,治療への応用について概説する.

海外だより

小児頭部外傷の診断と治療

著者: 荒木尚 ,   James M ,   James T ,   Peter B ,   横田裕行 ,   山本保博

ページ範囲:P.135 - P.146

Ⅰ.は じ め に

 2001年11月より現在まで,カナダトロント市のトロント小児病院脳神経外科においてclinical fellowとして脳神経外科臨床に従事し,特に小児頭部外傷の初期対応から脳神経外科的治療までを学ぶ機会に恵まれている.同院では2005年6月までの3年半に2,084例の小児外傷患者を受け入れ,うち727例の頭部外傷を脳神経外科が担当し,さらに398例の重症頭部外傷をICU管理した.一般的に,北米における年間500,000件の頭部外傷患者が救急外来を受診し,そのうち7,000件が死亡,29,000人が重度後遺症を持つとされている.また外傷による入院小児患者のうち75%が頭部外傷を有し,中枢神経系の外傷による死亡はこの15年間,依然,外傷による死亡理由の第一位であることから,脳神経外科の重要性は,外傷診療チームスタッフにも深く認識されている.また,小児虐待の診断治療は,日本国内においても症例の増加に伴い,広く認知されるようになってきたが,その診断のうえで脳神経外科の果たす役割は大きい.

 原則として,トロント小児病院では16歳未満の外傷患者を受け入れ,16歳以上の患者については周辺の成人外傷センターに搬送することとしているが,基本的には日本における救急患者の受け入れと同様,①近隣医療施設から致命的損傷の疑いあるいは確診例の紹介,②prehospital field trauma triage guidelineに沿い,救急隊により,事故現場から直接搬送,以上の症例群をおもに取り扱っている.

 小児頭部外傷の初期治療から頭蓋内圧管理に至るまで,明確に整備されたガイドラインはいまだ知られていない.2003年に北米のガイドラインが暫定的に発表されたのも記憶に新しいが1)evidenceとしての拘束力は強くないものである.そのうえ,小児虐待の臨床像は多彩で,治療の標準化は困難であることも問題である.

 本邦における少子化や頭部外傷発生頻度自体の減少,また脳神経外科医師の増加に伴って,1人当たりの医師が重症頭部外傷の小児例を管理する機会は減少すると思われる.その一方,EBMを基盤とした北米の系統だった頭部外傷管理はますます科学的根拠を増している.この時勢を鑑みて,トロント小児病院における臨床経験を報告することは,われわれ若い脳神経外科医師の将来に有用であると信じ,僭越ながら筆を進めることとした.

研究

上向き前交通動脈瘤に対するpterional approach―A1-A2移行部が前方に位置する側からのアプローチにおける問題点と対処法

著者: 日野明彦 ,   布施郁子 ,   越後整 ,   岡英輝 ,   岩本芳浩 ,   藤本正人

ページ範囲:P.149 - P.158

Ⅰ.目 的

 脳動脈瘤は1つとして同じものがなく,手術中の問題点も1例ずつ異なる.手術には周辺血管との癒着など,術前には予想しにくい問題も多いが,術者が一定の指針に沿って自分の手術を標準化し,症例を重ねることによって,術野に一定のパターンが現れることがわかる.術前にそれらを予測して対策を考えておくことは,手術を円滑に進めるために有用と思われる.

 前交通動脈瘤をpterional approachで手術する際,術者が行う最初の作業は開頭側の決定である.このとき考慮すべき因子として,優位半球,A1の優位性,術者の利き腕,血腫の分布,前交通動脈の傾き,他の動脈瘤の存在などが挙げられるが,何を重視するかは術者によって異なる.例えば,利き腕や大脳半球の優位性を考えて右側の開頭のみを選ぶ術者2,12,13,15,22-24),術中破裂に備えて常にA1が優位な側の開頭を選ぶ術者もいる3,16,18,20).術者にとって最も安全確実と思われる接近法を選べばよいが,どの接近法を選ぶにせよ,手術経過全体を見通して,その術野ではどのような状況が生じうるかを予測しておくことは重要である.

髄膜腫摘出術と術前後の前頭葉機能変化の検討―3症例の検討

著者: 青木友浩 ,   田代弦 ,   藤田晃司 ,   梶原基弘 ,   松田芳恵

ページ範囲:P.161 - P.167

Ⅰ.は じ め に

 高次脳機能障害,特に前頭葉機能障害には近年神経系の各分野から関心が集まり,知見が蓄積されつつある.脳神経外科領域では,頭部外傷例やてんかん症例,前交通動脈瘤手術例で高次脳機能障害の検討がされている2,10).しかし,良性の脳腫瘍について機能障害や,摘出術前後の機能変化を検討した報告は国内外ともに少ない8,11).今回,われわれは髄膜腫の摘出術施行例3症例に対し,術前後の前頭葉機能障害について評価を行ったので,考察を加えて報告する.

症例

微小血管減圧術が有効であった舌咽神経痛の1例

著者: 大山茂 ,   沖修一 ,   隅田昌之 ,   磯部尚幸 ,   呉島誠 ,   黒川泰玄

ページ範囲:P.169 - P.173

Ⅰ.は じ め に

 舌咽神経痛は比較的稀な疾患であり,同様の性質をもつ三叉神経痛の1/70の頻度でみられると言われている1).しかし,稀ではあるが舌咽神経支配領域(咽頭,舌,耳など)に発作性・短時間性・穿刺性・片側性の痛みを伴い,日常生活に支障を来している場合が少なくない.

 舌咽神経痛の発作の発現機序はいまだ完全に解明されていないが,脳幹への神経根侵入部の軸索に動脈の圧迫8)や拍動が持続的に加わり,脱髄性変化13)が起こって異所性脱分極が生じ,疼痛を形成するといわれている.

 舌咽神経痛を認めた場合の治療は,通常カルバマゼピン等の内科的治療が行われるが,内服治療が無効,もしくは副作用にて継続困難な場合,外科的治療が考慮される.現在,外科的治療の第一選択として微小血管減圧術が行われているが,無効例や長期経過中の再発例が存在することも知られている.

 今回われわれは,微小血管減圧術が有効であった舌咽神経痛の1例を経験した.その症例を通し,無効例および再発例の原因について文献的考察を加え報告する.

細菌性外頚動脈瘤の1例

著者: 小柳まゆ ,   菅原孝行 ,   関博文 ,   小川欣一 ,   八木卓也 ,   野崎英二 ,   小野貞英 ,   樋口紘

ページ範囲:P.175 - P.180

Ⅰ.は じ め に

 細菌性動脈瘤は菌塊を含む塞栓子が血管を閉塞し,その部分の血管壁で増殖,壁破壊を起こして生じると考えられているため,一般に塞栓子が詰まりやすい末梢血管に形成されやすいといわれている.実際に細菌性動脈瘤が頭蓋外の頸動脈に発生することは稀であり,われわれの渉猟し得た範囲では53例のみの報告であった.これらは1例を除いて内頸動脈に形成されており,外頸動脈に生じた細菌性動脈瘤は極めて稀である.

 今回われわれは,感染性心内膜炎に合併した頭蓋外外頸動脈瘤を経験したので文献的な考察を加えて報告する.

妊娠を契機に発症したシャント機能不全の1例

著者: 笹川泰生 ,   佐々木尚 ,   冨子達史 ,   赤井卓也 ,   飯塚秀明

ページ範囲:P.181 - P.187

Ⅰ.は じ め に

 1960年代以降,シリコンチューブの開発により水頭症に対する脳室腹腔短絡術(以下,VPシャント術)は脳神経外科領域において日常的に行われるようになった.また,これに伴いシャント機能不全を経験することも稀ではなく,小児においてはシャント術後1年以内に約3割がシャント機能不全を生じるとの報告もある16,18).その原因としてはチューブの機械的な閉塞,システムの故障および感染が大部分を占める9)

 今回,われわれはVPシャント術を受けた患者が後に妊娠を契機にシャント機能不全を発症し,出産後にシャント機能不全が治癒した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

血管内手術が奏功したbow hunter's strokeの1例

著者: 五味正憲 ,   服部伊太郎 ,   堀川文彦 ,   岩崎孝一

ページ範囲:P.189 - P.192

Ⅰ.は じ め に

 頭部回旋によって椎骨動脈が頚椎C1-C2のレベルで狭窄し,椎骨脳底動脈領域の虚血症状を呈することがある.この疾患はbow hunter's strokeと言われ,いくつかの直達手術の有効性が報告されているが,今回血管内手術が有効であった例を経験したのでこれを報告する.筆者らが渉猟し得た範囲では,血管内手術が奏功した本疾患例の報告はなく,今回のものが最初と考えられる.

Accessory anterior cerebral arteryに発生した末梢性前大脳動脈瘤の2症例

著者: 忽那宗徳 ,   門田秀二 ,   渡辺憲治

ページ範囲:P.193 - P.200

Ⅰ.は じ め に

 Accessory anterior cerebral artery(以下,accessory ACA)は前交通動脈から直接分枝し,本来の前大脳動脈(ACA)の支配領域を支配しているもので,通常2本の前大脳動脈(A2)に加え前交通動脈からあたかも3本目の枝があるようにみえるためtriple ACA,third ACAなどとも呼ばれる前大脳動脈の血管奇形の1つである.

 一般に末梢性前大脳動脈瘤はほとんどが脳梁膝部に発生し,それ以外の部位に発生した動脈瘤は非常に珍しいとされる.今回われわれは,前大脳動脈の奇形であるaccessory ACA末梢部に発生した未破裂脳動脈瘤の2例を経験した.Accessory ACA末梢に発生した脳動脈瘤は稀で報告は非常に少なく,今回経験した2症例について手術所見を含め文献的に考察し報告する.

脳室腹腔短絡術後にバンコマイシン耐性腸球菌による髄膜炎を合併した2例

著者: 佐藤公俊 ,   岡秀宏 ,   宇津木聡 ,   清水曉 ,   鈴木祥生 ,   山田勝 ,   藤井清孝

ページ範囲:P.203 - P.207

Ⅰ.は じ め に

 腸球菌はヒトや動物の腸管の常在菌であり,健常人に対する病原性は必ずしも高くないが,易感染者のいる病院内では日和見感染症の起炎菌となり得る5)

 さらにバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin resistant enterococci:VRE)感染症は現在のところ適切な治療薬がないため,一度感染症になると死亡率は高く,その感染予防対策は最重要課題のひとつとなっている5)

 現在までに14例6,15-18)のVRE髄膜炎例が報告されているが,それらの多くは脳神経外科手術後や抗生物質使用経験などをもつ院内感染である6,15,16,18).今回われわれは,日本ではまだ稀であるVRE感染により髄膜炎を合併した脳室腹腔短絡 (VPシャント)術後の2例を経験し,その感染の拡大を予防できたので,院内感染の予防方法を含め文献的考察を加え報告する.

連載 IT自由自在

オープンソースソフトウェアOsiriXを活用した高性能PACS

著者: 片倉康喜

ページ範囲:P.208 - P.214

■はじめに

 診断モダリティの発達,多様化に伴い,日常診療における画像の扱いは煩雑化しつつある.特に脳神経外科では2次元のフィルムから3次元イメージを脳内で構築する作業が伝統的に行われてきたが,検査の精密化に伴いフィルムの枚数が飛躍的に増え,従来の方法では効率と管理,保管の面で限界が来つつある.1990年代頃よりフィルムレス診療を目指し各社よりPACS(picture archiving communication system)が販売され一定の成果を挙げているが,そのほとんどが専用の端末とソフトのセットで定価は数百万から数千万円規模のものであり,外来や病棟・医局等で日常気軽に使えるものとは言いがたい.今回オープンソースのDICOM PACSワークステーション OsiriXを用いて初期コストゼロで高性能なPACSシステムを構築する方法や,脳神経外科領域での便利な利用法を紹介する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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