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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科34巻3号

2006年03月発行

雑誌目次

「医療と癒しの環境」~愛と笑いとユーモアを~

著者: 土井章弘

ページ範囲:P.227 - P.228

脳神経外科の道を選んで,岡山大学脳神経外科西本 詮教授の教室に入局し,既に40年が過ぎ去っていきました.40年間の診断,治療の進歩は目を見張るものがあります.IT技術の進歩によるCT・MRI・超音波の診断技術の進歩に加え,手術用顕微鏡の導入からロボット手術,定位放射線療法の導入,血管内手術など,脳神経外で扱う範囲が広がり1人ですべての治療ができるわけでなく,専門性の細分化が行われていきました.診断技術の高度化や,今までできなかった手術へのチャレンジにより,医療事故などの危険性を増してきたように思います.同時に患者サイドも,より高度で安全な医療と快適な療養環境を求めています.

 時代の流れに沿って,癒しの環境の大切さが増してきています.Dr. パッチ・アダムスの映画を見た方もいらっしゃると思いますが,私も2001年の秋にロビン・ウィリアムス主演の「パッチ・アダムス」の映画を見ました.映画は,ハンター・アダムスというアメリカに実在する医師の半生を描いたものでした.彼は自らの入院体験中に“笑いやユーモア”が人の心を癒し,病を克服する力があるということに気づき,医学の道を志しました.名門ヴァージニア大学在学中から権威主義・ビジネス化した現代医療に疑問を抱き,同大学を抜群の成績で卒業と同時に,仲間とともに“Gesundheit Institute(お元気ですか病院)”を設立し,無料で診療にあたっています.その映画を見てからDr. パッチに会ってみたい,岡山に呼びたいと願っていました.2002年9月1日に,高柳和江先生(日本医科大学助教授・医療管理学)の紹介により,Dr. パッチの講演会を岡山で1,500名の聴衆を集めて開催することができました.開催にあたり,特別ゲストとして広島県上下町にあるMGユースホステルの経営者で当時92歳の森岡まさ子さん,司会に山陽放送の岩根宏行氏,ステージマネージャーには長野県在住の山の道化師パックマンこと塚原成幸氏にお願いいたしました.100人に近いボランティアに支えられて,素晴らしいDr. パッチの講演会が開催されました.Dr. パッチからのメッセージは「同情と寛容を重んじる社会への移行,それを実現するには,愛と笑いとユーモアなどの楽しさが必要」「日本の伝統芸術の中に,思いやりに満ちた精神性が溢れている,それを気づくきっかけになれば嬉しい」であったと思います.「愛と笑いとユーモア」を自然なかたちで医療の中に導入できたらどんなにいいか,それが私の夢のひとつです.

総説

成体・成人に存在する幹細胞の分子生物学的特徴とその神経科学への応用

著者: 新郷哲郎 ,   伊達勲

ページ範囲:P.231 - P.253

Ⅰ.は じ め に

 めざましい幹細胞研究の発展により,成体内には造血系や神経系のみならずあらゆる部位,臓器において組織幹細胞の存在が明らかにされてきた.成体脳においても脳室周囲(側脳室,第三脳室,第四脳室)や海馬に神経幹・前駆細胞が存在し,ニューロン新生(adult neurogenesis)が絶えず起こっている112,141,182).成体由来神経幹・前駆細胞は胎児由来とは違ったメカニズムにより維持されている.その新生ニューロンは,周辺組織(海馬,線条体,視床下部,嗅球など)に遊走(migration)し,組織の新生(renewal)および修復(repair)に関与している.機能的には,海馬では新しい記憶回路の再構築,嗅球では新しいにおいに対する嗅覚分別能や新規嗅覚の記憶に関与しているといわれている.また,神経幹・前駆細胞はニューロンだけではなく,アストロサイトやオリゴデンドロサイトを周辺組織に供給し,損傷した組織,特に軸索損傷の修復などに関与している.最近の研究により,神経幹細胞(neural stem cell,NSC)はアストロサイトのマーカーであるGFAPを発現していることが発見された43).損傷が起こった脳周辺に集積するアストロサイトの中に神経幹・前駆細胞細胞が存在する可能性がある.このような機能を持った神経幹・前駆細胞細胞を細胞移植というかたちで用いる治療や,内因性の幹細胞を利用した治療を目標として,さかんに研究が行われている.

 全能性を有する胚性幹細胞(embryonic stem cell, ES細胞)に関しては,中枢神経系を構成する細胞に分化誘導する方法が開発され,最近ではクローン技術を用いたクローンES細胞を用いた研究も行われ12),この細胞を用いた移植研究が進んでいる.特に,ES細胞をドパミンニューロンへ分化誘導させる方法が数多く開発され,基礎実験ではすばらしい成果があがっているので,パーキンソン病の患者治療のための臨床応用も近いと思われる.また,骨髄由来間質幹細胞(mesenchymal stem cell, MSC)の中にES細胞と同様の能力を持った細胞が存在し神経細胞に分化することも可能であり65,140),また,末梢血の中にもこの細胞が循環している(成人多能性幹細胞,multipotent adult progenitor cells, MAPCs)74).これらの細胞は,自家移植が可能であることから移植治療において注目され,臨床応用も試みられている.

 本稿では,成体・成人に存在する幹細胞(神経幹細胞と間質幹細胞)の分子生物学的特徴と,これらを用いた再生治療についてまとめる.また,幹細胞の概念に基づいた脳腫瘍幹細胞(brain tumor stem cell)の存在が注目されているが,それに関する最近の知見について述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

腰椎変性疾患に対するアプローチ

著者: 上村和也 ,   松村明

ページ範囲:P.255 - P.265

Ⅰ.は じ め に

 変形性腰椎症は,加齢に伴い現れる腰椎の変性所見である.このうち症候性になったものが治療対象となる.変形性腰椎症の術式の根幹になるのは神経組織の十分な減圧と安定性の保持であることはいうまでもないが,たとえインストルメンテーションにしろ特殊な減圧手技にしろ,基本は神経根および硬膜囊の減圧である.治療対象になりうる腰椎変性疾患は大まかに3つに分類される.つまり,①腰椎椎間板ヘルニア,②腰椎脊柱管狭窄症,③不安定腰椎病変,である.この3つの病態は互いに併存することが稀でなく,それぞれの圧迫要因を取り除くために同一手技の応用が可能である.ここでは,減圧に際して注意すべき腰椎の解剖学的特性を概説する.

研究

前床突起下前外側壁に生じた内頸動脈瘤に対する直達手術

著者: 小野田恵介 ,   徳永浩司 ,   杉生憲志 ,   小野成紀 ,   伊達勲

ページ範囲:P.267 - P.272

Ⅰ.は じ め に

 傍前床突起部動脈瘤(paraclinoid aneurysm;PA)とは硬膜輪から後交通動脈分岐部までの内頸動脈より発生したものと定義されることが多く,さらに近年,発育方向や眼動脈,上下垂体動脈との位置関係等より種々の分類1,9,12)がなされている.このうち内頸動脈前外側壁より生じた動脈瘤は稀である.今回われわれは,分岐血管を認めない内頸動脈前外側部より生じた未破裂PA 5例を経験したので,手術手技について若干の文献的考察を加え報告する.

超高齢者慢性硬膜下血腫の臨床的特徴と治療成績

著者: 大場さとみ ,   塩見直人 ,   重森稔

ページ範囲:P.273 - P.278

Ⅰ.は じ め に

 慢性硬膜下血腫は低侵襲の手術により劇的な症状の改善が得られるため,高齢者に対しても積極的に手術が推奨される疾患といえる.近年では80歳以上のいわゆる超高齢者においても手術を行う機会があるが,この際は全身の予備機能や状態を考慮し外科的治療の適応や方法を十分検討する必要がある.しかしながら超高齢者慢性硬膜下血腫に関する報告は少なく9),若年者と比較した手術成績も明らかではない.また,高齢者の慢性硬膜下血腫では若年者とは異なる臨床的特徴が指摘されているが3,4,12,17),超高齢者例で検討した報告も少ない.そこで今回,80歳以上の手術症例の患者背景や臨床症状,治療および転帰についてretrospectiveに分析し,80歳未満の例と比較検討したので報告する.

テクニカル・ノート

IVR-CT/angio systemを用いた血管内手術手技中の脳循環評価

著者: 糸川博 ,   鈴木龍太 ,   森谷匡雄 ,   長島梧郎 ,   浅井潤一郎 ,   藤本司 ,   高須大輔 ,   加藤京一

ページ範囲:P.281 - P.286

Ⅰ.は じ め に

 Interventional radiology(IVR)は,近年のさまざまなディバイスの発達から急速に普及してきている.血管撮影装置に computed tomography(CT)を併設したシステム(IVR-CT/angio system:Advantx ACT,GE メディカルシステム)は,1つの検査テーブルを用いて,脳血管撮影とCTによる頭蓋内スクリーニングを行うことができる装置である.脳血管内手術においては,患者の移動を行うことなく,術中,術後に迅速にCTを行うことができ,さらにCT perfusion(以下,CTP)を行うことで,安全に脳循環評価を行うことも可能となる.今回このシステムを用いたIVR手技中の脳循環評価方法について報告する.

症例

Progressing strokeを呈した頸部内頸動脈高度狭窄症に対し,急性期頸動脈内膜剝離術を施行した1例―術後血圧管理の重要性

著者: 井上明宏 ,   久門良明 ,   藤原聡 ,   渡邉英昭 ,   福本真也 ,   大上史朗 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.289 - P.295

Ⅰ.は じ め に

 頸部内頸動脈閉塞性病変に起因する急性期脳梗塞の治療法は,抗凝固療法などの保存的加療が一般的であるが,crescendo TIAsやprogressing strokeに対しては,急性期にcarotid endarterectomy(CEA)や血管内手術などの外科的治療を行う施設も増加しつつある.しかし,過灌流症候群などの術後合併症を誘発する可能性もあり,その適応についてはいまだ定まっていない1,4,5).今回われわれは,progressing strokeを呈した頸部内頸動脈狭窄症の1例を経験し,急性期にCEAを施行して良好な経過を得たので報告する.

破裂内頸動脈kissing aneurysmsの1手術例―症例報告と文献的考察

著者: 榊原陽太郎 ,   田口芳雄 ,   井手路子 ,   大塩恒太郎 ,   平本準 ,   小野寺英孝

ページ範囲:P.297 - P.303

Ⅰ.は じ め に

 独自の頸部を有し,隣接する動脈瘤の体部に癒着がみられる場合,Yasargil21)はこれをkissing aneurysmsと称した.Kissing aneurysmsは,その剝離の困難さ故に,時に重篤な手術合併症を起こすことが知られ6,7,9,15,21),単に多発性脳動脈瘤の中の一型という分類に止まらず,手術難易度の高い動脈瘤という臨床的意味があると考えられる.そこでわれわれの経験した破裂内頸動脈kissing aneurysmsの1手術例を呈示し,そのclipping術の困難さ,および治療法の選択に関し,若干の文献的考察を加えて報告する.

神経内視鏡的第三脳室底開窓術を契機に腫瘍内出血を生じた松果体部絨毛癌の1例

著者: 村田貴弘 ,   重田裕明 ,   佐藤篤 ,   田中雄一郎 ,   本郷一博

ページ範囲:P.305 - P.310

Ⅰ.は じ め に

 頭蓋内原発胚細胞腫瘍の頻度は全脳腫瘍の3%程度で,小児期に多く20歳以下にほぼ70%が集中する.そのうち絨毛癌は3%以下で全脳腫瘍においては0.1%以下と稀である6).頭蓋内原発胚細胞腫瘍の発生部位は主に松果体部,トルコ鞍上部や基底核で,松果体部胚細胞腫瘍においては,ほとんどの例に閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進症状が認められる5).従来,閉塞性水頭症の治療は脳室ドレナージやV-Pシャントが行われてきたが,最近は神経内視鏡的第三脳室底開窓術(neuroendoscopic third ventriculostomy:NTV)が選択されることが多い.今回われわれは閉塞性水頭症で発症した松果体部絨毛癌に対してNTVを行い,術中に腫瘍内出血を来した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Far-out syndromeの1例

著者: 金景成 ,   井須豊彦 ,   松本亮司 ,   宮本倫行 ,   磯部正則

ページ範囲:P.313 - P.317

Ⅰ.は じ め に

 Far-out syndrome(以下,FOS)はL5神経根が椎間孔外で横突起や仙骨翼,周辺部骨棘などによって絞扼され,症状を呈する比較的稀な疾患である1,3,4,6,8,9).今回われわれは,膨隆した椎間板により生じたFOSの1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

Bovine archに対する経上腕動脈法の頸動脈stent留置術の1例

著者: 赤路和則 ,   谷崎義生 ,   平賀健司 ,   秋山武紀 ,   傳法倫久

ページ範囲:P.319 - P.323

Ⅰ.は じ め に

 近年,器材の進歩に伴い,頸動脈stent留置術の治療成績が確実に向上してきた.本邦でも,6Fr以下のstentが入手可能となり,従来の経大腿動脈法では総頸動脈へのcatheter挿入が困難な症例では,経上腕動脈法も考慮できるようになった.特に,右腕頭動脈より左総頸動脈が分岐しているいわゆるbovine archの症例では,経右上腕動脈法の方が左総頸動脈へcatheterを誘導しやすいことが多いが6),本邦での経上腕動脈法の頸動脈stent留置術の報告例はまだない.今回われわれは,bovine archを伴った左頸部内頸動脈狭窄の症例に対し,6Fr Shuttle sheath(Cook)と6Fr Precise stent(Cordis)を用いた経右上腕動脈法の左頸動脈stent留置術を経験したので報告する.

連載 英語のツボ 英文論文の書き方(3)

Native speakerによる本格的校正

著者: 大坪宏

ページ範囲:P.325 - P.331

は じ め に

 英文論文を書くときに英語の校正というものをどのように考えていますか? 多くの日本人が英文の校正は単純に英文法,英単語の綴りの訂正だけ直してもらうと考えているのではないでしょうか?

 私はトロントの小児病院に来て英文論文を書き始めましたが,来た当初はホフマン先生に見てもらう前に必ずeditorial serviceという部門が1階の図書館の横にあり,そこに通い詰めていました.フランクという元フリーランスの新聞記者がパートタイムで病院に来ていて,時間をかけて私の拙い英文論文を懇切丁寧に読んで直してもらっていました.

 フランクから学んだものは,第一に彼に自分の言いたいことを説明することから始まりました.つまり英語を磨く前に自分が持っているものをきちんと話せなければいけない,説明できなければいけないということでした.フランク自身が医学系の論文には慣れていなかったことと,当時,私の英語が拙いせいもあって,論文の主旨,イメージを説明するのにとても時間がかかった記憶があります.しかし,その対話“dialogue”から,自分の論文の主張を形あるものにしていくことができました.現在は私がフランクの立場になって,フェローたちとの対話から論文を紡いでいます.

 このeditorial serviceも病院の予算の関係で5年ほど前に打ち切りとなり,それからキャロルとのe-mailによる校正が始まりました.彼女にはまだ会ったことがないのですが,サンディエゴに住んでいる御婦人で,娘さん達は成人して,現在はわれわれの論文と出版社のElsevierの歴史,詩の本の校正をしておられるとのことです.

 キャロルからは文章の構成を考えたうえで論文を書き上げるということを学びました.今回はキャロルとの作業を通じて学んできた5つのこと,consistency, cohesiveness, clarity, active voice, rhythmを中心に,神業に近い英文論文の校正を秋山倫之先生(岡山大学小児神経科)1),荒木 尚先生(日本医科大学救急医学)2),越智文子先生(トロント小児病院神経科)3),大石 誠先生(新潟大学脳神経外科)4)の4名の論文の校正を例にとって述べていきます.斜体はキャロルからのコメントです.

IT自由自在―番外編

パソコン事始め―メルマガとメル友交流

著者: 森惟明

ページ範囲:P.332 - P.335

■私のパソコン遍歴

 ITが定着し,いまやわが国の2.2人に1人がインターネットを利用しているといわれています.すなわち,6千万人近くがインターネットをしていることになります.これは企業や学内での利用だけでなく,家庭でインターネットを活用している人が非常に増えていることによると思われます.

 私は定年退官後,65歳になってからパソコンを始めましたが,在任中にはパソコン作業は秘書任せで,キーボードをさわったこともありませんでした.電子メールも自分で送信したことはなく,周囲の人まかせでした.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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