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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科34巻4号

2006年04月発行

雑誌目次

電子カルテ

著者: 山田和雄

ページ範囲:P.347 - P.348

私の勤務する大学病院は2年前,新病院に移転したが,このとき完全な電子カルテ化が行われた.これは診療録や画像はもちろん,看護記録,手術部,ICU,分娩部などほとんどすべての医療情報を電子化するものであった.私はこのプロジェクトの開発責任者を命じられ,計画の立案段階から,仕様書作成,プログラミング,リハーサル,稼働初期の経験を経て,安定稼働に至る現在まで,電子カルテのすべてを経験してきた.ここではその詳細を述べるつもりはない.むしろ電子カルテの開発を通じて見えてきた大学病院の人間模様を紹介したい.

 われわれの電子カルテ基本設計書は1999年3月に,詳細設計書は2000年3月に完成した.ちょうどこの時,旧厚生省から「診療録等の電子媒体による保存についての通知(1999年4月22日)」が出され,真正性,見読性,保存性が満たされれば診療録を電子媒体のみで保存することが認められ,開発に大きな追い風となった.しかし詳細設計書を作成した当時,国内で完全な電子カルテ運用をしているところはほとんどなく,特に各科の独自性が高い大学病院で電子カルテを運用しているところはなかった.したがって詳細設計書が完成してから3年半の間に,設計書をもとに独自のプログラムを開発するという手法でプロジェクトを進めた.

総説

硬膜動静脈瘻の治療戦略

著者: 松丸祐司

ページ範囲:P.351 - P.363

Ⅰ.は じ め に

 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula,DAVF)は,外傷,静脈洞閉塞,静脈圧亢進との関連が示唆され,現在では後天性疾患と考えられている6,25).硬膜動静脈奇形(dural arteriovenous malformation)と呼ばれることもあるが,後天性疾患と考えると正しい名称ではない.一方,稀な疾患ではあるが静脈洞の発生異常に伴う動静脈シャント疾患が新生児に認められるが,これらは真の意味での硬膜動静脈奇形でありDAVFとは区別すべきである4).DAVFの治療は血管内治療が中心となるが,病変部へのアプローチ法は多岐にわたり,また外科的治療,放射線治療も有効である.本章ではDAVFに対する治療戦略を解説する.

特別寄稿

Uchimura Artery(Arteries)

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.365 - P.373

内村祐之(ウチムラユウシ)(1897-1980)(Fig. 1)先生38,39)(以下,敬称略)は無教会派の基督者として名高い内村鑑三(1861-1930)の長男として明治30年,東京に生まれた.独協中学から第一高等学校(以下,一高)に進んだ.中学時代はゲーテ,シラー,ハイネなどを読みふけったという.一高に入ってから野球に熱中した.もともと100mを11秒で走る程運動神経に恵まれた方であったが,たちまち左利き投手として一高のエースとなった.

 大正6~7年(1917-1918)一高野球部の全盛時代(まだ六大学リーグはなかった)で,内村は早稲田大学,慶應大学をほとんどの場合,シャット アウトし,日本一の大投手としてマスコミに騒がれた.内村自身の言によると,外角をかすめる速くて鋭いインドロップ(現在の言葉で云う鋭く落ちるカーブか)は誰にも打たれなかったという.後年,内村は阪神タイガース時代の江夏投手を見て,「自分に似ている.しかし彼のpitching formは泥くさいが,自分のformはもっとスマートだった」と言っている.きめ球がよく似ているということであろう.内村の学生時代の文部省高官は「君が将来どんなに有名になっても,今以上有名になることはあるまいよ」と内村に言ったという.

研究

類上皮腫に対するガンマナイフ治療―Radiosurgical nerve decompressionの可能性について

著者: 木田義久 ,   吉本真之 ,   長谷川俊典 ,   藤谷繁

ページ範囲:P.375 - P.381

Ⅰ.は じ め に

 頭蓋内類上皮腫は比較的稀な腫瘍であるが,発育が極めて緩徐であるため,発見された時点においては大きな腫瘤を形成することが多く,またケラチン物質を内容とする大きな嚢胞を形成する1,12).その好発部位としては小脳橋角部,傍鞍部などが挙げられ,この部分の腫瘍では,三叉神経痛,顔面痙攣などのいわゆるhyperactive nerve dysfunctionを生ずることが多く,ときにはこれらの脳神経のみの臨床神経症状となることが報告されている4-6).頭蓋内類上皮腫の治療としては,従来手術的摘出が選択されたが,大きな神経症状を伴なっていなければ,そのまま経過観察する選択肢もある.一般に大きな腫瘍が多いことからradiosurgeryが選択されたとの報告は極めて少ない.筆者らはガンマナイフ治療を施行した7例を経験し,興味深い知見を得たので,ここに報告して,本腫瘍に対する治療法のなかでガンマナイフ治療が関与しうる役割について考察した.

中大脳動脈early branch分岐部動脈瘤の検討

著者: 安部友康 ,   大西学 ,   勝間田篤 ,   西尾晋作 ,   河内正光 ,   松本祐蔵

ページ範囲:P.383 - P.388

Ⅰ.は じ め に

 中大脳動脈瘤は大部分bifurcationに発生するが,少なからず本幹であるM1部にもみられる.M1部より分岐する皮質枝は特に“early branch”と呼ばれているが,この部位においては動脈瘤が皮質枝と穿通枝(レンズ核線条体動脈:LSA)のいずれにも発生し得ることが特徴である.今回われわれは,early branch,特にearly frontal branch分岐部に発生した動脈瘤に注目し,retrospectiveに検討を行った.

症例

腫瘍摘出により交通性水頭症が短期間に改善した前庭神経鞘腫の1例

著者: 金山政作 ,   河野道宏 ,   岡村耕一 ,   吉野正紀 ,   瀬川弘 ,   斎藤勇 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.391 - P.395

Ⅰ.は じ め に

 前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)には時に水頭症が合併する.今回われわれは,正常圧水頭症にみられる典型的な3徴を呈した水頭症が腫瘍摘出後1カ月ですみやかに画像上,臨床上も改善した水頭症合併前庭神経鞘腫を経験したので報告する.

Root exit zoneより遠位部で神経圧迫を認めた片側顔面痙攣の2例

著者: 小野田恵介 ,   徳永浩司 ,   三好康之 ,   小野成紀 ,   伊達勲

ページ範囲:P.397 - P.400

Ⅰ.は じ め に

 片側顔面痙攣は顔面神経に対する血管の直接的圧迫により発症する症候とされ,根本的治療として微小血管減圧術が行われる.顔面神経に対する圧迫はroot exit zone(REZ)に観察されるのが一般的である.今回われわれは,REZより遠位部で神経圧迫を認めた稀な片側顔面痙攣の2症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

可逆的な動脈狭窄を繰り返した小児もやもや病の1例

著者: 長内俊也 ,   黒田敏 ,   石川達哉 ,   工藤與亮 ,   寺江聡 ,   磯部正則 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.403 - P.407

Ⅰ.は じ め に

 一般に,小児もやもや病の病期は思春期に至るまで段階的に進行することが知られているが2,4,6, 9,10),内頸動脈終末部を中心とする血管病変は,組織学的所見のうえからも不可逆的なものと考えられている5).今回,われわれは,一過性脳虚血発作(transient ischemic attack;TIA)にて発症し,可逆的な動脈狭窄を繰り返しながら病期の進行を呈した小児もやもや病の1例を経験したので,その意義を考察するとともに報告する.

脳転移を来した子宮平滑筋肉腫の1例

著者: 棟方聡 ,   浅野研一郎 ,   畑山徹 ,   伊藤勝博 ,   鈴木重晴 ,   大熊洋揮

ページ範囲:P.409 - P.413

Ⅰ.は じ め に

 子宮肉腫は子宮悪性腫瘍の約1~5%を占め,このうち子宮平滑筋肉腫は約25%を占める比較的稀な腫瘍である2,6,9,10).子宮平滑筋肉腫は極めて悪性度の高い腫瘍で,肺,肝臓,腹腔内に高率に転移を起こすが脳転移は極めて稀であるとされ8,10),現在までに13例の文献報告例があるにすぎない1-10).今回,われわれは子宮平滑筋肉腫の脳転移例に対し,今までに報告例のないガンマナイフ治療を行い比較的良好な経過が得られた症例を経験したので報告する.

慢性中耳炎が原因と考えられた錐体部内頸動脈瘤の1例

著者: 森良介 ,   村山雄一 ,   入江是明 ,   高尾洋之 ,   荏原正幸 ,   石橋敏寛 ,   佐口隆之 ,   波田野篤 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.415 - P.419

Ⅰ.は じ め に

 脳動脈瘤の発生にはさまざまな要因が関与し,また頭蓋内脳動脈瘤に対する手術方法は頭蓋底外科や血管内治療により治療成績は向上してきた.しかし,内頸動脈錐体部に生じる動脈瘤は比較的稀で,錐体骨内に発生するため外科的治療が困難である.またその成因にも,頭蓋内脳動脈瘤とは特徴が異なる点が多い.今回,われわれは慢性中耳炎の関与が示唆された錐体部内頸動脈瘤に対しコイル塞栓術を施行し,良好な結果を得たので報告する.

Transchoroidal-fissure approachを用いて急性期クリッピング術を行った破裂後大脳動脈瘤(P2)の1例

著者: 井上明宏 ,   河野兼久 ,   武田哲二 ,   武智昭彦 ,   河野啓二 ,   山口佳昭 ,   石井大造 ,   佐々木潮

ページ範囲:P.421 - P.426

Ⅰ.は じ め に

 後大脳動脈(P2)動脈瘤は発生部位としては稀であり,脳神経外科医にとって遭遇する機会が少なく,治療困難な動脈瘤の1つである11).同部位の動脈瘤への到達方法として,過去の報告ではsubtemporal approachが多く用いられているが,側頭葉圧排が過度になる傾向もあり,transchoroidal-fissure approachの有用性を述べている報告も散見される11).しかし,この部の動脈瘤は脳深部に位置しており,解剖学的に複雑であるため,脳血管撮影写真だけでは動脈瘤の形状,および周囲組織との位置関係を把握することが困難である.今回われわれは,重症のくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)で発症し,left IC-PC aneurysm(AN)を合併したleft P2 ruptured ANの1例を経験し,3D-digital subtraction angiography(DSA)により動脈瘤の形状の詳細な把握を行った後,left pterional approachでIC-PC ANを確認した後に,transchoroidal-fissure approachを用いて急性期手術を行い,良好な経過を得たので報告する.

読者からの手紙

「ヘルメットの紐による縊頸が原因と思われる外傷性頸部内頸動脈解離の1例」の論文について

著者: 村上成之

ページ範囲:P.428 - P.429

貴誌(No Shinkei Geka 32:1279-1282)に掲載されました土居 温先生らの症例報告を大変興味深く拝見いたしました.ヘルメットの顎紐によって頸動脈損傷を来たしうるという危険性を改めて認識させられた次第です.現行のJIS規格(T8133:2000)1)においては顎紐の強度やヘルメットの保持能力(ヘルメットの脱げにくさ)を規定する項目はありますが,筆者らが指摘するように頸部への影響についてはほとんど考慮されていません.本症例のような事故が一定の頻度で発生するのであれば,それはヘルメット規格の再検討を要する問題と言えます.しかし,ここでヘルメット規格そのものを云々する以前に,この症例の患者がヘルメットを正しく着用していたのかどうかを検討しておく必要がありますから,今回「読者からの手紙」に投稿した次第です.

 日本交通科学協議会ヘルメット研究委員会の平成14年度の報告書2)に,ヘルメットの着用実態に関する調査結果が掲載されております.それをみますと,例えば工事用や装飾用ヘルメットなどの道路交通法で定められた乗車用ヘルメット以外のものを着用している事例,また合法なヘルメットであっても着用の方法に問題がある事例が決して少ないものではないことが窺われます.特に原動機付自転車においてはヘルメットの前後を逆にしてかぶったり(逆さかぶり),浅く後方にずらしてかぶったり(あみだかぶり)する不適切な使用が運転者の25.8%にも及ぶことが指摘されています.このような不完全な着用方法で事故に遭遇した際には顎紐が容易に頸部を圧迫してしまう危険が生じることになります.

報告記

第4回アジア脳腫瘍学会(4th Meeting of the Asian Society for Neuro-oncology)2005年11月4日~6日

著者: 安達淳一 ,   松谷雅生

ページ範囲:P.430 - P.431

第4回アジア脳腫瘍学会は,台湾の Dr. Tai-Tong Wong(Department of Neurosurgery, Taipei Veterans General Hopital)をPresidentとして,台北市内北部に位置する圓山大飯店(The Grand Hotel Taipei)にて,11月4日から6日までの3日間行われた.日本では晩秋のこの時期に,台北市内では半袖,タンクトップで過ごす人が多く,日中の最高気温も30℃近くまで上昇し,ここが南国であることを実感した.会場は1952年に建てられた台北市内でも古く由緒あるホテルである.見る者を圧倒させる外観,内部には重厚な家具,壮麗な飾りが配置され,まさに歴史と伝統を感じさせるホテルであった.最上階からは台北市内が一望できた.また,台湾初代総統の蒋介石夫人の宋美齢が常宿にしていたとのことである.

 本学会はアジア各国における脳腫瘍学のレベルアップと会員相互の親睦を深める意味で設立された.第1回の会合は,熊本市において熊本大学脳神経外科の生塩之敬教授を会長として2002年に行われた.以後,第2回は韓国のソウルで2003年に,第3回は中国の上海において2004年に開催された.今回の参加者は国別にみると台湾170人,日本68人,韓国40人,中国23人,トルコ12人,その他香港,インド,インドネシア,マレイシア,フィリピン,シンガポール,オーストラリア,モンゴル.アメリカ,ドイツなど27人で合計341名であった.この4年間で,参加者の出身の国は徐々に多彩化し,一方で常連や顔なじみとなる参加者も多く,この学会がアジアにおいて脳腫瘍に興味を持つ者に対して定着しつつあるように感じた.

連載 IT自由自在

簡便な移動通信システム(W-CDMA方式「FOMA」)を活用した救急視覚情報の伝達と,二次救急医療機関でのその初期治療への有効性

著者: 前田達浩 ,   中内淳 ,   前田睦浩

ページ範囲:P.432 - P.437

■はじめに

 救急業務に直結するオンラインのメディカルコントロールをより円滑,かつ効果的に行うには視覚情報が大変有効である.従来,高次救急救命センター等三次救急医療機関と結び救急救命処置,とりわけ特定行為の具体的な指示に車載カメラより画像伝送を加えるなどの試みがなされ,その効果に関しての有効性が報告されている.しかし,実際の救急業務のほとんどは二次救急医療機関で対応できる疾病,外傷であり,したがって,わが国の救急医療の質を左右し,高次救急業務が円滑に機能するためには,この二次救急医療機関の充実と嵩上げが重要である.しかし一方で,二次救急機関は,三次救急医療機関に比べ施設機器,マンパワー等に劣る施設が多いため,この限られた条件下で施設,機器,マンパワーなど最大限集約して,救急業務の有効活用に視覚情報は極めて有用である可能性が高い.

 本調査研究では救急,特に救急搬送業務の大部分を占める二次救急医療機関に注目して,簡便な移動通信システム(W-CDMA方式「FOMA」)を活用した救急視覚情報の伝達と二次救急医療機関での初期治療への有効性について検討した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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