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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科34巻5号

2006年05月発行

雑誌目次

脳神経外科の中での専門家を目指して

著者: 白根礼造

ページ範囲:P.449 - P.450

東北大学から宮城県立こども病院に移って2年が過ぎようとしている.小児脳神経外科を専門とする私にとっても初めての小児病院での生活が板についてきたようで,どうにか精神的余裕を保って診療に当たれるようになってきた.

 私が脳神経外科医を志したのは,脳卒中の外科が発展し始めた頃で,迷うことなく脳血管性障害グループに加わった.手術の助手と脳虚血の実験やPETによる臨床研究を行いつつも,もやもや病や小児くも膜嚢胞についての学会発表を行ったのが小児脳神経外科との出会いである.成人の脳卒中とは別の風を感じた私は,指導者である吉本高志先生に「小児脳神経外科を志したいのですが」と相談した時,「世の中は脳卒中に向かっている,今はその時ではない」と諭されたのは二十数年前でも昨日のことのように覚えている.時が過ぎて脳神経外科専門医と学位を取得した頃のある日,突然に小児脳神経外科に従事することを許された.高久 晃先生が富山に移られて以降,東北地方に小児を専門とする脳外科医がいなかったこと,松本悟先生の進言があったことが大きな理由であったと思われる.

総説

特発性脳脊髄液減少症

著者: 石坂秀夫 ,   松前光紀

ページ範囲:P.453 - P.460

Ⅰ.は じ め に

 特発性脳脊髄液減少症(spontaneous cerebrospinal fluid hypovolemia:spontaneous CSF hypovolemia)は髄液圧低下による頭痛,嘔気,頚部痛などの症状を呈する疾患で起立性頭痛が典型的な症状であり,1938年にSchaltenbrandにより始めて報告されている37).長らくその原因として一定の見解は得られてこなかったが,近年,RI脳槽造影(RI cisternography),CT脊髄造影(CT myelography),MR脊髄撮影(MR myelography)などの画像診断により髄液の漏出が証明される報告が相次ぎ,spontaneous CSF hypovolemiaの発生機序として,硬膜からの髄液漏出が有力視されてきている5,7-10,14,16,20,23,27,28,30,35,39,41,43,46).そこでspontaneous CSF hypovolemiaについて成因,臨床症状,診断,治療および現在の問題点につき,自験例を加え報告する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

神経内視鏡手術手技の工夫と開発

著者: 久保重喜 ,   長谷川洋 ,   富永紳介 ,   吉峰俊樹

ページ範囲:P.461 - P.473

Ⅰ.は じ め に

 現在,内視鏡は脳神経外科手術のあらゆる局面で使用されるようになってきているが,内視鏡が最も威力を発揮するのは,今のところ,経鼻的下垂体腫瘍摘出術,第三脳室開窓術などの脳室内操作,脳内血腫除去術の3分野だと思われる.

 本稿では,その各領域についてわれわれが主に行っている神経内視鏡による手術手技とその際の工夫について述べてみたい.

研究

3D MR Cisternography/Angiography Fusion Imagingによる血管外壁形態からみた内頸動脈-後交通動脈瘤とInfundibular Dilationの鑑別診断

著者: 佐藤透 ,   佐々原渉 ,   尾美賜 ,   大迫知香

ページ範囲:P.475 - P.480

Ⅰ.は じ め に

 Magnetic resonance angiography(MRA)による脳血管病変のスクリーニングが普及するに伴い,無症候性未破裂脳動脈瘤が検出される機会が増えている.そのなかで内頸動脈-後交通動脈分岐部に脳動脈瘤様の血管膨隆部が認められ,脳動脈瘤,infundibular dilation,あるいは正常な動脈起始部との鑑別診断に苦慮する場合も多い1-4).今回3D MR cisternography(MRC)と3D MRAの融合画像(3D MRC/MRA fusion image7,9))を作成して,血管外壁形態から血管膨隆部を鑑別したので,その画像解析技術につき報告する.

MRIにおけるラクナ病変とmicrobleedsとの関係―連続する180症例での検討

著者: 田実謙一郎 ,   横山俊一 ,   田口裕一郎 ,   楠元和博

ページ範囲:P.483 - P.489

Ⅰ.は じ め に

 MRIのラクナ病変に対しては脳卒中の危険因子という理由から,症候の有無にかかわらず抗血小板薬の投与が行われることが多かった.しかしラクナ梗塞が脳内細小動脈病変(small vessel disease)で高血圧の関与が高いこと10,23),さらにラクナ梗塞患者はT2*-weighted gradient-echo magnetic resonance imaging(T2*強調画像)での無症候性脳内微小出血(microbleeds)の頻度が高いこと3,8,9)が明らかになるにつれ,その対応は変化している.Microbleedsは脳出血の危険因子としてその意義が明らかにされつつあり19),ラクナ病変とmicrobleedsの関係を調査することはラクナ病変への対応において臨床的にも有意義と思われる.今回われわれは,連続する180症例においてMRIのラクナ病変とmicrobleedsとの関係を臨床所見,MRI所見より検討した.

症例

外傷性汎下垂体機能低下症の1例

著者: 中村一仁 ,   一ノ瀬努 ,   川上太一郎 ,   正村清弥 ,   寺川雄三 ,   村田敬二 ,   阪口正和

ページ範囲:P.491 - P.495

Ⅰ.は じ め に

 びまん性脳損傷を伴うような重症頭部外傷に下垂体機能低下症,尿崩症を認めることはあるが,脳損傷が軽度で汎下垂体機能低下症を来すことは稀であると思われる.1918年のCyranの報告3)以降,外傷性下垂体機能低下症に関しては諸家により報告1,2,6-9,10)はあるが,高度の意識障害を呈していない例での汎下垂体機能低下症の報告は多くはなく,中軽症頭部外傷においては見逃されている可能性もある.今回,臨床症状の注意深い観察により,早期に外傷性下垂体機能低下症を診断しえた症例を報告する.

包丁による頭部刺創の1例

著者: 増山祥二 ,   府川修 ,   川瀬誠 ,   野下展生 ,   高田志保美

ページ範囲:P.497 - P.502

Ⅰ.は じ め に

 頭部への刺創は稀な事故であり,多くは暴力行為で起こるが,自殺企図や労災事故などでも起こりうる.症状は軽微な場合もあるが,致死的となる場合も少なくない.刺入物としては先端が鋭利なものほど刺入しやすいと思われるが,刃物であることが多い5).今回われわれは,自殺企図で前額部より包丁(kitchen knife)を刺入し意識障害により搬送された症例を経験したが,本症例は来院同日の手術により神経学的異常所見なく独歩退院した.これまで国内外に同様の頭部刺創症例が散見されることから,文献的考察を加え報告する.

破裂急性期にstent-assisted coilingを行った内頚動脈large aneurysmの1例

著者: 戸根修 ,   富田博樹 ,   玉置正史 ,   秋元秀昭 ,   重田恵吾 ,   冨士井睦

ページ範囲:P.505 - P.511

Ⅰ.は じ め に

 内頸動脈が瘤壁の一部を形成する広頸かつ大型の動脈瘤の場合,親動脈を温存した瘤内塞栓術は容易ではなく,瘤内再開通の頻度が高い10).広頸の動脈瘤にはバルーンを動脈瘤の頸部に留置して,親動脈を温存しながら瘤内塞栓するballoon-assisted coiling(remodeling technique9)),あるいは冠動脈用ステントや脳血管用ステントNeuroform (Boston Scientific) を親動脈に留置して瘤内塞栓を行うstent-assisted coiling1,3,4,6,7,11)が報告されている.しかし,頸部が存在しないような大型の動脈瘤ではballoon-assisted coilingでの治療は困難であり,また脳血管用ステントNeuroformはいまだ日本には導入されていない.今回われわれはコイル型の新しい冠動脈ステントであるDRIVER ステント(Medtronic,Inc.)を使用して,破裂急性期にstent-assisted coilingを行い,治療し得た1例を経験したので,この治療法の有用性ならびに問題点について報告する.

Gliomatosis cerebriの2症例

著者: 黒木一彦 ,   杉山一彦 ,   田口治義 ,   湯川修 ,   黒川泰玄 ,   梶原佳則 ,   碓井智 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.513 - P.518

Ⅰ.は じ め に

 Gliomatosis cerebriはグリア系の異型細胞が既存の構築を破壊することなく,複数の脳葉にびまん性に発育し,明瞭な腫瘤を伴わない新生物と定義され3),比較的稀な疾患である.WHO 2000では,由来不明の神経上皮性腫瘍に分類され腫瘤の有無は問われておらず7),臨床上,分類上も統一した見解のない疾患である.われわれは放射線治療により1年経た現在も経過良好な1例,さらに化学療法に加え放射線治療,γナイフ治療を行い,腫瘍の縮小を認めた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

脊髄硬膜外腔と固有背筋内に連続性発育を示した海綿状血管腫の1例

著者: 波良勝裕 ,   日高聖

ページ範囲:P.521 - P.525

Ⅰ.は じ め に

 海綿状血管腫は先天性の血管奇形に分類されるが,過誤腫様病変でもあり3,19,20),中枢神経系を含め身体のいかなる部位にも存在し成長する6,20,21).中枢神経系では頭蓋内病変が多く脊髄病変は少ない2,19,21).傍脊椎海綿状血管腫は脊椎脊髄血管奇形の5~12%にみられ5,8,21),その中でも椎体海綿状血管腫が一般的であり1,3,8),椎体病変のない脊髄硬膜外海綿状血管腫に至っては傍脊椎海綿状血管腫の12%,全脊髄硬膜外病変の4%と稀な疾患といえる2,14,17).また発育部位にかかわらず同じ性質をもつが,MRIでは頭蓋内や脊髄内に存在するものとは異なった特徴を示す20).しばしば椎間孔およびその外側への進展をみせることもあり,dumbbell型を呈する症例も報告されているが7,9,13,15),固有背筋内にまで連続して発育した例は極めて稀である.したがって脊髄硬膜外病変の鑑別診断に海綿状血管腫が挙げられることはあまりなく,同時に椎間孔の外側への発育を認める症例はより診断を難しくする13,15).われわれは胸腰髄硬膜外腔と椎間孔によって固有背筋内に連続性に発育した海綿状血管腫の1例を経験したので,その臨床症状,発生,画像所見,鑑別診断,治療について考察する.

報告記

6th Asian CNS(Asian Conference of Neurological Surgeons)報告記

著者: 神野哲夫

ページ範囲:P.519 - P.519

2006年の1月末にインドのムンバイで第6回Asian Conference of Neurological Surgeons(Asian CNS)が開催されました.1月のムンバイは暑くありませんでした.Misra教授の会長のもと,素晴らしい学会が開催されました.参加者はアジアのみでなく,中近東,アフリカまで800人を越える大盛況でした.1993年,トヨタ自動車の海外研修者用のセミナー会場で第1回が開催された時は100名弱の参加者数でした.今昔の感を深くします.

 前回の第5回のAsian CNS(ジャカルタ)に引き続き,今回もWFNS(World Federation of Neurosurgical Societies)の公式な支援がありました.Brotchi会長はじめ,Samii教授,Basso教授,Choux教授,Sehker教授,Rosseau教授,De Sousa教授,Russel教授,Bricolo教授など壮々たるメンバーでした.彼らの講演もいつもながら聞き応えのあるものでした.Samii教授の聴神経腫瘍手術3,000例,Choux教授のcraniopharyngioma約100例,そして驚いたのは水頭症に対する10,000例を超える手術数,Brotchi教授のparasagittal,falx meningiomaに対する素晴らしい手術などなどです.WFNSの偉い先生方は政治ばかりしている人達との陰口をよく聞きますが,事実は全く違うのです.われわれとは桁違いの臨床をやりこんだ人達なのです.これは我々も心しなければならないことかと考えます.

コラム 医事法の扉

第1回 「善管注意義務」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.526 - P.526

いきなり聞きなれない言葉で申し訳ありませんが,「善管注意義務」とは,「善良な管理者の注意義務」の略で,民法644条に「受任者は,委任の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,委任事務を処理する義務を負う」と規定されています.つまり,何か法律行為を頼まれ承諾した人には,「善良」に「管理」しなければならない「注意義務」が発生します.

 われわれ医師が,患者さんに対して医療行為を行うときには,通常,診療契約が成立します.診療行為は法律行為ではないので,この契約は,「準委任契約」(民法656条)であるとされています1).準委任契約であっても委任契約と同様に「善管注意義務」が発生するので,結局,医師も「善管注意義務」を負うことになるのです.

連載 英語のツボ 英文論文の書き方(4)

査読者との闘い,現実は自己を知れ

著者: 大坪宏

ページ範囲:P.527 - P.535

は じ め に

 なぜこんなに一所懸命書いたのに,査読者は無茶苦茶にけなすのだろう.なぜ査読者は,自分の言っていることをわかろうとしないのだろう.なぜこんな新しいことがわかってもらえないのだろう.なぜこんな重要なことがわからないのだろう.多くの人が雑誌に投稿した自分の論文に対する査読者の意見を読んだ時,まず感じることではないでしょうか.“渡る世間は鬼ばかり(橋田寿賀子)”だと思っていませんか?

 果たして,国際政治ジャーナリストの落合信彦は,


“ギリシャの哲学者プラトンは“Know thyself 己自身を知れ”として,人を理解しようという努力自体不毛だしおこがましい.人に理解されたいと思うことは甘えにすぎない.人を理解しようとする前に君が自分自身を理解すること.”

(落合信彦,どしゃぶりの時代魂の磨き方,集英社,2005)


と説いています.われわれは論文を書く段階で,本当に自分の言いたいことを自分自身が理解できているのでしょうか.今回は査読者という鏡を通して,査読者との目に見えない(時によく知っている人のこともありますが)対話から,自分の論文の書き方を考え,そして自分が査読側にたった時,査読者としてのあるべき態度についてみても考えてみたいと思います.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境 これだけは知っておきたい個人情報保護法

第1回 バランスのとれた個人情報保護法の運営のために

著者: 稲葉一人

ページ範囲:P.537 - P.541

1.個人情報保護法騒動は終焉したか

 個人情報保護法は,2005年4月全面的に施行され,前後して,厚生労働省ガイドライン(医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン(平成16年12月24日通達)や,Q&A(「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」に関するQ&A(事例集)(平成17年3月28日掲載,数度の改定)が公にされています.確かに、法だけでなく,ガイドラインや事例集が出されることにより,考えの道筋が示されたといえるでしょう.

 したがって,当初議論された,①患者を名前で呼ぶべきではないのか,②病室やベッドに患者の名前を示すべきではないのか,③病院外からの電話への応答は一切しないほうがいいのか,④FAXは一切使うべきではないのか,⑤カルテ等はすべて鍵のかかるロッカーに入れるべきなのか,といった種類(初級コースともいえるでしょう)の個人情報保護への無知ともいえる過剰な反応はなくなっています.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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