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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科34巻8号

2006年08月発行

雑誌目次

未破裂脳動脈瘤

著者: 細田浩道

ページ範囲:P.781 - P.782

 英語のパーテイジョークに,日本人の特性を具現した面白い話が1つある.集団行動をしていれば安心という嗜癖(Group Oriented People)を示したものである.

 ある豪華客船が航海の途中,座礁難破して沈没し始めると,船長は乗客達に,いち早く海に飛び込むことを命じた.アメリカ人には「飛び込めば,あなたは英雄ですよ」,イギリス人には「飛び込めば,あなたは紳士です」,休暇中のドイツ将校には「上官が飛び込めと言っていますよ」,イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」と,フランス人には「飛び込まないで下さい」,そして日本人には「皆さん飛び込んでいらっしゃいますよ」と話しかけて,首尾よく責務を果したという逸話である.

研究

片側顔面痙攣に対するmicrovascular decompressionの新しい術前画像評価:3D MR cisternogram/angiogram fusion imagingの応用

著者: 小野田恵介 ,   佐藤透 ,   三好康之 ,   徳永浩司 ,   杉生憲志 ,   伊達勲

ページ範囲:P.785 - P.791

Ⅰ.は じ め に

 片側顔面痙攣に対するmicrovascular decompression(MVD)1-3)の術前画像評価には,神経,血管,脳実質が同時に描出されるMRI元画像が使用され,顔面神経root exit zone(REZ)近傍での圧迫責任血管を元画像上で推測することが可能となってきた1,4-6,10,11).しかし,これらは2次元平面画像のため,REZでの神経と血管との解剖学的位置関係を立体的に把握することは困難である.

 今回,片側顔面痙攣症例において,責任血管による顔面神経REZの圧迫状況を立体的に表示する目的で,3D MR cisternogram/angiogram fusion imaging 8,9)を応用し,術前にMVD術野に相応するthree-dimensional(3D)simulation画像をprospectiveに作成し,手術所見と対比検討した.3D MR cisternogram/angiogram fusion imageを用いて顔面神経REZでの神経血管圧迫状況を小脳橋角部脳槽内の様々な観察視点から術前検討した結果,片側顔面痙攣に対するMVDの適応の判断,手術難易度の推定,手術戦略,informed consentなどに有用と考えられたので報告する.

圧迫骨折に対する経皮的椎体形成術

著者: 川西昌浩 ,   伊藤裕 ,   佐藤大輔 ,   松田奈穂子 ,   加茂正嗣 ,   半田肇

ページ範囲:P.793 - P.799

Ⅰ.は じ め に

 圧迫骨折を生じて立つことはおろか,寝返りすら困難になった高齢者が,局所麻酔の30分ほどの処置で翌日には痛みから解放され,ADLの著明な改善が得られる画期的な治療,それが経皮的椎体形成術である.圧迫骨折に対する経皮的椎体形成術は,本邦でも広まりつつある.本研究では,われわれが行ってきた圧迫骨折に対する経皮的椎体形成術の治療成績,合併症,問題点を検討し,文献的考察を加える.

もやもや病に対する血行再建術後急性期の臨床像と脳循環動態:脳灌流MRIを用いた検討

著者: 藤村幹 ,   麦倉俊司 ,   清水宏明 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.801 - P.809

Ⅰ.は じ め に

 もやもや病は両側内頸動脈終末部,前および中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞し,その付近に異常血管網の発達を認める原因不明の疾患である 13).浅側頭動脈・中大脳動脈(STA-MCA)吻合術は本疾患による脳虚血を改善するための有効な治療法として広く用いられているが4,11),もやもや病に対するバイパス術後急性期の臨床症状や血行再建による急激な血流増加が脳循環代謝に与える影響についてはいまだ不明な点が多い.

 近年,非侵襲的な脳循環動態評価方法として脳灌流MRIが用いられるようになり,もやもや病においても術前の脳循環動態評価における有用性が報告されている1,14).しかしながら,もやもや病血行再建術後の脳循環動態評価におけるその有用性についての報告はごく限られている15).特に術後急性期の脳灌流MRI所見についての報告は渉猟しえない.今回われわれは成人もやもや病手術例に対して脳灌流MRIと123 I-IMP-SPECTを術後急性期に併用し,それらの所見の変化と臨床症状について検討したので報告する.

テクニカル・ノート

Intraoperative photodynamic diagnosis for spinal ependymoma using 5-aminolevulinic acid

著者: 荒井隆雄 ,   谷諭 ,   磯島晃 ,   長島弘泰 ,   常喜達裕 ,   藤ヶ崎純子 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.811 - P.817

Ⅰ.は じ め に

 悪性脳腫瘍手術に対するphotodynamic diagnosis(PDD)は,近年急速に普及し重要な術中支援装置の1つとしてその地位を確立した.一方,脊髄腫瘍に対するPDDについてはいまだ報告されていない.今回われわれは,脊髄上衣腫におけるPDDの有用性を術中所見および病理組織学的所見をもとに検討した.

症例

極めて激しいかん癪(temper tantrum)を呈したSturge-Weber症候群の1例

著者: 宇都宮利史 ,   清水弘之 ,   須永茂樹 ,   菅野秀宣 ,   新井信隆

ページ範囲:P.819 - P.824

Ⅰ.は じ め に

 かん癪(temper tantrum)・攻撃性・不機嫌状態といった性格変化は,側頭葉てんかんでしばしばみられる.また,片側巨脳症,Rasmussen脳炎,乳児片麻痺,Sturge-Weber症候群といった半球離断術を要するような半球性病変においても随伴することが報告されている.今回,われわれは強いかん癪と複雑部分発作を伴ったSturge-Weber症候群を経験し,外科的治療で症状は消失した.本例におけるかん癪症状の発現機序につき,文献的考察をまじえて報告する.

急性硬膜下血腫にて発症したpetrotentorial meningiomaの1例

著者: 光原崇文 ,   井川房夫 ,   大林直彦 ,   今田裕尊 ,   阿美古将 ,   鮄川哲二

ページ範囲:P.827 - P.832

Ⅰ.は じ め に

 腫瘍性頭蓋内出血で発症する髄膜腫の頻度は1.3%~2.4%と報告されている1,5,6,10)が,急性硬膜下血腫にて発症した髄膜腫の報告は比較的稀である4).今回われわれは,急性硬膜下血腫にて発症したpetrotentorial meningiomaの1例を経験したので文献的考察を含め報告する.

前床突起に発生したprimary intraosseous cavernous hemangiomaの1例

著者: 山下太郎 ,   三上毅 ,   南田善弘 ,   馬場雄大 ,   宝金清博

ページ範囲:P.833 - P.837

Ⅰ.は じ め に

 Primary intraosseous cavernous hemangiomas (PICHs)は全骨腫瘍のうち0.2%,良性骨腫瘍の10%を占める極めて稀な腫瘍である1,3,4,9,11,12,14,17,18,21).頭蓋骨の中でも多くは頭蓋冠に発生し約70%を占める12).特に前頭骨,頭頂骨が多く,次いで側頭骨に多い11).その他,蝶形骨,頬骨,斜台,上顎骨,下顎骨など頭蓋底から顔面骨にも報告されているが10,12,17,21),前床突起に限局して発生したPICHsは過去に報告されていない.今回われわれは,前床突起に発生したPICHsの稀な1例を経験したので報告する.

脳出血で発症した神経サルコイドーシスの1例

著者: 山口秀 ,   黒田敏 ,   小林浩之 ,   丸一勝彦 ,   久保田佳奈子 ,   伊藤智雄 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.839 - P.842

Ⅰ.は じ め に

 サルコイドーシスは非乾酪性類上皮性肉芽腫を特徴とする,全身性の疾患である.肺とぶどう膜が好発部位であるが,約5%の症例で中枢神経(central nervous system;CNS)にも病変が出現するとされている16).しかし,欧米と比べると,わが国における報告はそれほど多くない.CNSサルコイドーシスは病変の部位によって,脳神経症状や痙攣など,多彩な神経症状を呈することが知られているが2,6,11,12),脳出血を来した症例が数例のみ報告されているに過ぎない1,3,4,14).今回われわれは,大脳皮質に発生したサルコイドーシスにより皮質下出血が生じ,痙攣重積発作で発症した1例を経験したので報告する.

疼痛発症の解離性椎骨および中大脳動脈瘤の合併例

著者: 吉岡秀幸 ,   堀越徹 ,   八木伸一 ,   杉田正夫 ,   大橋康弘 ,   深町彰 ,   木内博之

ページ範囲:P.843 - P.848

Ⅰ.は じ め に

 頭蓋内解離性動脈瘤の多くは椎骨脳底動脈系に発生し,その約10%が多発するとされている.しかし,その多くは両側の椎骨動脈に発生したものであり19),椎骨脳底動脈系と内頸動脈系の両方に発生することは極めて稀である.

 解離性動脈瘤の病態としては,はじめに解離に伴う頭痛が出現し,その後解離が外膜まで進むと出血を来し,壁内血腫により内腔が閉塞すると虚血症状を呈する.しかし,最近の検査機器の発達に伴い,頭痛の段階で診断される症例も増えてきており,その経過が注目されている18)

 今回われわれは,解離に伴う頭痛の段階で診断された解離性椎骨動脈瘤の経過観察中に,新たに解離性中大脳動脈瘤を併発した稀な1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

術前画像診断が困難であった慢性被膜化脳内血腫の1例

著者: 富山新太 ,   青木和哉 ,   佐藤健一郎 ,   中山晴雄 ,   原科純一 ,   林盛人 ,   木村仁 ,   櫻井貴敏 ,   岩渕聡 ,   高橋啓 ,   寺田一志 ,   上田守三 ,   鮫島寛次

ページ範囲:P.851 - P.856

Ⅰ.は じ め に

 慢性被膜化脳内血腫(encapsulized intracranial hematoma; 以下EIH)は脳内血腫の特殊な一形態であり,過去の報告例も少なく詳細な病態はいまだ不明である.また,画像所見による確定診断は困難で腫瘍性病変と診断されることが少なくない.今回われわれは術前画像診断で悪性脳腫瘍と診断したが,病理所見でEIHと診断された稀な1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

連載 脳神経外科手術手技に関する私見とその歴史的背景

1. EC-IC bypass

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.859 - P.867

1.はじめに

 やはり,私には脳神経外科の手術の中ではextracraniai-intracranial(arterial)bypass(EC-IC bypass)に関する事柄,逸話が最も心に浮かぶ.Jacobson-Donaghy-Yasargil の諸教授の流れを汲み,われわれが行っている微小血管吻合は別の論文7,15,17,18)で述べているので重複を避けるが,私は上述の如く1970年に当地チューリッヒにmicrosurgeryを学びにきた.当時勃興し,燎原の火の如く広がりつつあったmicrosurgeryであるが,私もまた沢山のメッカ巡礼者の1人であった.その頃はまだ,定年前の故Prof. Krayenbuehlが主任教授で,Prof. Yasargilが昇任されたのは1973年である.当初はmicrosurgeryを練習させてもらうまでに2年間,一般脳神経外科の“徒弟奉公”をした.お陰で,この間,椎間板ヘルニア,VAシャント,VPシャントの手術も習い,多くの経験を積ませてもらった.それからmicrosurgeryのlaboratoryに入ることが許された.チューリッヒで私が実際の症例にEC-IC bypassを行ったのは,1973年になってからである.オランダ人の内頸動脈閉塞症の患者さんが第1例目であった.したがって,私のbypass手術暦は33年になる.先日行ったSTA-MCA (superficial temporal artery-middle cerebral artery)bypass surgeryは,skin-to-skinで1時間30分で終了していた.このように短い時間で行えるようになったのは,線状切開,小開頭がその主なる理由であるが,そこに至るまでに,多くの先輩,同輩から技術を学んだ.

 当科では,毎朝7時30分から臨床カンファレンスを行っている.先日もこの朝のconferenceで,若い先生方に(私は自分がどちらかと言えば,不器用なのを知っているので)“私より手術がうまくて速い人々が世界中には沢山いるだろう”ことを話した.思考の柔軟な若いときには,視野を大きく持って知識も技術も貪欲に吸収してもらいたいと考えるからだ.毎週月曜日の朝はjournal club (抄読会)と決められているが,先日,オランダのTulleken教授の教室からのエキシマレーザーによるhigh flow bypass後のendothelializationに関しての論文9)について,当科の若い先生の抄読があった.この抄読に対して私は次の点を指摘した.

 1)Recipientの血流を遮断せずに吻合を行おうというアイディアは,古くからあった.実際の臨床の吻合では,吻合を施す間の,短期間のrecipientの血流遮断は問題ない.エキシマレーザーの方法でもringを取り付けるのに縫合が必要で,レーザー発信筒を挿入,除去するためのdonor血管(interposition graft)の他端にもう1つの吻合を要する.すなわち,interposition graftであるから,この方法を用いなくともこの他端のproximalで吻合を必要とすることは自明の事柄であるが,この部位での吻合では,通常の従来通りの手縫いでの吻合方法を用いているであろうこと.

 2)何が何でもhigh flow bypassのほうがlow flow bypassよりよい,ないしは優れているというわけではないこと.

 3)本論文では1968年にイヌの血管でのEC-IC bypass吻合にProf. Yasargilが成功したと書かれているが,この歴史的事実に関する記載はまったくの誤りである.実際は1967年に後述するProf. DonaghyとProf. Yasargilとで別々にアメリカバーモント州とチューリッヒで本手術が施行され,1968年にシカゴでの第36回AANS(米国脳神経外科学会年次総会)で発表されたのである3,13).またイヌの血管吻合に関するProf. Yasargilの論文は,シンポジウムのproceedingの形で出版された冊子の中に掲載されているが1967年のものである12).共著者のTulleken教授はこの点について見落として投稿したのであろうが,専門雑誌のreviewerもしっかりしないといけないこと.

 4)Tulleken教授は1973年か1974年に当microsurgical laboratoryを訪れて,ラットの頸動脈血管吻合の練習を繰り返していた.当時のlaboratory instructor であった私がひそかに吻合完成までの時間を競争したのだが,何回やっても彼には追いつかず,彼のその出来上がりも見事なものであったこと.

などをコメントした.さらに,

 5)その彼が,本論文のテクニックを開発したのにはそれだけの理由があるはずである.また,その見事な腕と技術をもった彼が,Moyamoya angiopathy の患者さんをオランダからわれわれの所に治療に送ってくるのである.Bypass surgeryができるだけではこの病気の患者さんの治療には十分でないという観点にたってのことである.

 手術,臨床の難しさについて,いろいろ考えさせられた抄読会であったのでまず紹介した.

コラム 医事法の扉

第4回 「療養指導義務」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.869 - P.869

 医師には,診療契約(民法656条,準委任)に基づき,患者の状態を善良に管理しなければならない「善管注意義務」(644条)と,患者への報告義務(645条)がありますが,それらに関連して,さまざまな注意義務があります.「療養指導義務」もその1つです.

 医師は,医療を受ける者に対し,良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならず(医療法1条の4第1項),また,診療をしたときは,本人又はその保護者に対し,療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならないとされています(医師法23条).

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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