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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科34巻9号

2006年09月発行

雑誌目次

非『医局』と塞翁が馬

著者: 青木信彦

ページ範囲:P.881 - P.882

 今年も沢山のレジデントがやって来て病院は賑わっています.そんな若者たちを見ていると,だれもがそんな年頃だった自分を思い浮かべるのでないでしょうか.私もそんな“ういういしい”レジデントに接すると,その当時に自分がどんな医師を目指していたのかを改めて考えさせられます.

 私は1970年(昭和45年)に東北大学を卒業しました.当時はインターン制度が廃止されてまもない頃で,学園紛争の真只中でした.卒業式もなく,私達のクラスは入局反対・医局解体を決議して,各地へ散って行きました.当然,私も入局はせず,個人交渉でいくつかの市中病院で外科系ローテートをしました.そして最後の半年ほど船医として西アフリカを航海した後,1972年に今の都立府中病院で脳神経外科の研修を開始しました.しかし,研修とは名ばかりで,ただ見様見真似で医療を行うという毎日でした.また,脳神経外科臨床に関しての教科書といえるものもなく,「耳学問」が最も重要な勉強などといわれる時代でした.やはり,医局に属さずに1人前の専門医になることは必ずしも容易ではないようでした.しかし,人間は「何かが不足する」とそれを「何かが補う」ように発達するようになります.教育システムなどというものはなく,余程のことがないと教えてくれる人はいないので,必然的に人並み以上の「教わられ上手」・「教えさせ上手」になる能力が備わるようになりました.さらにもう1つ,自分より若い医師から積極的に「教えてもらう勇気」を持つことが必要なことにも気づきました.どうみても自分より経験の少ない若い医師からも,「教えてもらえる工夫」をするようになりました.よくよく考えてみますと,「その若い医師から教えてもらう」というよりも,「その若い医師を指導したベテラン医師から間接的に教えてもらっている」ということがわかりました.さらに,「良いと思ったこと」は,その個人やその背景にこだわることなく何でも取り入れるようにしました.今では懐かしい「ウデトロ(逆行性上腕動脈撮影)」,「クビトロ(経皮的頸動脈撮影)」,「PEG」などの検査が午後の主な業務でした.自分は府中病院にとどまりながら,1年あるいは半年ごとに各大学から派遣される若いローテーターから沢山のことを学びました.

総説

脳・血管周囲腔と新しい病態―高磁場MR機による占拠性病変の観察から―

著者: 佐伯直勝 ,   村井尚之 ,   岩立康男 ,   永井雄一郎 ,   角南兼朗

ページ範囲:P.885 - P.898

Ⅰ.従来の血管周囲腔の画像とその意義

 高磁場のMR機器が広く普及し,人・生体における微細な構造が観察可能になった.それにつれ,血管周囲腔に関与したMR像が数多く報告されるようになった.1990年代から血管周囲腔は,MR上の分布と画像所見に類似点があることから,大脳基底核や前交連付近のラクナ梗塞との鑑別疾患としてクローズアップされた.また,大脳白質(centrum semiovale)においては,境界不鮮明な地図状,斑状の白質病変であるleukoaraiosisとの鑑別が問題となっている2,3,5,8,11,15)

 血管周囲腔は,MR上脳実質内での拡大した部分が観察され,画像上,脳表から多少離れた脳実質内の脳脊髄液信号域として観察される.血管周囲腔は以下の5つの条件を満たした際,それと診断される.

研究

当院における無剃毛頭蓋手術の実践

著者: 岩味健一郎 ,   高木輝秀 ,   有馬徹 ,   高安正和

ページ範囲:P.901 - P.905

Ⅰ.は じ め に

 脳の外科手術において,以前は感染を危惧し専ら全剃毛手術が行われていたが,美容面や社会復帰等への配慮から次第に部分剃毛手術が行われるようになった.しかしながら特に女性の場合,部分剃毛に対してもなお精神的苦痛が少なくはない.近年,術野の剃毛は術後感染率を低下させないというデータに基づき,様々な感染対策のガイドラインにおいて術前の剃毛は不必要,ともすれば感染を助長すると記されている8,11).無剃毛手術は1990年代より報告され始め,これまで多数の報告がなされているものの1,7),現在においても一部の施設でしか実践されておらず,まだまだ浸透が遅れているのというのが現状である.普及しない理由としては感染への危惧に加え,実際にはどのような術前術後の準備,管理が必要なのか一定した基準が存在しないということが考えられる.当院ではこれまで部分剃毛手術を行ってきたが,2004年10月より完全無剃毛手術を取り入れ,現在ではほぼすべての術式を無剃毛手術で行っている.本稿にてその方法と結果を紹介する.

Endoscopic sinus surgeryを応用した内視鏡下経鼻的下垂体腺腫摘出術に関する考察

著者: 小林伸行 ,   渡辺英寿 ,   市村恵一

ページ範囲:P.907 - P.916

Ⅰ.は じ め に

 下垂体部腫瘍に対するsublabial transseptal surgeryは1910年Harvey Cushing 8)により始められ,その後1967年Jules Hardy 9)によりtranssphenoidal surgery(TSS)として完成された.いわゆる「Hardyの手術」はCushing同様sublabialに行われ,口腔,副鼻腔粘膜の剝離を必要とするsubmucosal approachである.これは口腔と副鼻腔の空洞を利用して行うsublabial rhinoseptal transsphenoidal surgery 9)であり,口唇粘膜下および鼻中隔軟骨膜下に到達し,鼻中隔の脱臼骨折を施すことにより広い進入路を確保するsubmucosal transseptal approachを基本とした低侵襲手術である.近年,さらなる低侵襲手術を求めてsublabial approachに対してtransnasal approachが見直され,その報告がなされている3,10,11).これら内視鏡下経鼻手術に関する報告の多くが一側鼻腔にて進入し鼻中隔粘膜を剝離した後,鋤骨を骨折する方法である.

 われわれの施設では耳鼻咽喉科領域にて広く行われているendoscopic sinus surgery(ESS)の手法を応用した蝶形骨洞到達法にて,内視鏡および各種器械を一側鼻腔のみから挿入・操作を行う下垂体腫瘍摘出術を行っている.ESSは1985年以降,Kennedyら12)によりfunctional endoscopic sinus surgery(FESS)の名称のもとに普及したものである.このFESSは比較的軽度の副鼻腔炎に対して行われ,ostiomeatal complex(unit)(Fig. 1),特に中鼻道と前篩骨洞を手術範囲を対象とする術式である.前述したosteomeatal complexとは機能単位を示す抽象的呼称であり,解剖学的に具体的な特定の部位をさすものではなく,しいて挙げれば,前頭洞口,鼻前頭管,篩骨漏斗,上顎洞自然口,半月裂孔を含む範囲といえる.耳鼻咽喉科領域におけるESSは,内視鏡的に鼻内と副鼻腔の病変を微細なレベルで手術し,可逆性の粘膜を保存し,手術侵襲を最大限少なくする術式16)で,いわゆるminimally invasive techniqueを施行するものと位置づけられている.

 われわれが行っているESSを応用した内視鏡下経鼻手術では,通常の内視鏡下経鼻手術で行われている鼻中隔粘膜の剝離や鼻中隔の骨折は行わず,中鼻甲介を外側に圧排して自然口を拡大し,直接蝶形骨洞に入る点を特徴としている(Fig. 2).つまり,通常の内視鏡下経鼻手術が鼻腔深部では内側に作業空間を確保するのに対し,われわれの手法は外側への作業空間を有することが相違点である.なお本論文ではHardy法をTSS,従来の経鼻内視鏡法をTNA,今回報告する手技をESS-TNAと呼んで便宜上区別することとする.

 われわれはESS-TNAを用いて2004年9月より下垂体腺腫に対する治療を行っているが,当施設で行っていた従来からのTSSと比べなんら遜色のない治療成績を上げているので,今回本法に関する報告を行う.

中枢性疼痛に対する運動領野刺激療法―術中モニタリングによる工夫―

著者: 伊東雅基 ,   黒田敏 ,   高野和哉 ,   丸一勝彦 ,   千葉泰弘 ,   森本裕二 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.919 - P.924

Ⅰ.は じ め に

 視床痛や脊髄損傷後疼痛に代表される中枢性求心路遮断性疼痛は,体性感覚求心路が損傷を受けることにより二次的に出現する慢性難治性疼痛で,内服治療や神経ブロックが奏効しないことが多い.1990年代からは外科治療として運動野刺激療法(motor cortex stimulation; MCS)が実施されているが,その有効性に関しては報告によって大きく異なっている1,3-6,9-13)

 今回われわれは,脳卒中後の中枢性疼痛を有する3例に対して,術中にナビゲーションシステムや電気生理学的モニタリングを利用して刺激電極の設置部位を決定し,極めて良好な結果を得ることができたので,その手術適応や手術手技を中心に報告する.

症例

定位放射線手術後のnidus内に血管新生を伴って出血を繰り返した脳動静脈奇形の1例

著者: 粟野貴志 ,   加納利和 ,   永岡右章 ,   木村重吉 ,   加納恒男 ,   木戸悟郎 ,   片山容一 ,   小谷昭夫

ページ範囲:P.927 - P.932

Ⅰ.は じ め に

 Stereotactic radiosurgery(SRS)後,出血を伴って増大する腫瘤が形成された AVM(arteriovenous malformation)症例について組織学的検討を行ったので報告する.

内耳奇形による髄液耳漏の1例

著者: 三上毅 ,   南田善弘 ,   氷見徹夫 ,   宝金清博

ページ範囲:P.933 - P.937

Ⅰ.は じ め に

 錐体骨由来の髄液漏は,一般的には外傷後,術後,炎症性疾患,腫瘍性疾患などに伴って生じる14).これらの他に稀な原因として,内耳の先天異常により髄液漏を生じることがある1-6,9,11-18)

 内耳奇形の頻度は先天性難聴の約20%を占めるといわれているが3),その中でも髄液漏が生じるのは非常に稀であり,脳神経外科領域で遭遇することは少ない.

 今回われわれは,髄膜炎を繰り返した内耳奇形による髄液漏の1例を経験し,外科的治癒が得られたので若干の文献的考察を加え報告する.

上矢状静脈洞血栓症を合併した潰瘍性大腸炎の1例

著者: 重森裕 ,   越永守道 ,   須磨健 ,   片山容一

ページ範囲:P.939 - P.942

Ⅰ.は じ め に

 1930年代にBargen とBarker 3) によって,潰瘍性大腸炎の患者においては静脈血栓症を生じやすいことが初めて報告されて以来,潰瘍性大腸炎に深部静脈血栓症や肺塞栓症が合併しやすいことは広く認知されている.われわれは,活動性の潰瘍性大腸炎患者で,上矢状静脈洞の完全閉塞を認めた症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Atretic cephaloceleの1例

著者: 吉田優也 ,   東馬康郎 ,   村松直樹 ,   金子拓郎 ,   長谷川光広

ページ範囲:P.945 - P.950

Ⅰ.は じ め に

 頭蓋骨欠損(cranium bifidum occultum)を介し頭蓋腔と頭皮下腫瘤が髄膜由来の組織でつながる先天奇形はcephaloceleと呼ばれる.この中で,囊胞を伴わないものは不全型に亜分類され7,12),atretic cephaloceleやrudimentary cephaloceleなどの名称で報告されてきた2,5,10,11).今回われわれは,straight sinus のvertical embryonic positioningを呈した頭頂部のatretic cephaloceleの1例を経験したので画像的特徴を含めた文献的考察を加え報告する.

胃癌よりの脳転移と考えられた両側中小脳脚病変の1例

著者: 水松真一郎 ,   西村卓士 ,   坂井恭治 ,   後藤正樹 ,   菅谷廣司 ,   東徹

ページ範囲:P.955 - P.960

Ⅰ.は じ め に

 両側中小脳脚(bMCP)に所見を有する疾患としてはオリーブ核橋小脳変性症(OPCA)9,10,17,21)が知られているが,腫瘍性病変による報告は極めて稀である2,3,10,13,22).われわれは経過,画像所見により胃癌からの脳転移と考えられたbMCP病変を経験したので,文献的考察を加え報告する.

コラム 医事法の扉

第5回 「届出義務」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.951 - P.951

 われわれ医師には,「死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」という届出義務があります(医師法21条).この条文をみると,自殺もしくは他殺による「死体」だけを届け出ればよいように思われますが,日常診療において原因がわからず突然死亡してしまった例や,不適切な医療行為によって死亡してしまった例も含まれるということに注意が必要です.

 例えば,都立広尾病院で,ヘパリン生食とヒビテン消毒液を間違えて静脈注射してしまい患者が死亡したケースで,警察に届け出なかったことは同法の「届出義務」違反にあたるとされたのは記憶に新しいことと思います(最判 平成16年4月13日).

報告記

第9回 国際脳血管攣縮カンファレンス報告記(2006年6月27~30日)

著者: 小野成紀 ,   伊達勲

ページ範囲:P.952 - P.953

 本学会(International Conference of Cerebral Vasospasm, ICCV)は1972年,ジャクソン(ミシシッピ,米国)で開催されて以来,ほぼ3年ごとに催されてきた脳血管攣縮に関する権威ある国際学会である.このたび,第9回ICCVがイスタンブール(トルコ共和国)にて2006年6月27~30日に開催された.今回主催の労をとられたのは,イスタンブール大学脳神経外科Talat Kiris教授(写真1)で,約1年前からのホームページの開設,オンライン・レジストレーション,ホテル予約,会場確保など用意周到に準備され,また,テロなどに影響されることなく,盛況な開会となった.

 さて,開催地イスタンブールは黒海からマルマラ海(さらにエーゲ海へ続く)に注ぐボスポラス海峡の両岸にまたがる都市で,東京にも匹敵する人口1,300万のメガロポリスであることはあまり知られていない.海峡の両岸には世界遺産に指定された赤レンガと白壁に彩られた高級住宅が所狭しとひしめき合っており,オスマン朝の遺構である荘厳なイスラム建築の宮殿が景観に花を添えている(写真2).また,金角湾と呼ばれる入り江の南側にはビザンチン(東ローマ)帝国時代のキリスト教寺院や,オスマントルコ時代の巨大で流麗なモスクが見事な調和を保ちながら並んでいる.このあたりは周囲をビザンチン時代に築かれた城壁に囲まれたいわゆる“旧市街”と称せられ,世界遺産として観光のホットスポットとなっている(写真2).

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

医療と知的財産権

著者: 拾井央雄

ページ範囲:P.961 - P.965

Ⅰ.は じ め に

 わが国では,人間の治療方法や手術方法など,一般的に医療行為といわれるものには特許が与えられていません.しかし,近年においては,「知的財産立国」のかけ声の下,医療行為にも特許を与えるべきかどうかが検討の対象とされるなどもしています.ここでは,ある病院のA事務長,B医師,そしてB医師の知り合いであるC弁護士の3人のやりとりから,医療と特許について考えてみることにしましょう.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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