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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科35巻10号

2007年10月発行

雑誌目次

奥穂高岳夏山診療所への道

著者: 岩間亨

ページ範囲:P.961 - P.962

 夏の上高地は観光客であふれかえっている.河童橋で奥穂高,岳沢をバックに記念写真を撮る観光客を横目にみて梓川左岸を行くと,急に人影はまばらとなりにわかに山行の雰囲気に包まれる.明神,徳沢を経由して横尾山荘までは3時間ほどのほぼ平坦な道のりだ.木々の匂いを感じ,梓川の水音や鳥たちのさえずりを聞きながら,一歩一歩進んでいくうちに,自分の五感が山の世界に戻ってきたことをゆっくりと感じ始める.

 初めての本格的な山行は高校1年の夏だった.白馬岳,大雪渓を歩く心地よさ,栂池に咲く水芭蕉の可憐さを思い出す.山の魅力を知り,その後,友人,父親と,時には単独で鈴鹿や奥三河の山を歩いた.雨の中,ずぶ濡れになって御在所岳の中道を登り,辿り着いたロープウェー山頂駅で,観光客に目を丸くされたことも懐かしい.寧比曽岳で一人幕営した時には,山に入ってから翌日里に下りるまで丸一日,誰一人とも出会わなかった.人家が見えたとき,どれほど安堵したことか.立山で見た満天の星空は素晴らしかったが,遠く眼下に見えた街の灯りはさらに感動的だった.雄大な自然の懐に抱かれて,人間のはかなさと,そんな人間が懸命に生きる姿とを街の灯りひとつひとつに感じていたのだと思う.

総説

脳損傷の病態と高次脳機能障害―再生治療の展望

著者: 丸一勝彦 ,   黒田敏 ,   岩㟢喜信

ページ範囲:P.965 - P.969

Ⅰ.脳損傷・びまん性軸索損傷に関して

 脳損傷あるいは脳外傷は,直接または間接的に何らかの外力が頭部に加わったために発生するあらゆる損傷を意味している.頭部に強い外力が加わると,その直下に損傷が生じ(coup injury),同時に受けた外力と反対側の脳にも損傷が生じる(contre-coup injury).さらに,それらの部位を結ぶ線上に「ねじれ」の力が作用し,神経軸索が断裂あるいは伸長されることなどにより,びまん性軸索損傷(diffuse axonal injury:DAI)が生じると言われている.Gennarelli 5)はこのびまん性脳損傷(diffuse brain injury:DBI)を,一時的な神経症状(健忘・失見当識など)があるものの,意識障害を認めないmild concussionから,24時間以上昏睡が遷延するmoderate/severe DAIまでに分類している.Marshall23)はGCS8以下の重症頭部外傷症例のCT所見のみからDBIを4つに分類している.

解剖を中心とした脳神経手術手技

下垂体腺腫の内視鏡下経鼻的経蝶形骨洞手術―自然口経由法の手術手技を中心に

著者: 佐伯直勝 ,   村井尚之 ,   長谷川祐三 ,   堀口健太郎 ,   花澤豊行

ページ範囲:P.971 - P.985

Ⅰ.はじめに

 経蝶形骨洞的下垂体部腫瘍手術では,開頭術と違い脳を牽引することなく下垂体部腫瘍を摘出できる.通常の下垂体腺腫に対しては第一選択の手術法である.

 従来,顕微鏡が使用されてきたが,最近内視鏡手術が盛んに行われるようになり,その手術法には,種々のバリエーションがある.顕微鏡も内視鏡も同じ鼻腔到達経路を取る.その鼻腔操作法には,上部口唇粘膜下経由法と経鼻法があり,後者にはさらに鼻中隔粘膜下経由法と自然口経由法がある.ただ,経鼻法で開創器を使わない方法は内視鏡特有の方法といえる.

 内視鏡を使う長所として以下の点がある.
①より明るく広い術野を確保できる. 対象に近づくことで,蝶形骨洞内では視神経管隆起,視神経内頸動脈陥凹,蝶形骨水平部,斜台,さらにトルコ鞍底を開けると,鞍内,海綿静脈洞部内頸動脈や鞍上部など,トルコ鞍周囲の構造物が観察可能となる.
②開創器を使用する方法では,粘膜切開創を鼻腔奥に置くことから,通常,鼻栓が片側で済み,その期間も短く,患者の術後の負担が軽減する.さらに,粘膜切開を施行しない自然口経由法では,術後の鼻栓が不要となり患者の負担がさらに軽減され,低侵襲な手術が可能である.
③開創器未使用下では,器具の進入角度の制限が減少し操作性が向上する3)

 一方,短所としては以下の点がある.
①内視鏡で得られる像は二次元で,立体感が少ないため術者が習熟するのに時間がかかる.
②中心部は鮮明だが辺縁部の画像がゆがむ.
③内視鏡先端のレンズに血液が付着しやすく,頻回の洗浄を必要とする.
④特有の手術器具を必要とする.
⑤煙突状の狭い術野に内視鏡のシャフトが挿入され,さらに操作野が狭くなる3)

 顕微鏡手術,内視鏡手術には,それぞれ特徴がある.それぞれの長所を生かして併用すればよいという考えもある.しかし,筆者らは,開創器未使用の内視鏡単独経蝶形骨洞手術を積極的に行っている.これは,内視鏡手術の習熟に時間はかかるものの,その特徴を最大限に活用することで,低侵襲性に加えて,前頭蓋底,海綿静脈洞,斜台部腫瘍へ拡大手術が可能になると考えるからである.ここでは,現在筆者らが行っている手術法を紹介する.

研究

八重山諸島における脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(1989~2002)

著者: 泉原昭文 ,   下地隆 ,   上杉政司 ,   藤澤博亮 ,   鈴木倫保 ,   伊江朝次

ページ範囲:P.987 - P.994

Ⅰ.はじめに

 八重山諸島は日本列島の最南西端に位置し,石垣島を中心に32の島(12の有人島)から構成されている.亜熱帯海洋性気候に属し,温暖で1年間の気温変化が小さく,台風の接近が多いという特徴をもっている.また沖縄本島から約400km以上離れた離島群であり,宮古諸島からでも約100km以上離れており,隔絶された地域となっている.今回,われわれは疫学および離島医療の観点から,八重山諸島における脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血について検討した.

症例

Uveo-meningeal syndromeにより水頭症再発を来した症例

著者: 山本弥生 ,   鈴木謙介 ,   山崎友郷 ,   高野晋吾 ,   松村明

ページ範囲:P.995 - P.999

Ⅰ.はじめに

 Uveo-meningeal syndromeとは,2004年にBrazisらにより提唱された新しい疾患概念であり,ぶどう膜・網膜炎と髄膜炎を合併した病態であるとされ,自己免疫疾患に関係した疾患群である1).また,複数箇所の閉塞を来して再発する水頭症は通常,小児の脳室内出血後,髄膜炎後などの水頭症としてみられる稀な病態である.本症例はuveo-meningeal syndromeによる慢性髄膜炎のため第四脳室閉塞の後に右Monro孔閉塞を来したと考えられ,われわれの渉猟した限りでは同様な報告はみられない.ここに文献的考察を加えて報告する.

症候性亜急性期頸部内頸動脈ステント内血栓症の1例

著者: 栗栖宏多 ,   真鍋宏 ,   井原達夫

ページ範囲:P.1001 - P.1005

Ⅰ.はじめに

 頸部内頸動脈ステント留置術(carotid angioplasty and stenting,CAS)後の亜急性期ステント内血栓症は比較的稀な合併症である.今回,われわれは頸部内頸動脈高度狭窄のCAS施行後に症候性亜急性期ステント内血栓症を合併し,緊急のステント内追加ステント留置による内頸動脈の血流改善と症状の著明な改善をみた症例を経験した.CAS施行の際の本合併症に対する対処を考える上で貴重な症例と考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頸静脈孔神経鞘腫を合併した結節性硬化症の1例

著者: 村井望 ,   金子隆昭

ページ範囲:P.1007 - P.1011

Ⅰ.はじめに

 結節性硬化症(tuberous sclerosis)は神経皮膚症候群の1つとして,古くから知られた疾患である.古典的には,精神遅滞,てんかん,顔面血管線維腫を三徴とするが,これらの症状が出揃うことは3割程度に過ぎない2).近年,この疾患の原因遺伝子(TSC1,染色体9q34;hamartin,TSC2,染色体16p13.3;tuberin)が同定され,多臓器にわたって多彩な症状を呈する全身疾患と認識され,tuberous sclerosis complexと呼ばれるようになった.診断は臨床症状と画像所見に基づいた診断基準に沿って行われる.常染色体優性遺伝性疾患であるが,孤発例も稀ではない10)

 中枢神経系では最も特徴的な所見を呈する.皮質,上衣下,白質にわたって複数の結節性病変と石灰化を認めれば,診断は困難ではない.さらに側脳室上衣下結節から発生するsubependymal giant cell astrocytoma(SGCA)がモンロー孔を塞ぎ,閉塞性水頭症を引き起こすことはよく知られている.しかし,それ以外の頭蓋内腫瘍合併の報告は少ない3)

 われわれは結節性硬化症の患者で,小児期にSGCAを合併して治療を受け,成人してから頸静脈孔に神経鞘腫を合併した1例を経験した.頭蓋内神経鞘腫の報告は,自験例を含めても2例しかなく,特に頸静脈孔からの発生は初めての報告である.文献的考察を加えて報告する.

眼窩尖端部症候群にて発症した浸潤型副鼻腔~眼窩アスペルギルス症の1例

著者: 鴨嶋雄大 ,   澤村豊 ,   岩㟢喜信 ,   浜田晋輔 ,   泉直人 ,   奥川周

ページ範囲:P.1013 - P.1018

Ⅰ.はじめに

 眼窩尖端部症候群(orbital apex syndrome)は,上眼窩裂を走行する各脳神経症状,および視力障害を主徴とし,主な原因として眼窩尖端部の炎症,腫瘍,外傷が挙げられる.稀ではあるが,中枢神経アスペルギルス感染によるものも報告されている.中枢神経アスペルギルス症は,HIV感染,ステロイド長期使用者など易感染性宿主の増大に伴い患者数は増加しつつあり,治療抵抗性で予後不良の疾患である.

 眼窩尖端部症候群を初発症状とし,抗真菌剤に対し抵抗性であった浸潤型副鼻腔~眼窩アスペルギルス症に対し,原疾患治療および疼痛緩和を目的として積極的外科切除を行い,術後の抗真菌薬投与にて良好な経過を辿った1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

脳腫瘍放射線治療後,比較的若年者に晩発性に生じたラクナ梗塞―2症例の報告

著者: 中㟢清之 ,   知禿史郎 ,   大田慎三 ,   佐藤倫由 ,   小塙聡司 ,   土田和幸 ,   田中康恵 ,   後藤勝弥 ,   大田泰正

ページ範囲:P.1019 - P.1023

Ⅰ.はじめに

 放射線治療後の晩発性の合併症として脳血管障害が生じることはよく知られており,症例報告も散見される.特に脳腫瘍に対して放射線治療を行った場合,腫瘍そのものは長期間に渡りコントロールされているにも関わらず,晩発性脳血管障害により後遺症を生じたり,時には死に至ることもある.今回われわれは,脳腫瘍に対する放射線治療後,晩発性に発生したラクナ梗塞の若年成人2例を経験した.1例は胚腫(germinoma)に対する放射線治療および化学療法を行った17年後に左内包後脚にラクナ梗塞を生じた症例で,もう1例は鞍上部の海綿状血管腫(cavernoma)が疑われる腫瘍に放射線治療を行い15年後に右放線冠にラクナ梗塞を生じた症例である.いずれも診断後,保存的に治療を行い自宅へ復帰できた.いずれの症例も高脂血症はあったものの,高血圧や喫煙の習慣はなく若年時に放射線治療を受けていたことが共通しており,原因として放射線治療を候補に考えた.比較的若年時に脳血管障害を生じたことは,放射線治療が誘因として重要であることを示唆するものと考えるので,これら2症例について,放射線治療後ラクナ梗塞の発症機序,放射線治療後晩発性障害としての脳血管障害を中心に文献的考察を含め検討を加えたので報告する.

コラム:医事法の扉

第18回 「死因説明義務」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.1025 - P.1025

 これまでに,第2回「説明義務」と第15回「家族への説明義務」で,説明義務に関してとりあげてきましたが,今回は,患者が治療中,または治療後に死亡した場合に,医師は死因についての説明義務を負うのかどうかについて検討します.

 われわれ医師には,診療契約(民法656条)に基づき,善管注意義務(644条)と報告義務(645条)が課せられています.645条は,「受任者は,委任者の請求があるときは,いつでも委任事務の処理の状況を報告し,委任が終了した後は,遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」と規定していますので,医師は,患者から請求があれば,原則として,いつでも「結果」を報告しなければなりません.患者本人に説明できないようなときには,診療契約上,家族または遺族が説明の相手方になるとされています(東京高裁平成16年9月30日判決).

連載 てんかんの画像と病理

4.結節性硬化症

著者: 亀山茂樹 ,   柿田明美

ページ範囲:P.1027 - P.1035

Ⅰ.はじめに

 結節性硬化症(tuberous sclerosis,以下TS)は先天性の過誤腫的異常で,多臓器,特に中枢神経系を侵す常染色体優性遺伝性疾患であるが,遺伝が認められるのは約1/3であるという4).9番染色体(9q34)のTSC 1遺伝子はhamartinという蛋白をコードし,16番染色体(16p13.3)のTSC 2遺伝子はtuberinという蛋白をコードするが,大半はそのどちらかの遺伝子の突然変異が原因と考えられている3,4).両翻訳蛋白は複合体を形成し,細胞分化や増殖に関連した細胞内情報伝達系としての生理活性を有する.そのため,どちらの遺伝子に突然変異が生じてもTSとしての臨床発現をすることになる6).孤発例ではTSC 2遺伝子の突然変異が一般的であり,その場合は臨床的な重症例が多いという7).TSの頻度は4.9/10万人とされている4).てんかん,精神発達遅滞や皮膚症状(angiofibroma,Fig. 1A)が臨床的三徴とされているが,三徴がそろうのは29%でしかないという8).てんかんの発症頻度は80%前後3,4,8)と高率であり,2歳未満で発症すると精神発達遅滞が生じやすい.発作型としては,infantile spasmが一般的であるが,70%の小児例が5歳から20歳までに複雑部分発作に移行する26).2歳以降の発病では複雑部分発作や二次性全般化発作をもつ5).5個以上のtuberをもつ患者は難治性てんかんや知的発達障害を来しやすく20),tuberの数は臨床的重症度と関係していた1,11)

 TSは,MRIで皮質結節あるいは皮質下結節(cortical or subcortical tuber,以下tuber)のほかに脳室上衣下結節(subependymal nodule)などの多発病変を有しているために,その診断は比較的容易である.さらにCTで多発性の石灰化腫瘤として認められれば,確定的である.しかし逆に,てんかん症例の場合は多発病変のどれがてんかん原性を有するtuberかという焦点局在診断の面から従来の術前評価では困難なことが多く,TSの外科治療の試みは遅れていた.Jansenら13)によれば,最近のシリーズでも25例のうち外科治療が行われたのは6例であったという.その理由としては,発作が補足されなかったり,発作起始領域が局在化できなかったり複数あったり,脳波や脳磁図(magnetoencephalograpy,以下MEG)が一致しなかったなどがある.多発tuberの1つが常にてんかんの原因になっている症例があり,それをresponsible tuberあるいはepileptogenic tuberというが,それを同定できれば,外科治療の大きな動機付けとなる.MEGが登場して,等価電流双極子(equivalent current dipole,以下ECD)を解析してECDが1つのtuber近傍に集積する場合は,焦点を示していると解釈されるようになった12,16).しかしMEG解析から,てんかん原性tuberと焦点は完全に一致せず,焦点はtuberの周辺部に存在することが明らかになっている.てんかん原性領域に対するMEGの感度や精度が発作時ビデオ脳波に対して有意に高いことが報告されている12,25).また切除されたtuberの病理組織が限局性皮質形成異常(focal cortical dysplasia,以下FCD)のtypeⅡBと類似している点も注目されている.Beckerら2)はFCD typeⅡBとTSC 1遺伝子変異との関係を報告したが,しかし,両者のてんかん原性はまったく異なり,TSの場合は腫瘍性のてんかん原性病変に類似してtuberの周辺にFCDの組織が併存して焦点になっている可能性が示唆されている.したがって,TS症例におけるてんかん外科の成否は焦点局在推定の成否に依存することが明白である.

報告記

第5回 国際前庭神経鞘腫学会議報告記(2007年6月5~9日)

著者: 橋口公章

ページ範囲:P.1036 - P.1037

 このたび,第5回国際前庭神経鞘腫学会議(International Conference on Vestibular Schwannoma and other CPA lesions)がスペインのバルセロナにて,2007年6月5~9日に開催されました.今回,主催の労をとられたのは,バルセロナのInstituto de Otologia Garcia-Ibán˜zの耳鼻科医Emilio Garcia-Ibán˜z教授とパリのHôpital Lariboisièreの耳鼻科医Patrice Tran Ba Huy教授でした.会場のPrincesa Sofia Hotelは近代的な高層建築で,すぐ近くには大学地区のほか,ペドラルベス宮殿や,FCバルセロナの本拠地であるカンプ・ノウ・スタジアムなどがあります.

 バルセロナといえば,あのサグラダ・ファミリアがあまりにも有名ですが,その他にもアントニオ・ガウディとその当時のライバルたちが競い合って創った建築物が街中のいたるところに残っています.また,ピカソやミロ,ダリといった著名な近代芸術家たちにとってゆかりの深い街でもあります.この街を訪れると,彼らの残した建築物や絵画にみられるような一種独特の直線形と流円形から成る芸術作品は,スペイン人の独創性を端的に表しているものだということがよく分かります.

文献抄録

Human neuroblasts migrate to the olfactory bulb via a lateral ventricular extension

著者: 高木康志

ページ範囲:P.1039 - P.1039

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編集後記

著者: 佐々木富男

ページ範囲:P.1046 - P.1046

 本号に掲載されている総説「脳損傷の病態と高次脳機能傷害―再生への展望―」,手術手技「下垂体腺腫の内視鏡下経蝶形骨洞手術」,連載「てんかんの画像と病理 4.結節性硬化症」は,どれもわかりやすく簡潔に解説されており勉強になりました.これから専門医認定試験を受ける先生方や,てんかんの手術あるいは内視鏡下経蝶形骨洞手術をはじめる先生方には大変役に立つと思われます.「八重山諸島における脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血」では,台風接近とくも膜下出血の関連に興味を持ちました.「眼窩先端部症候群にて発症した浸潤型副鼻腔~眼窩アスペルギルス症の1例」は極めて珍しい症例であり,興味深く読ませていただきました.

 さて8月10~11日に,専門医認定の口頭試問が行われましたが,1つ気になる現象がありましたので述べておきます.受験者の中には非常に優秀な方もおられましたが,全体的に臨床経験が少ない印象を持ちました.最近は,立派な手術書や手術ビデオが沢山あり,受験者はそうした教科書や手術ビデオを見て勉強しているためか,脳深部の解剖などはよく理解しているものの,正確な皮膚切開線の設定,burr holeの位置,開頭範囲の設定など基本的なことがおろそかになっているように感じました.こうした基本的なことを厳しく指導する指導者が減ったためならば,受験者の個人の問題とするわけにもゆきません.現在の初期臨床研修制度を経た人たちが受験するときには,こうした傾向がさらに強くなるのではないかと憂慮する次第です.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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