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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科35巻11号

2007年11月発行

雑誌目次

レジデント回顧記

著者: 木内博之

ページ範囲:P.1049 - P.1050

 大学卒業から6年間かけて修練してきたこれまでの専門医養成プログラムが,初期臨床研修必修化により,事実上4年間に短縮された.そのため,研究を後回しにし,臨床に特化せざるを得ない状況も生まれている.私は,「鉄は熱いうちに打て」の方針で,若いうちに多くの臨床経験を積むことと同時に,研究にも従事し,科学的思考法を修得し,科学に根ざした論理的な脳神経外科学を学ぶことも,将来的に考える力を養う上でとても重要であると考えている.最近,脳神経外科はsubspecialityの分化がすすみより専門性が高くなり,指導体制・方法も複雑化してきている.私は昭和の終わりという特殊な時代に脳神経外科の道を選んだが,その時代はmicrosurgeryが導入され脳卒中の外科治療が軌道にのり,新しい脳神経外科の黎明期であった.医療環境や教育体制は現在とは全く異なっていたが,脳神経外科医を育てるという教育の根底にあるspiritsについては不変だと感じている.そこで,昭和を知らない世代へ向けて,鈴木二郎先生からご指導いただいた私のジュニアレジデント時代を紹介させていただきたいと思う.

 鈴木先生は,長年にわたり仙台市長町にあった東北大学附属脳疾患研究施設の脳腫瘍部門を主宰され,長町分院に隣接した(財)広南病院を臨床活動の拠点としていた.したがって,星陵地区の大学病院に病棟と外来が設置された後も,広南病院で診療を継続した.大学病院では,グリオーマなどの放射線治療を要する脳腫瘍を中心に診療が行われていたが,なんと2名の病棟医しかおらず,教授を含めほとんどのスタッフが広南病院でくも膜下出血をはじめとする脳卒中の外科治療と研究にあたっていた.広南病院の名は,所在地である長町が広瀬川の南にあることに由来する.先輩からすでに本誌で紹介されているように,別名“長町番外地”とも呼ばれていた.陸軍幼年学校の廃材を用いた木造2階建ての建物は,およそ病院と呼べるような風貌を持ち合わせておらず,初めて訪れた人は決まって入り口付近で当病院を探していたのを憶えている.研究棟もすべてが木造で,歩くと階段や廊下のいたるところが軋みギシギシと音がした.窓枠は必ずしも直線的ではなく,隙間をガムテープで塞いでも冬は粉雪が舞い込むことがたびたびあった.また手術室はカーテンを開けると窓越しに外が見えるような普通の部屋で,2部屋のうち1部屋は解剖専用でもう一方の大きめの部屋にベッドが2台設置されていた.医局の奥には,工事現場でよくみられる鉄パイプ製の梯子を伝って出入りする,蚕棚と呼ばれる仮眠室が天井からぶら下がるように造られており,そこには川の字に5人ほどが眠れるように布団が敷いてあった.梯子の下に脱ぎ散らかしたサンダルの数で,空き状況がわかるが,仕事の遅い新人はいつも就寝(連日泊まりが続くことは日常茶飯事)が後になるので,暗闇の中空き布団を探しているうちに先輩の頭や足を踏んづけ顰蹙を買った.当然24時間暖房完備ではなかったので,どこでも寝られるという訳ではなく,寒い冬などはナースセンターの診察台で煌々と輝く蛍光灯のもと,ナースコールを子守歌につかの間睡眠をむさぼったこともたびたびであった.

総説

術前検査の画像化による焦点診断とてんかん手術

著者: 前原健寿

ページ範囲:P.1053 - P.1065

Ⅰ.はじめに

 てんかんは,脳の神経細胞の過剰放電によって繰り返し起こる発作を特徴とする慢性の疾患である.てんかんの本質が脳の電気生理学的異常に起因することは,1929年にBergerが発見した脳波の出現と3),その翌々年に報告されたてんかん患者の間欠期脳波異常の存在により疑いのないものとなった.その後,脳から直接記録する皮質脳波や脳の直接電気刺激の研究などを通して,てんかん発作症状と脳の機能局在との関連が解明されていった23).脳波による電気生理学的異常の検査は,脳磁図4),positron emission tomography(PET)14),single-photon emission computed tomography(SPECT)8)など優れた検査が出現した現在でも,てんかんの診断,治療の基本となっている.

 てんかんの外科治療では,焦点(本稿では焦点という名称を用いる)を同定して切除することが原則である.しかし焦点として治療する領域を,発作起始を確認した領域と考えるのか,その周囲の発作を起こしうる領域を含むのか,さらに発作を起こす神経回路としてとらえるのかなどさまざまな議論があるので,手術ではどのような検査でどのような領域を焦点と診断したかが明確でなければならない.MRI病変の有無はてんかん手術の適応,治療成績を考える上で重要であるが,MRIで描出される異常域の切除だけでは治療は不十分である.てんかんの手術では電気生理学的検査による切除域決定が本質なのだが,てんかん波はミリ秒単位で周囲に急速に伝播していくため,高い時間解像力を有する最新のビデオ皮質脳波モニタリングや脳磁図を駆使しても,適切な治療域の決定は容易ではない.内側側頭葉てんかんにおける海馬のごとく焦点として確立した組織を有する場合を除くと,術前検査の解釈によっては焦点の領域が異なる場合もある5)

 外科治療の切除域の定義を,てんかん発作を起こし,かつその切除で発作が止まる領域と考えると,この領域はLüdersらが提唱したてんかん原生領域(epileptogenic zone)16)に他ならないが,てんかん原生領域は単一の検査で決定することができない概念的な存在である.結局,術前検査ではMRIで構造異常域(structural lesion),PET,SPECTなどで機能異常域(functional deficit zone),脳波,脳磁図の電気生理学的検査で発作間欠期脳波異常域(irritative zone),発作起始域(ictal onset zone),臨床症状を呈する領域(symptomatic zone)を診断している.これらの領域がほぼ一致する場合には,焦点の診断は比較的容易であるが,これらの領域は必ずしも一致するわけではない5,16)

 したがって,てんかん手術の切除域は,このようなマルチモダリティな術前検査結果の一致する領域,相違する領域を比較し,さらに各検査のもつ重要性を加味して決定される.しかし,実際にどのような検査に基づき,どの部位を焦点と診断し切除するのかは必ずしも明確ではない.焦点診断を明確にし,てんかん手術をわかりやすいものにするためには,マルチモダリティな術前検査を目にみえる形に画像化し検討する必要がある.

 術前検査の画像化には,急速に発達したコンピュータ解析技術の進歩や,画像計測技術の進歩,さらに1993年に医用デジタル画像標準化のスタンダードとして発表されたDigital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)の出現が大きな役割を果たしている.多大な労力を要しかつ一部の専門施設でしか行えなかった解析や術前検査の画像化が,パーソナルコンピュータレベルで行えるようになってきたのである.専門家や術者の頭の中で処理されて組み立てられていた焦点部位が画像化され,より客観的かつ科学的に診断,治療することが可能となってきている.

 本稿では,まず術前検査として行う脳波,脳磁図などの電気生理学的検査やPET,SPECTによる機能画像検査をコンピュータ解析し画像表示する方法について概説する.次にDICOM導入により可能となったMRIへの重ね合わせ作業を通して,高い空間解像力を加え画像化した術前検査による焦点診断の有用性を提示する.最後に,てんかん手術戦略をたてるうえで,術前検査の画像化による焦点診断および術中ナビゲーションの果たす役割を展望したい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

解剖に基づいた頭蓋咽頭腫の手術―術前後のホルモン障害の頻度と神経心理学的データ

著者: 堀智勝 ,   川俣貴一 ,   藍原康雄 ,   天野耕作 ,   久保長生

ページ範囲:P.1067 - P.1077

Ⅰ.はじめに

 頭蓋咽頭腫は小児脳腫瘍の代表的存在であるが2),壮年期にもピークがあり4,25),またその治療については,再発が多く手術に関連するmorbidityも多いため,脳神経外科治療の中でも最もchallengingな疾患である17,24).現在までにも多くの論文や総説が出されている5,7,9,10,17,18)が,筆者らは現在90例の手術経験があり,初回手術例では死亡例はなく,また前医での多数回手術・ガンマナイフ後の再発例でも手術6カ月以内の死亡は経験していない.特に腫瘍と視床下部のinterfaceに関して手術的・病理組織学的に多くの知見を得てきた.そこで,本稿では解剖・病理組織学的知見を踏まえた手術法について説明する.

研究

小児chiasmatic-hypothalamic gliomaに対する治療戦略―9小児例の治療経験

著者: 秋山英之 ,   中溝聡 ,   河村淳史 ,   長嶋達也 ,   竹田洋樹 ,   長谷川大一郎 ,   小阪嘉之 ,   吉田牧子

ページ範囲:P.1079 - P.1085

Ⅰ.はじめに

 Optic pathway gliomaは小児脳腫瘍の2~6%を占める比較的稀な腫瘍であり3,4,7,9,15),組織学的にはpilocytic astrocytomaが圧倒的に多いと報告されているが3,4),その自然経過は多彩で予測困難であることが少なくない4,7,15).約50%は無治療でも腫瘍の増大は来さないとされ10,15),また自然消退する症例も存在するためその治療方針については議論が多い3,12).しかし20~30%は重度の視力障害や発達障害,さらには腫瘍死を来す予後不良例であるとされており7,15),特に神経線維腫症を伴わない例,2歳以下の低年齢例,また視交叉から視床下部に及ぶ腫瘍を有する例は腫瘍の増大を来す可能性が高く2-4,15),治療に難渋することも少なくない.われわれはoptic pathway gliomaの中でも視交叉から視床下部に腫瘍の主座を有するchiasmatic-hypothalamic glioma(CHG)の小児例を過去に9例経験しており,それらの病態および腫瘍摘出と化学療法を中心とした治療経過を報告すると共に,治療戦略について検討を行った.

MR仮想神経内視鏡による微小血管減圧術前シミュレーションの有用性

著者: 大石誠 ,   福多真史 ,   高尾哲郎 ,   石田剛 ,   佐藤光弥 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.1087 - P.1095

Ⅰ.はじめに

 三叉神経痛(TN)や片側顔面痙攣(HFS)を代表とする神経血管圧迫症候群neurovascular compression syndrome (NVCS)は,脳神経のroot entry(またはexit)zone(REZ)を脳血管が直接圧迫することで生じる異常性興奮により,持続的な神経症状を呈する病態であり,微小血管減圧術microvascular decompression(MVD)はその根治的な治療法として知られる8-10).NVCSの正確な診断とMVDの確実な遂行には,患者個々における小脳橋角部の微小解剖をできる限り詳細に検討することが重要であり,この点でMR画像診断の果たしてきた役割は大きく,heavy T2強調画像やMR angiography(MRA)といった撮像条件の工夫による脳幹周囲の神経・血管構造の評価法の有用性が多数報告されてきた1-4,11,17,19,20).しかし,実際に2次元画像から脳幹周囲の3次元的な微小解剖を把握することは,慣れた脳神経外科医にとっても難しい場合が多く,コンピュータの高性能化に伴い発展してきた3次元画像処理技術に寄せられる期待は大きい.われわれは本研究で,thin-sliceで撮像した脳幹周囲のheavy T2強調画像やMRAをvolume renderingすることで作成される仮想神経内視鏡virtual endoscopy(VE)を用い,NVCSに対するMVD術前における3次元手術シミュレーションの有用性を検討した.

症例

多発性嚢胞腎患者における頭蓋外内頸動脈閉塞に合併した同側頭蓋内嚢状内頸動脈瘤の1例

著者: 小野恭裕 ,   大西学 ,   勝間田篤 ,   西尾晋作 ,   河内正光 ,   松本祐蔵

ページ範囲:P.1097 - P.1102

Ⅰ.はじめに

 内頸動脈狭窄もしくは閉塞患者において脳動脈瘤を合併する頻度は健常人より高く,またその動脈瘤発生部位は閉塞動脈とは別の動脈領域に多く発生する2,4-6,8-10,12,13,15-17).これは動脈閉塞による脳還流の血行動態が変化することで,それまでとは異なるhemodynamic stressが血管壁に加わることにより動脈瘤が形成されるためであると推察されている.今回,筆者らは多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease:PKD)による慢性腎不全患者において,頭蓋外内頸動脈閉塞に,同側内頸動脈の頭蓋内嚢状内頸動脈瘤を伴った症例を経験した.これまでの一側内頸動脈閉塞に合併する動脈瘤に比し特殊であると考えられたため,脳動脈瘤の発生機序に関連して若干の文献的考察を加えて報告する.

Arteriovenous malformation of the tongueの1例―血管解剖と経動脈的塞栓術の留意点

著者: 中澤和智 ,   太田剛史 ,   藤本基秋 ,   今村博敏 ,   橋本信夫 ,   安里亮 ,   田中信三

ページ範囲:P.1103 - P.1108

Ⅰ.はじめに

 舌は頭頸部血管性病変の発生部位としては比較的稀な場所である.頭頸部血管性病変は血管腫と血管奇形に大別され,またその中でも細分化されているが,しばしばその鑑別は難しい3).血管奇形の治療方法には経動脈的または直接穿刺による塞栓術,摘出術,放射線治療,レーザー治療などさまざまな方法が報告され,適切な診断・治療選択に苦慮することもある7).安易な塞栓術はその後の治療経過を悪化させることもあるので,舌周囲の血管解剖や塞栓術の留意点を熟知する必要がある.われわれは塞栓術と摘出術で治療した舌動静脈奇形を経験し,主に塞栓術の留意点を考察した.

血栓化が急激に進行した中大脳動脈M2部紡錘状動脈瘤の1例

著者: 長久功 ,   寺田友昭 ,   松田芳和 ,   奥村浩隆 ,   新谷亜紀 ,   中村善也

ページ範囲:P.1109 - P.1113

Ⅰ.はじめに

 紡錘状脳動脈瘤は嚢状動脈瘤に比し頻度は低く,posterior circulationに多いと考えられている1).それらの報告の中でも中大脳動脈の紡錘状脳動脈瘤の報告は少ない.にもかかわらず嚢状動脈瘤よりも多様な自然歴,分布そして治療法を有している.これは紡錘状脳動脈瘤が真のネックを持たず複雑な形態や構成を有していることが要因になっていると思われる.つまり動脈瘤それ自身から穿通枝や遠位部の血管が分岐していたりすることがある7,8).今回われわれは,経過観察中に中大脳動脈M2部紡錘状動脈瘤の急激な血栓化が進行したため血管内治療を併用して治療を行った1例を経験したので,動脈瘤内の急激な血栓化が進行した機序とその治療法について文献的考察を加えて報告する.

ステロイドパルス療法が奏効したリンパ球性下垂体炎の1例

著者: 鵜山淳 ,   佐々木眞人 ,   池田充 ,   朝田雅博 ,   寺村一裕 ,   橘真由美

ページ範囲:P.1115 - P.1119

Ⅰ.緒言

 リンパ球性下垂体炎は下垂体組織にリンパ球が浸潤し腫瘤を形成する疾患で,下垂体に臓器特異的に生じる自己免疫疾患と考えられている.今回われわれは,ステロイドパルス療法が有効であったリンパ球性下垂体炎の1例を経験したので報告する.

読者からの手紙

「5-aminolevulinic acidによる術中蛍光診断が有用であった肝細胞癌頭蓋骨転移の1例」の論文について

著者: 宇津木聡 ,   諸藤陽一 ,   松尾孝之 ,   林之茂 ,   平尾朋仁 ,   永田泉

ページ範囲:P.1120 - P.1121

 貴誌に掲載の諸藤陽一先生らの症例報告「5-aminolevulinic acidによる術中蛍光診断が有用であった肝細胞癌頭蓋骨転移の1例」(No Shinkei Geka 35:913-918)を興味深く拝読いたしました.転移性頭蓋骨腫瘍におけるphotodynamic diagnosis(PDD)の有用性について述べておられます.著者らも述べておられるように,PDDは残存腫瘍がないことの確認にとても有用ですが,励起光は405nm近傍の短波長であり組織の表面の腫瘍の有無しかわからないこと,励起光の強さ,腫瘍の密度により蛍光の強さも変わること,蛍光の判断が主観的であることなどが問題となります.著者らは励起光として何を使用したか,その励起光の強さの記載がないのですが,写真から推測すると,D-Lightが使用されているものと思われます.これの長所は,広い範囲での観察が可能なことですが,われわれが使用している紫色半導体レーザー装置(VLD-M1®,M & M CO., LTD., 振幅波長;405±1nm,光出力40mW)では照射範囲は狭い反面,励起光の出力が強く,spectrometerを用いることでその定量性が得られ,客観的な判断ができることが優位な点と思われます1).特に浸潤部分のような腫瘍の密度が低い部分では蛍光が弱くなっていることがあり,直視下で蛍光が観察されなくともspectrometerを用いることで残存腫瘍を検出できることがあります1).このようにPDDの手技の違いによりその結果が異なってしまうことがあるので,方法の詳細な記載は必要と思われます.

コラム:医事法の扉

第19回 「共同不法行為」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.1123 - P.1123

 民法は,「特殊な不法行為」として,「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う.共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする.」(719条1項)という「共同不法行為」を規定しています.これは,加害者を特定できず,主観的な共同の意思(いわば一緒に人に害を加えているという意識)がなくても,全体として一個の客観的関連共同がある場合には,(過失相殺分を除いた)損害の全額を加害者側に連帯して負担させるもので,「損害の公平な負担」および「被害者救済」の理念に基づきます.例えば,複数の工場からの排煙による環境被害の場合等に適用されます.つまり,それぞれの行為と結果の因果関係を考えるのではなく,「共同行為」と結果との原因・結果関係があれば,因果関係を認めるもので,通常の「1対1」対応の不法行為より,広く因果関係が認められることになります.

 それでは,医療過誤の場合には,どのように適用されるのでしょうか.

書評

『プロメテウス解剖学アトラス』解剖学総論/運動器系―坂井建雄,松村讓兒●監訳

著者: 野村嶬

ページ範囲:P.1102 - P.1102

 プロメテウスは,人間を創り,人間に文字や火を与えたとされるギリシャ神話の英雄である.解剖学書にその名前を冠したドイツ語版原書の著者(Michael Schunke,Erik Schulte,Udo Schumacher,Markus Voll,Karl Wesker)の,この原書が人間の未来に貢献するとの願いと確信にまず衝撃を受けた.本書は,全3巻構成の原書第1巻の翻訳であり,わが国の著名な肉眼解剖学者である坂井建雄教授と松村譲兒教授が監訳された.

 掲載されている図が周到に作成されていて実に美しい.この美しさは実物の写真による図とも違い,また『ネッター解剖学アトラス』に代表される描画による図とも異なる明晰なものである.しかも,すべての図には適切な説明が付けられていて,図を読む重要なヒントを提供してくれる.さらに,これまでの解剖学アトラスでは見たこともない視点からの図,例えば,上肢帯と体幹の連結の上面図,頭蓋―脊柱連結の前上面図,皮膚や軟部組織を通して触診できる骨部位,上肢・下肢の立体・横断面解剖図などが多数掲載されていて,CTやMRIなどによる断面像に対応するとともに学習者の理解を大いに助けてくれる.

文献抄録

Accelerated progression of kaolin-induced hydrocephalus in aquaporin-4-deficient mice.

著者: 宮嶋雅一

ページ範囲:P.1125 - P.1125

Mutation in Vangl1 associated with neural-tube defects.

著者: 宮嶋雅一

ページ範囲:P.1125 - P.1125

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編集後記

著者: 斉藤延人

ページ範囲:P.1132 - P.1132

 地球温暖化や環境問題がクローズアップされている昨今だが,今年の夏は温暖化の問題がいよいよ現実的になってきたと感じずにはいられないほど暑かった.この編集後記を執筆時点の9月末においてもまだ夏の気候である.今年の冬はやはり短くなるのだろうかと期待と心配が半々である.本誌が発刊される頃には仕事や勉強がはかどるようないい季節であることを期待したい.

 さて恒例の扉の欄では,山梨大学の木内教授が自身のレジデント時代の回顧記を記されている.伸び盛りの脳神経外科医局の多忙な日々の中で,いかに教育がなされていたのかが生き生きと伝わってくる名作である.鈴木二郎先生の教育システムがすばらしく実を結んでいることは,木内先生をはじめとする東北大学出身の先生方のご活躍を見れば明らかである.初期臨床研修システムの導入後,既に2回目の後期研修生を迎えているが,彼らとともに新しいシステムを構築していく時期に来ていることを痛感している.学会においても後期研修や専門医教育システム,生涯教育について大きな見直しが必要な段階に来ている.変革が現在進行形の最中には,なかなかその変化に気がつきにくいものだが,この回顧記のように後になって振り返ってみれば,非常に重要な時期であったことに気づかされるのだろう.大学病院においても経営面の重要性が強調され,今まで研究に費やされていた若い力の時間や総数が大きく臨床にシフトしてきている.木内先生は「脳神経外科の立場から神経科学の発展を通じて社会に貢献する」ことを根幹に据えるという鈴木二郎先生のspiritを強調されているが,その精神を見失わないように気をつけていきたいものである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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