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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科35巻12号

2007年12月発行

雑誌目次

「富」と「健康」

著者: 好本裕平

ページ範囲:P.1135 - P.1136

 アダム・スミスといえば,資本主義経済論を説いた「国富論」の著者である.スミスは,経済成長の究極的な目的は何であると考えていたのだろうか.大阪大学の堂目卓生氏は,「スミスは幸福とは心が平静なことであると考える.そして,健康で,生活にとって必要最小限の富があれば,それ以上の富の増加は,われわれの幸福にとって余計なものであると考える.それにもかかわらず,人間は野心と虚栄心から,必要以上の富を求める.そして,資本家がより多くの富を獲得しようとすることによって,貧しい人々に対する雇用が発生する.彼らは,生産的労働者となって賃金を受け取り,極貧から解放される.一方,より大きな財産を形成した資本家の幸福は,以前に比べてほとんど増加しない.こうして,富者と貧者の間でより幸福が平等に分配される」と述べている.確かに,ほとんどの人間にとって,豪華な食事も,美しい衣装も,立派な邸宅も,実際に手に入れてみると,それらはたいした幸福の増進をもたらさないということに気づくのにそれほど時間は要さないのであろう.もっとも,資本家がさらなる富を獲得しようとして雇用が発生するというくだりは,すべての産業において機械化が進み単純労働者が不要となり,さらに貧富の差を広げてしまっているわが国の現状とはいささか異なるようである.

 さて,高齢化が急速に進むわが国において,健康志向が非常な高まりをみせている.日本人の3大死因とされるがん,心臓病,脳卒中は,かつては高齢者特有の病だと受け取られていた.いわば老人病と,ある意味で運命的な捉え方をされてきたのであろう.栄養状態や衛生状態が改善され高齢化が進めば,これらの疾患の死亡率が高まるのは自明である.しかるに現在,これらは成人病を経て,生活習慣病とよばれるに至った.「不健全な生活習慣」を原因と位置づけようという意図が明確にうかがえる.

総説

法人化4年後の大学病院の現状

著者: 長尾省吾

ページ範囲:P.1139 - P.1148

Ⅰ.はじめに

 私の所属した旧香川医科大学は,2003年10月香川大学と統合し2004年4月より大学法人となり,同時期に卒後臨床研修が必修化されました.また2006年4月には大幅な診療報酬のマイナス改訂がありました.この激動の時代において病院運営に約4年間携わってきた経験から,法人化後国立大学病院がどのように変わりつつあるのか,その現状と多くの問題点にふれ,また将来への提言について私見を述べます.

 2年前本誌の扉に「法人化1年後の国立大学病院」というテーマで執筆しましたが,その中で診療・経営重視にならざるを得ない弊害,人材の養成・確保の困難さ,大学本来の使命である教育研究へのしわ寄せ,そして研修制度の問題点,特に本当によい医師が養成されるのか,その質の問題,地域偏在の危惧について報告しました1).法人化4年後の現在,まさに指摘した諸問題が顕在化し,巷で医療崩壊とまでいわれる社会問題になってしまいました.現在の運営の考え方で推移すれば,経営が行き詰まったり,人材の確保が困難となるなどして,わが国の国立大学医学部,病院が衰退し,統廃合が避けられない事態になるかもしれません.このような状況の中での全国国立大学病院のたゆまぬ努力と現状を,本院の状況と経験を踏まえて述べます.なお本誌に報告させていただく全国国立大学病院のデータは,2007年6月富山大学で開催された第61回国立大学病院長会議において,三重大学の豊田長康学長(大学病院を有する国立大学長の会)が講演された資料であり,今回特別のご配慮により提供されたものです.

研究

無症候性髄膜腫の術後における患者のquality of life

著者: 山城重雄 ,   西徹 ,   古賀一成 ,   加治正知 ,   後藤智明 ,   牟田大助 ,   藤岡正導 ,   倉津純一

ページ範囲:P.1149 - P.1155

Ⅰ.はじめに

 無症候性髄膜腫は,画像診断の発達でその発見の頻度が増加したため,1990年より原発性脳腫瘍の中で髄膜腫が最も頻度の高い腫瘍となった14).必然的に無症候性髄膜腫の手術例も増加した.無症候性髄膜腫の手術適応に関してはおおまかな基準はあるものの12),細部については髄膜腫の自然歴や治療成績を背景にした議論が現在も続いている15)

 これまで脳腫瘍の治療成績は治療後の死亡率や合併症の割合によって,また治療後の患者の身体活動度についてはKarnofsky performance statusやGlasgow Outcome Scaleのような,医療者側で判定する数値によって評価されていた.しかしこれらの数値では,患者自身の健康観は反映されない.患者を主体とした医療が叫ばれる中,近年は患者の主観的な健康指標も治療成績として重要になりつつある.

 筆者らは無症候性髄膜腫の術後患者に対し,健康関連QOL(quality of life)尺度のMOS Short-Form 36-Item Health Surbey(SF-36(R))と不安とうつの尺度であるHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を用いて,生活の質(QOL)の評価を行った.そのうえでQOL低下の要因や評価の意義について論じた.

症例

経動脈的塞栓術と経静脈的塞栓術を併用して治癒し得た上錐体静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 石原秀章 ,   石原正一郎 ,   金澤隆三郎 ,   神山信也 ,   山根文孝 ,   小川昌澄 ,   佐藤章 ,   棚橋紀夫

ページ範囲:P.1157 - P.1162

Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻(DAVF:dural arteriovenous fistula)の治療は,経静脈アプローチにて静脈洞壁にあるシャント部位とその近傍の静脈を塞栓することが第一選択とされている.今回われわれは,経静脈的アプローチが困難であった上錐体静脈洞部DAVFに対して,経動脈的塞栓術に経静脈的塞栓術を併用して良好な結果を得たので報告する.

超音波骨メスが有効であった腰椎椎間孔狭窄症の1手術例

著者: 菅原淳 ,   井須豊彦 ,   磯部正則 ,   松本亮司 ,   茂木洋晃 ,   金景成

ページ範囲:P.1163 - P.1167

Ⅰ.はじめに

 腰椎椎間孔狭窄症は神経根性症状を呈する重要な疾患の1つであるが,診断が困難な部位であり,failed back surgeryの原因の1つに挙げられている13).今回われわれは,関節突起間部の骨棘による腰椎椎間孔狭窄に対して,超音波骨メスを用いた外側開窓法を行い,良好な手術結果を得たので報告する.

下垂体卒中様発作にて発症した内頸動脈瘤破裂の1例

著者: 大川原舞 ,   山口裕之 ,   林征志 ,   松本行弘 ,   井上慶俊 ,   大川原修二

ページ範囲:P.1169 - P.1174

Ⅰ.はじめに

 下垂体卒中とは下垂体腫瘍内の出血・梗塞により起こる症候群のことであり,それほど稀な病態ではない1).また下垂体腫瘍を有する患者では脳動脈瘤が存在する率が健常人よりも高いという報告や10,11),同等であるという報告がある6).しかし,下垂体卒中に未破裂脳動脈瘤が合併したり4),脳動脈瘤破裂に下垂体腫瘍6,11)が合併するのは稀である.さらに内頸動脈瘤が下垂体腫瘍内部に出血した症例は極めて稀である9).今回,内頸動脈海綿静脈洞部の脳動脈瘤が下垂体腫瘍内に破裂し,下垂体卒中様発作で発症した症例を経験した.

 脳動脈瘤に対してはコイル塞栓術を,下垂体腫瘍に対しては薬物治療を選択して良好な結果を得たので文献的考察を加えて報告する.

軽微な外傷が原因と考えられた頸部内頸動脈解離の3例

著者: 林健太郎 ,   北川直毅 ,   日宇健 ,   諸藤陽一 ,   陶山一彦 ,   越智章 ,   永田泉

ページ範囲:P.1175 - P.1181

Ⅰ.はじめに

 頸部頸動脈解離は頸部の伸展や回旋,軽微な外力が原因となることがある13).軽微な外傷によると考えられた頸部内頸動脈解離の3例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

連載 脳神経外科手術手技に関する私見とその歴史的背景

4.選択的扁桃体海馬摘除術:Selective amygdalohippocampectomy SAHE

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.1183 - P.1196

Ⅰ.はじめに(Fig. 1)

 1970年代中ごろにここZuerichでselective amygdalohippocampectomy SAHEがProf. Yaşargilら22,24,25,27)によって開発された当時,私はstaffとしてそのZuerichに勤めていたのであるが,蒙昧にしてその重要さを知らなかった.この術式の開発された由来は,当教室で初代Prof. Krayenbuehlの時代から重点を置いて行われてきたepilepsyに対する外科的治療にある.Epilepsy surgeryとしてのtemporal lobectomyをさらに進めた形で,SAHEは薬剤抵抗性mesial temporal lobe epilepsy MTLE治療の完成した形として定着した.Lobectomyによるcognitive functionの低下を防ぐために,selectiveにAmygdala,Hippocampusを切除するものである.

 こちらに1993年に着任して,まず途方にくれたのはこの手術であった.自分では十分にHippocampusを取り出したつもりでも,術後のCTをみて,minihippocampectomyに落胆したものである.またその摘除したHippocampusのvolumeが少なかったために,epilepsyが再発し再手術を余儀なくされた例が数例ある.他の大学病院の有名なbossが行ったhippocampectomyが不十分であったために当方で処理した例も何例もある.EpileptologistのProf. Wieserに励まされて,なんとかできるという感触が得られるようになったのは,それから数年経って30~40例を行ってからである.この手術ができるようになってから他の脳神経外科の手術を行う際にapproachを選択するにあたって,大きな幅ができたように思う.それはこのapproachがHippocampusのみでなく,テント切痕近傍の病変(テント切痕meningioma,P2-P3 junction aneurysmなど)にFissura chorioideaを介して,それほどのretractionなしに到達できるからである.また,insular lesion,basal ganglia lesionの扱いにも,大きな余裕ができたと思う.Temporal hornに到達するために古くはNiemeyerのtransventricular amygdalohippocampectomy 17)を始め近年もこれに準じた種々のapproachが考案され発表されている9,15,19,22).Transsylvian SAHEではtemporal stem をせいぜい1.5~2.0cm切断するということについて,そのhandicapが強調されている19)が,実際にその切断に起因する弱点が高度のmicrosurgical techniqueを必要とすることのほかにあるのか,あるとすればどのあたりにあるのかをきちんと述べていると思える論文はない.私の考えでは,Amygdalaを可及的に切除し,HippocampusとGyrus parahippocampalisを必要に応じてできるだけ,後方まで切除する方法として,このapproachはスタンダードなものであり続けると考える.

 この手術の難易度についてであるが,深さと,狭い視野で手術をすること,摘除すべきhippocampal formationをsupplyする血管をすべて凝固切断する必要があること,またAchoA,Tractus opticus,Crus cerebri,Oculomotorius,PCA,Trochearisなどを損傷せぬように気をつけることなどの点を考慮すると,extrameatal 2~3cmの径の聴神経腫瘍の手術に匹敵するのではないかと思いProf. Yaşargilに私の感想を申し上げたところ,彼からも同意を得た.

 Guitaristとして演奏中にてんかんが起こって演奏ができなくなり,音楽家としての活動ができなくなった人が,再び舞台にあがることができたとか,ダンプカーの運転手が再び運転できるようになったとか,建築作業の最前線で働いている人が,ふたたび高い架台に上って作業できるようになったとか,学生が発作に悩まされることなく,学業に専念できるようになったとかという喜びの手紙をもらっている.またそのてんかんの日々から生還しその喜びを単行本の形で表し,病める人の啓蒙に勤めている元患者さん2)を観るにつけ,日本でも真柳先生らの先駆的な仕事13)があるが,この手術がもっと普及してもよいと思う.

 かつて1990年代の半ばごろに,大学時代の同級生の麻酔医の加藤浩子先生(元神戸中央市民病院副院長)に「貴方ねー,Amygdala,Hippocampusみたいな大事なstructureを,てんかんがあるからといって取ってしまってどうするのー」と軽蔑するように,質問されたことがあった.LeDouxの“Synaptic self” 11)にもあるように,そのころよりもAmygdala,Hippocampusの機能がもっと分かってきている今日,身にしみて理解できる卓見であった.私はこの手術をするようになって,上述のように技術的なことで幅ができたと感じたほかに,記憶,意識,感情など人間の根源的ないとなみについて,てんかん発作の症候発現との関連で,神経解剖から生理学にまで考えをめぐらせる機会を得ることができたのは僥倖であった.そのとき加藤先生には,その大切な機能に寄与する本来の組織がこれらの患者さんでは変性してほとんど不要になっているので,摘除しても日常生活には支障を来さない旨のことを答えたのを思い出す.

 ただ,以来200例以上この手術を経験したが,この手術がなんとかできるようになったのは脳血管外科医として脳血管を手術用顕微鏡下で扱うことに慣れていたことにもよると思う.

てんかんの画像と病理【最終回】

5.海綿状血管腫と脳動静脈奇形

著者: 亀山茂樹 ,   柿田明美

ページ範囲:P.1199 - P.1206

Ⅰ.はじめに

 海綿状血管腫(cavernous angioma,cavernous malformationあるいはcavernoma,以下CA)は中枢神経系のどこにでもできることが知られ,発生頻度は人口の0.1~0.5%とされている14).Lobatoら12)によれば,脳血管撮影で発見されない血管奇形245例のうち44%を占めるのはarterivenous malformation(以下AVM)であり,CAは31%で,10%がvenous malformationであるという.CAの70~80%を占めるテント上のものは難治性てんかんの原因病変であり,自験例から,側頭葉内側部や側頭葉新皮質あるいは運動野近傍皮質のCAはてんかんを発症しやすいと考えている11)が,てんかん発症は前頭葉,側頭葉のCAに多いという報告がほとんどである1,15).てんかん発症の頻度は11~80%と報告によってまちまちである1,2,5,12,14).CAを有する患者の1年間におけるてんかん発症のリスクは0.7%15)あるいは1.51%5)であるという.出血のリスクをCAごとにみると,単発性病変例では1.34%であるが多発病変例では2.48%と後者のほうが明らかに高い5).てんかん以外には脳内出血や局在性神経症状や慢性頭痛などが報告されている1,2,4)が,magnetic resonance imaging(以下MRI)で無症候性のCAが20%近い例に発見される5).時として,多発性(10~24%4,5))であり,多発性のCAの1/3には家族性が認められ4),常染色体優性遺伝と考えられている.Rigamontiら14)は家族例が54%と多いことを報告しているが,CAを有する83%の家族は非症候性であったという.家族性を有する例は多発性CAが特徴的で,発症年齢も若い.近年遺伝子解析が盛んに行われて成果が報告されている.これまでに,CCM1(7q),CCM2(7p),CCM3(3q)という3つの遺伝子がポジショナルクローニングされており,家族例の40~50%はCCM1遺伝子が原因であるという13).さらにはCAの発症においてもtwo-hit mechanismという機序が最近確認されている7).これは,CCM遺伝子が両親からコピーされると胚細胞での突然変異は致死的になるが,突然変異がヘテロの場合にCAになりやすくなり,実際にCAが病変として発育するためにはその部位における2番目の体細胞突然変異(second hit)が必要であるという説である.

 AVMの3大症状は,出血(43.4%),頭痛(24.9%),てんかん発作(17.3%)であるという20)が,てんかん発作が33%10),30%8)にみられたという報告もある.また,Hohら10)の424例のAVM患者についててんかん発作を有する141例とそうでない群の比較検討で,前者は男性が有意に多いこと,頭蓋内出血のない例が多いこと,AVMの大きさは3cm以上が多いこと,側頭葉に有意に多いこと,全般性強直間代発作が多いことが明らかにされた.治療後の発作消失率は66%と良好で,手術までの期間が短い群,頭蓋内出血がある群,全般性強直間代発作を持つ群,脳深部や後頭蓋窩局在の群,ガンマナイフや血管内手術の群より直達手術を行った群,AVMが完全に消失した群で,それぞれ発作消失率が有意に高かった10).AVMの局在により発作型が異なり,側頭葉やローランド溝近傍は部分発作が多く,前頭葉やシルビウス裂近傍の局在では全身けいれんが多いという8).AVMの術後にてんかん発作が起こる頻度は21%であるという18)

コラム:医事法の扉

第20回 「安楽死・尊厳死」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.1197 - P.1197

 われわれが直面する終末期医療の問題の1つに「安楽死」があります.積極的な「安楽死」は,終末期の患者さんに対して自然の死期以前に生命を断絶する行為ですから,原則として,殺人罪(刑法199条)に該当することになります.

 それでは,患者本人の希望・承諾がある場合にはどうでしょうか.この場合には,自殺幇助あるいは同意殺人罪(202条)に該当し,6カ月以上7年以下の懲役または禁錮に処せられる可能性があります.しかし,そもそも自殺自体を処罰する規定はないのですから,死期の迫った苦痛に耐えられない患者の強い希望で「安楽死」を選択することは,違法性が阻却されるべきだとする見解もあります.

Prospect of stem cell therapy for temporal lobe epilepsy フリーアクセス

著者: 菅野秀宣

ページ範囲:P.1209 - P.1209

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編集後記 フリーアクセス

著者: 堀智勝

ページ範囲:P.1216 - P.1216

 本号は,好本教授の『「富」と「健康」』という扉で始まっています.昨今は健康志向が強すぎて,PETなどで早期癌が見つかって命が助かったという話をよく聞きますが,心配したらキリがないので,私は通常の血液検査程度でそれ以上の検査は行っていません.以前会った95歳を超えてなお元気なお医者さんに「自分は検診すら受けていないが,自分で異常に気がつく.要はどれだけ自らの異常に早く気がつくことができるかだよ」と言われたことが妙に脳裏にこびりついています.山城先生らの「無症候性髄膜腫の術後における患者のQOL」もその意味で興味深く読みました.実際には,未破裂動脈瘤と思って手術してみると明らかに小出血が過去にあった症例や,逆に無症候性髄膜腫で手術してみると周囲組織とまったく癒着なくするすると摘出できる症例から,早く手術してよかったと思う症例もあり,無症候性といっても本人の感受性の問題ではないかと思ったりすることもあります.

 長尾先生の「法人化4年後の大学病院の現状」も大変参考になる論文でした.ある会で,日本のサラリーマンは米国のサラリーマンの5倍の給料を貰っているが,勤務医は米国の5分の1しか給料を貰っていない,その理由は医療関係者がストをしなかったからだという話を聞きました.日本人は赤ひげ・医は仁術などという意識が強く,医者は仕事量に比べてかなり悪い待遇に甘んじているというのは本当で,医療に対する予算が非常に小額なのに,これだけの長寿社会を保っているのは医療関係者の稀に見る努力の賜物ではないかと思います.それなのに,医療ミスでも起こそうものなら犯罪者扱いされ,患者さんの家族などから攻撃を受けたりします.外科医が一生懸命手術をしたのにうまくいかない率がどのくらいかもっとはっきりさせたほうがよいのではないかと思うくらいです.マスコミに取り上げられるスーパードクターがインタビューなどで,彼らでさえどのくらい手術の失敗率があるか正直に出してくれれば,そうでない医師が合併症を出しても患者さんや家族の人も少しはわかってくれると思うのです.「スーパードクター」の中には成功率100%などと言う人もいて,素人がこれを聞けば本気にしてしまうでしょう.大半の医師にとってはますます働きにくい状況になってきているようです.そうは言っても同じ過ちは二度と繰り返さないように日夜文献や手術書やビデオを見て明日の手術に備えるのがわれわれ脳神経外科医です.その意味で本号では米川教授の力作,「Selective amygdalohippocampectomy」が掲載されており,今後の臨床に非常に参考になります.長年の経験に基づいたカラー図などの美しさに感嘆しました.亀山先生らの連載「てんかんの画像と病理」も参考になるものです.その他種々の力作が掲載されており,貴重な号となるものと思われます.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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