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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科35巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

勝負

著者: 永廣信治

ページ範囲:P.113 - P.114

 スポーツの勝負は,まさに筋書きがないドラマであり,見ていても面白い.

 しかし,2006年にドイツで行われたワールドカップサッカーには失望させられた.日本が一勝もできずに敗れ去ったからではない.イタリアとフランスの決勝で,あのジダンが反則退場となった件である.悪態をついて反則を誘ったイタリアの選手が悪いとか,それに乗ったジダンが悪いとか,いろいろ評論されるが,どちらにせよ世界の頂点を争う決勝の舞台で,こんな反則ぎりぎりの行為で勝ちにこだわるのは見苦しい,と思うのは日本人だからだろうか?

総説

DNAメチル化剤temozolomideの分子薬理学

著者: 廣瀬雄一 ,   佐野公俊

ページ範囲:P.117 - P.129

Ⅰ.はじめに

 悪性グリオーマは外科的手術による根治は困難であることが多く,その治療のうえでは化学療法と放射線療法を中心とした補助療法の併用が多くの場合行われている.しかし,現状では同腫瘍の根治に向けた有効な補助療法が確立しているとは言えず,治療開始後約1年以内に再発あるいは進行が認められるため,その有効性を改善することが必要である19).従来,グリオーマに対する化学療法の中心的薬剤はニトロソウレア製剤であったが,その効果は決して満足できるものではなかった.これに対して,1990年代後半に新世代DNAメチル化剤temozolomide(TMZ)8,63)が再発グリオーマに対する治療に導入されて好成績を挙げたことが欧米から報告されたことは,近年におけるグリオーマ治療のうえで大きな進歩の1つと考えられる.同剤は,放射線療法とニトロソウレア製剤による化学療法を施行した後の再発膠芽腫症例の半数以上において進行抑制を含む何らかの治療効果を示し7,68,96),従来の化学療法剤と比較すると骨髄抑制が弱く,しかも経口投与可能な薬剤であるため外来診療により治療を続けやすいという点からも,臨床的な有用性が注目された66).本邦においても2006年9月に認可され,今後,悪性グリオーマ治療における中心的薬剤となる可能性が高い.

 本稿では,TMZを用いた悪性グリオーマ治療の可能性と限界についての理解を通じてさらに治療法の進歩することを期待して,同剤に関する主に薬理学的,細胞生物学的な知見を紹介する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頭頂葉腫瘍性病変の外科治療

著者: 西林宏起 ,   三木潤一郎 ,   山中宏孝 ,   上松右二 ,   板倉徹 ,   大沢愛子 ,   前島伸一郎

ページ範囲:P.131 - P.141

Ⅰ.序論

 悪性神経膠腫の基本的な治療指針は可及的に外科的切除を行い,放射線化学療法の後療法,維持療法を追加することである.一方で,個々の神経,高次脳機能をなるべく温存する合併症の少ない治療が求められており,近年,覚醒下手術による機能マッピングの有効性が報告されている4,28).これまでに運動,視覚,言語機能マッピング17,18)を併用した外科手術は数多く報告されているが,感覚障害,失行,失認などが起こりうる頭頂葉腫瘍の外科治療22),機能マッピング5,10,12,16,20,21)についての報告は少ない.頭頂葉のてんかん外科,腫瘍外科手術後に,皮質性の感覚運動障害や視野障害のみならず,失語や失認などが生じたという報告があること13,24,25)から,筆者らの施設では,言語機能に加えて頭頂葉機能の温存を目的に,覚醒下あるいは慢性電極留置による頭頂葉機能マッピングを追加し,その結果を皮質切開部位や摘出範囲に反映させている.今回筆者らは,頭頂葉腫瘍性病変に対する外科治療に必要な機能解剖に加え,頭頂葉機能マッピングを施行した自験例の知見について記述する.

研究

くも膜下出血で発症した多発性脳動脈瘤に対する血管内治療の役割

著者: 櫻井寿郎 ,   牛越聡 ,   寺坂俊介 ,   数又研 ,   浅岡克行 ,   安喰稔 ,   横山由佳 ,   武藤達士 ,   古澤嘉彦 ,   高川裕也

ページ範囲:P.143 - P.149

Ⅰ.はじめに

 くも膜下出血で発症した多発性脳動脈瘤の治療を考える際,CTや血管撮影などの画像診断上,破裂動脈瘤の推定が困難で,かつ,同一の開頭ですべての動脈瘤のクリッピング術が難しい場合,どのような治療戦略でのぞむか判断に苦慮することがある.このような状況における急性期の塞栓術の適応,問題点につき検討する.

外減圧後頭蓋形成術における癒着防止吸収性バリア(セプラフィルム®)の有用性

著者: 一ノ瀬努 ,   宇田武弘 ,   日下部太郎 ,   村田敬二 ,   阪口正和

ページ範囲:P.151 - P.154

Ⅰ.はじめに

 外減圧術後頭蓋形成の際に側頭筋,皮下組織と硬膜との癒着による手術時間の遅延,剥離の際の硬膜,側頭筋の損傷が問題となる場合がある.従来,この癒着の防止を目的としてテフロンシートが使用されてきた2).2005年よりわれわれは,腹部外科手術などにおいて使用されている癒着防止吸収性バリア(セプラフィルム(R),ジュンザイム・ジャパン,東京)を用いている.従来の方法による外減圧術を施行した症例との比較検討を行い,その手術手技について報告する.

経上腕動脈法による頸動脈ステント留置術―手術手技と問題点

著者: 南都昌孝 ,   津浦光晴 ,   高山東春 ,   平山勝久 ,   岡田秀雄 ,   中大輔 ,   亀井一郎

ページ範囲:P.155 - P.160

Ⅰ.はじめに

 頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting;CAS)は,当初頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy;CEA)のhigh risk groupに対して用いられてきた.しかしprotection deviceなどの開発によりCASの治療成績が向上するに伴い,より低侵襲で安全な治療方法として急速に普及しつつある.最近はmorbidity,mortalityともに良好な結果でありCEAと肩を並べる成績が報告されている4,5,8,9,11,12,14)

 これまでCASは,おもにdeviceの径が大きいことが原因で経大腿動脈法で行われてきた.しかし大腿動脈や腸骨動脈,大動脈などの高度狭窄,人工血管置換術後,胸部および腹部大動脈瘤合併などの症例では経大腿動脈法による治療が困難あるいはhigh riskな場合がある.親カテーテルやステントなどのdeviceの改良に伴いロープロファイル化が可能となった結果,これらの症例に対し経上腕動脈法による治療が可能となってきた.今回,われわれは5例の経上腕動脈法によるCASを経験したので,症例,手術手技について報告するとともにその問題点,および適応症例について検討した.

くも膜下出血の急性期ストレスが心機能と血液容量に及ぼす影響―連続心拍出量測定装置(PiCCO)を用いた検討

著者: 武藤達士 ,   数又研 ,   安喰稔 ,   横山由佳 ,   櫻井寿郎 ,   浅岡克行 ,   牛越聡 ,   寺坂俊介

ページ範囲:P.163 - P.168

Ⅰ.はじめに

 くも膜下出血による侵襲は,時に交感神経系の過緊張状態(catecholamine surge)を誘発する.特に重症例では,神経原性肺水腫やたこつぼ型心筋症をはじめとした循環呼吸動態の顕著な変動を来す症例1,4,8)もあり,十分な全身管理が難しく,一般に予後不良とされている.しかしながら,くも膜下出血のストレス反応と血行動態の関連性については不明な点が多く残されており,いまだ定まった管理法が確立されているとは言い難い.特に,脳血管攣縮のような脳循環に顕著な変動を来す時期における不完全な病態の把握は,患者の予後を左右する致命傷ともなり得る.

 最近われわれの施設では,くも膜下出血患者を対象として,術直後から脳血管攣縮期にかけて,肺経由動脈熱希釈法(single indicator transpulmonary thermodilution)による連続心拍出量モニタリング装置(PiCCO TM plus;Pulsion Medical Systems社製)を用いた循環管理法を導入している1).これまで循環血液量の評価として,観血的動脈圧および圧波形,中心静脈圧(central venous pressure;CVP),肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure;PCWP)などの圧指標や胸部X線写真などの画像所見,呼吸状態,水分出納表,体重,血圧などを用いて評価してきた.しかし容量-圧関係は必ずしも直線的ではないため,正確な容量評価には圧変化よりは直接容量の変化を捉えるほうが好ましいと考えられる.PiCCOは,冷却水を用いた肺経由熱希釈法(transpulmonary thermodilution)で心拍出量を測定し,これを基に動脈圧波形解析法(arterial pulse contour analysis)から心拍ごとの拍出量を連続測定できる機能を有する.さらに,熱希釈法のみから心拍出量のみならず,血管内容量に関する様々なパラメータを測定することが可能であり2,9),くも膜下出血の脳血管攣縮期における心機能および水分管理に適した装置といえる.今回,重症くも膜下出血患者を中心として,同モニタリング装置により得られた心機能・血液容量ならびにストレスに関する血液データに基づき,くも膜下出血による急性期ストレスについて解析を行ったので,その中間結果を報告する.

コラム:医事法の扉

第10回 「自己決定権」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.161 - P.161

 「自己決定権」とは,憲法上保障されている人権の1つと考えるのが通説です(13条).患者さんの自己決定権が重要視されていることは皆さんご存知の通りです.ただ,憲法とは,本来国家権力から国民を守るために制定されたものですから,医師・患者間で「自己決定権」が問題となるのは,やや奇異な印象を受けますが,判例や通説は,「自己決定権」は,憲法の価値が私人間である医師・患者間にも推し及ばされるとしています(間接適用説).

 「自己決定権」に関する有名な判例として,エホバの証人輸血拒否事件(最判平成12年2月29日判決)があります.最高裁は,「患者が,輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして,輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合,このような意思決定をする権利は,人格権の一内容として尊重されなければならない」と,「自己決定権」を保障しています(ただ,このケースは,担当医による緊急時には輸血を行う旨の説明が十分に行われていない状態で輸血が施行されたことに対して患者側が提訴していますので,もし輸血を行うという説明が事前になされていれば,事情が変わっていたかもしれません).

症例

基底核の石灰化病変を伴ったKallmann症候群の1例

著者: 柳川洋一 ,   岡田芳明

ページ範囲:P.171 - P.174

Ⅰ.はじめに

 基底核の石灰化はCTが開発されて以降,成人の数%とそれほど珍しいものではない1,3).しかし,圧倒的に多いのは40歳以上での淡蒼球石灰化であり,尾状核・傍側脳室部の石灰化は極めて稀である1,3).今回,われわれは基底核の石灰化病変を呈した20歳男性のKallmann症候群の症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

頭血腫の穿刺持続ドレナージで治療した新生児硬膜外血腫の1例

著者: 石川修一 ,   本橋蔵 ,   北原正和

ページ範囲:P.175 - P.179

Ⅰ.はじめに

 分娩に関連する新生児の硬膜外血腫は稀とされている3,12).今回,骨折線を介して頭血腫と交通のある硬膜外血腫に,頭血腫の穿刺持続ドレナージを行い良好な結果を得たので報告する.

海外留学記

LYONでの留学経験

著者: 有島英孝

ページ範囲:P.181 - P.183

 「フランスのリヨンでMarc Sindou教授が興味深い機能神経外科をやっているから一度見てきたらどうか?」久保田紀彦教授からのお言葉を聞くまで,私はSindou教授がどのような仕事をしているのかまったく知らず,機能神経外科について特別興味があったわけでもありませんでした.ただ,留学する機会があるなら,どこかのラボに入って研究…というよりも臨床で行きたいと考えていたので,Sindou教授の論文をいくつか読んでから久保田教授に推薦状を書いていただき留学の手続きが始まりました.留学期間は1年間でしたが,家族皆(妻と子供2人)で渡仏することに決めビザを取得しました.

 リヨンに着くまで,私は海外で生活する術を知りませんでした.なんとかホテルの一室に駆け込んで私達家族の生活がスタートしたのですが,アパート探しや子供達の学校の入学手続き,滞在許可証の取得など本当に大変でした.日本人相手の仲介業者に渡仏前にメールで依頼してあったのですが,日本のようなきめ細やかなサービスはなく,アパートが決まるまでは不安な日々をホテルで過ごしました.子供達の学校や私達の滞在許可証の件では自分達だけの力では到底無理で,現地の日本人会の方々(後に妻のお友達になっていただいた方々)に大変お世話になりました.私だけが先に渡仏して,あらかじめ生活基盤を築いてから家族を呼べば妻や子供達に負担を掛けずに済んだのでしょうが,私1人が先に渡仏していても何もできなかったと確信しています.できるだけの情報を収集して渡仏したつもりでしたが,現地でしかわからないことが多くあり,最終的には現地の日本人の方々に頼る他ありませんでした.留学先の施設には日本人はいなかったので,長男が通ったインターナショナルスクールの日本人のお母さん(妻の友人)から生活していくうえでの必要な情報を教えていただきました.誰か先輩の後をそのまま引き継ぐ形で留学するのが,生活基盤を築くという点からは容易なことは想像がつきます.

連載 脳神経外科医療のtranslational research(4)

医療情報ネットワーク(急性期医療,回復期医療,維持期医療)

著者: 水野正明 ,   吉田純

ページ範囲:P.185 - P.191

Ⅰ.はじめに

 医療とは,万人の生活を支える最も重要な社会基盤である.したがって,その質の向上は万人が求める恒久的な願いである.一方,その医療を支えるシステムは,世界に様々な人種や宗教があるごとく,それぞれの国で大きく異なっている.例えば,米国は,医療においても自由競争主義の原則を重視し,医療制度を構築してきた.英国は,国営保険制度を基盤に独自の医療制度を確立してきた.ドイツは,医療保険(疾病保険)への強制的加入を機軸に医療制度を築いてきた.一方,わが国では,1961年にスタートした国民皆保険や出来高払いの診療報酬制度,自由開業性等に特徴づけられた医療を,国が主導で展開してきた.しかしながら,よく考えると疾病に地域性があるように,医療提供体制にも地域性があってしかるべきである.今求められている医療情報ネットワークとは,こういった特徴を生かしたものでなければならない.

 そこで,本稿では,脳神経外科疾患,特に脳卒中を対象にした医療情報ネットワークのあり方を解説し,これから克服しなければならない課題を考えてみた.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

脳動脈瘤治療に関する医療過誤訴訟

著者: 福永篤志 ,   古川俊治 ,   大平貴之 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.193 - P.200

Ⅰ.はじめに

 最高裁判所内の医事関係訴訟委員会の公表データによると,全診療科における医療過誤訴訟新規受件数は,平成7年度以降増加し続けていたが,平成17年度にようやく減少傾向に転じた(Fig. 1).その原因として,平成12年頃から各大学・施設においてリスクマネジメントが強化されたことや,医療者側の意識改革,インフォームド・コンセント(IC)の充実などが考えられる.しかしながら,現在でも医療過誤に関する事件はしばしば報道されているのが実情である.訴訟はあくまでも氷山の一角に過ぎないから,今後も医療過誤紛争を早期解決し,訴訟をさらに減らしていく努力を続けていかなければならないと思われる.

 前回われわれは,脳神経外科領域に関する医療過誤訴訟の実態について,下級裁判所主要判例を調査したところ,訴訟件数は平成12年度から急増しており,また,疾患としては,脳動脈瘤に関する訴訟が最も多いことが判明した1)

 そこで今回は,脳動脈瘤治療に関する医療過誤訴訟に着目して,その実態について詳細に調査・分析した.さらに,その結果をふまえ,過去の論文報告をもとに,医療事故にどのように対処すべきかについて検討する.

書評

『《神経心理学コレクション》手』―岡本 保・訳 山鳥 重,彦坂 興秀,河村 満,田邉 敬貴・シリーズ編集

著者: 長野敬

ページ範囲:P.142 - P.142

 脳は文字通り神経系の中枢であるとしても,周辺,末梢がなければ何もできない.切り取られた脳だけがいろいろ考えるというのは,手塚治虫の漫画にもあるし,陰気くさい小説もある(ヤシルド『生きている脳』)が,どちらでも筋書きは受動的に進むことしかできない.眼は,口と同じくらい「ものを言」ったりするかもしれないが,物理的な表出手段として,人間の場合に「手」より以上のものはない.単に物理的どころか,精神的なものも,手には反映する.

 チャールズ・ベルの『手』は,「ブリッジウォーター叢書」の1冊として刊行された(Sir Charles Bell:The Hand, Its Mechanism and Vital Endowments, as Evidencing Design. 1833).叢書の呼称に,わざわざ「創造に示される神の英知と善を説くための」と書いてあることからもその趣旨は明らかだ.信心深いブリッジウォーター伯爵,フランシス・エジャートンが遺産から8,000ポンドを充てて,王立協会会長が8人の著者を選定して執筆して貰うようにと依頼したことから,「叢書」は成立した.いずれも自然科学の眼を通して見た「神の栄光」を説くことを目指している.地質学とか無機化学とか,包括的なものが多いなかで,この第6巻『手』は,ごく具体的な題名をもっている.依頼者としては,ベルがこの限られた入口から広大な思想的景観に導いてくれることを期待したのだろう.ベルは既に神経系研究の大家であるとともに,以前に刊行した『表情論』のなかで,叢書の趣旨にふさわしい議論も展開していた.(表情論は1806年に前身というべき本が出て,その後1824年に本格的な第2版となった.ただし《神経心理学コレクション》に収められている『表情を解剖する』は最終の第4版によっていて,この版自体の刊行は1847年,つまり『手』よりかなり後で,ベルの没後でもあった).

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編集後記

著者: 橋本信夫

ページ範囲:P.210 - P.210

 There is a great man who makes every man feel small. But the real great man is the man who makes every man feel great. The best men of the time were simply common men at their best. This is why our age can never understand Napoleon. Because he was something great and triumphant, we suppose that he must have been something extraordinary, something inhuman. Some say he was the Devil;some say he was the Superman. Was he a very, very bad man? Was he a good man with some greater moral code? We strive in vain to invent the mysteries behind that immortal mask of brass. The modern world with all its subtleness will never guess his strange secret;for his strange secret was that he was very like other people.

 

 上記は,GK ChestertonによるCharles Dickensからの引用であるが,ナポレオンでさえもごく普通の人であった,もっと言えばふつうの人であるがゆえに,という理解がないとナポレオンを理解できないという一文である.脳神経外科手術の達人であるだけでなく柔道の達人でもある永廣信治教授はいつもにこやかで優しい顔をされている.彼の後輩の山下泰裕氏はテレビなどで拝見する限り現役時代からいつも柔和な印象で,この人の表情から格闘技である柔道で12年間も勝ち続けたという事実を想像することは難しい.歴史上の偉大な人物を解釈する際に,われわれは往々にして偉大な人物はすべてに関して飛びぬけている,あるいは常軌を逸脱していると思いがちであり,そのような思い込みが人物の理解を難しくしているという.超人も自分たちと同じように喜び,悲しみ,苦しみ,悩み,根本は自分たちと同じなのだ,という理解のもとにわれわれも前に向かってゆくべきだと思う.それに加えて,永廣教授のエピソードにあるように,己の驕りをたしなめてくれる存在が身近にあるか否かと,その指摘を深く受け止められる感性をもっているか否かが,本物になれるか否かの分かれ目になるとも思う.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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