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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科35巻5号

2007年05月発行

雑誌目次

脊髄外科指導医が腰部脊柱管狭窄症になって考えたこと

著者: 阿部俊昭

ページ範囲:P.429 - P.430

 「医師は自分が専門にしている病気にかかりやすい」という言葉をよく耳にする.まったく根拠がない話と笑っていたが,昨年5月そのことが現実となった.

 北海道にてゴルフプレー中,ティーショットを打ったところ,腰部から右下肢に放散する電撃痛があり,プレーを続行することができなくなった.翌日,北海道大学の岩㟢喜信先生の紹介で佐藤雅美氏に針治療を施行してもらった.両下肢のシビレ感は残ったが,腰部から右下肢への痛みは軽減した.これまで針治療を作用機序が科学的に解明されていないことを理由に軽視していたが,その効果を見直すことになった.帰宅後MRIを施行したところ,第3~5腰椎間の脊柱管が著明に狭窄し,さらに第3/4椎間板が右方に突出していた.腰椎すべり症は合併していなかった.

総説

悪性神経膠腫の化学療法

著者: 永根基雄

ページ範囲:P.433 - P.450

Ⅰ.はじめに

 神経膠腫を主とする悪性脳腫瘍は,胚芽腫など一部の腫瘍を除き癌薬物療法(化学療法)の有効性が一般に低く,延命効果も不十分な群に属すると考えられている.Melanoma,膵癌,肝癌などと同様に,この群の悪性腫瘍に対しての抗悪性腫瘍薬の使用に際しては,臨床試験における実施が望ましく,実地医療の場ではその適応を慎重に検討する必要がある.しかし,現実には悪性脳腫瘍の発生頻度は低く,希少腫瘍の群に含められ,多くの症例を短期間に蓄積して医学的エビデンスレベルの高い臨床試験の結果を出していくのは容易なことではない.特に本邦では,2005年初頭までは神経膠腫に対して保険適応が認可されていた薬剤は,ACNU(nimustine hydrochloride),MCNU,bleomycin,interferon-βに限られていたため,大学病院などの一部の施設を除き多剤併用療法を行うことも困難であった.また,これらの薬剤も有効性のエビデンスには乏しく,各大学などで様々な併用化学療法が小規模に実施されていたのが実情である.

 一方,近年の基礎・臨床研究から,悪性神経膠腫の中でも乏突起膠腫系腫瘍など化学療法に感受性の比較的高い腫瘍グループが存在し,治療反応性や予後を規定する特異的な遺伝子変異・マーカーの存在が明らかにされ,またO6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)を中心とした薬剤耐性機序の解明と予後との関連が示されるなど,臨床的に意義深い知見が蓄積されてきている.2005年2月にPCV療法に使用されるprocarbazine(PCZ),vincristine(VCR)が神経膠腫に対して適用拡大されたのに続き,2006年7月には世界的に悪性神経膠腫治療の主流となりつつあるtemozolomide(TMZ)が,本邦での神経膠腫への新規治療薬としては約20年ぶりの承認がなされたことなど,脳腫瘍に対する化学療法は大きな転換期を迎えたといえよう.

 神経膠腫以外にも,髄芽腫・胚細胞腫瘍・リンパ腫など放射線治療や化学療法に感受性を示す腫瘍群では,標準的治療法の確立に伴い,飛躍的に治療成績の向上が認められ,悪性脳腫瘍治療における化学療法の果たす役割の重要性が増してきているのも事実である.特に癌薬物療法に対する関心は高く,学会的にも専門医制度の導入が検討・実施されており,今後悪性脳腫瘍の化学療法を施行する際にも,より専門的知識と経験が要求される時代の到来が予想される.本稿では,特に神経膠腫治療成績のこれまでに得られているエビデンスと現状,耐性の機序と今後の方向性につき述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

松果体病変に対するinfratentorial supracerebellar approach

著者: 岩間亨 ,   吉村紳一 ,   矢野大仁 ,   大江直行 ,   竹中元康 ,   飯田宏樹

ページ範囲:P.453 - P.466

Ⅰ.はじめに

 松果体および松果体近傍病変に対するapproachとしては,①infratentorial supracerebellar approach, ②occipital transtentorial approach, ③posterior transcallosal approach, ④posterior transcortical approachなどが挙げられ,それぞれのapproachに長所と短所,到達限界があるが2,13),主に用いられるのはinfratentorial supracerebellar approachとoccipital transtentorial approachである.各approachの比較は他書に譲り2,13),本稿では,現在われわれが松果体部病変に対して行っている坐位によるinfratentorial supracerebellar approachの特徴と,手術に必要な局所解剖,麻酔法および空気塞栓に対する対策,手術手技について解説する.

研究

もやもや病周術期における痙攣と血行再建術後急性期の脳循環動態との関連について

著者: 成澤あゆみ ,   藤村幹 ,   清水宏明 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.467 - P.474

Ⅰ.はじめに

 もやもや病は両側内頸動脈終末部,前およびに中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞し,その付近に異常血管網の発達を認める原因不明の疾患である14).浅側頭動脈・中大脳動脈(STA-MCA)吻合術は本疾患による脳虚血を改善するための有効な治療法として広く用いられているが3,5,12),もやもや病に対するバイパス術後急性期の臨床症状や血行再建による急激な血流増加が脳循環代謝に与える影響についてはいまだ不明な点が多い.

 われわれは2004年3月以降もやもや病バイパス全手術症例に対して術後急性期にN-isopropyl-p-[123I]iodpamphetamine(123I-IMP-SPECT)による脳血流の評価を行い,バイパス吻合部位周囲の局所的高灌流が虚血発作に類似した一過性局所神経脱落症状の原因となっていることを明らかにし術後急性期の病態把握の重要性を報告してきた1-3).一方,痙攣はもやもや病周術期の稀な合併症として知られているが,その機序については明らかでない.本研究では,当施設においてSTA-MCA吻合術を施行したもやもや病連続症例の中で術後痙攣発作を合併した症例に注目し,術後急性期の脳循環動態との関連について検討を行った.

症例

涙腺原発mucosa associated lymphoid tissue(MALT)-type lymphomaの1例

著者: 坂真人 ,   盛岡潤 ,   梶原浩司 ,   吉川功一 ,   天野貴之 ,   久保田尚 ,   野村貞宏 ,   加藤祥一 ,   藤井正美 ,   藤澤博亮 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.475 - P.479

Ⅰ.はじめに

 Mucosa associated lymphoid tissue(MALT)-type lymphomaとは粘膜関連リンパ組織から発生するB細胞低悪性度群non Hodikin lymphomaで,比較的稀な亜型である1-10,12,13).今回,涙腺原発MALT-type lymphomaの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

経眼窩的穿通性損傷後に生じた遅発性脳膿瘍の1例

著者: 平石哲也 ,   富川勝 ,   小林勉 ,   川口正

ページ範囲:P.481 - P.486

Ⅰ.はじめに

 小児脳膿瘍は,右左短絡を有するチアノーゼ性心疾患13),中耳炎・副鼻腔炎といった耳鼻科的疾患,化膿性髄膜炎,頭部外傷などが原因となり1),高率に神経学的後遺症を合併する予後不良の疾患として知られている.今回,幼少期の穿通性頭部外傷が原因で遅発性に脳膿瘍を発症した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

脳アミロイドアンギオパチーを強く疑う脳出血に続発した脳膿瘍の1例

著者: 武内勇人 ,   藤田智昭 ,   恵飛須俊彦 ,   峯浦一喜

ページ範囲:P.489 - P.493

Ⅰ.はじめに

 脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy,CAA)は高齢者の脳血管にアミロイド蛋白が沈着し,脳葉型脳出血や白質障害などを来す疾患で,高齢者脳出血に占める割合は少なくない.脳出血後に膿瘍を形成した報告は稀であり,今回,CAAを強く疑う脳出血後の膿瘍形成例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

頭蓋底軟骨腫の2例―画像上での鑑別診断を中心に

著者: 東田哲博 ,   坂田勝巳 ,   菅野洋 ,   田邉豊 ,   川崎隆 ,   山本勇夫

ページ範囲:P.495 - P.501

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内軟骨腫は全頭蓋内原発性腫瘍の0.1~0.2%を占める稀な腫瘍で,その大部分は頭蓋底部に発生する.術前の画像診断による他の頭蓋底腫瘍との鑑別が困難なうえ,血管,神経などの重要構造を巻き込むことも多く,診断,治療に苦慮することが多い.今回,われわれは頭蓋底軟骨腫の2症例を経験したので,特に画像上の特徴による鑑別診断を中心に文献的考察を加えて報告する.

再手術後7年を経過してspinal metastasisを来したolfactory neuroblastomaの1例

著者: 森良介 ,   坂井春男 ,   加藤正高 ,   飛田敏郎 ,   中島真人 ,   福田隆浩 ,   福永眞治 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.503 - P.508

Ⅰ.はじめに

 Olfactory neuroblastomaは上鼻腔に発生する稀な腫瘍で,様々な部位に遠隔転移を来し,また初回治療後10年後に再発を来す例も報告されているが16),長期を経過して脊髄転移を来した症例は稀である.今回われわれはolfactory neuroblastomaの初回手術後8年を経過して出現した頭蓋内および眼窩内転移巣に対して,手術および放射線治療を施行し,さらにその7年後に馬尾転移を来した症例を経験したので,文献的考察を加えてここに報告する.

肺癌の硬膜転移による硬膜下血腫の1例

著者: 石井則宏 ,   横須賀公彦 ,   関原嘉信 ,   平野一宏 ,   鈴木康夫 ,   石井鐐二

ページ範囲:P.511 - P.513

Ⅰ.はじめに

 悪性腫瘍の硬膜転移に伴う硬膜下血腫は極めて稀であり,われわれが渉猟し得た範囲では本例を含めて52例の報告があるのみである6).今回われわれは進行した肺癌患者に慢性硬膜下血腫を伴い,術中採取した硬膜,血腫内容から転移性腫瘍が原因の硬膜下血腫と診断し得た1例を経験した.その成因と特徴について,これまでの報告例を含めて検討し報告する.

コラム:医事法の扉

第13回 「事務管理」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.509 - P.509

 今回は,民法の話に戻ります.民法は,われわれ私人間における権利義務関係を規律する一般法ですから,医師法や医療法などの特別法に規定されていない事項は,すべて民法に従うことになります.

 民法には「事務管理」という聞きなれない項目があります.これは,「義務なく他人のために事務の管理を始めた者は,その事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法によって,その事務の管理をしなければならない.」(697条)と規定され,「他人である本人」の了解がなくとも事務管理者に債務が発生してしまうという,変わった法律関係の1つです.じつは,この「事務管理」に関連して医療現場で問題が発生することがあります.「本人」が意思能力のない患者の場合がそれにあたります.

連載 脳神経外科における再生医療―臨床応用にむけて(2)

ヒトES細胞培養の感染問題と法律的設備基準

著者: 菱川慶一

ページ範囲:P.515 - P.519

Ⅰ.はじめに

 ヒトES細胞は神経再生の臨床応用を実現する最も可能性の高い細胞であるが,樹立段階から維持培養方法まで,動物由来物質混入による問題が指摘されている.またヒトES細胞から神経細胞への分化誘導を行う際に細胞プロセッシングが必要となるが,この工程には医薬品同様に安全性と高い品質管理が必要である.以下では,ヒトES細胞培養における動物由来物質による感染性の問題,および細胞プロセッシングに関する法律的設備基準について述べる.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

日本と米国の脳神経外科診療の違い―第2回

著者: 伊藤昌徳

ページ範囲:P.521 - P.527

Ⅰ.はじめに

 2006年日本脳神経外科学会総会橋本信夫会長の「医療は純粋な科学と異なりある国での正解が他の国においても正解というわけではないという視点も必要である」との声明4)は至言である.日本も米国も独自の社会文化を背景とした医療が行われているが,第1回に引き続き日米の脳神経外科診療の違いについて比較検討し,わが国の脳神経外科医療の現状と将来を考える際の一助としたい.第2回では,医療経済の視点から①健康保険制度の日米の考え方の違い,②民間保険医療費負担と米国企業経営圧迫,③2本立ての診療報酬請求・支払い制度,④健康保険の種類と脳神経外科医(専門医)への受診制限,⑤診療報酬(医療費)の支払い方式の多様性,について比較検討する.

書評

『神経内視鏡手術アトラス』―石原正一郎・上川秀士・三木 保:編集

著者: 寺本明

ページ範囲:P.466 - P.466

 日本脳神経外科学会は1948年の創設であるので来年60周年を迎える(ただし,学会の開催数はもっと多い).数え年で言えば既に還暦を迎えているわけである.この間,学術的にも技術的にも,さらには政治的にも一貫して右肩上がりの発展を来し,時には既に完成形に近づいたかと思われる分野もあった.細かいことを言えばきりがないが,臨床的にはMicroscopeとCT scanおよびMRIが三大プロモーターであった.これらが安定してきた後で華々しく登場してきたのが神経血管内手術と神経内視鏡手術であり,中小の学会の中には統廃合がささやかれるものがあるなか,この2つの専門学会は会員数を飛躍的に伸ばしてきている.いずれも従来の治療法と比較するとより低侵襲であり,テクニックも精緻であるため,若手の脳神経外科医にとっては大変魅力的に見えるようである.

 一般に外科分野においては,患者にとって低侵襲となればなるほど外科医の負担は増えてくる.もし同じ成果が挙がるなら切開や術野は小さいほどありがたい.しかし,その分新規の機器の導入やその習熟が外科医に要求されるわけである.この習熟過程をおろそかにすると,低侵襲どころか患者に健康被害を与えることになりかねない.現に,これらの新しい分野ではさまざまな医療事故が報告されている.脳神経血管内治療学会ではいち早く専門医制度を立ち上げたが,より新しい分野である神経内視鏡学会ではまず技術認定制度から始めることになった.そのテキストともいえるのが本書である.

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編集後記

著者: 伊達勲

ページ範囲:P.536 - P.536

 この編集後記を書いている3月は卒業,卒部のシーズンである.私は学生時代はバドミントン部に所属しており,教授就任後は顧問をしているので,毎年,卒部式(俗にいう追い出しコンパ)に出席している.卒部生各々に,6年間の活動をたたえる表彰状を渡し記念品を贈る.その後,卒部生は1人ずつ挨拶をするのであるが,部活動のコンパとはいえ,この日だけは他の日とはまったく違って,全部員が黒を基調とした正装で来ている.皆が挨拶を真剣な表情で聞くため,卒部生のほうも緊張してしまい何を話すつもりだったかを忘れることがある.

 先日の卒部式のこと.ある卒部生は,羽織・袴の正装で来ていたのだが,挨拶中に言葉に詰まるといきなり後ろを向いて,何かを袂から取り出した.「ケータイ」である.われわれの感覚では,そのような時に備えて,メモを書いた紙を,手のひらか,ポケットに隠しておくのが普通かと思う.袂から出現した「ケータイ」で例の親指操作をした彼は,次の言葉を見つけたのだろう,再び振り向いて話を続けた.和服とケータイの組み合わせにも違和感を感じてはいけない時代になったと,妙に印象的なシーンであった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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