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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科35巻6号

2007年06月発行

雑誌目次

「硫黄島からの手紙」の味わい

著者: 濱田潤一郎

ページ範囲:P.539 - P.540

 硫黄島に関する映画が2本,アメリカで製作されることになったという話は早くから聞いていた.1本はアメリカの立場から,もう1本のテーマは日本の立場からという発想がユニークで,関心をかき立てられていた.

 クリント・イーストウッド監督が日本側の視点で硫黄島の戦いを描いた「硫黄島からの手紙」は,それより先に公開されたアメリカ側からの「父親達の星条旗」との2部作の1本としても,独立した作品としても観ることができる.残念ながら「父親達の星条旗」は未見だが,「硫黄島からの手紙」は是非とも観たいと思い劇場へと足を運んだ.

総説

内視鏡的第3脳室底開窓術

著者: 宮嶋雅一

ページ範囲:P.543 - P.555

はじめに

 脳室短絡術が安定した成績をもって受け入れられる以前には,非交通性水頭症に対する標準的な手術法は第3脳室底開窓術であった.

 1922年Dandyは前頭開頭にて終板を開窓することにより,第3脳室と視交叉槽に交通をつけた24).この直達手術は侵襲が大きいため,その後側頭下法にて第3脳室底を開窓することにより第3脳室脚間槽に交通をつける方法に改変した25,26).1945年には,52例の直達開窓術による手術死亡率12%,外科的停止50%と報告した.1923年,初めて内視鏡下に第3脳室底開窓術を行ったのはMixterであった.彼は生後9カ月の非交通性水頭症の乳児に,尿道鏡を用いて第3脳室底を開窓した73).当時は他の外科手術と同様に,第3脳室底開窓術による合併症の頻度や死亡率が高く,また,内視鏡装置の技術的な問題により,第3脳室底開窓術は広く普及しなかった.1947年,McNickleは経皮的第3脳室底開窓術を導入し,第3脳室底開窓術による死亡率は数%以下まで低下した70).しかし,1950年代初頭に脳室心房短絡術が開発・導入され,水頭症の治療成績が格段に向上し,第3脳室底開窓術への関心は薄れていった.その後短絡術後の長期治療成績が報告されるにつれて,合併症(機能不全,感染,over drainageなど)が比較的多いことが明らかとなった.

 1975年Griffith,1978年Vriesが,近代化された軟性鏡を用いた第3脳室底開窓術を報告した42,108).1990年Jonesらの24例での治癒率50%の報告,その後35例の集積での治癒・改善率80%,非致死的合併症(片麻痺,感染など)8%の卓越した報告があり,同時期,他の外科領域での内視鏡下手術の発達と低侵襲手術の社会的要求に触発され,第3脳室底開窓術は再び脚光を浴びるようになった56)

 本邦では1994年に日本神経内視鏡研究会が発足し,2002年学会に昇格した.同年の診療報酬改正に伴い内視鏡的第3脳室底開窓術は保険診療の適応を受け,非交通性水頭症の標準的手術法と認知されるに至った.しかし,手術症例数が増加するにつれ様々な問題点が明らかになり,昨年度より神経内視鏡の技術認定制度が発足した.この時期に内視鏡的第3脳室底開窓術の問題点を整理し検討することは,時宣を得たことと思われる.本項では内視鏡的第3脳室底開窓術の適応とその問題点,ならびに術後経過とその成績について述べる.

テクニカル・ノート

悪性神経膠腫に対するFluorescein Naを用いた手術戦略

著者: 宇塚岳夫 ,   高橋英明 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.557 - P.562

Ⅰ.はじめに

 悪性神経膠腫に対する外科的切除率の生命予後改善に対する貢献度は,未だに議論の対象である 2,3).しかし画像上造影される病変は,細胞密度も高く血管増生も豊富なviableな病理組織像を呈し,少なくとも同部位の切除は理論上意味があると考えられる.また,画像上造影される病変の切除を悪性神経膠腫摘出術の指標としている施設は多いと思われる.われわれは確実な摘出術を達成するために,CT,MRI上で造影される悪性神経膠腫の摘出手術時にFluorescein Na(FNa)を用いた工夫を行ってきた.本稿では,FNaを用いた悪性神経膠腫の摘出術における方法論,注意点について概説する.

症例

クローン病と大球性貧血に伴った上矢状静脈洞血栓症の1例

著者: 大澤成之 ,   鈴木祥生 ,   山田勝 ,   福島浩 ,   宇津木聡 ,   清水暁 ,   倉田彰 ,   藤井清孝 ,   菅信一

ページ範囲:P.565 - P.569

Ⅰ.はじめに

 静脈洞血栓の原因としては,感染症,妊娠,経口避妊薬,腫瘍による圧迫,ベーチェット病,cryogloblinemiaやcryofibrinogenemiaなどの血液疾患,抗リン脂質抗体症候群,家族性ATⅢ欠損症,プロテインC欠乏症やプロテインS欠乏症などの凝固系異常,潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性疾患などが挙げられるが,クローン病に合併した症例は稀である.われわれは,クローン病に合併した上矢状静脈洞血栓症の症例を経験したので,その合併機序などを考察し報告する.

前下小脳動脈瘤の直達手術の4例

著者: 魏秀復 ,   伊野波諭 ,   宇野淳二 ,   伊飼美明 ,   古賀広道 ,   山口慎也 ,   長岡慎太郎

ページ範囲:P.571 - P.578

Ⅰ.はじめに

 前下小脳動脈瘤(以下AICA動脈瘤)は,稀な動脈瘤であり,特にAICA末梢動脈瘤は,本邦のSuzukiら21)のシリーズ全動脈瘤,3,899個中4例0.1%であり極めて稀である.そして血管内塞栓術が進歩した近年では,いっそう外科的直達手術を経験することは少なくなった.われわれは,1996年1月~2006年8月の間に1,035個の嚢状および解離性動脈瘤に対して984件のクリッピング(トラッピングを含む)および51件の血管内塞栓術を施行したうち,末梢部を含むAICA動脈瘤3例(0.29%)を経験し,また1995年以前に筆者らが経験した既報の1例3)を加えた計4例のAICA 動脈瘤に対して外側後頭下開頭(lateral suboccipital retrosigmoid approach,以下LSRA)による直達手術を施行した.4例の内訳は,AICA anterior pontine segmentの破裂解離性動脈瘤で血行再建術を行い解離部のトラッピングを施行した1例,破裂Acom動脈瘤に合併した未破裂BA-AICA動脈瘤の1例,AVMに合併したmeatal loop の破裂動脈瘤の1例と既報の破裂BA-AICAの1例の計4例である.4例のLSRAの検討と血管内塞栓術につき若干の文献考察を加え,またAICA末梢動脈瘤を,発生部位により親血管閉塞が生命的予後に関与するか否かで2グループに分けた,簡便で臨床上有用な分類法を提案した.

SAHで発症した両側椎骨解離性動脈瘤の1例

著者: 西村由介 ,   池田公 ,   杉田竜太郎 ,   前田憲幸 ,   中村茂和 ,   竹本将也 ,   渋谷正人

ページ範囲:P.583 - P.589

Ⅰ.はじめに

 近年,椎骨解離性動脈瘤はstrokeの原因として,特に本邦において報告が増加している13).出血発症の場合は高率に再出血を来すといわれており,早期診断,早期治療が求められる13).治療としてはtrapping,proximal occlusion(clipping or coil embolization)が行われるが,両側椎骨の解離では出血側の診断,対側病変の治療においていくつかの問題が生じてくる.

 今回,当院にて治療された出血発症両側椎骨解離性動脈瘤の1例について報告する.

顔面神経麻痺を伴わない中頭蓋窩巨大顔面神経鞘腫の1例

著者: 森良介 ,   坂井春男 ,   加藤正高 ,   飛田敏郎 ,   中島真人 ,   福永眞治 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.591 - P.598

Ⅰ.はじめに

 顔面神経鞘腫は,頭蓋内神経鞘腫のうち聴神経鞘腫,三叉神経鞘腫に次ぐ稀な腫瘍(頭蓋内神経鞘腫の1.9%)である.膝神経節より発生し中頭蓋窩に進展した顔面神経鞘腫は,ほぼ全例に顔面神経麻痺を伴うと言われている.今回われわれは,顔面神経麻痺を伴わず,中頭蓋窩に進展した巨大顔面神経鞘腫の1例を経験したので,文献的考察を加えてここに報告する.

塞栓術にて完治せしめた成人pial AVFの1例

著者: 伊丹尚多 ,   杉生憲志 ,   徳永浩司 ,   小野成紀 ,   小野田惠介 ,   伊達勲

ページ範囲:P.599 - P.605

Ⅰ.はじめに

 Pial arteriovenous fistula(以下,PAVF)は,稀な脳血管疾患である4,13).以前はarteriovenous malformation(AVM)の一亜型と考えられていたが,最近になってAVMとは異なる病態として考えられるようになり,注目を集めている5).形態学的には,動脈が静脈に直接短絡し,介在するnidusを持たない点でAVMと異なり,数少ない過去の報告では,出血例の自然経過は予後不良とされている8).また過去の報告の多くは小児例であり,成人例は非常に稀である5,11)

 今回われわれは,出血発症した成人PAVFに対し,液体塞栓物質N-butyl eyanoacrylate(NBCA)による血管内治療により完全閉塞し得た1例を経験したので,文献的考察を加え,報告する.

コラム:医事法の扉

第14回 「債務不履行」と「不法行為」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.581 - P.581

 患者が医師に対して損害賠償を請求する場合には,「債務不履行」(民法415条)あるいは「不法行為」(709条以下)に基づく2つの請求権があります.そのどちらか一方を選択するか,あるいは,両方を請求するか(請求権競合)は,原告である患者が決定します(請求の立て方を原告に委ねることで,処分権主義の原則といいます.民事訴訟法246条).

 医師と患者との関係を医療契約(民法656条)と捉えると,「債務者」である医師が「債権者」である患者に「債務の本旨に沿った」(415条)とはいえない不適切な医療行為を行った場合には「債務不履行」となってしまいます.一方,契約関係は別にして,医師が「故意又は過失により」患者の「権利又は法律上保護された利益を侵害」し,患者に「損害を発生」させたとするのが「不法行為」です.

連載 脳神経外科における再生医療―臨床応用にむけて(3)

骨髄間質細胞の神経分化誘導作用と神経保護効果

著者: 新谷亜紀 ,   中尾直之 ,   垣下浩二 ,   板倉徹

ページ範囲:P.607 - P.614

はじめに

 脳卒中,外傷,変性疾患などで脳・脊髄の神経細胞が障害を受けると,その機能回復はまず望めない.このような不可逆的な障害から神経機能を回復させようという試みは,神経科学の重要なテーマの1つであり,その戦略としては,神経栄養因子,成長因子の利用や遺伝子治療による残存ニューロンの機能強化と代償を図る考えと,細胞移植または内在性の神経幹細胞の活性化を促すことにより神経組織および機能の再構築を目指すという考えがある.その中でも細胞移植による治療法が注目されたのは,1970年代後半のパーキンソン病モデル動物への胎仔ドーパミンニューロンの移植実験からである.この実験では,中脳黒質ドーパミンニューロンを変性させたラットに胎仔ドーパミンニューロンを移植すると,ラット脳内で移植細胞が成熟ドーパミンニューロンへと分化して運動異常を回復させたと報告されており3),以降,様々な神経疾患モデル動物を用いた細胞移植の基礎研究が展開された.そして,1980年代後半以降には,パーキンソン病に対して患者自身の交感神経節7,12)や副腎髄質クロム親和性細胞1),さらに中絶ヒト胎児脳に由来するドーパミンニューロンをドナー細胞とした移植治療が臨床応用されるようになった.これらの移植治療は一定の成果をおさめているが,交感神経節や副腎髄質クロム細胞による移植では機能面での限界があり,中絶胎児由来の細胞では倫理的な問題を避けては通れない.また,いずれの細胞においても移植神経細胞の生着率が極めて低いという事実も無視できない.例えば,再生能が旺盛な胎児細胞の移植においてさえもその生着率が5%前後と低く,1回の手術で6~8体もの中絶胎児を必要とし,絶対数の不足という点からも,胎児神経移植がパーキンソン病の一般的な治療として定着するのは困難と言わざるを得ない.したがって,新たなドナー細胞の確保と生着率向上のための工夫が今後の再生医療におけ最重要課題といえる.

 このような状況のもと,神経疾患に対する細胞移植治療の新たなドナー細胞として注目されているのが神経幹細胞,胚性幹細胞(embryonic stem cells;ES cells),さらには骨髄間質/幹細胞である.われわれは,骨髄間質細胞(marrow stromal cells;MSCs)の神経栄養効果と神経分化誘導作用に着目し,同細胞が細胞移植療法における新たなドナー細胞の確保と生着率向上に向けた戦略へとつながる可能性を検討してきた.本論文では,これらの研究結果をレビューして,再生医療への応用の可能性,特にパーキンソン病に対する再生医療への応用について展望したい.

てんかんの画像と病理

1.限局性皮質形成異常 focal cortical dysplasia

著者: 亀山茂樹 ,   柿田明美

ページ範囲:P.615 - P.622

Ⅰ.はじめに

 難治性てんかんを有する症例において,種々のてんかん原性病変が高磁場magnetic resonance imaging(以下MRI)により発見される.また,てんかん外科臨床の中で,てんかん焦点の切除標本の病理診断として限局性皮質形成異常(focal cortical dysplasia, 以下FCD)が多いことは周知のことである.1971年Taylorらが10例の手術標本から特徴的な病理組織像を発見し報告したのが最初であり15),Taylor type FCDと呼ばれる所以である.Taylor type FCDの多くはMRIで明瞭な病変として発見される(Fig. 1).その後の研究から,FCDはそれ自体がてんかん原性をもつことが明らかになり10),てんかん外科の中で重要な意味を有することになった.一方, FCDの診断率は高くなっているが,すべてのFCDがMRIで視認できるわけではないことも重要な事実である.しかしMRIで陰性のてんかん焦点の多くが病理学的にFCDと診断されるため,FCDに対してより感度の高いMRI撮像法,あるいは検査法が必要であると考えられる.本稿では,FCDの画像の特徴,鑑別の意義について病理学的分類を踏まえて考察したいと思う.MRIで見えるFCDと見えないFCDの病理組織学的背景についても明らかにしたい.

海外留学記

臨床研修報告:Department of Neurosurgery, University of Erlangen-Nuernberg

著者: 阿久津博義

ページ範囲:P.624 - P.626

 Erlangenは南ドイツのBayern州Franken地方に位置し,Nuernbergから電車で20分程度の所にある,大学とSiemensで成り立っている人口10万人程度の小さな町です.Erlangen大学脳神経外科はKopfklinik(写真1)という眼科・神経内科・精神科・神経放射線科からなる病院内にあり,脳神経外科だけで92床を有し,ドイツで2番目に大きな脳神経外科の施設です.2005年10月までは下垂体腫瘍と術中MRIで有名なProf. Fahlbuschがchairmanでしたが,以降は彼の元同僚でGoettingen大学の教授であったProf. Buchfelderが後を引き継いでいます.前任教授の頃からドイツにおける間脳下垂体腫瘍のセンターとなっており,困難な症例や再手術例などが全ドイツならびに周辺国からも数多く紹介されてきます(昨年度の間脳下垂体腫瘍の手術件数は約300件でした).またその他の脳腫瘍,脊椎疾患,てんかん外科も充実しています.4つの手術室の1つには1.5Tの術中MRIとneuronavigationが備わっており,functional MRI,MEG,diffusion tractgraphy等の結果を顕微鏡の画面中に表示しつつ手術ができるとともに,切除範囲の確認を術中に行っています.そこでは巨大下垂体腫瘍,glioma,脳室内腫瘍,てんかん外科,およびstereotactic biopsyなどの手術が行われます.

 私が所属している筑波大学脳神経外科医局では松村教授と上村講師がDAAD奨学生としてそれぞれ2年間ドイツで臨床研修をしており,その豊富な手術件数と,そこでのすばらしい経験を聞いていたので,私もドイツの,特に興味を持っている間脳下垂体腫瘍の手術件数の豊富な施設でぜひ臨床研修を受けたいと希望していたところ,松村教授がErlangen大学の先生と知り合いだったこともあり受け入れの許可をいただきました.それと平行してDAAD奨学金の応募をしました.DAAD奨学金は金額としては少ないですが,素晴らしいのはドイツでの医師活動許可の申請を代行してくれることです.それによってEU圏外の外国人でも,実際に手術をはじめとするすべての医療行為を法的に問題なく行うことができます.私は卒後8年目の2005年10月1日から研修を開始したのですが,臨床をやるからにはドイツ語が絶対に必要と感じていたので日本でもレッスンを受けるとともに,研修開始前にミュンヘンでホームステイをしつつ4カ月弱のドイツ語の集中講座に参加しました.それでも研修開始当初は会話が全くわからず,仕事は手術の助手のみという感じでしたが,2カ月を過ぎてドイツ語に慣れてきた頃から当直もやり始め,他のドイツ人と同様に病棟業務もこなし始めました.そして研修を開始して半年ほど経過した頃にProf. Buchfelderの自宅に家族とともに食事に招待され,その席で次年度(2006年10月)から正職員として採用してもいいとの言葉をいただきました.その時の嬉しさは今でも忘れられません.現況ではEU外の外国人がドイツで有給で医師として働くのはかなり困難なことでしたが,最終的に州政府から現在の医師活動許可の延長ということで許可してもらえました.仕事の面でも語学力の向上とともに任されることも多くなり,2006年の7月頃より当直は助手2人体制の上のほうの立場になりました.また,時間外の手術は基本的に年下の助手と2人でやるようになり,定時手術でも脊椎手術や脳腫瘍の開閉頭などは1人で任されるようになりました.筑波大学のレジデント教育では若いうちから動脈瘤や脳腫瘍なども積極的に執刀させる方針をとっており,また脊椎疾患にも力を入れていることもあり,手術の経験という意味ではそれほどドイツ人の同世代の人たちと遜色なく,また日本の専門医を取得しているということでドイツでも信用してもらえました.むしろドイツでは動脈瘤の手術などは講師でも上のほうの人しかできないほど敷居が高い手術なので,私の動脈瘤の手術経験数を話すと同世代の同僚たちに驚かれたくらいです.ただ,脊椎の手術に関してはドイツでは桁違いに数が多いのでむしろドイツで多くを学ぶことができました.ドイツでは一般的に最初のmicrosurgeryが腰椎ヘルニアの手術とされています.またヘルニアの手術はmicroscope下に片手でdrillやstanzeを使うよい訓練になることがわかりました.本来の目的である間脳下垂体腫瘍に関しては再手術例を含め困難な症例が多く,そう簡単には執刀させてもらえませんが,助手として多くの症例を経験し,また非常に稀なことではありますが教授の指導の下に執刀させていただく機会も得ました.Prof. Buchfelderはtranssphenoidal approachを最も得意としていますが,transcranial approachによる下垂体腫瘍,鞍上部髄膜腫,頭蓋咽頭腫の手術に関しても多くの経験を持っています.また,間脳下垂体腫瘍のみならずその他の頭蓋底腫瘍や聴神経腫瘍,glioma,episurgery,そして動脈瘤や脊椎疾患も手術できるまさにオールラウンドな外科医であり,助手として入っているだけでもかなり勉強になります.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

日本と米国の脳神経外科診療の違い―第3回

著者: 伊藤昌徳

ページ範囲:P.627 - P.636

Ⅰ.はじめに

 日々変化する医療環境のなかで,他国のシステムをどのように取り入れながら,日本の医療,とりわけ脳神経外科診療システムを構築していくかが,今後の課題である.そのために「日本と米国の脳神経外科診療の違い」を知ることは現状を再評価し将来を考える手がかりとなり得る.米国の医療費請求・支払い制度はホスピタルフィーとドクターフィーの二本立てであり,医療費は日本のように「公定価格,全国統一価格」ではなく「一物多価」である.歴史的には長い間同じ手術でも外科医により設定料金が異なり,また地域によって2~3倍の差 があり,しかも保険会社によって請求・支払い方式や料金が異なっていた.現在もこの傾向に変わりはないが,公的高齢者保険であるメディケアに全国一律の診療報酬が採用されることになり,1983年からホスピタルフィーに包括支払い方式DRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system)が導入され,1992年からドクターフィーに包括支払い方式RBRVS(resources based relative value scale)が導入された.日本では常識であるが,米国ではすべての医師に全国統一の診療報酬を採用することは一つの革命であった.ドクターフィーの点数計算方式には地域格差,医療過誤保険料などの係数が加味されている点が興味深い.しかし,実際の米国の病院では,いまだに提示価格(charge)と呼ばれる独自の診療価格が設定されており,病院間による提示価格の開きが大きく,病院と保険会社,患者との間で値引き交渉が行われている.米国の医療は様々な契約によって成り立っており,日本との大きな違いをみることができる.

書評

『頭頂葉』―酒田英夫著 山鳥 重,彦坂興秀,河村 満,田邉敬貴●シリーズ編集 〈神経心理学コレクション〉

著者: 入來篤史

ページ範囲:P.579 - P.579

 酒田英夫先生の研究の足跡は,世界の頭頂葉の研究の歴史そのものである.そして,その集大成を象徴するのが,本書最終章に掲げられた,セザンヌの『サン・ヴィクトワール山』に見る線遠近法の妙技であり,フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』に込められた陰影の魔術なのである.つまり,「頭頂葉を通してみた世界の風景」はかくあり,ということなのだと思う.どのようにしてこの境地に辿りつかれたのか,その歩みの一歩一歩に込められた想いを,希望を,信念を,本書の聞き手の山鳥重,河村満,田邊敬貴の3先生が巧みな質問で聞き出してゆき,酒田先生ははるか遠くに視線を投げながら,そのときどきの世界の研究現場の人間模様を回想しつつ物語ってゆく.

 ここには酒田英夫先生の,自然に対する畏敬の念が満ちている.真の研究者かくあるべし,という真摯な態度である.そんな中で,私の心に残ることばがある.本書にも出てくる『ニューロンに聞く』という,脳に対する謙虚な研究姿勢である.まずは仮説を立てて,神経活動を検証するための手段として用い,精密に定式化されたモデルを構築してゆく,という現在一般的になった神経生理学の手法とは,明確に一線を画するこの態度は,いまや「酒田学派」のスローガンといってもよいだろう.

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編集後記

著者: 吉田純

ページ範囲:P.644 - P.644

 本号では扉に濱田潤一郎教授の「硫黄島からの手紙の味わい」という原稿をいただいた.敗戦につながった硫黄島の戦いと崩壊につながりつつある日本の医療の現状を重ね,また最前線で指揮を執る栗林陸軍中将と濱田教授の日本の将来を憂う思いが切々と綴られている.おそらく,これまでわが国の脳神経外科医療の発展に寄与してきた脳神経外科医全員が同じ思いを抱いていると思う.現在の少子高齢,人口減少社会において戦後の日本の繁栄を支えてきた団塊の世代が,ここ数年で前線から退き,代わって社会の主軸になるのがバブル崩壊時に就職期を迎え,失われた10年の長い不況時代を経験し,現在総中流社会から格差社会へと社会構造の変化の中で戸惑っている25~35歳の若者達である.医療界においても,初期臨床研修の必須化,マッチング制度の導入,医局制度の否定,そして医師,看護師の不足と偏在の荒波の中,今後中心となる若手医師が戸惑いながらもこれまでのように医学研究や社会福祉への貢献に情熱を傾けられないでいる.

 一方,国は医療の質と安全性の確保,そして歯止めのかからない国民医療費の高騰を抑制する目的で診療報酬の引き下げ,DPCの導入,高齢医療制度の導入,療養病床の削減,そして次には急性期病院の削減,有床診療所の見直し等の医療制度改革が着々と進められている.いずれも運用次第ではむしろ改悪になることが危惧される.どちらにせよ直接影響を受けるのは国民であり,今こそ医療提供者と医療享受者である国民とが一体となって正確な医療情報を共有し,医療制度のあり方を考える時期であり,またこれまでのような病院,医師中心の医療から,患者・市民中心の医療へとパラダイムシフトが必要だと感じている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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