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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科36巻10号

2008年10月発行

雑誌目次

雑感

著者: 波出石弘

ページ範囲:P.843 - P.844

 千葉県の南のこの病院に勤務し2年が経とうとしている.波の音で目覚め,200歩で職場に着き,12月には菜の花と水仙が咲く雪のない冬.それまでの東北での生活が嘘のようである.永く在職した秋田県立脳血管研究センターでは,脳神経外科医として,また臨床研究にかかわる者としての基本的な技術と態度を学んだ.大学卒業時,「心配するな.医者になったら米の飯とお天道様は付いてくるじゃ.好きなことせ~よ!」と先輩に励まされたが,明確な進路を持たず,絶対好きになれなかった脳神経外科をとりあえず2年間勉強して来いと言われ,フラフラとたどり着いた秋田であった.しかしそこは大学と異なる論理で運営される臨床の場で,とにかく手術が好きな脳神経外科医が沢山集まっていた.正直なところ大学医局のヒエラルキーが嫌いでうろうろしていた私には,最初からなんとなく落ち着ける場所でもあった.派遣した医局(救急医学)へ早々とフリーエージェント宣言したのは,少しずつ知識と技術が身に付く自分を確認できることの喜びを知ったからである.医局の大気圏外に出るのは少し勇気が要ったが,ひと所に腰を落ちつけて学ぶことができるのもありがたかった.しかし,何の不満もない職場ではあったが,20年も同じ所に居ると腰の辺りがムズムズしてくる.「転がる石に苔生えず」という諺があるが,50歳を前にもうひと転がりしてみたいと思い,不思議なご縁に身を委ねての今回の異動であった.

総説

脳腫瘍におけるメチオニンPET

著者: 河井信行 ,   香川昌弘 ,   畠山哲宗 ,   西山佳宏 ,   山本由佳 ,   三木彰浩 ,   市川智継 ,   田宮隆

ページ範囲:P.847 - P.859

Ⅰ.はじめに

 PET(positron emission tomography:陽電子放出断層シンチグラフィ)は,ポジトロン(陽電子)を放出する放射性核種を検出して断層撮影を行うものである.このポジトロン放出核種として代表的な炭素,窒素,酸素などは生体構成元素であり,生体に必要な化合物をこれらの核種で置換することにより,生体の生理・化学的情報を定量的に描出することが可能となる.脳腫瘍,特に悪性脳腫瘍の診断におけるPET標識化合物としては,ブドウ糖代謝を測定する18F-FDG(2-deoxy-2-[18F] fluoro-D-glucose:FDG)が最もよく知られている.FDGはブドウ糖の類似化合物で,ブドウ糖と同様にglucose transporter(GLUT:グルコース輸送体膜蛋白)と結合して血液脳関門(BBB)を通過し,脳組織に入りhexokinaseによりリン酸化されてFDG-6-リン酸となる.しかしFDG-6-リン酸は,ブドウ糖-6-リン酸と異なり,phosphoglucose isomeraseの基質とはならず,解糖系へ進むこともなく,またリン酸化の逆反応である脱リン酸化も受けにくい.したがって,FDG静注後より45~60分経過後の局所脳放射能分布は,局所脳ブドウ糖消費量をよく反映しているとされる.癌細胞においては,悪性度の高いものほどGLUTが過剰発現し,またhexokinaseの活性化が亢進しており腫瘍へのFDGの集積は増加する.

 一般に,脳腫瘍においても悪性度が高い腫瘍ほど糖代謝が活発なため,FDGは強い集積を示し,悪性度の評価や治療効果判定,予後の推測などに有用であるとされている38).しかし正常大脳,特に大脳皮質では糖代謝が盛んでFDGが強くとりこまれるため,脳腫瘍のFDG-PETは他部位の腫瘍と事情が異なり,正常集積部との比較に注意が必要である.神経膠腫においては,glioblastoma multiforme(gradeⅣ)では正常大脳皮質よりFDGが強く取り込まれることがあるが,diffuse astrocytoma(gradeⅡ)では大脳皮質より取り込みが弱く,場合により大脳皮質の取り込み低下が神経膠腫の局在診断となる場合もある.Anaplastic astrocytoma(gradeⅢ)では細胞密度などによりFDGの取り込みの程度はさまざまである.また,小さな腫瘍の局在診断や腫瘍の範囲の正確な同定はFDG-PETでは不可能である.

 一方,脳腫瘍の治療効果判定や再発診断において,FDG-PETは細胞レベルでの代謝をみるため,非特異的な造影効果や信号変化を捉える形態学的画像診断と比較して特異度が高く,予後予測にも有用であると考えられる.しかしながらFDGの取り込みは腫瘍細胞のみに特異的ではなく,viableな腫瘍細胞よりも壊死巣周囲のマクロファージや治療によって変性した腫瘍細胞にも多く取り込まれる.また多くの良性病変や脳膿瘍でもFDGは集積することが知られている.

 FDGの欠点と限界を克服するために腫瘍に特異性の高いトレーサーの利用が試みられており,11C-メチオニン(L-methyl-[11C] methionine:MET)もその1つである.必須アミノ酸であるメチオニンは,中性アミノ酸の一種で,元来蛋白質合成能を評価する目的で開発されたトレーサーであるが,PETで撮影できる時間内(投与後20~30分間)では脳組織へのアミノ酸輸送を主に見ているだけであると考えられている.投与されたMETは主に中性アミノ酸の能動輸送機構によりBBBを通して脳に取り込まれるが,一部は障害されたBBBを介した受動的な拡散も脳への取り込みに関与しているとされている.

 METの臨床使用における問題点は物理学的半減期が短いことである.半減期が比較的長い18F化合物である18F-FDGが2005年7月に放射性医薬品としての承認を受け,ハブ・サイクロトロン施設からのデリバリーサービスによるPET検査が可能となったが,11Cの物理学的半減期は20分と短いため,MET-PETを行うには施設にサイクロトロンを設置することが必須である.また1回に十分な量を合成しても施行できる検査数には限りがあり,数多くの検査を行うためには何回もの合成を必要とする.

 本総説では,脳腫瘍の初期診断や再発時の診断おけるMET-PETの有用性を,自験例を提示しながら概説する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脳内出血に対する内視鏡手術

著者: 山本拓史 ,   森健太郎

ページ範囲:P.861 - P.872

Ⅰ.はじめに

 現在,わが国において神経内視鏡は,狭小空間における微小血管や神経の観察に始まり,非交通性水頭症に対する第3脳室開放術,下垂体腺腫の摘出術や脳内出血の除去術など,さまざまな疾患に対する外科治療に活用されている.その特徴は,神経組織に対しては低侵襲であるにもかかわらず,従来の顕微鏡手術にも勝るとも劣らない局所視野が得られ,かつ疾患によっては内視鏡のみで根治的な外科治療が可能なことである.ただし,低侵襲下での治療を成功させるためには,治療対象となる疾患の性質を十分に理解し,手術操作を行う局所の解剖を熟知することが非常に重要になってくる.

 さまざまな疾患に対する神経内視鏡手術が発展・普及する中で,脳内出血,特に高血圧性脳内出血に関しては,そもそも外科治療そのものの有効性を証明するエビデンスが乏しく,脳卒中ガイドライン10)においてもグレードCの推奨度にとどまる治療法であることを認識すべきである.事実,海外の研究8)では,高血圧性脳内出血に対する発症後72時間以内の急性期血腫除去術の有効性については,否定的な結果が示されている.しかしながら,わが国では金谷5)による約7,000症例の調査結果をもとに,外科的治療が比較的積極的に行われてきたという歴史的な背景があり,さらに近年,血腫除去術における内視鏡の低侵襲性が明らかとなるに至って1,2,4),従来の開頭術ではなく内視鏡を用いた血腫除去術が多くの施設で行われるようになった.

 ただし,現時点においては内視鏡下血腫除去術が他の治療法と比較して,患者の機能予後を有意に改善するという根拠は明らかではなく,本法の導入が血腫除去術の手術適応を拡大するものではないと考えている.したがって,内視鏡を用いたとしても従来からの手術適応の基準に則って血腫除去術を行うことが原則となるが,内視鏡下に血腫を低侵襲に除去することにより,術後合併症が回避され急性期の患者管理が容易になることは十分に予測されるところである.その結果,患者の急性期リハビリテーションへの移行が促進され,これが機能予後の改善に結びつくと期待するのは極めて妥当であり,今後はこのような予測・期待をエビデンスとして実証していく必要があることはいうまでもない.

 これら内視鏡手術の手術適応あるいはその有用性に関する議論は他稿に譲ることとして,本稿では,筆者らが行っている内視鏡下血腫除去術の手術手技を中心に示し,血腫部位の違いによる工夫について解説する.

研究

超高齢者破裂脳動脈瘤における局所麻酔下コイル塞栓術および選択的局所動注療法の役割について―preliminary report

著者: 嶋村則人 ,   奈良岡征都 ,   中野高広 ,   小笠原ゆかり ,   竹田哲司 ,   大熊洋揮

ページ範囲:P.873 - P.878

Ⅰ.はじめに

 超高齢者破裂脳動脈瘤に対する治療転帰が不良であることは多くの報告により指摘されている1,2,7,9,10,12).コイル塞栓術がクリッピング術に比較して有効だとした2002年のInternational Subarachnoid Aneurysm Trial(ISAT)のsubgroup解析報告にあっても,70歳以上の症例に対しては,コイル塞栓術のクリッピング術に対するメリットは他年齢層に比べて比較的小さいとの結果が示されている6).一方,高齢者に対してはコイル塞栓術が優れているとの多くの報告もあり2,4,11),高齢者くも膜下出血症例に対しての手術方針については一定の見解が得られていない.75歳以上の破裂動脈瘤症例に対する当科の治療方針は,2005年以前はクリッピング術を第一選択としてきたが,2006年以降は局所麻酔下コイル塞栓術を第一選択とし,術翌日からの離床を試みている.また,症候性脳血管攣縮症例には積極的に緊急脳血管撮影を行い,血管拡張剤の超選択的動脈内投与を行っている.クリッピング術とコイル塞栓術の対立ではなく,両者を融合させた超高齢者破裂動脈瘤の至適治療法について検討する.

テクニカル・ノート

脳神経外科穿頭術におけるburr-hole用プローブを用いた術中エコーの有用性

著者: 林健太郎 ,   宗剛平 ,   馬場史郎 ,   松尾孝之 ,   北川直毅 ,   陶山一彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.879 - P.883

Ⅰ.はじめに

 穿頭術は脳神経外科手術の中でもよく行われているが,術野が狭く,盲目的操作を強いられることがある.Burr-hole用エコープローブは先端が直径約1cmと小さく,burr-holeに挿入することができ,頭蓋内を観察できる10).穿頭術におけるburr-hole用プローブを用いた術中エコーの有用性を報告する.

症例

二期的手術が有効であった蝶形骨縁巨大髄膜腫の1例

著者: 大井祥恵 ,   齋藤清 ,   市川優寛 ,   相見有理 ,   岡田健 ,   永谷哲也 ,   下山芳江

ページ範囲:P.885 - P.890

Ⅰ.はじめに

 巨大な頭蓋底髄膜腫の手術は容易ではない.脳の主要血管や脳神経を巻き込み,内頸動脈系から腫瘍栄養血管が入り込んでいることも多い.腫瘍摘出に要する手術時間の延長や多量出血のため,一期的全摘出術はときに困難である.今回われわれは,蝶形骨縁巨大異型髄膜腫に対し放射線療法を含めた二期的手術を行って,易出血性の腫瘍が全摘出できた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

前脈絡叢動脈損傷による外傷性脳出血の1例

著者: 木下良正 ,   安河内秀興 ,   原田篤邦 ,   津留英智 ,   奥寺利男

ページ範囲:P.891 - P.894

Ⅰ.はじめに

 外傷性基底核出血は稀な出血形態で,頭部損傷のCT検査の3.1%に存在していると言われ,小児例の報告が多い7).しかし,それらは中大脳動脈の穿通枝である線状体動脈の損傷例が多く,前脈絡叢動脈損傷例は非常に稀である9).われわれは,外傷性前脈絡叢動脈損傷により片麻痺,同名半盲と一過性の無言症,仮性球麻痺,幻視を生じた症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

髄液通過障害により脊髄損傷後早期に発症したと考えられる脊髄空洞症の1例

著者: 芳村憲泰 ,   佐々木学 ,   モリスシェーン ,   安部倉信 ,   吉峰俊樹

ページ範囲:P.895 - P.900

Ⅰ.はじめに

 外傷後の脊髄空洞症は,受傷から数年後に発症するといわれている.今回われわれは,受傷後10カ月で脊髄空洞症を発症し,その発生機序が髄液流通障害によると思われる症例を経験した.発生機序や治療方法などについて文献的考察を加えて報告する.

くも膜下出血を呈した頭蓋頸椎移行部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 高橋潔 ,   林悟 ,   大谷敏幸 ,   瀬良誠 ,   根岸正敏

ページ範囲:P.901 - P.906

Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻(以下,DAVF)は海綿静脈洞や横静脈洞に多くみられ,さまざまな症状を呈する後天的疾患として知られ,頭蓋内血管奇形の10~15%を占めるとされる.多くのDAVFでは硬膜静脈洞が関与しているが,前頭蓋底や小脳テント部のものは脳表静脈に流出する動静脈シャントを形成し出血しやすいことが知られている6).頭蓋頸椎移行部にみられるDAVFも同様で,皮質静脈へ流出するパターンを呈し重篤な症状を呈することが知られている5)が,比較的稀である.今回われわれは,くも膜下出血で発症した頭蓋頸椎移行部のDAVFを経験したので報告する.

急性硬膜下血腫および脳内血腫で発症した外傷性硬膜動静脈瘻の1例

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛

ページ範囲:P.907 - P.910

Ⅰ.はじめに

 外傷性硬膜動静脈瘻は比較的稀な疾患であり1,2,4,6,11),報告例では,硬膜外血腫を伴うことが多いとされている4).しかし,急性硬膜下血腫や脳内血腫を認めた症例は少ない6).われわれは,頭蓋骨骨折を伴う頭部外傷後,1日経過して急性硬膜下血腫および脳内血腫を発症し,中硬膜動脈と中硬膜静脈の間での瘻を確認した症例を経験したので,発症の病態生理を含めて報告する.

頸椎前方手術の稀な合併症例―Horner症候群

著者: 安本幸正 ,   阿部祐介 ,   堤佐斗志 ,   近藤聡英 ,   野中宣秀 ,   伊藤昌徳

ページ範囲:P.911 - P.914

Ⅰ.はじめに

 Horner症候群は頸部腫瘍,肺尖部癌または外傷や頸部手術に合併することが知られているが,頸椎前方手術においてHorner症候群が合併する率は,1989年までの報告では0.2~4%2-4,7,8,13)であり,稀な合併症である.最近の英文文献検索では,頸椎前方中央部から到達する除圧固定術の合併症としてHorner症候群に関する報告は渉猟し得ず,Horner症候群は通常の頸椎前方手術合併症として,認識されなくなっていると想像され,われわれは患者への手術説明の際に,Horner症候群の合併について言及していなかった.

 今回われわれは,頸椎症に対し行った前方中央部から侵入した徐圧固定術直後にHorner症候群が合併した症例を経験したので報告するとともに,頸部交感神経幹に関する解剖学的文献から外科解剖について考察する.

座談会

女性脳神経外科医の生き方・はたらき方

著者: 中洲庸子 ,   矢向今日子 ,   入江恵子 ,   伊部洋子 ,   小濱みさき ,   佐々木富男

ページ範囲:P.917 - P.927

 本年の医師国家試験では,合格者に占める女性の割合は34.5%と過去最高を記録しました.その一方で,女性医師の半数以上が,出産・育児等の理由で常勤を辞めた経験があるという調査結果が出ています(朝日新聞,2008年7月26日).特にハードな勤務が求められる脳神経外科においても,女性のはたらく環境の整備や,キャリアの重ね方など,考えるべき課題が増えています.そこで今回の座談会では,それぞれ異なった立場におられる女性脳神経外科医の方々に,仕事のこと,家庭のこと,その両立についてなど,生の声をお聞かせいただきました.(『脳神経外科』編集室)

海外留学記

オハイオ州立大学脳神経外科(neurOSUrgery)留学体験記

著者: 黒住和彦

ページ範囲:P.929 - P.931

 2005年1月~2008年3月の約3年間,米国オハイオ州立大学脳神経外科に留学しておりましたので,今回留学体験記という形でご報告させていただきます.

コラム:医事法の扉

第30回 「使用者責任」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.933 - P.933

 第14回コラムで触れましたが,医療過誤訴訟では,直接治療を行った医師だけでなく,しばしば使用者(病院経営者など)が被告として訴えられてしまいます2).これは,「ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」(民法715条1項本文)という規定に基づくもので,「使用者責任」といいます.709条の一般不法行為の要件が修正された「特殊の不法行為責任」の1つといわれています.これは,そもそも使用者は,被用者を雇い,それを利用して活動範囲を拡大し自ら利益を得ているのだから,被用者が仕事に関して他人に損害を与えてしまった場合には,使用者自身が損害賠償責任を負うべきとする考え(報償責任)に由来します.

 もっとも,民法715条1項但書には,「ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない.」とあり,使用者に落度がなければ,責任が免除されるという規定になっています.すなわち,使用者が自己に過失のないことを立証すれば損害賠償責任が回避されるというもので,これを「中間責任」といいます.ただ実際には,使用者が過失がないことを立証することは極めて困難なので(戦後の判例上免責が認められた例の報告はない)3),使用者責任は,事実上「無過失責任」であるとされています.

書評

『クリニカルエビデンス・コンサイスissue16 日本語版』―葛西 龍樹●監訳

著者: 津谷喜一郎

ページ範囲:P.878 - P.878

 “Clinical Evidence”(CE,クリエビ)は英国医師会出版部(BMJ Publishing Group)が作成している全世界的に定評のあるEBM支援ツールである.以前,他社からフルテキスト版の日本語訳が3回発行されたが,諸事情によりその後発行が途絶えていた.このたび医学書院から,原書第16版の「コンサイス版」が日本語版として発行されたことを,まずは歓迎したい.

 クリエビの原書は,IT技術を駆使して複数のメディアと構成で提供されており,そのことも革新的ではあるのだが,その中での日本語版の本書の位置づけがわかりづらくなっている.ここでは,本書の位置づけを中心に述べよう.

文献抄録

MDCTA of carotid plaque degree of stenosis:evaluation of interobserver agreement

著者: 犬飼千景

ページ範囲:P.935 - P.935

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編集後記

著者: 佐々木富男

ページ範囲:P.942 - P.942

 専門医試験を終えて大学へ行くと,本号の原稿コピーと今年のコングレスの期間中に行った「女性脳神経外科医との座談会」の校正刷が届いていた.小生にとって,女性脳神経外科医との座談会は大変印象深いものであったが,その中で,男性脳神経外科医の意識改革が必要であると思われた点について紹介する.女性には体力的なハンデイキャップがあるうえに,結婚,出産,育児という問題があるため,多少のサポート体制が必要であろうと思っていたが,出産前後の一定期間は別として,女性だからといって特別なサポートはしてもらわなくてもよいというものであった.それよりも,「男女の別なく,1人のtraineeとして教育してほしい」,「男性と対等に手術する機会を与えてほしい」,という意見を持っている人が多かった.結婚についても,independentに協同生活を送れるパートナーか否かを自分で判断して結婚しているので,特別な配慮は不要であるという意見があった.こうした意見を拝聴していると,脳神経外科に入局してきた女性たちは,男性よりも強い意志と覚悟のうえで一流の脳神経外科医になることを目指している人が多いのかもしれない.折りしも,この編集後記を書いている8月中旬は北京オリンピックの最中である.オリンピックのテレビ中継を見ていると,日本代表チームにおいては,男性よりも女性選手の活躍が目立っている.脳神経外科の領域でも,近い将来,女性の主任教授や部長がさらに増えて,女性の活躍が目立つようになるのであろう.

 さて,本号の掲載論文の中では,総説「脳腫瘍におけるメチオニンPET」と症例「急性硬膜下血腫および脳内血腫で発症した外傷性硬膜動静脈瘻の1例」を興味深く拝読した.「脳腫瘍におけるメチオニンPET」では,メチオニンのみならず,FDGや18F-FMT,18F-FLTについてもわかりやすく解説されていた.「急性硬膜下血腫および脳内血腫で発症した外傷性硬膜動静脈瘻の1例」では,交感神経の走行に関する詳細な記述がなされており,勉強になった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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