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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科36巻10号

2008年10月発行

文献概要

コラム:医事法の扉

第30回 「使用者責任」

著者: 福永篤志1 河瀬斌1

所属機関: 1慶應義塾大学医学部脳神経外科

ページ範囲:P.933 - P.933

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 第14回コラムで触れましたが,医療過誤訴訟では,直接治療を行った医師だけでなく,しばしば使用者(病院経営者など)が被告として訴えられてしまいます2).これは,「ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」(民法715条1項本文)という規定に基づくもので,「使用者責任」といいます.709条の一般不法行為の要件が修正された「特殊の不法行為責任」の1つといわれています.これは,そもそも使用者は,被用者を雇い,それを利用して活動範囲を拡大し自ら利益を得ているのだから,被用者が仕事に関して他人に損害を与えてしまった場合には,使用者自身が損害賠償責任を負うべきとする考え(報償責任)に由来します.

 もっとも,民法715条1項但書には,「ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない.」とあり,使用者に落度がなければ,責任が免除されるという規定になっています.すなわち,使用者が自己に過失のないことを立証すれば損害賠償責任が回避されるというもので,これを「中間責任」といいます.ただ実際には,使用者が過失がないことを立証することは極めて困難なので(戦後の判例上免責が認められた例の報告はない)3),使用者責任は,事実上「無過失責任」であるとされています.

参考文献

1)福永篤志,河瀬 斌:医事法の扉 第7回「損害賠償」.No Shinkei Geka 34:1167, 2006
2)福永篤志,河瀬 斌:医事法の扉 第14回「債務不履行と不法行為」.No Shinkei Geka 35:581, 2007
3)内田 貴:民法Ⅱ債権各論第2版.東京大学出版会, 2007, p456

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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