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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科36巻11号

2008年11月発行

文献概要

症例

診断が困難であったノカルジア脳膿瘍の1例

著者: 和久井大輔1 伊藤英道1 池田律子1 吉田泰之1 古屋優1 田中克之1 橋本卓雄1

所属機関: 1聖マリアンナ医科大学脳神経外科

ページ範囲:P.1011 - P.1016

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Ⅰ.緒言

 ノカルジア脳膿瘍はノカルジア感染症の25~40%を占め,全脳膿瘍の1~2%を占めるとされている9).近年日和見感染症として増加傾向にあるが14),ステロイド・免疫抑制剤内服,悪性腫瘍末期,糖尿病などの日和見感染症としてではなく,基礎疾患を有さない症例が25~50%を占めるとも報告されている8,9).感染経路としては,約70%が肺より血行性に転移するといわれているが,中枢神経原発例も5~8%に報告されている15)

 一般に脳膿瘍のMRI所見はring-enhanced areaとして描出され,悪性脳腫瘍との鑑別が問題となる.拡散強調画像において腫瘤内容が均一な高吸収域を示すこと,proton MR spectroscopy(MRS)所見はlactate,acetate,alaninなどのピークが特徴とされ,術前鑑別診断の手助けとなっている3,7,12)

 このような所見から脳膿瘍の鑑別診断は可能であるが,ノカルジアが起因菌である脳膿瘍のMRS所見に関しては症例数も少なく特徴的な所見に関する報告も散見される程度である.

 今回われわれは,lactate,acetate,alaninなどのピークが認められないという特徴的なMRS所見を呈し,転移性脳腫瘍や膠芽腫との鑑別に苦慮した中枢神経原発と思われるノカルジア脳膿瘍の1例を経験した.遺伝子解析にて16S rRNA遺伝子の塩基配列が100%一致したためN. asiaticaを起因菌として同定した.N. asiaticaによる脳膿瘍は渉猟し得た範囲では本邦で初の症例となる.

 本症例から画像診断上の鑑別点を,特にノカルジアと他の起因菌との代謝過程の違いをもとに考察し報告する.

参考文献

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13)竹田美文,林 英生 編:細菌学.朝倉書店,東京,2002, p581
14)山下史郎,松本義人,大久保修一,國塩勝三,長尾省吾:ノカルジア脳膿瘍の1例.脳外速報12:671-674, 2002
15)米山智子,山上岩男,峯 清一郎,佐伯直勝,山浦 晶,尾崎裕昭,中崎 将:ノカルジア脳膿瘍:外科治療と術後抗生剤併用の有用性.No Shinkei Geka 32:457-462, 2004
16)Yoshida Y, Tanaka K, Hashimoto T:The significance of lipid resonance in Proton MR Spectroscopy of brain tumors. 聖マリアンナ医大誌32:329-338, 2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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