文献詳細
文献概要
コラム:医事法の扉
第22回 「医師の裁量権」
著者: 福永篤志1 河瀬斌1
所属機関: 1慶應義塾大学医学部脳神経外科
ページ範囲:P.171 - P.171
文献購入ページに移動 医療行為は「業務」の1つですが,同じ「業務」である自動車の運転行為等とは異なり,極めて高度な専門性・技術性を要する「業務」です.したがって,医療行為が原因で患者に損害が発生した場合に,その医療行為が業務として適切であったかどうかの判断には,単純なルール違反の有無ではなく,専門性・技術性の範囲内で許容されるか否かが検討されることになります.すなわち,医師による医療行為が,その専門性・技術性の観点から許容された範囲を逸脱した場合に限り,医師の裁量を逸脱し,その医療行為は違法であると判断されます.つまり,専門性を尊重して,その範囲で裁判所の判断権が制約を受けます.
患者には必ず個人差があります.その差を見極め,担当患者にとって最適・最善の医療を提供するのが医師の役目ですから,原則として,各患者において臨機応変な治療が要求されます.つまり,医師は,治療の「さじ加減」を任されているのです.これが,まさに「裁量権」です.このように「裁量権」には幅がありますが,その裁量の範囲は明確ではありません.法律上にも規定はありません.この点,最高裁は,治療行為に注意義務違反があったか否かについて「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」に照らして判断すべき旨を判示していますので(昭和61年5月30日判決),ある治療行為が医師の裁量の範囲内であると評価されるためには,まず上記医療水準に達している必要があると考えられます.
患者には必ず個人差があります.その差を見極め,担当患者にとって最適・最善の医療を提供するのが医師の役目ですから,原則として,各患者において臨機応変な治療が要求されます.つまり,医師は,治療の「さじ加減」を任されているのです.これが,まさに「裁量権」です.このように「裁量権」には幅がありますが,その裁量の範囲は明確ではありません.法律上にも規定はありません.この点,最高裁は,治療行為に注意義務違反があったか否かについて「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」に照らして判断すべき旨を判示していますので(昭和61年5月30日判決),ある治療行為が医師の裁量の範囲内であると評価されるためには,まず上記医療水準に達している必要があると考えられます.
参考文献
1)福永篤志,河瀬 斌:医事法の扉第9回「医療水準」.No Shinkei Geka 35:93,2007
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