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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科36巻3号

2008年03月発行

雑誌目次

日本人が忘れていた勇気と感動

著者: 松前光紀

ページ範囲:P.195 - P.196

 2007年9月,私はワシントンで開催された学会に参加した後,Brigham and Women's Hospitalの放射線科と共同研究の打ち合わせのためボストンへ向かった.ボストンローガン国際空港からホテルに向かうタクシーの車中,ドライバーに「ワシントンからの飛行機は満席だった」と会話を切り出すと,ドライバーは「明日なら空席が沢山あるよ」と応じた.「そうか,明日は9月11日だ」と妙に納得した.2001年9月11日に発生した同時多発テロでは,ニューヨークの世界貿易センタービルに衝突したアメリカン航空とユナイテッド航空の2機が,このボストンローガン空港から出発している.私はこの同時多発テロが発生したとき,偶然アメリカ国内に滞在していた.ドライバーと「アメリカ人でもあんなに落ち込むのか,日本人には信じられなかった」「ボストン出身の消防士が亡くなり,その葬儀は荘厳だった」「あのときは献血センターに長蛇の列ができた」などと話をしているうちに,タクシーはホテルに到着した.

 チェックインしてテレビをつけると,ほとんどのチャンネルは同時多発テロに関するドキュメンタリー番組であった.すべての航空機を緊急着陸させた航空管制システム,大量の航空機が緊急着陸した地方空港の混乱,ブッシュ・プーチン両大統領のホットライン会談,犠牲者の家族のその後など,多彩な番組が放映されていた.その中でもクローズアップされていたのは,事件発生直後真っ先に救出に駆けつけたニューヨーク市消防局の消防士達が見せた勇敢な活躍であった.倒壊した世界貿易センタービルで亡くなった消防士は343名で,同ビルでの犠牲者全体の1割を少し上回る数である.犠牲となった消防士が出動した分署,残骸の中に残された消防車などに焦点をあて,おのおのの局が工夫を凝らしドキュメンタリー番組を作成,事件発生後6年経過した今も放送していた.昔から,消防士はアメリカの子供にとって身近な存在であり,憧れの職業であった.彼ら消防士が見せた勇気と感動はアメリカ人の誇りであり,決して風化することなく語り継がれることであろう.

総説

術中運動誘発電位モニタリング

著者: 藤木稔

ページ範囲:P.199 - P.204

Ⅰ.はじめに

 運動誘発電位(motor evoked potential;MEP)は,脳神経外科領域における運動機能の術中モニタリングとして有用である8,9,13,17,18,20,21)

 本法は,刺激・記録および麻酔法の改良により,その方法論ならびに所見の解釈が多様化しつつある.

 運動野の刺激方法は,脳表を直接電気刺激する方法12)に加え経頭蓋的に電気刺激する方法11)が普及し,MEPの方法論に多様性を与えた.一方で,経頭蓋的な電気刺激により被刺激部位はより深くなるとされるが,その点については未だ議論の残るところである.MEPには脊髄硬膜外から記録するcorticospinal MEPと,末梢筋から記録するcorticomuscular MEPとがある.Katayamaらにより確立されたcorticospinal MEPは術中評価結果の定量性と術後運動機能との相関に優れる8,19).近年は麻酔方法の進歩も手伝い,より簡便なcorticomuscular あるいはmuscle MEPが術中に多用されるようになった7,9,13,17,18).しかし,後者の臨床的なcritical borderは未だ明確に示されていない.

 本総説は,MEPの理論的背景,麻酔・刺激・記録に関する方法論,結果の解釈と問題点を概説し,脳腫瘍外科で欠くべからざる手法となりつつある本法の今後の展望についても考察する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

後頭経天幕アプローチ手術(OTA)―安全な松果体手術のためのガイダンス

著者: 有田和徳 ,   平野宏文 ,   杉山一彦 ,   栗栖薫 ,   馬見塚勝郎

ページ範囲:P.207 - P.222

Ⅰ.はじめに

 ヒトの松果体は,重量100mg前後の小さな器官にすぎないが,この部分は脳腫瘍の好発部位であり13),特異な臨床症状ともあいまって脳神経外科の臨床においては重要な臓器である.松果体は,大脳の最も深い位置に存在すること,間脳や脳幹に近いこと,また重要な脳動静脈に囲まれていることから,以前は不可侵の領域とされてきた.

 後頭経小脳天幕アプローチ(occipital transtentorial approach:OTA)は,後頭開頭により後頭葉内側面と大脳鎌の間を通り,一側の小脳天幕を切開して松果体部に到るアプローチ方法である7).われわれは1995年以降,松果体部腫瘍の大部分をこのOTAを用いて手術してきた.本稿では松果体部腫瘍に対するOTAの選択基準,手術法の実際,本法におけるピットフォールとその克服,自験の成績をまとめる.

研究

視床下部過誤腫のガンマナイフ治療

著者: 木田義久 ,   吉本真之 ,   長谷川俊典

ページ範囲:P.225 - P.232

Ⅰ.はじめに

 視床下部過誤腫(hypothalamic hamartoma,以下HH)は視床下部に発生する稀な腫瘤であり,画像上比較的容易に他の腫瘍性病変と識別されるようになっている6,7).臨床症状としては,種々のかたちの痙攣発作のほか,笑い発作5),知能障害と思春期早発症9,11,12)などの特徴的な神経症状を呈する.痙攣発作,笑い発作は極めて頻回に出現することが多いため,知能障害とあわせて臨床的に大きな問題であることが知られ,その諸症状に対する有効な治療が求められている.思春期早発症は,gonadtropin-releasing hormone analogue(Gn RHa)により比較的良好なコントロールが可能となる.笑い発作,痙攣発作については抗痙攣剤の投与が通常の治療法となっているが,それらのコントロールは必ずしも容易でない.MicrosurgeryによるHHの摘出は多く報告され1,2,13,14,19),うまく全摘されれば神経症状の改善が認められる例があるとの報告もされているが,手術に伴う合併症が問題となるばかりでなく,部位的に見てその全摘出は著しく困難であり,発作のコントロールも十分とはいえない.今回は,ガンマナイフ治療による視床下部過誤腫の治療経験と長期成績について述べ,あわせてHHの今後の治療におけるradiosurgeryの関与と役割について検討した.

症例

経上腕動脈法による頸動脈ステント留置術の1例

著者: 林健太郎 ,   北川直毅 ,   森川実 ,   川久保潤一 ,   日宇健 ,   堤圭介 ,   永田泉

ページ範囲:P.233 - P.237

Ⅰ.はじめに

 頸部頸動脈閉塞性病変に対するステント留置術の適用はますます広がりつつある.特に,内膜剥離術高危険群に対しては血管内治療の有効性が示された11).ステント留置術は,通常大腿動脈経由で行われるが,閉塞性動脈硬化症などの合併により施行できない場合がある10).今回,われわれは右肘部上腕動脈経由による頸動脈ステント留置術を施行した.大腿動脈経由が困難な場合のアプローチに関して文献的考察を加えて報告する.

硬膜浸潤を伴った頭蓋骨好酸球性肉芽腫の1手術例

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛

ページ範囲:P.239 - P.243

Ⅰ.はじめに

 好酸球性肉芽腫は,Langerhans' cell histiocytosis(LCH)に属する良性腫瘍であり,比較的若年に好発する.近年MRI所見の報告が散見されるが,硬膜の造影効果について言及しているものは数少ない.

 われわれは,硬膜浸潤を伴った好酸球性肉芽腫の手術症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

慢性被膜化脳内血腫を伴った静脈性血管腫の1例

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛 ,   住吉京子 ,   青柳盟史

ページ範囲:P.245 - P.249

Ⅰ.はじめに

 静脈性血管腫は比較的頻度の高い血管奇形であるが,出血は極めて少ないとされている.また,慢性被膜化脳内血腫は脳内血腫の特殊な1形態であり,その病理組織の検討によりさまざまな病因が指摘されているが,未だその詳細な病態は不明であるとされている.われわれは,静脈性血管腫に慢性被膜化脳内血腫を伴った稀な症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

43年間にわたりくも膜下出血を繰り返した松果体細胞腫の1例

著者: 荻原利浩 ,   柿澤幸成 ,   四方聖二 ,   和田直道 ,   後藤哲哉 ,   田中雄一郎 ,   本郷一博 ,   金子智喜

ページ範囲:P.251 - P.255

Ⅰ.はじめに

 今回われわれは,原因不明のくも膜下出血(SAH)として43年間経過観察されていた松果体部腫瘍に対し,摘出術を行うことでSAHの発症を制御できた症例を経験した.脳動脈瘤破裂以外のSAHの出血源としては,動脈解離,硬膜動静脈瘻(AVF),動静脈奇形(AVM),静脈,凝固障害,下垂体卒中などが知られている.本例のSAHの原因となった松果体腫瘍の出血,すなわち松果体卒中は,1976年のApuzzoらの報告以降散見されるが,頻度は稀で詳細は必ずしも明らかでない1,3,10).本症例の詳細について文献的考察を加え報告する.

追悼

福井仁士先生のご逝去を悼む

著者: 藤井清孝

ページ範囲:P.256 - P.257

 九州大学名誉教授 福井仁士先生が平成19年12月7日に逝去されました.享年69歳で,ご病気は膵臓癌でした.早すぎるご逝去が衷心より悔やまれますが,福井先生の足跡と業績を振り返り追悼文としてとどめ,ご霊前に捧げたいと思います.

 福井仁士(ふくいまさし)先生は,昭和13年1月福岡県柳川市の近郊で誕生されました.福岡県立修猷館高校を卒業後,昭和31年,九州大学医学部医学進学課程に入学されました.高校・大学時代の福井先生は文武両道の成績優秀で,特に柔道では天下にその名を轟かせ,いくつもの逸話が今なお語り継がれています.この頃より培われたスケールの大きな人生観,厚い友情,人脈がその後の福井先生の人生の柱となり,多くの人々に影響を及ぼされたように思います.昭和37年に九州大学医学部卒業後,インターンとして1年間,秋田県大館公立病院で実地修練されています.昭和38年,九州大学第1外科に入局されるとともに,九州大学大学院博士課程医学系研究科外科系専攻に進学されました.昭和41年,医学部附属脳神経病研究施設に外科部門が新設され,当時の第1外科北村勝俊講師が初代教授として就任されるに伴い,将来の道を脳神経外科と定められ新設の脳神経外科に移籍されました.

報告記

The 1st Asian Epilepsy Surgery Congress報告記(2007年6月1~2日)

著者: 貴島晴彦

ページ範囲:P.259 - P.259

 The 1st Asian Epilepsy Surgery Congress(AESC)が韓国ソウルのThe Westin Chosun Hotelにて2007年6月1日から2日間にわたり行われました.この会は,韓国,日本,中国のてんかん外科医が中心となり国を越えた交流を目的に2年ほど前から準備してきたもので,このたび第1回を開催することとなりました.参加者は日本からの19名に加え,韓国,中国,台湾,マレーシア,インド,ベトナム,モンゴルから総勢100名以上に及びました.本学会のpresidentは韓国ソウルのJung-Kyo Lee教授が務められ,メインテーマを「Imaging and Surgery」に設定されました.さまざまな演題が各国より計63演題発表され,日本からも18演題が発表されました.私は初めての訪韓でしたが,この時期韓国は夏の様相を呈しており,かなり開放的な気分にさせられました.会場のホテルは1914年に設立され,伝統と近代性を併せ持つものでした.また,周辺は市庁舎に隣接した大きな広場と近代的なビルに囲まれており,さまざまなソウルの顔が身近に感じられました.

読者からの手紙

Clinical Neuroscience Symposium at UCLA Neurosurgery(Sep. 2007)

著者: 中野伊知郎

ページ範囲:P.260 - P.261

Ⅰ.はじめに

 ロスアンジェルスの9月は,空が高く乾燥した夏の日々の名残を残しつつ,徐々に日差しが柔らかくなり,過ごしやすい季節だ.大学は新学年が始まり,新入生や長い夏休みを終えてキャンパスに戻る学生で活況をみせる.そんな中,9月20日ここUCLAで,脳神経外科とカリフォルニア州幹細胞研究施設(Institute for Stem Cell Biology and Medicine;ISCBM)の共同開催でのシンポジウムが,日本からの2教授を招いて開かれた(写真1).今回そのシンポジウムを紹介する.

NPO法人卒後臨床研修評価機構 臨床研修評価の受審

著者: 池田幸穂

ページ範囲:P.263 - P.263

 2004年4月より新医師臨床研修制度が施行され,医学部の卒業生に対して臨床研修が義務化されて4年目を迎えた.加えて2007年10月より,NPO法人卒後臨床研修評価機構による臨床研修病院の総括的評価が推進されるようになってきた.2007年11月上旬に,われわれ東京医科大学八王子医療センターも臨床研修評価の受審を経験したので,紹介させていただく.

 8名のサーベイヤーの先生方が早朝より来院され,病院側はセンター長,卒後臨床研修センターおよび病院幹部職員が出迎えるかたちで,午前9時から受審開始となった.サーベイヤーの打ち合わせ,書類確認につづき,あらかじめ提出した自己評価調査表,書面調査(病院機能評価項目を含む)に従って,合同面接が約90分間にわたって行われた(写真).合同面接の最初に卒後臨床研修センター長である筆者がPCを使って,八王子医療センターの卒後臨床研修の理念と現状について,約10分間で簡単な説明を行った.

連載 悪性脳腫瘍治療の今とこれから

3.脳腫瘍の遺伝子治療―ヘルペスウイルスを用いた戦略

著者: 井上亮 ,   藤木稔 ,   古林秀則

ページ範囲:P.265 - P.276

Ⅰ.はじめに

 原発性脳腫瘍の中でも悪性脳腫瘍,特に神経膠芽腫は今なお治療効果の向上がほとんどみられず,手術,放射線・化学療法,免疫療法などに次ぐ新たな治療法の開発が待たれるところである.

 近年の急速な分子生物学やウイルス学の進歩に伴い,遺伝子治療分野の発展もめざましいところである.これまで,レトロウイルス,アデノウイルス,アデノ随伴ウイルスなどさまざまなウイルスがベクターとして開発されてきた.

 ヘルペスウイルス(HSV)についても同様であり,その巨大な遺伝子許容量や分裂・非分裂細胞を問わない感染域の広さなど,遺伝子治療に適した特徴を有した魅力的なウイルスである.

 本稿においては,HSVを用いた遺伝子治療の最近の発展について,自験例を紹介しつつ述べる.

コラム:医事法の扉

第23回 「証拠保全」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.277 - P.277

 今回は,医療事故後に患者側の申立てにより行われる民事訴訟手続きのうち,最初でかつ重要な手続きの1つである「証拠保全」をとりあげます.この手続きで確保した資料を基に,患者側が訴訟を提起するかどうかを判断することになります.

 民事訴訟法234条には,「裁判所は,あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは,申立てにより,この章の規定に従い,証拠調べをすることができる」と規定されています.「その証拠を使用することが困難となる事情」とは,主として証拠隠滅を指し,カルテの改ざんがそれにあたります.患者側は「証拠保全の事由」(民事訴訟法規則153条2項4号)を書面に記載し,それを疎明しなければなりません(同3項)が,裁判所は命令を発する前に病院側の意見を聞く必要はなく,通常患者側の申立てを許可するようです.結局われわれとしては,突然,裁判所から命令が発せられることになります.執行官による送達のあったその当日に裁判官と書記官および患者側弁護士がやってきて,大量の診療録や画像フィルム等をコピー(あるいは写真撮影)していきます(フィルム等については預り書を出して借り出すこともあります).

書評

『基礎から読み解くDPC 正しい理解と実践のために』第2版―松田 晋哉●著

著者: 島本和明

ページ範囲:P.232 - P.232

 大学附属病院をとりまく医療環境は最近,大きく変わりつつあるが,なかでも最も大きな要因として独立行政法人化,卒後研修の義務化そしてDPC制度の導入がある.DPC制度は,2003年4月より特定機能病院において開始され,2006年度からは対象が大きく拡大してきている.病院の経営改善が叫ばれる現在,DPC制度は少なくとも現時点では経営を圧迫するものとはなっていない.ただし,大学病院(特定機能病院)の急性期医療への役割分担の期待そしてその方向へ行政指導が強まる中で,病床利用率を維持したままで在院日数縮小を図らざるを得ない状況となっている.そのような意味では,DPC制度の理解と応用が,病院本来の戦略を確立していく上で重要となる.

 『基礎から読み解くDPC』は,DPC制度を立ち上げのときから,立案・普及に尽力してきた松田晋哉先生が,専門家・指導者の立場で,わかりやすくDPCとは何か,そしてDPCの応用について書かれていたもので,DPCに関わる医療関係者にとっては必読の書であり,多くの医療関係者に福音をもたらしてくれた名著である.DPCの2006年度改正に対応して今回,第2版が刊行された.対象病院が大学附属病院より拡大され,DPCのもつ意義も,特定機能病院から急性期医療を中心とする一般病院へと広がり,医療界全体の大きなテーマとなりつつある.

文献抄録

Neurosurgery at an earlier stage of Parkinson disease: a randomized, controlled trial

著者: 中島円

ページ範囲:P.279 - P.279

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編集後記

著者: 橋本信夫

ページ範囲:P.286 - P.286

 「扉」にて,松前教授が9.11について書いておられます.私は阪神淡路大震災のときに国立循環器病センターに勤務していました.そこでは中にいることと,外にいることの違いの重要性を実感しました.多くの医師が倒壊した建物の隙間をくぐり抜けて病院にたどり着きました.次々に運び込まれる患者の治療に一刻も早く加わるのが目的でした.しかし病院は閑散としていました.患者搬送や配分に指揮系統や情報はなく,少し離れたセンターに患者が搬送されることはありませんでした.惨状を目にした医師達は救援活動に飛び出そうとしていました.十分間に合っているので救援活動は必要ないという当該行政側の的外れの答えが,やっとつながった電話の先から聞こえてきました.災害中心部で現状がまったく理解されていないことは明らかでした.情報が伝達されない,共有されないということは指揮をとる者の判断を大きく狂わせることになります.大災害時の漏電やガス漏れは二次災害を引き起こします.しかし大都市のライフラインの遮断は膨大な損害をもたらすこともあり,最高責任者にとっては自分の社会的生命をかけた決断となります.大阪のあるライフラインの最高責任者は地震の直後すぐに東京に飛んで,遠方から客観的情勢をとらえて,シャットダウンを決断したといわれています.普段は温厚で,親族の間では普通のおじさんに過ぎない(失礼申し上げます),あの方の迅速な判断と決断になぜ最高責任者になれたかの理由を垣間見た思いです.他方,普通の婆さんにすぎない(これも失礼),私の友人の母親は震災の惨状を知るやいなや,近所の若者に大枚はたいて依頼をし,オートバイで神戸の知人にペットボトルの水を届けさせました.通常1時間の距離を8時間,9時間かけてたどり着いたとのことです.現場では飲料水の確保が死活問題であり,泣いて感謝されたとのことでした.個人的なことですがその判断と対応の早さと思い切りのよさに圧倒されました.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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