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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科36巻7号

2008年07月発行

雑誌目次

顔の見える医学部卒前教育

著者: 藤木稔

ページ範囲:P.569 - P.570

 脳神経外科医の数が多すぎて抑制も必要と言われていた時代はそれほど昔ではない.新医師研修制度以降事情は一変し,地方の国立大学にあっては特に,地域の脳神経外科をいかに運営するか,どうやって若い人材に入局してもらうかが私たちの日常意識の大きな部分を占める.

 自分が脳神経外科医を志した頃はどうであっただろうか? 顕微鏡下の脳神経外科手術が標準になり,新技術も積極的に導入する新時代黎明期と呼ぶにふさわしい活気に満ちあふれていた.研修医である私たちのオーベン,指導医の姿勢もスポーツ根性ものを彷彿とさせる非常に厳しいものであった.今ならパワハラともとられかねない指導もずいぶん受けてきたが,昭和の終わりという時代背景とも妙にマッチして不思議には感じなかった.今となっては懐かしくさえもあるこの教育方法は,最近の学生,研修医に受け入れられないであろうことは論を俟たない.確かに時代も変わった.リスク,リスクと学内外の目が光り,結果によっては,自分たちの意思とは正反対に刑事事件にさえなりかねない世の中である.報酬も未だつり合ったものとはいえない.

総説

バクロフェン髄注療法

著者: 平孝臣 ,   堀智勝

ページ範囲:P.573 - P.590

Ⅰ.はじめに

 バクロフェン髄注療法(intrathecal baclofen therapy:ITB)は,その他の治療で十分にコントロールできない重症の痙縮の治療として,本邦では2006年に導入され,2年が経過しようとしている.一方諸外国では,これまでに5万人程度がこの治療を受け,すでにリハビリテーション医学や脳神経外科,神経内科領域でも一般的医療として定着している.本稿ではITBについて,その歴史的背景を含めながら,適応,手術手技,効果や合併症などについて説明するとともに,今後の展望についても触れたい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

解剖を基礎にした三叉神経痛の手術

著者: 藤巻高光

ページ範囲:P.593 - P.599

Ⅰ.はじめに

 血管圧迫による特発性三叉神経痛(以下三叉神経痛)の手術を行うにあたって必要な手術解剖について概説する.三叉神経痛は痛みのために患者をひどく苦しめるものではあるが,直接には生命にかかわらない病気である.本疾患に対する微小血管減圧術は,確立された手技であるとはいえ,大きなシリーズで死亡率0.3%との報告もあり7),また種々の合併症の報告もある.また前医での不適切な手技によると思われる再発もしばしば経験する.きちんとした手技で安全,確実に手術を行わなくてはならない.

研究

脳血管撮影時における動脈内圧の変化

著者: 金澤隆三郎 ,   石原正一郎 ,   大川原舞 ,   石原秀章 ,   神山信也 ,   山根文孝

ページ範囲:P.601 - P.606

Ⅰ.はじめに

 脳血管撮影時の動脈瘤破裂は,くも膜下出血急性期において経験され,これが生じた場合の予後は一般に不良である1,3,5,10).その原因としては,体血圧,脳圧,造影剤による化学的影響,造影剤注入時における血管内圧上昇などが考えられている4,5).注入時の圧上昇は血管撮影を見ていても感じられることがあり,これに関する報告もなされている1,2,10).今回,その事実を確認するために圧測定用のワイヤーを用いて,脳血管造影時に遠位血管に留置し,その変化を測定した研究を行った.

人工頭蓋骨補塡材料が及ぼす頭部CT画像への影響

著者: 糸川博 ,   平出恒男 ,   森谷匡雄 ,   藤本道生 ,   長島梧郎 ,   鈴木龍太 ,   藤本司 ,   安田光慶 ,   加藤京一

ページ範囲:P.607 - P.614

Ⅰ.はじめに

 脳卒中あるいは頭部外傷などに伴って行われる外減圧手術や,脳腫瘍症例などで生じた頭蓋骨欠損に対して,人工材料を用いた頭蓋形成術を行う場合があり,さまざまな材料がその再建に応用されている.なかでも優れた骨伝導能を有するハイドロキシアパタイト(hydroxyapatite:HA)や,外部衝撃に対して強いチタンやレジン(polymethylmethacrylate:PMMA)が用いられることが多く,いずれの素材においても良好な治療成績が報告されている1,5,9-11).しかしながら,computed tomography(CT)やmagnetic resonance imaging(MRI)などを用いた手術後の画像評価については,人工材料によって生じるアーチファクトが,材料直下に存在する構造物や病変を評価する妨げになることが臨床的に経験されており,人工素材を用いた再建手術におけるひとつの問題点と考えられる.そこで今回,人工材料によって生じるアーチファクトがCT画像へ及ぼす影響と,その特徴についての検討を行ったので報告する.

 また今回の検討には,新たな人工骨補塡材料として開発中のhydroxyapatite-polymethylmethacrylate複合体(HA-PMMA)も加えた.この材料は,骨伝導能の高いHA と,強度および靱性に優れるPMMAを用いて,両者の持つ特性に加え,加工性と耐衝撃性を向上させた複合体材料である4).画像に及ぼす影響が未知であるため,この材料についても同様の検討を行い,他の材料との比較を行った.

胸郭出口症候群の診断と治療方針―頸椎疾患との鑑別のための補助診断についての検討

著者: 寺尾亨 ,   井出勝久 ,   谷口真 ,   中内淳 ,   磯尾綾子 ,   高橋宏 ,   山崎隆史

ページ範囲:P.615 - P.623

Ⅰ.はじめに

 胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)は,前斜角筋,中斜角筋,第1肋骨に囲まれた斜角筋三角部や肋鎖間隙部における腕神経叢,および鎖骨下動脈の絞扼によって主に頸肩腕部痛や尺骨神経領域のデルマトームに一致したしびれや痛みを訴える疾患である6,21,22).この疾患の診断から治療までの一連の治療過程12)においては,脳神経外科医のみならず神経内科やリハビリテーション医および理学療法士などの協力が必要とされる4).一般にTOSの治療として,肩甲骨周囲筋の強化リハビリテーションをはじめとした保存的治療11,26)で奏効しない症例には外科的手術を施すが,その手術方法に関しても一定の見解が得られていないのが現状である.また臨床上,頸椎脊柱管狭窄症や頸椎ヘルニアなどの頸椎病変(cervical diseases:CD)を合併した症例では,神経学的異常所見がいずれの疾患から誘発されているかの鑑別が困難な症例が存在する8,17,18,23,24).今回われわれは,当施設に入院し加療したTOS症例を分析し,治療方針,手術に至るまでのプロセス,手術方法およびCDとTOSの鑑別のための補助診断につき論述する.

症例

自然軽快した特発性頭蓋内内頸動脈解離の1例

著者: 岩室康司 ,   中原一郎 ,   東登志夫 ,   渡邉芳彦 ,   松本省二 ,   高橋研二 ,   菊地哲広 ,   安藤充重 ,   武澤正浩

ページ範囲:P.625 - P.631

Ⅰ.はじめに

 脳主幹動脈解離についてはこれまで脳血管障害の稀な原因の1つと考えられてきたが,近年画像診断技術の進歩とともに診断率が向上しており,その頻度は従来考えられてきたよりも高いと考えられている.本邦においては,内頸動脈解離は欧米に比し頻度は低いことが知られているが,特に若年者の脳梗塞の原因となるため,急性期の診断,治療開始は重要である.頭蓋内内頸動脈解離については主に前床突起上部に発症し,錐体部に発症することは極めて稀である.今回われわれは頭痛,脳梗塞にて発症した錐体部内頸動脈解離の1例を経験したので,文献的考察を含め報告する.

診断の遅延した感染性動脈瘤再破裂例の1手術例

著者: 栗田真理 ,   宮坂佳男 ,   石渡雅男 ,   北原孝雄 ,   藤井清孝

ページ範囲:P.633 - P.638

Ⅰ.はじめに

 1869年にChurchが初めて,感染性心内膜炎(infectious endocarditis:IE)を伴った感染性脳動脈瘤の症例,破裂中大脳動脈瘤で左麻痺から突然死に至った例を報告してから1世紀以上が経過している4).また感染性脳動脈瘤は,IEの1.2~4%に併発するとわかってきた1,6,11,12).しかし,近年も破裂動脈瘤例の予後は不良とされ,死亡率30~80%などの報告がある2,3,7,12).今回,われわれはIEの診断が遅延し感染性脳動脈瘤形成,破裂,かつ再破裂を来し緊急手術施行した症例を経験したので,早期診断と治療方針について検討し報告する.

Ommaya reservoir挿入後の脳脊髄液減少症に対し硬膜外腔自己血注入療法が著効した1例

著者: 神保康志 ,   宇塚岳夫 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.639 - P.643

Ⅰ.はじめに

 立位や座位にて増悪し,臥床にて軽快する頭痛を特徴とする低髄液圧症候群(intracranial hypotension syndrome:IHS)は,1930年代にSchaltenbrandが提唱した原因不明の特発性低髄液圧症候群(spontaneous IHS)13)と,硬膜穿刺後11,15,17),頭部外傷後,開頭手術後6),脳室-腹腔シャント術後など,何らかの原因が明らかな二次性低髄液圧症候群(secondary IHS)とに分けられる5).最近では,髄液圧が正常な症例もあり7,8),また,病態の本質は髄液量の減少にあるとする考え方から,脳脊髄液減少症(cerebrospinal fluid hypovolemia)という用語も用いられるようになってきている16)

 今回われわれは,脳原発悪性リンパ腫の経過中に髄膜播種を来し,methotrexate髄腔内注入用Ommaya reservoir挿入後に低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)を来した症例を経験した.本症例に硬膜外腔自己血注入療法(epidural blood patch:EBP)を行い良好な結果を得たので報告する.

ミクロスポリジウムが強く疑われた脳内多発性造影領域の1例

著者: 奥山洋信 ,   金森政之 ,   渡辺みか ,   隈部俊宏 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.645 - P.650

Ⅰ.はじめに

 中枢神経系疾患の中で時間的・空間的に多発する病変は多岐に及ぶ.代表的な疾患として転移性脳腫瘍,悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患,多発性硬化症,急性散在性脳脊髄炎,サルコイドーシス,ベーチェット病などの炎症性疾患,脳膿瘍に加え,原虫症,条虫症,線虫症からなる寄生虫疾患などの感染性疾患が挙げられる.この中で,原虫症は人体に寄生する単細胞生物である原虫によって引き起こされる疾患を指し,トキソプラズマ,ミクロスポリジウム,マラリア,アメーバなどによる中枢神経病変が報告されている4,12,15).前2者は日和見感染として全身への播種病変の一部として発症することが多く4,6,7,9,10,15,16),近年のhuman immunodeficiency virus(HIV)感染や臓器移植による免疫能低下患者の増加に伴い,症例数は増加傾向にある.

 今回,脳内に時間的・空間的に多発性病変を生じ,摘出術と抗寄生虫薬投与により寛解状態を得た1症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

コラム:医事法の扉

第27回 「医療慣行」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.651 - P.651

 第9回コラムの「医療水準」2)と似た概念で「医療慣行」があります.医療慣行とは,慣習的に行われている平均的医療行為をさしますが,われわれ医師の場合,実際の臨床現場において長年の経験と専門的知識に基づき積み上げられてきた医療慣行を尊重し,それを積極的に実践していることが多いと思います.例えば,薬剤の具体的投与方法などが典型です.

 ところで,医師が医療慣行に従って医療行為を行ったにもかかわらず患者に何らかの被害が発生した場合に,その医師は法的責任を負わなければならないのでしょうか.確かに,医療慣行は,合理的・平均的基準を示すものであり,客観的に判断しやすいことから,医療慣行に従っていれば,注意義務を果たしているように思えます.

書評

『神経解剖集中講義』―寺本 明,山下 俊一●監訳,秋野 公造,太組 一朗●訳

著者: 松村明

ページ範囲:P.638 - P.638

 このたび,寺本 明先生・山下俊一先生・監訳,秋野公造先生・太組一朗先生・訳による『神経解剖集中講義(High-Yield Neuroanatomy, 3rd edition, by James D. Fix, Ph.D.)』の訳本が出版された.本書の原題でまず目を引くのが“High-Yield”という言葉であるが,訳本では“集中講義”となっており,翻訳にあたっての工夫が感じられる.“High-Yield”とは,直訳すれば高収益,高利益,高収率といった意味があるが,本書はまさにそのような著者の哲学がふんだんに盛り込まれている.実際に内容を拝見すると単なる神経解剖書とは異なり,解剖図譜,MRI画像,CT画像などがふんだんに盛り込まれており,臨床に即した実用的な記載になっている.

 さらには疾患の画像や疾患の病態の説明が随所に盛り込まれており,基礎的な神経解剖と実際の疾患の結びつきが一気に学習できるように工夫されている,まさに“High-Yield”,もしくは“集中講義”といった表現がぴったりとあてはまる好書である.

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編集後記

著者: 冨永悌二

ページ範囲:P.660 - P.660

 中国四川省での大震災が連日報じられている.この編集後記を書いている時点では,死者は10万人に達するであろうといわれる大災害である.瞬時にして命を奪われた多くの人々の冥福をお祈りする.テレビでは被害を受けた家屋や被災難民の様子,また倒壊した家屋からの救出場面や日本の救助隊,医療チームの様子などが克明に映し出されている.これらを見ていておやっと思うこともある.経済成長著しい中国は都市部と地方で貧富の差が大きく,それは日本の格差とは比較にならないほどといわれてきた.確かに日本を含め世界各地の観光地に中国人旅行者の姿があり,富裕層は日本の富裕層をはるかに凌駕している.反対に地方は,所得が低く出稼ぎが多く….しかし今回テレビに映し出された地方の様子は,外見上日本の地方の様子とそれほど変わらない.発電機から競って携帯電話の充電をする姿もある.建築方法がおざなりであったとはいえ倒壊した学校も日本の地方で見るそれと同様であった.四川省の中心都市成都は三国志時代の蜀の都であり,劉備や諸葛亮を祀った廟もあるという.現在人口1000万人を超える大都市で,大学病院も医療内容はともかく外見は立派であった.日本で“中国は都市部と地方の差が激しい”と10年1日のごとくとらえている間に,中国では地方でも着々とハード面が整備されつつある.

 昨年,2010年開催の万博をひかえて活気にあふれる上海を訪れた際に,領事館の医務官と話をする機会があった.中国のエリート層についてだった.日本のマスコミに登場する中国一般の人たちが中国のすべてではないという.中国のいわゆるエリート層は10億人の中から選ばれた集団であって,マスコミにでることはほとんどないがその層は大変厚く優秀だという.かつての愛国教育を受けた年代が国を牽引するエリート集団を形成するころ,日本との関係はどうなるのか.いつぞやサッカーの試合で日本国旗が燃やされ,日本チームがブーイングをあびた重慶も成都の近く,四川省だったことを思い浮かべた.中国は実にさまざまな顔をもつ.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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