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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科36巻9号

2008年09月発行

文献概要

コラム:医事法の扉

第29回 「信頼の原則」

著者: 福永篤志1 河瀬斌1

所属機関: 1慶應義塾大学医学部脳神経外科

ページ範囲:P.825 - P.825

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 脳神経外科のようにチーム医療を行う診療科では,お互いの役割を認識し,尊重し合って,患者の治療に専念することが重要です.このとき,チームの誰かが過失により医療事故を起こしてしまった場合に,チームの指導者が管理監督責任を問われるのか,それとも,指導者といえども相手を信頼した上の事故であるから,注意義務は尽くしているといえ責任を免れるのかが問題となります.

 「信頼の原則」とは,相手が適法な行為に出ることを期待することが相当である場合に,予期に反して違法な行為をしたために損害が発生したときには,相手を信頼した者は損害賠償責任を免除されるという原則をいいます.具体的には,青信号で交差点を走行中,信号無視した車に衝突されても過失責任を負う必要はないというものです.この原則がチーム医療に適用されるかどうかが争われた「北大電気メス事件」(札幌高裁昭和51年3月18日判決)という有名な事件があります.これは,手術室で電気メスのケーブル接続を間違えたために,大腿部に接着させた対極板に高周波電気が流れ,3度熱傷を負ったというもので,手術室看護師と執刀医の刑事責任が問われました.裁判所は,看護師には刑法上結果発生の予見可能性があったとし業務上過失傷害罪(刑法211条1項)を認定しましたが,執刀医については,「…手術開始直前に,ベテランの看護師を信頼し接続の正否を点検しなかったことが当時の具体的状況のもとで無理からぬものであったことにかんがみれば,…ケーブル接続の点検をする措置をとらなかったことをとらえ,執刀医として通常用いるべき注意義務の違反があったものということはできない」とし,無罪と判示しました.この点,チーム医療の場合は,道路交通の場合と異なり,そもそも加害者(医療従事者)と被害者(患者)は危険防止を分担すべき当事者ではない,つまり,医療従事者は患者の危険を防止する立場にあるから,信頼の原則の適用の結果,チーム医療の中心的人物が刑事責任を免れたりするのは,患者側にとって納得し難いことになろうという見解など,本判決には法学者からの厳しい意見があります1)

参考文献

1)船山泰範:北大電気メス事件.別冊ジュリスト医事法判例百選:186-188, 2006
2)稲葉一人:医療・看護過誤と訴訟 改訂2版.メディカ出版,大阪,2006, pp21-22

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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