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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科37巻10号

2009年10月発行

雑誌目次

オレゴンルールを越えて

著者: 高橋宏

ページ範囲:P.945 - P.946

 都立神経病院は1980年に国内初の脳神経疾患専門病院として開院されました.脳神経外科は1年遅れて開設され,私も1981年4月1日に先輩の石島武一先生とともに着任しましたが,以来当院の脳神経外科ひと筋で働いてきました.光陰矢のごとしと言いますが年を経てますますその言葉の意味を重く感ずるようになっています.

 昔,西ベルリンの大学で働いていたことがあります.西ベルリンは自由主義,資本主義の社会でしたから,お金さえ用意すれば自分の欲しい料理やワインを直ぐにでも注文して味わうことができました.一方,30分ほど車を運転すると社会主義を国是とする東ベルリンに入ることができました.この地でももちろん安価でおいしいものも食べられました.しかし食事にありつくまでには,レストランの入った建物を1周するほど続く人々の長い行列に並んで黙って待つことが必要でした.

総説

3D Virtual Imageの有用性

著者: 森健策

ページ範囲:P.949 - P.956

Ⅰ.はじめに

 近年の医用イメージング装置の発展は目覚ましく,320列マルチディテクタCT装置や高磁場MRI装置が一般的なものとなりつつある.また,手術室においては開放型MRI(OpenMRI)が普及し,手術中にも高精細なMRI画像を撮影することが可能となってきている.手術前診断,手術中の治療誘導,手術後の経過観察などに画像が大きな役割を果たしている.特に,手術中における画像の積極的な利用は,新しい術式の創生へとつながっているとも言えよう.さらに最近では,高度な画像処理技術の普及により,「コンピュータソフトウェア」が新たなる手術方式を生み出す場面へと展開しているようにもみえる.

 このような流れの中で,脳神経外科領域において注目を集めている技術として,3次元もしくは4次元医用画像からコンピュータ上に仮想化された人体を構築し,それを可視化するvirtual imaging技術がある.その中でも,3・4次元医用画像からあたかも内視鏡で観察したかのような画像を得ることのできる仮想化内視鏡システムは,virtual imaging技術の核となる7,8).脳神経外科領域では,経鼻内視鏡手術,あるいは顕微鏡下手術が行われていることもあり,仮想化内視鏡システムとの親和性が高い領域とも言える.脳神経外科手術用顕微鏡画像をシミュレーションする技術は,virtual surgiscopeとも呼ばれ,脳神経外科手術を支援する新しいツールとして期待が高まっている3).仮想化内視鏡システムは,当初CT画像から気管支内視鏡で観察したかのような画像を得るシステムとして開発されてきたが,仮想化内視鏡システムの高度化ならびに高速化により脳神経外科領域においても積極的に利用されようとしていると言えよう.

 以上のような背景から,本稿では,脳神経外科領域における仮想化内視鏡システムについて解説し,仮想化内視鏡システムから得られるvirtual imageの数々を紹介したい.仮想化内視鏡システムの基本的な機能,手術支援画像の生成,手術シミュレーション,神経内視鏡ナビゲーションなど,脳神経外科領域における3D virtual imagingの例について,名古屋大学医学部脳神経外科との共同研究の成果に基づいて述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

もやもや病に対するSTA-MCA,STA-ACA吻合術

著者: 岡田芳和 ,   川島明次 ,   堀智勝

ページ範囲:P.959 - P.971

Ⅰ.はじめに

 もやもや病は,Willis動脈輪終末部を中心とした脳主幹動脈の慢性進行性閉塞性病変で,特異な側副血行路を伴い過呼吸などによって脳虚血発作が誘発される疾患として本邦から報告された8,14,17).本疾患は幼小児期と成人期に発症のピークを持ち,その発症形式が脳虚血発作と頭蓋内出血に大別されている.もやもや病は,脳虚血と脳出血という極めて異なる発症形態を示すが,基本的には内頚動脈終末部を中心とした閉塞性病変であることから,脳血行再建術を中心とした治療法の開発,工夫が進められてきた1,4,6,7,12,18).この血行再建術には直接血行再建術と間接血行再建術があるが,脳主幹動脈閉塞の状況から判断すれば確実な直接血行再建が施行できれば速やかに正常に近い脳灌流状態へ導くことが可能と考えられる.内頚動脈閉塞性疾患に対する直接血行再建術の基本は,STA-MCA(superficial temporal artery-middle cerebral artery)バイパス術である19).しかしもやもや病のrecipient arteryは,血管壁が薄くかつ血管径が小さい状態である.したがって血管吻合では,動脈壁を確実に識別できる方法や血管壁を破損しない繊細な縫合針,糸の選択も重要である.一方,脳機能の面から前頭葉への血行再建の必要性もしばしば強調され,前頭葉への間接的な血行再建術が工夫されてきたが1,7,9),前大脳動脈への直接血行再建術も可能であり有効な手技と考えられる18)

 本稿ではもやもや病に対するSTA-MCA double anastomosesとSTA-ACA(superficial temporal artery-anterior cerebral artery),superficial temporal vein(STV)を用いたSTA-STV-MCA anastomosesの手術手技に関して述べる.

研究

悪性神経膠腫患者に対する告知・終末期医療の現状報告―日本脳腫瘍学会員へのアンケート調査報告

著者: 成田善孝 ,   宮北康二 ,   百田洋之 ,   宮原るり子 ,   渋井壮一郎

ページ範囲:P.973 - P.981

Ⅰ.はじめに

 悪性脳腫瘍は希少癌でありながら,病理診断が多岐にわたるため,患者・家族にとっては情報も少なく理解しにくい病態である.未だ予後不良な疾患である膠芽腫の患者では,病名や予後について詳細な説明を受けることがなく治療を受けていることも多い.特に失語や意識障害のある患者,神経症状の進行した患者が,病名や予後について十分に説明されることなく治療を受けていることもある.他臓器のがん患者は自分の病態や予後について十分な説明を受けて自ら治療法を選択していることが多いのに対し,悪性脳腫瘍では症状が急速に進行するために,患者がセカンドオピニオンなどを求める機会すら多くないのが現状である.本研究では悪性神経膠腫患者によりよい治療を行うために,「現在どのような告知が行われ,治療方針について説明されているのか」患者本人に対する告知の現状について調査した.

 また,意識障害のある患者の終末期医療を積極的に受け入れてくれる緩和ケア病院はまだまだ少なく,現状の保険医療制度では悪性脳腫瘍患者の行き場がみつからないという問題も起きている.終末期を在宅ですごす患者も少しずつ増えてきているものの,40歳未満では介護保険を使えないなどの制約も多く,十分な終末期ケアが受けられないことも多い.今回,悪性脳腫瘍患者に対して化学療法などの積極的な治療をいつまで行うかといった問題など,終末期ケア(end-of-life care,ターミナルケア)・緩和ケアの現状についても調査を行い,悪性脳腫瘍患者の告知や終末期ケアに関する問題点について検討した.

症例

受傷部位と反対側に生じた外傷性中硬膜動静脈瘻の1例

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛 ,   菅原貴志 ,   青柳盟史 ,   鈴木剛

ページ範囲:P.983 - P.986

Ⅰ.はじめに

 外傷性中硬膜動静脈瘻は比較的稀な疾患であり1,2,4-13),多くは頭蓋骨骨折に伴い,直下の中硬膜動脈が損傷されて生じる.しかし,頭蓋骨骨折を認めない中硬膜動静脈瘻の報告は非常に稀であり7,11,12),頭蓋骨骨折に伴う中硬膜動静脈瘻とは発症機転が異なると考えられる.

 今回われわれは,頭部外傷後3カ月後に眼症状で発症し,受傷部位と反対側に外傷性中硬膜動静脈瘻を認めた症例を経験したので,発症機転などについて文献的考察を加え報告する.

Broca失語とBroca領域失語:異なる失語症タイプを呈した左前頭葉出血の2症例

著者: 平岡千穂 ,   前島伸一郎 ,   大沢愛子 ,   金井尚子 ,   神山信也 ,   山根文孝 ,   石原正一郎

ページ範囲:P.987 - P.993

Ⅰ.はじめに

 一般に左前頭葉損傷では,運動性失語に代表される非流暢型の失語が出現するとされてきた2,17,20).すなわち,アナルトリー(失構音)と喚語困難を要件とするBroca失語や,自発言語の障害に比して復唱の保たれる超皮質性運動失語などがその代表的なタイプである.これに対して,近年,左前頭葉損傷で流暢型の失語症が出現することが知られるようになった3,6,7,11,14,19).しかし,そのほとんどは脳梗塞の症例3,7,11,14)であり,出血例の報告6)はほとんどない.

 今回われわれは,前頭葉弁蓋部を中心に,ほぼ同量の出血性病変を認めたにもかかわらず,異なる言語症状と臨床経過を示した2症例を経験したので,その症状の差異と血腫の進展方向について検討し報告する.

脳室腹腔短絡術12年後に生じた非外傷性緊張性気脳症の1例

著者: 出井勝 ,   山根冠児 ,   沖田進司 ,   熊野潔 ,   中江竜太 ,   西澤茂

ページ範囲:P.995 - P.999

Ⅰ.はじめに

 緊張性気脳症はさまざまな要因で生じるが,頭蓋底骨折を伴う頭部外傷後,開頭術,穿頭術などの術後に生じるものが多く報告されている2,3).シャント術後に生じる例も報告されているが,その多くは術後早期に生じている2).今回筆者らは,脳室腹腔短絡術後12年という長期間経過後に頭皮に瘻孔を生じ緊張性気脳症を生じた稀な1例を経験し,治療により良好な結果を得ることができたので,発生機序,治療法などにつき文献的考察を加え報告する.

特異な画像所見を呈した脳幹部星状細胞腫の1例

著者: 松岡秀典 ,   丸山大輔 ,   竹上徹郎 ,   濱崎公順 ,   垣田清人 ,   峯浦一喜

ページ範囲:P.1001 - P.1006

Ⅰ.はじめに

 脳幹部神経膠腫は全脳腫瘍の2.4%を占め,そのほとんどが小児期に発症する.15歳以下の小児に限れば,原発性脳腫瘍のうちで約20%に上り,全脳腫瘍中最も治療困難な腫瘍である.また,特徴的な画像所見に乏しく,診断の際には脳神経症状が重要であることが多い.腫瘍の進展形式や,画像所見と生命予後との相関関係については以前から報告されている4,12).今回,われわれは神経脱落症状を呈さず,水頭症で発症し特異な画像所見を呈した星状細胞腫の稀な1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

髄膜癌腫症の症状緩和に腰椎─腹腔シャント術が奏功した1例―圧可変バルブの使用について

著者: 山城重雄 ,   吉田顯正 ,   田尻征治 ,   穴井茂雄 ,   伊藤清隆 ,   倉津純一

ページ範囲:P.1007 - P.1011

Ⅰ.はじめに

 新しい抗癌剤の登場で,進行癌に対する治療成績が向上している.また,ガンマナイフに代表される定位放射線治療により,生活の質(quality of life:QOL)を保ちつつ生存期間がのびている.癌患者の生存期間の延長に伴い,髄膜癌腫症に遭遇する機会が増えた.髄膜癌腫症の予後は今なお悪く,頭痛,嘔吐,意識障害などを合併するためQOLも低い.

 今回われわれは,肺癌を原発とする髄膜癌腫症に対して腰椎くも膜下腔─腹腔短絡(L-Pシャント)術を行い,術後頭痛が消失し劇的にQOLが改善した症例を経験した.癌性髄膜炎を伴った末期癌患者における症状緩和の有効な手段と考え報告する.また,この種の髄液シャント手術における圧可変バルブの使用法についても言及する.

頭蓋内慢性硬膜下血腫に合併した脊髄慢性硬膜下血腫の1例

著者: 中島雅央 ,   福田信 ,   池田尚人 ,   鈴木泰篤

ページ範囲:P.1013 - P.1017

Ⅰ.はじめに

 脊髄慢性硬膜下血腫(CSSH)は非常に稀な疾患である.われわれは頭蓋内慢性硬膜下血腫(CSH)にCSSHを合併した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

報告記

第9回ヨーロッパ頭蓋底外科学会報告記(2009年4月15~18日)

著者: 大畑建治

ページ範囲:P.1020 - P.1021

 ヨーロッパ頭蓋底外科学会:European Skull Base Society(ESBS)は1993年に設立された,国際規模の学際的に調和のとれた頭蓋底外科学会である.ドイツ,イタリア,リトアニア,ポーランド,スペイン,イギリスの6カ国の頭蓋底外科学会との共同で隔年に開催され,理事長(president)はProf. Vladimir Beneš(チェコ,脳神経外科),事務局長(secretary general)はProf. Robert Behr(ドイツ,脳神経外科)であり,理事6名は耳鼻咽喉科医4名,脳神経外科医1名,顎顔面外科医1名,評議員16名は脳神経外科医7名,耳鼻咽喉科医6名,顎顔面外科医3名で構成されている.

 2009年4月15~18日に第9回ヨーロッパ頭蓋底外科学会がロッテルダムでErasmus Universityの下で開催された.学会のテーマは“Update and Perspectives”であり,honorary president:Prof. Ugo Fisch(耳鼻咽喉科),congress president:Prof. Bernard Pauw(耳鼻咽喉科),co-president:Prof. Cees Avezaat(脳神経外科)の布陣で,準備と運営の実務面はProf. Avezaatによって行われた.会期を通じて,Prof. Pauwの車椅子での元気な姿と,それを支えるProf. Avezaatの友情に大いに感銘した.

読者からの手紙

「鞍外腫瘍に対する内視鏡下経鼻的手術―手術症例の紹介と将来展望」の論文について

著者: 平野亮

ページ範囲:P.1024 - P.1024

 「脳神経外科」37巻3号(2009年3月号)229ページに掲載された佐伯直勝先生の手術手技に関する論文を大変興味深く拝読いたしましたが,一部内容に疑問点があり投稿いたします.

 鞍外腫瘍に対して,特にモンロー孔付近にまで進展した腫瘍を内視鏡下に経鼻的全摘が可能なことに,驚異の思いで読ませてもらいました.

平野先生への返答

著者: 佐伯直勝

ページ範囲:P.1024 - P.1025

 頭蓋咽頭腫や鞍結節部髄膜腫など従来開頭術で行われてきた脳腫瘍手術が,内視鏡下経鼻的手術により行われるようになりました.それが従来のものに比べ,摘出率が最低劣ることがなく,脳をリトラクションすることなく低侵襲な手術であるとする趣旨であるだけに,ご指摘の疑問点はそのとおりと思います.紙面が限られていたために,感染に触れなかったことをご容赦ください.

 現在のところ私のシリーズでは頭蓋内外の感染で困った症例はありません.同様のことは,拡大蝶形骨洞法の他の報告でも触れられています1)

連載 脳神経外科疾患治療のスタンダード

11.急性期脳梗塞

著者: 岡田靖

ページ範囲:P.1027 - P.1037

Ⅰ.はじめに

 急性期脳梗塞は急性心筋梗塞と同じく循環器救急疾患であり,速やかな診断と治療開始が重要である17).2005年10月に虚血性脳卒中に対する超急性期の治療としてrt-PA(recombinant tissue plasminogen activator)静注療法が承認され,全国各地に脳卒中急性期治療施設が確立してきている.rt-PA静注療法は一定の治療基準や方法が確立されているが,適応外や他の虚血性脳卒中では,必ずしも統一した治療がなされていない.脳神経外科医は,救命あるいは手術を目的として原因となる血管病変に挑戦してきた一方で,高齢の軽症脳梗塞患者への初期診療にあたる医師も少なくない.ここでは急性期脳梗塞の内科治療について,われわれが強調してきた初期対応,画像陰性時の臨床判断21)と治療開始決断19),ガイドラインに基づくスタンダードな治療7),急性期から始まる統合的な治療などについて解説してみたい.

コラム:医事法の扉

第42回 「褥瘡裁判」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.1038 - P.1038

 医療過誤訴訟には,「褥瘡裁判」と呼ばれる有名な紛争があります.争点として,①褥瘡の予防・治療・監視を怠った注意義務違反,②褥瘡と感染症による死亡との因果関係,などが問題となります.今回は,2つの「褥瘡裁判」をご紹介し,われわれ脳神経外科医が紛争を回避するためにどうすればよいのかについて検討します.

 1つは,61歳女性の脳出血患者で左片麻痺があり寝たきりであったため,発症後約2週間で仙骨部の表皮が剝離し,その後,褥瘡が拡大していったケースです.患者は5年後に死亡し,患者の夫らが病院を設置・管理する市に対し,褥瘡予防を怠ったとして慰謝料600万円を求める損害賠償請求をしました.裁判所は,当該病院の看護業務の多忙さ,患者の年齢・栄養状態なども考慮した上で,褥瘡予防措置がとられていたことを推認し,請求を棄却しました(名古屋地裁昭和59年2月23日判決).もっとも控訴審で,100万円で和解が成立したようです1)

書評

『聴神経腫瘍[DVD付]』Leading ExpertによるGraphic Textbook―佐々木 富男●編,村上 信五●編集協力

著者: 端和夫

ページ範囲:P.981 - P.981

 佐々木富男先生の『聴神経腫瘍』が医学書院から出版された.

 第1の特徴は,よくぞ日本語で出版して下さった,ということである.佐々木先生は米国の留学経験が長く,英語には抵抗はなかったはずで,もし先生がその気になれば,ひょっとすると英語の本になっていたかもしれない.しかし読む側には日本語のほうがありがたい.基礎医学と違って,臨床医学は国民医療が問題である.発展途上国ではあるまいし,そのための情報を英語で読まなければならないバカバカしさは,英語になったNeurologia Medico-Chirurgicaを読むときの感じと同じである.国際的名声を求めず,日本語で出版されたことに拍手を送りたい.

『プロメテウス解剖学アトラス 頭部/神経解剖』―坂井 建雄,河田 光博●監訳

著者: 仲嶋一範

ページ範囲:P.993 - P.993

 書評を書くに当たり,まずは解剖学実習を終えたばかりの現役の医学生たち数名に率直な感想を聞いてみた.いずれもとても高い評価であり,「こういう本を読みながら実習を進めれば,自分の解剖学の勉強もより効率的で奥深いものになっていたに違いない」という感想であった.そろってそのような感想が出てくるに足るユニークな特徴を,この本は有している.

 古典的で著名な複数のアトラスを含め,解剖学のアトラスは数多く出版されているが,本書は,単なる「地図帳」的なアトラスというよりは「図鑑」的であり,子どものころに夢中になって読んだ図鑑のように,いつの間にか引き込まれていろいろなページをめくり,熱中してしまうような面白さがある.医学生にとって必要かつ重要な情報が,コンピューターグラフィックスによる洗練されたわかりやすい画像情報に乗って快適に展開される.情報量は大量であるにもかかわらず,楽しみながら読み進めるうちに知らず知らずのうちにさまざまな知識が身についていくものと思う.

『脳科学のコスモロジー』幹細胞,ニューロン,グリア―藤田 晢也,浅野 孝雄●著

著者: 生田房弘

ページ範囲:P.999 - P.1000

 著者の1人藤田氏と私は,まったく同時代を共に脳に魅せられ今日に至った.藤田氏は,当初から脳の発生一筋に目を据えておられたように見えた.既に1960年代前半,「神経細胞もグリア細胞もマトリックス細胞に由来する」との一元論を立ち上げ,二元論一色の世界を相手に,着々とその証拠を自ら築き,堂々と主張を展開していかれた.

 引き換え私は,神経病理学に魅せられ,同じ1960年代前半,ニューヨークで来る日も来る日もヒト疾患脳の観察を4年余続けただけで帰国した.以来,師,中田瑞穂先生の部屋で語ったことのほとんどはグリア細胞とニューロンの関係についてであった.私の4年余の経験は,脳病変をわれわれに教えてくれるのはグリア細胞をおいてないことなど,思うまま述べた.師の質問も繰り返された.意識についても話題にされた.やがて1971年,先生は神経細胞やグリア細胞,それぞれの研究ではなく“両者の相関”を解明してほしい,両者で脳の機能はつくられているのだと思うからと,その切々とした疑問を「Neuro-Gliology」と題し,そっと書き残された[新潟医誌85:667, 1971].

文献抄録

Contribution of subtraction ictal SPECT coregistered to MRI to epilepsy surgery: a multicenter study

著者: 橋口公章

ページ範囲:P.1039 - P.1039

Predictors of surgical outcome and pathologic considerations in focal cortical dysplasia

著者: 橋口公章

ページ範囲:P.1039 - P.1039

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編集後記

著者: 高安正和

ページ範囲:P.1046 - P.1046

 本号の“扉”「オレゴンルールを越えて」は高橋宏先生のたいへん味のあるエッセイで非常に興味深く読ませていただいた.私としてははじめて耳にする言葉であったが,私自身オレゴン州のとなりのワシントン州シアトルに留学経験がありオレゴンにも何度か足を運んだ経験があることから,果たしてどんなルールだろうと読み進むと,いかにもアメリカ人が好むpragmaticなルール(Cost, Access, Quality. Pick any two)であると知って納得した.しかし医療を含め現在の日本の消費者には自由主義的思考と平等主義的思考がいびつにミックスされおり,このルールはこのままではなかなか適応できない.

 さて,最近の日本の医療では医療崩壊などネガティブな面が強調されることが多いが,せめて脳神経外科において何かポジティブな面はないかと考えてみた.何よりわれわれには専門科選択の自由があり興味を持てば誰でも脳神経外科医になることができる.また,医療が過度に分業化されておらず,手術のみではなく患者の診断から保存的治療,手術まで幅広く携わることができる(他のいくつかの先進国では神経科医・神経放射線科医が診断を下した患者の手術のみを流れ作業のように担当している).ただしこういったシステムが医療の非効率化を生んでいることは否めない.また手術に際しては手術法の選択の裁量権が術者にかなり認められている(米国では保険会社に術式を指定されることがあるという).ただし,新しい治療法の導入に関しては厚生労働省の厚い壁が立ちはだかってなかなか進まないといった問題が存在する.意に反してネガティブな内容にも言及しまったが,今後日本の脳神経外科のポジティブな面を探して若い人にアピールしていくことも必要であると考える.私の最も尊敬する脳神経外科の先輩であり,日本のみならずアジアの脳神経外科の若手の教育に献身的に尽くされ,昨年の7月に61歳の若さでガンのために亡くなられた前名古屋第二赤十字病院脳神経外科部長・鈴木善男先生が日本の対極にあるインドについて語られた文章の中の一節を記す「日本において,脳神経外科という領域は,医療の中でも,もっとも贅沢な,あるいは,贅沢でなければならない分野である.すなわち,諦めることなど無縁の領域である」

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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