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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科37巻11号

2009年11月発行

雑誌目次

終末期医療と植物状態

著者: 石島武一

ページ範囲:P.1049 - P.1050

 「脳神経外科」の扉への執筆依頼をいただき驚くと同時に困惑した.私のように現役を退いて10年以上も経った者が伝統ある「脳神経外科」の扉に文を書く資格などないと考え辞退を申し出たが,編集委員会の決定ということで受け入れられず,やむなく恥を忍んで日頃考えていることを書かせていただくことにした.それは終末期医療と植物状態患者のことである.

 最近,終末期の患者に対する延命治療中止の事件がよく報じられる.古くは末期癌患者に塩化カリウムを静注した東海大事件(1991年),それに類似した事件がさらに数件続き,特に最近(2006年)耳目を集めたのは射水市民病院の7人の終末期患者に対する呼吸器外し事件である.これらの内容をみると,もう少し賢明な対処法があっただろうに,と思うと同時に,わが国における終末期医療に対する法的整備の遅れを痛感せざるをえない.

総説

MRIを使用した脳脊髄液hydrodynamicsの観察―CSF bulk flow imaging―現状と今後の展望

著者: 山田晋也

ページ範囲:P.1053 - P.1064

Ⅰ.はじめに

 水頭症をはじめとする脳脊髄液循環障害によって生じる疾患の治療には脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)の循環動態を理解することが重要である.しかし現状では,生理的な状態でのCSF循環においてさえも脳神経外科医はその一部の側面を把握するにとどまっている.

 東芝メディカルシステムズによって開発されたtime-SLIP(spatial labeling inversion pulse)法を基礎として,CSF flowの観察に適するように筆者との間で共同研究を行い,CSF bulk flow imagingが開発されてきた.ここでは,この最新の手法によって得られた知見を中心として,脳脊髄液循環動態(CSF dynamics)について述べる.Time-SLIP法は,造影剤を使用しない非造影MRI撮像であり,非選択励起パルス(non-selective IR pulse)と選択的励起パルス(selective IR pulse:ラベリングパルス)を用いて,CSFを内因性の造影剤として使用できるところに最大の特徴がある37).従来のCSFのトレーサースタディでは,トレーサーを脳脊髄腔に投与することにより頭蓋内環境を乱すため,自然な生理的条件下での観察ができないだけでなく,radioisotope(RI)やメトリザマイドといったトレーサーの質量や粘性はCSFとは大きく異なるので,トレーサーを観察することで目的のCSFの流れを正確に描出できているかに問題があった.非常に早い速度で血管内を流れる血液ではこの点は無視できる範囲であっても,比較的ゆっくりとした流れが想定されるCSFの場合にはとても重要なポイントとなる.Time-SLIP法では,CSFそのものの物理的・生理的特性を変化させることなくRF(radio frequency)pulseでラベリングすることができ,内因性トレーサーとなるのでこの問題が一挙に解決される.さらにtime-SLIP法では,ラベリングパルスを観察したいCSFの場所,方向によって自由な位置に設定することができ,脳の解剖に沿ったCSFの流れの観察を可能とした.この点もCSF観察にとって非常に有用な機能で,正確な流れの方向の描出,頭蓋内の異なるキャビティーの連続性,交通性を判断したいときに重宝する.RIあるいはメトリザマイドCTを使用した脳槽造影は数時間~数日という観察時間単位であり,MRIを使用したphase contrast法によるcine MRIでは,1心拍すなわち約1秒以内でのCSF flowの観察であったのに対し,本法では1.5~6秒ほどの時間単位での観察を可能とした.すなわち今までは得られなかった時間単位でのCSF flowの側面が描出可能となった.Phase contrast法が“to and fro”を描出するのに対して,この方法をCSF bulk flow imagingと名づけた.これはつまり,あるA点からB点への観察時間内(約6秒間)でのCSFの移動を描出するという意味である.もちろんCSFの拍動流としての側面も観察時間内で合わせて描出されてくる.特に,time-SLIP法で得られた画像を動画にすることによりbulk CSF flowを表現することは,臨床の現場においてとても便利で,直感的にその流れの特徴をつかむことができるだけでなく,専門家でない患者,そのご家族への説明のときにとても説得力のあるツールとなる.

 実際に観察してみるとCSFは教科書から想像されるよりずっとダイナミックな動きをしていることが認められ,本法以前では想像できなかった流れの情報が得られるようになってきている.

rt-PA静注療法の現状と展望

著者: 阪井田博司 ,   滝和郎

ページ範囲:P.1067 - P.1083

Ⅰ.はじめに

 急性虚血性脳卒中に対する遺伝子組み換え組織プラスミノーゲン・アクティベータ(recombinant tissue plasminogen activator:rt-PA)静注療法の有効性と安全性は,1995年National Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)rt-PA Study Groupにより報告され87),その機能予後改善効果のエビデンスに基づき1996年に米国食品医薬局で認可された.本邦では2002年にJapan Alteplase Clinical Trial(J-ACT)が組織され,日本人独自の容量設定(0.6mg/kg)のもと103例を対象とした非比較オープン試験によりNINDS rt-PA Study Groupの報告に劣らない結果が得られ101),2005年10月8日に急性期脳梗塞治療薬として認可された.日本脳卒中学会は,本治療法がより安全かつ効果的に実施されるよう2005年10月に「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針」を策定し,その周知徹底を目的に,主に都道府県の責任者単位で適正使用講習会を開催した.認可にあたり,規制当局から2年間で3,000例以上の使用成績調査(安全性と有効性)が求められ,安全性として「投与開始後36時間以内の症候性頭蓋内出血および頭蓋内出血以外の出血の重得な副作用発現状況」を,有効性として「modified Rankin Scale(mRS)を指標とする退院時および発症3カ月後の機能予後」を重点調査事項とした使用成績調査(全例調査)が行われた.

 とりわけ慎重な姿勢で本邦におけるrt-PAの臨床応用が開始され,おおむね満足すべき初期結果は得られたものの,症例が集積されるに従い問題点や限界が明らかになってきた.本稿ではrt-PA静注療法の現状と展望について述べる.

研究

くも膜下出血の脳血管攣縮治療における動脈圧連続心拍出量モニター(FloTracTM)の有用性―ドブタミンの適正使用による安全なhyperdynamic療法への取り組み

著者: 武藤達士 ,   石川達哉 ,   安井信之

ページ範囲:P.1085 - P.1093

Ⅰ.はじめに

 くも膜下出血の発症から2週間かけて合併する脳血管攣縮は,未だ有効な治療法が確立されていないため,時に遅発性虚血性機能障害(delayed ischemic neurological deficit:DIND)から脳梗塞へと進展し,患者転帰に影響を及ぼす重篤な後遺症に繋がる26,28).脳血管攣縮に対する診断基準と治療プロトコールは施設によって少しずつ違いがあり治療成績の単純比較は難しいのが現状だが,通常は循環・輸液管理の指標として血圧,心拍数,中心静脈圧(central venous pressure:CVP),水分出納(In-Out balance),尿量,体重などを経時的にモニタリングして治療効果の判定材料としている場合が多い7,9)

 秋田県立脳血管研究センター(以下,当施設)ではくも膜下出血後の全身管理の一環として,末梢輸液と経管栄養で適切な循環量と膠質浸透圧を維持しつつ,血管攣縮が症候性になった場合にはドブタミンの段階的増量によるhyperdynamic療法を用いた脳循環改善治療を施行して一定の成果を挙げつつある6,8,9,13).しかし,くも膜下出血後の交感神経系ストレス,不整脈,個体ごとの薬剤反応性の違いなどによりhyperdynamic療法を企図し,カテコールアミンを併用しても実際に心拍出量が有効に増加しているとは言えない症例も少なからず存在する.

 当施設でもこれらの問題を解決するため肺動脈(Swan-Ganz)カテーテルを留置して心拍出量と肺動脈楔入圧をモニタリングする試みが過去に研究されているが6),熱希釈計算のための間欠的ボーラス注入の煩雑さや長期間の留置に伴う肺合併症などの問題から24),汎用性がなく現在の臨床の現場で積極的に採用される機会は少ない.これに代わるベッドサイドモニターとして,近年くも膜下出血患者における有用性が示された装置に,サーミスタ付き上腕動脈カテーテル(PiCCOTM catheter, Pulsion Medical System, Munch, Germany)と通常の中心静脈ラインを用いた肺経由熱希釈法による連続心拍出量モニター(PiCCOTM system, Pulsion Medical System, Munch, Germany)があるが17-22,25),簡便性・低侵襲といった意味では未だ幅広い臨床応用には至っていない.

 今回われわれが注目した動脈圧波形連続心拍出量モニター(FloTracTM system, Edwards Lifesciences, Irvine, CA, USA)(Fig. 1)は,熱希釈による初期キャリブレーションを必要とせず,動脈圧波形解析から心拍出量の連続モニタリングを可能とするシステムである11).この装置の特色として,従来の橈骨動脈の観血的動脈圧ラインを用いて簡便に心拍出量測定が可能で,中心静脈や大腿動脈といった大血管系に侵襲を及ぼすことなく循環変動をモニタリングし,適切な薬物投与の判断が可能である点が挙げられる.FloTracTMはこれまで心臓外科や肝硬変・肝移植手術,敗血症などでの使用が報告されており1,2,4,12),発売当初は不安定な血行動態における心拍出量の精度や追随性の点で,Swan-GanzカテーテルやPiCCOTMに比べて信頼性に劣ることが指摘されていたが3),近年の校正ソフトウェアの改善によりそのようなデバイス面での弱点は徐々に解消されつつある30).最近当施設でも,FloTracTMをくも膜下出血の周術期管理に適応し,その信頼性に関してPiCCOTMによる熱希釈法と比較する研究を行った.その結果,FloTracTMはPiCCOTMに比べて心拍出量値を過小評価する傾向があり絶対値としての精度は劣るものの,末梢血管抵抗の変動の少ない条件下での“心機能の経時的推移”をモニタリングする装置(trending device)としては十分有用であろうという見解を得ている16)

 本研究では,くも膜下出血後の脳血管攣縮に対するドブタミンを用いたhyperdynamic療法における連続心拍出量モニタリングにFloTracTM systemを導入し,その有効性につき検証した.

症例

広頚後下小脳動脈分岐部動脈瘤に対してcatheter-assisted techniqueによるコイル塞栓術が有効であった1例

著者: 春間純 ,   大熊佑 ,   佐々木達也 ,   田邉智之 ,   村岡賢一郎 ,   寺田欣矢 ,   目黒俊成 ,   廣常信之 ,   西野繁樹

ページ範囲:P.1095 - P.1098

Ⅰ.はじめに

 今日,広頚脳動脈瘤の塞栓術において行われるneck remodelingでは,バルーンの使用やステントの併用を中心としたさまざまな工夫がなされている1,2,7).Catheter-assisted techniqueもその1つであるが,その方法についての詳細な記述などのまとまった報告は少ないのが現状である3).今回,椎骨動脈─後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)分岐部に発生した破裂広頚動脈瘤の塞栓術に際して,catheter-assisted techniqueにより瘤内塞栓を行った症例を提示し,われわれの行っている方法を紹介する.

中大脳動脈末梢部紡錘状未破裂脳動脈瘤の1例

著者: 池永透 ,   多根一之 ,   小川竜介 ,   高瀬卓志

ページ範囲:P.1099 - P.1103

Ⅰ.はじめに

 紡錘状脳動脈瘤は,囊状動脈瘤に比べ稀で,椎骨脳底動脈系に多くみられる.中大脳動脈の紡錘状動脈瘤に関してはspontaneous fusiform middle cerebral artery aneurysmという概念が存在する2)が,報告は少なく,自然歴,治療方法ともに不明な点が多い.今回,われわれは短期間で急速に発生,増大した中大脳動脈末梢部の紡錘状未破裂脳動脈瘤の1例を経験したので報告する.

脳幹部にのみ画像所見を呈したRPLS(reversible posterior leukoencephalopathy syndrome)脳幹型variantの1例

著者: 川堀真人 ,   村田純一 ,   阿部悟 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.1105 - P.1109

Ⅰ.はじめに

 Reversible posterior leukoencephalopathy syndrome(RPLS)は高血圧・子癇・腎不全・抗がん剤投与などが原因で,頭痛・嘔吐・意識障害・痙攣・視覚障害などの神経症状を来し,画像上,後頭葉領域を中心とした可逆性の皮質および皮質下の浮腫を呈する病態である.今回,われわれは画像上,脳幹部に限局した浮腫性変化を認めたRPLSの亜型(variant)と考えられる1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

VA occlusionで発症した破裂椎骨動脈解離性動脈瘤の1例

著者: 宇田武弘 ,   早崎浩司 ,   正村清弥 ,   中西愛彦 ,   井上剛 ,   大畑建治

ページ範囲:P.1111 - P.1116

Ⅰ.はじめに

 椎骨動脈解離性動脈瘤(vertebral artery dissecting aneurysm:VADA)の血管撮影の所見としてはstring sign,pearl and string,aneurysmal dilatation,double lumen,occlusionなどがあるが,出血発症のVADAにおいて閉塞所見を呈することは稀である4,8).われわれは,発症時に閉塞を示した椎骨動脈が3日後に再開通した,posterior inferior cerebellar artery(PICA)-involved VADAの症例を経験した.本例では,再破裂の危険が高いと判断し,endovascular internal trappingを行った.文献的考察を加え報告する.

頚椎手術後に小脳出血を来した2症例

著者: 諸藤陽一 ,   角田圭司 ,   日宇健 ,   出雲剛 ,   福嶋政昭 ,   安永暁生 ,   陶山一彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.1117 - P.1122

Ⅰ.はじめに

 テント上の開頭術後に小脳出血を来すいわゆるremote cerebellar hemorrhage(RCH)は稀な合併症で,その頻度は0.2~4.9%とされている2,16,19).脊椎術後にRCHを来す頻度はさらに少なく,腰椎術後では0.08%と報告されている4).われわれも以前胸椎術後にRCHを来した症例を経験し稀な合併症として報告した14)が,今回頚椎術後にRCHを来した症例を経験した.従来考えられているより,頻度が高い合併症である可能性もあり文献的考察を加え報告する.

高齢者に発生したpilomyxoid astrocytomaの1例

著者: 豊田啓介 ,   堤圭介 ,   小野智憲 ,   高畠英昭 ,   戸田啓介 ,   伊東正博 ,   杉田保雄 ,   枡田智子 ,   一瀬克浩 ,   馬場啓至 ,   米倉正大

ページ範囲:P.1123 - P.1128

Ⅰ.はじめに

 Pilomyxoid astrocytoma(PMA)は近年提唱された比較的新しい脳腫瘍である.1985年のJanischら5)による‘diencephalic pilocytic astrocytoma with clinical onset in infancy’との報告が起源であり,PMAという名称は,1999年その病理組織所見に基づいてTihanらにより提唱された12).2000年のWHO分類ではpilocytic astrocytoma(PA)の亜型とされていたが,臨床像・組織像ともにPAとは異なるため,2007年の改訂で新しいICD-O(international classification of diseases for oncology)codeを有するglioma sectionの腫瘍として分類された1,8).一般的には乳幼児期に発症するが,最近では成人例も報告されている2,3,4,7).われわれは高齢者に発症したPMAを経験したので報告する.

連載 脳神経外科疾患治療のスタンダード

12.脳卒中後遺症

著者: 酒向正春

ページ範囲:P.1129 - P.1141

Ⅰ.最近の動向

 脳卒中片麻痺患者は1960年代には90%が歩行自立した.しかし近年,その歩行自立度は60~70%に低下してきている.原因は脳卒中患者の高齢化である35).超高齢化社会への時代変化に伴い,脳卒中後遺症は介護問題という大きな社会問題としてクローズアップされている.

 日本では脳神経外科医が脳卒中急性期治療の大半を担い,脳卒中後遺症を診断してきた.しかし,外科的治療に精力を費やす余り,脳卒中後遺症に対する治療は疎かにされた.その結果,脳卒中急性期治療という盲目的安静臥床による廃用症候群が頻発した4).発症後3カ月の時点における脳卒中後遺症の大部分は一生涯残存するため40),急性期治療における後遺症治療の遅れは機能回復や社会復帰の遅延や困難に直結する.

 本稿では,脳卒中後遺症の定義と落し穴,機能予後と予後予測,機能回復に対する治療,急性期・回復期リハビリテーションの現状,脳卒中後遺症患者に対する今後の展望について概説する.

続・英語のツボ

(5)英語によるcase presentation―テンプレート:まずは型紙を作ってみよう

著者: 大坪宏

ページ範囲:P.1143 - P.1149

はじめに

 私は1983年に信州大学医学部を卒業し,当初は小児科と神経内科のどちらかに進もうと迷っていたのですが,結果的には信州大学脳神経外科に籍を置くことになりました.学生時代,本郷一博先生(現信州大学脳神経外科教授)と彼の同級生たちの住んでいた浅間温泉周辺に下宿が近かったことから,本郷先生には「脳神経外科にこないか」と声をかけてもらっていました.それに加えて,学生最後の2週間のポリクリは脳神経外科でしたが,そうしたことよりも進路を決めるのに決定的となった出来事がありました.当時,San Diegoから帰国したばかりの竹前紀樹先生(現長野市民病院院長)が,臨床へ復帰のためのリハビリテーションのため,まだどっぷりとは臨床に漬かっていなかったこともあり,昼夜を問わず学生達の面倒をみてくれていました.そんな竹前先生から「大坪はあまり勉強していないようだから,勉強している同級生と比べると内科系では最初から知識に差がついてしまっている.だから,みんなが同じスタートを切れる外科系へ進むほうがよい」と言われ,急遽脳神経外科に籍を置くことになったのです.当時の脳神経外科の小林茂昭助教授(現相澤病院脳卒中・脳神経センター長,信州大学脳神経外科名誉教授)が小児科の小宮山淳助教授(現信州大学学長,元信州大学小児科教授)に,「大坪を脳神経外科にいただく」という電話をしてくださったというのは今でこその笑い話です.

コラム:医事法の扉

第43回「個人情報保護法と情報公開法」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.1150 - P.1150

 「個人情報の保護に関する法律」(いわゆる個人情報保護法)は,プライバシー権などの個人の権利利益の保護を目的とした法律です.「個人情報」は,「生存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述などにより特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)」と定義されています(2条1項).また,診療に関しては,厚生労働省のガイドライン(平成16年)によれば死者の情報も含むとされ,日本医師会の「診療に関する個人情報の取扱い指針」には,患者の氏名,生年月日はもちろん,既往歴,診療の内容,受けた処置の内容,検査結果,医師の診断・判断なども「個人情報」とされています.IDも,上記定義の括弧書きにあたると思われます.事業者たる医療機関は,情報の漏出などを防ぐように安全管理措置・監督義務を負います(20条,21条).

 一方,いわゆる情報公開法(「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」と「独立行政法人などの保有する情報の公開に関する法律」)は,国民主権のもと,行政運営の公開性と政府の説明責任の確保を目的として定められ,明記こそされていませんが,「知る権利」という表現の自由(憲法21条1項)を情報の受け手側からみた権利を保護するためのものと解されています.誰でも情報の開示請求ができますが(情報公開法3条),個人情報は,原則,不開示とされています(5条1号).

書評

『脳腫瘍臨床病理カラーアトラス 第3版』―日本脳腫瘍病理学会●編,河本 圭司,吉田 純,中里 洋一●編集委員

著者: 長村義之

ページ範囲:P.1093 - P.1093

 この本を開いてみて,まず感銘をうけるのは,①多くの脳腫瘍を網羅しながらの理路整然とした組み立て,②規則正しく簡潔かつ十二分な各腫瘍についての記述,③タイトルにふさわしい美麗かつ的確なカラー図である.本書には,一貫して編集者の哲学が感じられるのが素晴らしい.本書の内容は,総論と各論により構成されている.

 総論は,(1)歴史,(2)組織分類,(3)発生の分子メカニズム,(4)分子遺伝学と,脳腫瘍の“温故知新”が簡潔にまとめられており,興味深くまた大いに参考になる.特に「脳腫瘍の組織分類」ではWHO分類2007の表にはすべての腫瘍名が網羅されており,中枢神経系腫瘍のWHO gradeでも,表が見やすくgradingが可能となるように配慮されている.「脳腫瘍発生の分子メカニズム」「Astrocytoma,oligodendrogliomaの分子遺伝学」ではこの領域でのアップデートされた最新情報が記載されている.

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編集後記

著者: 河瀬斌

ページ範囲:P.1158 - P.1158

 布を被せて置いてあった直径1mの筒状物のカバーを所長がはぎ取ると,そこには銅線がぎっしりと巻かれた新型の機械があらわれ,私の目はそれに釘付けになった.

 これはサンフランシスコ郊外にあるカリフォルニア大学研究所で初めて開発中のMRIを目にしたとき,1981年のことである.訪問した私を後日お得意様になりそうな個人病院の院長と間違えたために,秘密のベールをはいでくれた一瞬であった.その部屋には当時CTスキャンでは得ることの難しかった所長の頭部矢状断画像が飾ってあった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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