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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科37巻3号

2009年03月発行

雑誌目次

勝負脳を鍛えよ

著者: 田村晃

ページ範囲:P.225 - P.226

 北京オリンピックで北島康介選手が2個の金メダルを取り前回のアテネに続いて2連覇して日本中を熱狂させたが,そのさい北島選手が語った「勝負脳」という言葉が話題となった.

 「勝負脳」は畏友林 成之教授(日本大学大学院総合科学研究科)の造語である.林教授は救命救急センター教授時代に脳低温療法で素晴らしい成果を上げたが,その研究の延長上に「勝負脳」という概念を出された.そして,オリンピック直前の合宿で競泳選手たちにレクチャーをされたが,中でも熱心に聴いていたのが北島選手であったという.林教授は著書「〈勝負脳〉の鍛え方」(講談社)などにも書かれたが,目標と目的を明確にして目標達成の具体的な方法を明らかにして実行する,最初から百パーセント集中する,相手の長所を打ち砕く,勝ち方のイメージを作る,脳の疲労を蓄積しないために競技を楽しむ,勝負の最中にリラックスしない,緊張しすぎたときの対処法としては自信と呼吸法を活用し結果を意識せず技に意識を集中させる,といった内容をレクチャーされたということである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

鞍外腫瘍に対する内視鏡下経鼻的手術―手術症例の紹介と将来展望

著者: 佐伯直勝 ,   村井尚之 ,   長谷川祐三 ,   堀口健太郎 ,   花澤豊行 ,   福田和正

ページ範囲:P.229 - P.246

Ⅰ.はじめに

 内視鏡下の経蝶形骨洞手術が普及してきた.内視鏡手術の最大の特徴は,広く明るい手術野が得られることである.小さな鼻腔粘膜の入り口から手術可能であり,低侵襲性を狙ったendoscopic pituitary surgeryが確立した4,9,10).一方,鞍外部の視野が広く十分に得られることから,鞍外病変への拡大手術も行われている.これは拡大蝶形骨洞法,さらには,endoscopic skull base surgeryとして発展しつつある2,7,8,13)

 筆者らは,上記の内視鏡の特徴を生かして,トルコ鞍外病変にも積極的に経鼻的内視鏡手術を行っている.開創器を使わないことで,見えるけれど器具が届かない内視鏡手術の欠点を補える10,11,12)

 今回は,その手術施行症例を紹介し,本法の将来を展望する.

研究

Screening black-blood MRIによるプラーク内出血の検出

著者: 遠藤英樹 ,   吉田和道 ,   黒崎義隆 ,   定政信猛 ,   鳴海治 ,   沈正樹 ,   山形専

ページ範囲:P.249 - P.253

Ⅰ.はじめに

 頚動脈病変はその脆弱性(vulnerability)により脳梗塞発症の危険性が大きく異なり,狭窄率や形態の評価に加え,その性状評価が重要である9,16).性状評価に関してhigh-resolution black-blood (BB)MRIの有用性が報告されており6,15),当院では2D spin-echo BB法T1,T2強調画像で評価を行ってきた12-14).特にT1強調画像はvulnerable plaqueの特徴の1つであるプラーク内出血の検出に有用である.しかし,2D spin-echo BB-MRIは撮像時間が長く,急性期症例などには不適当と思われる.そこで短時間で撮像できる3D gradient-echo BB法T1強調画像によるscreening BB-MRIの有用性を検討した.

症例

責任血管が三叉神経を貫通する特発性三叉神経痛の微小血管減圧術

著者: 渡邉啓 ,   中西欣弥 ,   中野直樹 ,   岩倉倫裕 ,   加藤天美

ページ範囲:P.255 - P.259

I.はじめに

 特発性三叉神経痛は,三叉神経根進入部(root entry zone:REZ)への血管圧迫により生じ,治療として微小血管減圧術(mircrovascular decompression:MVD)が行われている1,3,5).通常,血管は外側から神経組織を圧迫しており,血管移動法など減圧手技についておおむねコンセンサスが得られている2,3,5).しかし,責任血管が三叉神経を貫通することが0.8%と稀にあり11),このような症例に対する減圧手技についての報告はほとんどない.今回,責任血管が三叉神経を貫通し圧迫していた特発性三叉神経痛の1例を経験したので手術手技の工夫について報告する.

脳室内ビデオスコープ(軟性鏡)にて摘出した第三脳室コロイド囊胞の2例

著者: 小濱みさき ,   藤村幹 ,   永松謙一 ,   村上謙介 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.261 - P.267

Ⅰ.はじめに

 コロイド囊胞は,第三脳室に発生し閉塞性水頭症の原因となる稀な疾患である3,7,14,16).コロイド囊胞の嵌頓や急性水頭症により突然死を来した症例も報告されており8),早期の外科治療が必要と考えられる.1922年にDandyがコロイド囊胞の摘出術を報告して以来4),外科治療が試みられ,ステレオ定位下でのaspiration,シャント術が行われてきた.過去10年間ではtranscortical-transventricular approachあるいはtranscallosal approach 2)を用いた開頭下摘出術が標準的治療であったが,近年は低侵襲治療の観点から主に硬性鏡を用いた神経内視鏡的治療の有用性が報告されている1,5,6,10-13,15,20-22).今回,われわれは高解像度の軟性神経内視鏡である脳室内ビデオスコープ9)を用いて治療したコロイド囊胞の2例を経験したので文献的考察とともに報告する.

大型脳動脈瘤におけるMRI瘤壁評価の有用性―3症例報告

著者: 貞廣浩和 ,   清水宏明 ,   井上敬 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.269 - P.275

Ⅰ.はじめに

 比較的大型の動脈瘤の開頭クリッピング術の問題点の1つに血栓化の有無と瘤壁の厚さがある.血栓化を伴うものや瘤壁が厚いものは,単純にクリッピングできないものも多く,バイパス術+親動脈閉塞や瘤内血栓除去など別のstrategyを必要とすることがある5,8).血栓化の状態や瘤壁の評価を術前に行うことができればstrategyを立てる上で有用であるが,実際には評価は難しくクリッピングできるかどうかの判断は術中所見に委ねられることが多いと思われる.近年,black-blood imagingなど動脈壁のimagingが進歩しつつあり1-4,9-11),われわれも3 tesla-magnetic resonance imaging(MRI)装置による高解像度T2強調画像を用いて頭蓋内動脈のplaque評価などを行ってきた6).今回本法を大型脳動脈瘤に応用し,術前の血栓化や壁厚の評価が有用であった3症例を経験したので報告する.

自然退縮を呈した鞍上部・松果体部germinomaの1例

著者: 佐藤篤 ,   櫻田香 ,   久下淳史 ,   伊藤美以子 ,   赤坂雅弘 ,   嘉山孝正

ページ範囲:P.277 - P.282

Ⅰ.はじめに

 悪性腫瘍において自然退縮を呈する頻度は極めて稀であり,6~10万人に1人と報告されている3).今回われわれは,自然退縮を認めた鞍上部・松果体germinomaの稀な1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

成人に発生した両側視床神経膠腫の1例

著者: 岩味健一郎 ,   有馬徹 ,   大岡史治 ,   浅井琢美 ,   丹原正夫 ,   高岡徹

ページ範囲:P.285 - P.290

Ⅰ.はじめに

 両側視床に発生する神経膠腫(bilateral thalamic glioma;以下BTG)は非常に稀な腫瘍であり,英語文献では小児34例,成人14例の報告があるのみである.過去の報告例を検討するとBTGの症例においては共通した初発症状や画像所見がみられ,また予後はおおむね不良である.今回われわれは成人に発生した両側視床星細胞腫を経験したので文献的考察を加えて報告する.

補足運動野てんかんの外科治療―発作症状が決め手となった2例

著者: 岩崎真樹 ,   中里信和 ,   社本博 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.293 - P.298

Ⅰ.はじめに

 てんかんの局在診断では,画像診断や脳波よりも発作症状が決め手となる場合がある.MRIで明らかなてんかん原性病変があり,脳波異常の局在がはっきりしている場合は,一般に外科治療で良好な成績が期待できる.しかし,皮質形成異常の最終診断で外科治療に至る例の最大25%程度は,術前のMRIで病変が検出できないとされる9).また,側頭葉内側部や半球間裂深部などのてんかん性異常活動を,頭皮上脳波で検出するのは,ときに困難である3)

 今回われわれは,MRIで異常所見を認めず,頭皮脳波所見でも確定的な局在異常を認めなかったが,発作症状を最大の手掛かりとして外科治療に成功した2症例を経験したので報告する.

連載 脳神経外科疾患治療のスタンダード

4.めまいを唯一の症状とする末梢性と中枢性疾患

著者: 神崎仁

ページ範囲:P.299 - P.308

I.めまい疾患における最近の動向

 めまいを主訴に救急外来や脳神経外科,神経内科,耳鼻咽喉科を受診する患者は少なくない.高齢化に伴って高齢者のめまいも増えている.特に,めまいが急に発症し,しかも,その人にとってはじめてのことであれば,回転性めまい(vertigo)であれ,浮動性めまい(dizziness)であれ,救急外来受診となる可能性は高い.これらの中には,めまい以外に症状がなく,診断に難渋する例も少なくない.このような例の背後に隠れている,生命にとって危険な緊急に対応を要する疾患を効率的に診断することは,救急医やめまいを扱う診療科の医師の役割でもある.救急外来ではとりあえずCT検査で脳出血が否定されれば,後日,耳鼻科,神経内科の受診を勧めるのが一般的である.しかし,めまいのみを主訴とする末梢性めまい疾患や神経学的所見のない脳硬塞があること,後者では少し時間差をもって後日神経症候が生じ神経学的所見がとらえられる例のあることも知っておくことが必要である.

 本誌は主に脳神経外科医を対象としていると考えるので,めまい症例でも明らかな神経学的異常を伴うものは除外し,めまいをほとんど単独に訴える疾患(isolated vertigo or dizziness)の最近の動向について述べてみたい.

コラム:医事法の扉

第35回 「ADR」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.309 - P.309

 ADRとは,alternative dispute resolutionの略で,直訳すると「代替的紛争解決」となりますが,最近は「裁判外紛争解決」の総称として汎用されています.「裁判外」というと,「示談」を連想しますが,示談は,主として当事者同士で話し合い紛争を解決する手段であるのに対し,ADRは,原則として,ADR機関(個人を含む)という,中立的第三者機関を介して紛争解決を行うもので,「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため,公正な第三者が関与して,その解決を図る手続」と定義されています[「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(通称ADR法)1条].

 裁判所ホームページによれば,医事関係民事訴訟の平均審理期間は,23.6カ月(2007年度)であり,1993年度の42.6カ月の約半分に短縮されてはいますが,未だ約2年もかかることがわかります.この裁判期間をさらに短縮し,当事者の負担軽減や,訴訟費用の減額,そして,紛争解決に対する満足を得るためにもADRは期待されています.特に医療は事故が不可避で,そのため患者側の期待が裏切られることが多く,紛争もまた不可避に生じることから,どの分野にも先駆けてADRに期待がかかっています.

書評

『臨床麻酔レジデントマニュアル』―古家 仁●編

著者: 並木昭義

ページ範囲:P.259 - P.259

 2008年6月に医学書院から『臨床麻酔レジデントマニュアル』が発刊された.この本の編集執筆を奈良県立医科大学麻酔学教室に依頼されたことは最適な選択であった.編集責任者の古家仁教授は日本麻酔科学会常務理事として,日本の麻酔科および麻酔科医に現在そして将来何が必要かを十分に理解している.その教室は術中の麻酔業務だけでなく,術前,術後の周術期管理に熱心に取り組んでいる.そして研修医,若手麻酔科医に臨床麻酔の知識,技術を習得させるだけでなく,患者への接し方および他科医師,看護師への対応などの教育にも力を注いでいるからである.今回発刊された本はポケット版のマニュアル本であるが臨床麻酔に必要な内容がほぼ網羅されている.しかも簡潔な表現で図表も多く用いて理解しやすくしてある.このような本ができたのは編集協力者の川口昌彦准教授,井上聡己講師および執筆に携わった29名の教室員皆さんの努力と頑張りによる.この本からは,各執筆者らが臨床現場で研修医や若手麻酔科医が何を求めているかよく知っているということや,その知識と技術を伝えたいという彼らの意気込みが伝わってくる.自分で書いたものを用いて指導に当たることは執筆者にとって嬉しいことだけでなく自分の勉強と励みになる.

 この本は序章,本文8章,付録,コラムから構成される.序章では麻酔科研修と麻酔科専門医への道が書かれている.第Ⅰ章は臨床麻酔のための薬理学で各種麻酔薬,麻酔関連薬など6項目から成る.第Ⅱ章は術前評価,前投薬などの術前対応など10項目から成る.第Ⅲ章は麻酔管理に必要な手技で麻酔器の始業点検,吸入および静脈麻酔法,気道確保に必要な各種方法や器具,輸血輸液法,各種神経ブロック法,救命処置など10項目と広範囲にわたり書かれている.第Ⅳ章はモニタリングで基本モニターをはじめ筋弛緩,経食道心エコー,麻酔深度など8項目を取り上げている.第Ⅴ章は合併症とその対策で低酸素血症,肺塞栓症,アナフィラキシーなど日常臨床でよく遭遇する11項目を挙げている.第Ⅵ章は比較的頻度が高い留意すべき症例で37項目を挙げており,日常臨床において必要な症例がほぼ網羅されており,その内容もよく書かれている.第Ⅶ章は術後管理で術後訪問から術後管理,合併症対策など6項目が書かれている.第Ⅷ章は麻酔と危機管理でヒヤリハット,災害時の対応,麻酔事故への対応など5項目から成る.付録は臨床麻酔の現場に携わる者にとって必要な知識を図表を多く用いて簡潔にまとめられており大変有益である.文中の適所に「what would you do?」という27のコラムが入っている.この内容は現場で関心かつ重要な問題を取り上げ適切に解説されており参考になる.

『精神科の薬がわかる本』―姫井 昭男●著

著者: 長嶺敬彦

ページ範囲:P.282 - P.282

 このたび医学書院から姫井昭男先生が書かれた『精神科の薬がわかる本』が出版された.これは精神科で使われている全領域の薬の使い方,作用,副作用,禁忌,患者さんへの説明の仕方がざっと理解できるお薦めの本である.解説されているのは「抗うつ薬」「睡眠薬」「抗精神病薬」「抗てんかん薬」「老年期に使う薬」「気分安定薬」「抗躁薬」「抗不安薬」「抗酒薬」「悪性疾候群の治療薬」「発達障害をもつ人への薬物療法」と,ざっと11領域にわたる.コンパクトながら,精神科の薬が “ざっと”理解できる.このような本を望んでいた人は多いのではないだろうか.

 向精神薬に関する本は,一般的に言って非常に難解である.脳のさまざまな受容体や神経回路がひと通り頭に入っていることを前提に書かれているからである.もっと簡便で,それでいて臨床の場で使える向精神薬の薬理の本はないものかと思っていたところ,姫井先生のこの本を見つけた.タイトル通り,向精神薬が「わかる」本である.

文献抄録

Susceptibility loci for intracranial aneurysm in European and Japanese populations

著者: 赤川浩之

ページ範囲:P.311 - P.311

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編集後記

著者: 堀智勝

ページ範囲:P.318 - P.318

 本号も症例報告も含めて力作が並んでいる.まず,佐伯直勝教授の「傍鞍部腫瘍に対する内視鏡下経鼻的手術─手術症例の紹介と将来展望」はイラストも美しく,内容も充実しており読者に参考になると思われる.私もこの方面の手術に関しては並々ならない関心を持っている一人である.Jho先生が始めた内視鏡のみによる手術は種々の発展性を持っており,近い将来,内視鏡のみの手術時代の到来を予想させたのであるが,私は内視鏡支援経鼻下垂体手術にこだわっている.最近東京女子医大のこの部位の手術の成績をまとめてみたが,内視鏡のみの成績に比べても遜色ないかそれ以上の成績を上げることができたと自負している.内視鏡の利点,顕微鏡の利点を併せて手術するのが最も合理的な手術法ではないかと今も考えている.世界の名だたる内分泌脳神経外科医は内視鏡のみの手術を取り入れていないと言っても過言ではない.

 この種の手術で最も重要なのは,ホルモン産生腫瘍では治癒基準を満たす症例の増加を図り,手術成績を上げ,正常下垂体組織の損傷を可及的に押さえることで,これが内分泌内科医あるいは患者さんからの要望でもある.この意味で内視鏡のみの手術成績が内視鏡支援経鼻下垂体手術成績を凌駕しない限り,現在でも手術機器も画像の質も手術顕微鏡は内視鏡よりも優れていると言わざるを得ない.Jho先生始め,多くの内視鏡のみの術者の手術成績が顕微鏡併用の手術成績を超えたと発表されてはいないと思う.傍鞍部の腫瘍,例えば鞍結節髄膜腫の手術でも,経鼻手術で手術が可能であることは理解できるが,全摘率,再発率,合併症の比較で経鼻手術が優れているという科学的発表はないと思う.一番大事なことは患者さんに優しい手術を行うことであり,種々の髄液漏防止策が発表されているが,この面でも内視鏡のみの手術が優れているとは思えないし,却って危険度は大きいのではないかと思っている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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