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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科37巻4号

2009年04月発行

雑誌目次

Mickeyのつぶやき

著者: 井上亨

ページ範囲:P.321 - P.322

 今からちょうど20年前,私は米国フロリダ州ゲインズビルにあるフロリダ大学に留学していました.ゲインズビルからオーランドにあるDisney Worldまで車で2時間です.1988年にはMickeyの還暦のお祝いで華やかなショーが催されていました.Disney Worldにはシンデレラ城のあるMagic Kingdomとは別にEPCOTというもう1つの施設がありました.EPCOTとはExperimental Prototype Community of Tomorrow(近未来都市)のことです.その中のSpaceship Earthというアトラクションの中に,生まれたばかりの可愛い女の子がいつしか少女となり大学を卒業して宇宙飛行士を目指し,ついにはロケットで宇宙に飛び立っていくシーンがありました.当時,大きな夢に向かって確実に成長していくアメリカの女性は格好いいなあ,と思って感動したのを覚えています.2008年の北京オリンピックではひたむきに金メダルをめざして活躍する日本女性の姿に国民が勇気づけられました.BSL(bedside learning)で医学生と話して思うことは,医学生は将来の夢と志を忘れていないということです.それなのに理想とする指導者に巡り会えず,なんとなく卒後研修を受けている間に夢と希望が薄らぎ,周囲の雑音につぶされ医学生時代の高い志はいつしか消え去っているのです.オリンピックでは20歳前後の若者が世界一を目指して活躍しています.現役24歳で卒業する医学生が卒業時に将来の専攻を決められない研修制度はいったい何なのか.医学生時代から金メダルを目指して走り出してもらいたいものです.

 1980年代フロリダでは,医療訴訟の増加で産婦人科医がいなくなってしまったという話がつぶやかれていました.当時,こんな楽しい夢の世界でどうしてと実感がわきませんでした.20年後の現在,日本が同じ状態に陥っています.患者はクレーマーとなり,にこにこ和解弁護士が増え,裁判官は医療の正当性とは無関係に判決を下します.ある施設での医療訴訟で1億数千万円の和解判決が下されました.くも膜下出血でVPシャントをされていた患者さんがシャント不全になり,緊急手術を受けた際に脳室側にトラブルが生じ後遺症が残ったのです.鑑定を依頼された医師は,たとえシャントチューブの断裂が明らかであっても術前にシャント造影が必要であったと判断しました.別の医師に再鑑定をお願いし医学的に異なる見解があることを裁判所に訴えても相手にしてもらえず,弁護士も和解を勧めるだけで医師のプライドなどかやの外です.裁判所からの返答の一部を以下に紹介します.“民事裁判における判断は,法廷に提出された証拠のみに基づきなされなければならないという制度になっていることから,医学における証明(自然科学的な意味での証明)とは必ずしも同じではないことを十分理解いただきたいと思います.”この返答が意味するのは,医師が医学的に正当な治療と判断して行った治療であっても処罰され得るということです.医療訴訟が増加していく中,患者を助けようとがんばっている医師のことを思い,将来の日本の医療を真剣に考えて行動してくれる弁護士(民事専門,刑事専門),鑑定医師の選択が不可欠です.セカンドオピニオンは患者のためだけにあるものではありません.弁護,鑑定を依頼する場合は,日夜救急医療に携わる医師のために誠心誠意戦ってくれる人にお願いしなければならないと思います.医師の法律に対する知識不足が高額賠償の判決を受けた最大の原因ではないかと痛感させられます.

総説

MRI firstによる頭痛診断

著者: 下田雅美

ページ範囲:P.325 - P.341

Ⅰ.はじめに

 急性発症の頭痛患者における画像診断は,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)などの出血性病変と頭蓋内占拠性病変の診断を目的に,従来からCT検査を第一選択としてきた.しかし,最近,CTでは検出困難な頭痛の原因病態が解明され,頭痛の初期診療の段階で,magnetic resonance imaging(MRI)が必要な場合も少なからず経験する.また,既にtissue plasminogen activatorなどの超急性期の脳梗塞治療が広く普及し,特に脳卒中センターにおける診療体制では,急性期脳梗塞の診断を優先するために,MRIを画像診断の第一選択とする施設が多くなりつつある.したがって,臨床医は「とりあえずのCT」を経由せずに,MRI所見により少なくとも一般的な頭蓋内病変を的確に診断する必要がある.

 今回,日常の頭痛診療の中でMRI firstで検査したがゆえに異常所見と混同しやすい正常変異(normal variation),最も危険な頭痛として見逃してはいけないSAHとMRI上鑑別すべき疾患など,日常的な頭痛疾患を中心としてMRI所見を解説する.なお,MRI上,比較的容易に存在診断が可能な脳腫瘍・外傷性病変,さらに低髄液圧症候群の記載は他稿に譲った.

解剖を中心とした脳神経手術手技

側頭骨悪性腫瘍に対する手術

著者: 川原信隆

ページ範囲:P.343 - P.353

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科医が側頭骨原発悪性腫瘍の治療に関わることは比較的少ない.元来の発生頻度が年間発生率人口100万人比で6例程度と非常に低く,その8割は扁平上皮癌が占める19).特に外耳道原発のものは表在性であり,早期治療も可能であり広範囲切除の適応はないことから,脳神経外科が治療に関与するのは,深部に進展した一部の症例に限定される.

 これらの腫瘍に対する積極的外科治療は,歴史的に1954年のParsons, Lewisによる側頭骨一塊切除術の概念にまでさかのぼる17).しかし,彼らの100例の報告での5年生存率は27%にとどまり,手術死亡率も10%近かったことから,その後はpiecemeal resectionに放射線治療を組み合わせたほうがより少ない合併症で同様の成績が可能であるとの反論もなされてきた11).1994年に発表されたsystematic reviewにおいても,一塊切除術(en bloc resection)がより予後を改善するとの統計学的有意差が得られていないのが実情である19)

 技術的に困難な悪性脳腫瘍や深部頭頚部腫瘍などではpiecemeal resectionがなされているが,いわゆるsafety marginをとった一塊切除は,これらの部位を除いた腫瘍外科では治癒切除のための常識ともいえる概念である.過去数十年の間に耳鼻科・頭頚部外科の手術手技が発展すると同時に,脳神経外科領域においても頭蓋底外科の概念が導入され,側頭骨や頭蓋外の解剖学的知識は飛躍的に普及した.さらに再建外科の普及発展により,広範囲切除後の再建の安全性が高まり,美容的観点からも十分に患者の納得が得られるようになってきた.これらの各領域の発展から,十分に安全でかつsafety marginをとった一塊切除術施行可能例が増えてきているといえる.このような状況の中で,筆者は頭頚部外科(耳鼻科),形成外科,脳神経外科の頭蓋底チームによる積極的外科切除を進めてきており,その経験から本稿では側頭骨悪性腫瘍の一塊切除術についての外科手技を中心に紹介する.本手技は側頭骨原発腫瘍にとどまらず,耳下腺などの外側頭蓋底に発生した悪性腫瘍に対しても適応可能である.

 本手術は腫瘍の存在する側頭骨外側部を残したまま深部の骨切除を安全に行うものであり,外側の骨を切除して術野を確保する脳神経外科的頭蓋底外科手技とは若干異なる.視野の角度,術野の深さ,脳の圧排,解剖学的指標の確保などに加え,頚静脈孔部や側頭下窩など頭蓋外の解剖学的知識も要求される.本稿でそのすべてを解説することはできないが,ぜひ関連した解剖書と実物大の頭蓋骨モデルを参考にしていただきたい.

研究

Limen recessに存在する中大脳動脈瘤(M1上方向き)の手術―手術成績および解剖学的考察

著者: 数又研 ,   浅岡克行 ,   板本孝治 ,   横山由佳 ,   牛越聡 ,   菊地統

ページ範囲:P.355 - P.362

Ⅰ.はじめに

 M1 segmentが短い症例でのM1-2分岐部,あるいはearly bifurcation of the lateral orbitofrontal arteryの分岐部の動脈瘤は脳血管造影上,正面像で上方へprojectionし,解剖学的にはlimen insulaeの直下に存在する2,5).中大脳動脈瘤のうちM1の上方向きのものは,レンズ核線条体動脈の障害の可能性が他の部位,方向の中大脳動脈瘤に比べ高い6).しかし実際にはクリップで穿通枝を閉塞させるような初歩的なミスは少なく,M1の過度な牽引によりレンズ核線条体動脈領域の梗塞を生じたと思われる例,破裂動脈瘤での動脈瘤頚部の損傷,中枢確保前に瘤の操作を始めクリップをapplyしたが破裂部の閉鎖に難渋した例,などこの部位の動脈瘤の注意点はクリッピング操作そのものより,sylvian fissureの剝離範囲を含めた動脈瘤のexposureにあるのではないかと考えられる.

 Yaşargilの著書,『Microneurosurgery』の中大脳動脈瘤の項目の中で,medial wall of proximal middle cerebral arteryに発生した14例について記述がある16).また,文献的にはM1部動脈瘤としてanterior temporal artery分岐部瘤を含めるものもあるが,手術戦略や難易度は異なり別個のものとして考えたほうがよいのではないかと思われた3,11,17).今回,leteral orbitofrontal arteryが早期に分岐しfalse bifurcationの形態をとるもので,この動脈分岐部から発生し結果としてmedial wallに発生したものを1つの範疇として検討した.この部位の動脈瘤は解剖学的にlimen recessに存在するが10,13),同部位の動脈瘤の自験例をretrospectiveに検討することにより,必要なmicrosurgical exposure,動脈瘤の処置に関して考察を行った.

症例

巨大腹腔内膿瘍を生じたシャント感染の1例

著者: 堤佐斗志 ,   大倉英浩 ,   菅康郎 ,   秋山理 ,   阿部祐介 ,   安本幸正 ,   伊藤昌徳

ページ範囲:P.363 - P.367

Ⅰ.はじめに

 脳室腹腔短絡術は脳神経外科領域における最も一般的かつ代表的な手術手技の1つであるが,一方で機能不全,感染,硬膜下血腫,硬膜下水腫,overdrainage syndrome,腹腔内偽性囊腫形成,シャントチューブの迷入・逸脱等,さまざまな合併症を起こしうる.腹側チューブに関連した膿瘍形成の報告は比較的稀であるが,その多くは肝膿瘍であり1,6),腹腔内膿瘍を形成したとの報告は少ない2,7).今回われわれは,脳室腹腔短絡術後脳膿瘍を併発した遷延性昏睡状態の患児において,経過中の髄液所見からは感染兆候が明らかでなかったにもかかわらず,巨大な腹腔内膿瘍を生じた症例を経験したので報告する.

脳生検術により確定診断され早期に化学療法を開始された血管内リンパ腫の1例

著者: 井上大輔 ,   濱村威 ,   上原平 ,   三好克枝 ,   葛城武文 ,   竹下岩男 ,   濱田哲夫

ページ範囲:P.369 - P.374

Ⅰ.はじめに

 血管内リンパ腫intravascular lymphoma(IVL)は,中枢神経や皮膚をはじめとして全身諸臓器の小血管内で腫瘍細胞が増殖する稀な疾患である.本疾患に特異的な症状や画像・検査所見に乏しく,症状の進行も急速で予後不良であることから,生前の確定診断は困難と言われている.今回われわれは,開頭生検術により確定診断し早期より化学療法を開始することができた1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

視神経を分割していた内頚動脈―眼動脈動脈瘤の1破裂例

著者: 佐藤拓 ,   佐々木達也 ,   佐久間潤 ,   鈴木恭一 ,   松本正人 ,   佐藤正憲 ,   板倉毅 ,   児玉南海雄

ページ範囲:P.375 - P.380

Ⅰ.はじめに

 視神経近傍に発育増大した動脈瘤が視神経を圧迫し,視力視野障害を来す症例は少なからず経験するが,脳動脈瘤が視神経を分割していた状態で破裂した症例は稀である1,2,5,6).われわれは,視神経を分割していた内頚-眼動脈動脈瘤の破裂例に遭遇し,この種の動脈瘤では文献的に視力の温存率が低いことから,術中視覚誘発電位(visual evoked potential:VEP)8,9)を用い視神経の温存を意識しながら手術を施行したので報告する.

くも膜下出血で発症した両側椎骨動脈解離性動脈瘤の1例

著者: 梨本岳雄 ,   斉藤隆史 ,   倉島昭彦 ,   山下慎也 ,   本間順平

ページ範囲:P.381 - P.385

Ⅰ.はじめに

 椎骨動脈解離性動脈瘤は,くも膜下出血の原因として比較的稀に経験する.その中でも片側の椎骨動脈に発生するものについては報告例が多いのに対し,両側性の症例は少なく,確立された治療方法はない.今回,われわれはくも膜下出血で発症した両側椎骨動脈解離性動脈瘤に対し,1カ月間の鎮静を行い,非破裂側の自然修復を待った後,破裂側の親血管閉塞を行うことにより良好な結果を得た症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

限局性弓部大動脈解離により両側総頚動脈解離を生じた1症例

著者: 平石哲也 ,   本山浩 ,   阿部博史

ページ範囲:P.387 - P.391

Ⅰ.はじめに

 弓部大動脈より発生する大動脈解離は,広範な大動脈解離に至ることが多く,腕頭動脈,左右総頚動脈,鎖骨下動脈への解離の進展により脳梗塞を起こすことが知られている5).今回,われわれは脳梗塞で発症した大動脈弓部の限局的な解離により両側総頚動脈解離を呈した稀な1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Tolosa-Hunt症候群と内頚―後交通動脈分岐部未破裂動脈瘤による同側動眼神経麻痺を同時発症した1例

著者: 堤佐斗志 ,   清水勇三郎 ,   秋山理 ,   野中康臣 ,   阿部祐介 ,   安本幸正 ,   伊藤昌徳

ページ範囲:P.393 - P.397

Ⅰ.はじめに

 Tolosa-Hunt症候群は多くが片側V領域,あるいはV領域も含む顔面痛に神経原性の同側眼筋運動障害,瞳孔括約筋調節障害がさまざまな組み合わせで合併した臨床徴候である1,4).ステロイドに反応良好な再発性の海綿静脈洞ないし上眼窩裂に存在する非特異的炎症性肉芽腫病変と関連付けて論じられることが多いが,原因疾患は多岐にわたり,画像上特異所見を欠く場合には診断に苦慮することも多い1,4).動眼神経麻痺は後交通動脈瘤との関連でしばしば述べられる一方で,脳動脈瘤圧迫の様式から動眼神経障害を分類化したものは存在しない5,6).今回われわれは,Tolosa-Hunt症候群と時期を同じくして動眼神経麻痺が出現,同側内頚-後交通動脈分岐部未破裂動脈瘤が考えられた症例を経験したので報告する.

連載 脳神経外科疾患治療のスタンダード

5.未破裂脳動脈瘤の治療―脳ドックのガイドライン2008を中心に

著者: 森田明夫 ,   木村俊運 ,   楚良繁雄

ページ範囲:P.399 - P.411

Ⅰ.はじめに

 未破裂脳動脈瘤の治療方針の決定は難しい.その理由は第1に未破裂脳動脈瘤の自然歴が個々の瘤に関しては不明なこと54),第2に治療リスクが報告によってかなり異なり,動脈瘤の部位や大きさ,患者の状況によっても施設ごとで治療成績に差があること56,63),また3つ目には,治療は予防治療の色合いが濃く,その意義について患者と医療側の考えに大きな差がありうること3,27),もし何らかの合併症を併発すると訴訟を含めた問題となりうることなどである.また破裂率の高い瘤ほど治療のリスクも高いという大きな問題がある.

 現在日本では,年間1万例超の未破裂脳動脈瘤患者が開頭クリッピングまたは血管内コイル治療のいずれかを受けている.社団法人日本脳神経外科学会調べでは2006年には日本全国で8,839件の開頭クリッピング術,3,053件のコイル塞栓術が施行されている(http://ucas-j.umin.ac.jp/UCAS2007/index.html).このような治療の根拠を明らかとし,医療者としてしっかりとした基準をつくる努力をしなければならない.

 このたび筆者が中心となって,脳ドックのガイドライン2008,無症候性未破裂脳動脈瘤への対応を改定した(http://www.snh.or.jp/jsbd/pdf/guideline2008.pdf).本稿ではその内容を中心に,未破裂脳動脈瘤の治療方針について現時点で得られている情報から考えうることを解説したい.また現在筆者の施設において気をつけている未破裂脳動脈瘤の治療のポイントについて示したい.

コラム:医事法の扉

第36回 「他科診療依頼」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.413 - P.413

 脳神経外科関連の疾患は,高血圧症をはじめ,脂質異常症,糖尿病などの内科的疾患と密接に関係しており,患者が脳神経外科を受診することが適当であると信じていても,医学的にみれば,内科的治療を優先すべきことがよくあります.また,「頭痛」を主訴に脳神経外科を受診しても,実は耳鼻科的疾患や眼科的疾患が原因であるということもあります.そこで,われわれの日常診療においては,脳神経外科を受診した患者を脳神経外科以外の科に紹介する「他科診療依頼」が頻繁に行われています.診療所や小規模の病院では,診療情報提供書を作成し,他の専門医療機関を紹介しますが,総合病院では,多くの場合,同じ院内の他科に診療を依頼することになります.

 それでは,この「他科診療依頼」の場合の法律関係はどうなるのでしょうか.判例・通説によれば,あくまで患者と病院との間の診療契約(民法656条,準委任)ですから,担当医は診療契約を遂行するための「履行補助者」に過ぎず,たとえ同じ院内の他科の医師に依頼したとしても履行補助者が増えるだけであって,診療契約には何ら影響を及ぼさないと考えられます.また,依頼された医師は,病院(あるいは,国または地方公共団体)との雇用契約に基づき,診療行為を適切に行わなければなりません(民法644条)し,医師法等所定の義務を負うことになります.

文献抄録

Outcome after pituitary radiosurgery for thalamic pain syndrome

著者: 林基弘

ページ範囲:P.415 - P.415

Long-term efficacy of gamma knife radiosurgery in mesial temporal lobe epilepsy

著者: 林基弘

ページ範囲:P.415 - P.415

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編集後記

著者: 若林俊彦

ページ範囲:P.422 - P.422

 今号は,2009年度の初頭を飾るに相応しい,大変すばらしい内容の論文が満載されている.まずは,『扉』の井上 亨教授の「Mickeyのつぶやき」は,われわれのような医学教育職に就いている者にとっては考えさせられる内容であった.毎年,4月には,生命の本質を探究し,生命を救う手段を学ぶという崇高な気概を持って多くの医学部1年生が大学の門をくぐる.その医学教育の現場は,はたして彼らの理想に十分応えているであろうか.現行の研修医制度の中で,かなりの研修医が自分の進路にさまざまな不安を抱いていると聞く.理想とする指導医と巡り会えたり,自分の抱いた夢や希望を叶える方策を見出せる者は少数であり,むしろ研修医の多くは,日常の医療業務に忙殺され,考える暇もないと聞いている.さらには医療訴訟等の医療現場に吹き荒れる嵐の中で,医学生の時に抱いていた高い理想はいつしか現実のなかに埋もれ,目先のことにばかり捕われて研修生活を過ごしていないだろうか.医学生の講義や実習を受けるときのあの純粋で美しい眼差しを前に,教育者はいつしか熱くなる.その純粋さを失わせずに,気概に燃える若き医師を養成するために,今なすべきことは何か.さまざまな思いが脳裏を過った.

 『総説』の下田雅美先生の「MRI firstによる頭痛診断」は,日常診療で頻繁に遭遇する「頭痛」を主訴とする症例に対して,MRIを画像診断として第一選択とする施設が増えている現状を鑑みて企画された.すなわち,MRI firstで検査したがゆえに異常所見と混同しやすい正常変異や,頭痛の誘因として決して見落としてはならないSAHとMRI上鑑別すべき疾患等を,自らが経験したMRI所見を中心に解説している.内容は,単に鑑別のポイントを示すばかりではなく,各疾患ごとに病態や治療法にまで言及しており,日常の診療にすぐにでも役立つような配慮がされている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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