文献詳細
文献概要
扉
Mickeyのつぶやき
著者: 井上亨1
所属機関: 1福岡大学医学部脳神経外科
ページ範囲:P.321 - P.322
文献購入ページに移動1980年代フロリダでは,医療訴訟の増加で産婦人科医がいなくなってしまったという話がつぶやかれていました.当時,こんな楽しい夢の世界でどうしてと実感がわきませんでした.20年後の現在,日本が同じ状態に陥っています.患者はクレーマーとなり,にこにこ和解弁護士が増え,裁判官は医療の正当性とは無関係に判決を下します.ある施設での医療訴訟で1億数千万円の和解判決が下されました.くも膜下出血でVPシャントをされていた患者さんがシャント不全になり,緊急手術を受けた際に脳室側にトラブルが生じ後遺症が残ったのです.鑑定を依頼された医師は,たとえシャントチューブの断裂が明らかであっても術前にシャント造影が必要であったと判断しました.別の医師に再鑑定をお願いし医学的に異なる見解があることを裁判所に訴えても相手にしてもらえず,弁護士も和解を勧めるだけで医師のプライドなどかやの外です.裁判所からの返答の一部を以下に紹介します.“民事裁判における判断は,法廷に提出された証拠のみに基づきなされなければならないという制度になっていることから,医学における証明(自然科学的な意味での証明)とは必ずしも同じではないことを十分理解いただきたいと思います.”この返答が意味するのは,医師が医学的に正当な治療と判断して行った治療であっても処罰され得るということです.医療訴訟が増加していく中,患者を助けようとがんばっている医師のことを思い,将来の日本の医療を真剣に考えて行動してくれる弁護士(民事専門,刑事専門),鑑定医師の選択が不可欠です.セカンドオピニオンは患者のためだけにあるものではありません.弁護,鑑定を依頼する場合は,日夜救急医療に携わる医師のために誠心誠意戦ってくれる人にお願いしなければならないと思います.医師の法律に対する知識不足が高額賠償の判決を受けた最大の原因ではないかと痛感させられます.
掲載誌情報