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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科37巻6号

2009年06月発行

雑誌目次

Decursus Morbi

著者: 落合慈之

ページ範囲:P.527 - P.528

 Decursus Morbiのことである.恥ずかしながら正式訳語は知らない.筆者なりに勝手に“疾患の発症様式”といった意味と解している.

 筆者がDecursus Morbiという語を知ったのは学生時代であった.神経内科の臨床実習で,たまたま何かの質問をした筆者に,「これを読みなさい」とM先生が差し出された診断学の教科書の冒頭にそれがあったからである.そこには,第1章 神経学的検査法,その1.Anamnesisとあり,A few paradigmata of some typical “curves of development” (decursus morbi) may be instructive.という記述のもと,神経系の代表的疾患の発症の様子が,縦軸が症状の重さ,横軸が時間経過を示す模式図とともに解説されていた.

総説

パーキンソン病の分子生物学

著者: 斉木臣二 ,   服部信孝

ページ範囲:P.531 - P.541

Ⅰ.はじめに

 孤発性パーキンソン病(sporadic Parkinson disease:sPD)はわが国では有病率100~130/10万人でアルツハイマー病に次いで2番目に頻度の高い神経変性疾患であり,1960年代以降はさまざまな薬物療法による対症療法が確立されつつある疾患である.他の遺伝性神経変性疾患の病態機序解明が責任遺伝子同定およびその遺伝子産物の機能解析(種々の細胞・動物モデルならびに蛋白そのものへのアプローチ)により発展してきたのと同様に,sPDの病態機序解明が,家族性パーキンソン病(fPD)の責任遺伝子同定から遺伝子産物(野生型および変異型)の機能解析に依存してきたことは論をまたない.Geneticsからproteomicsへの流れが確立されていく中で,step-by-stepに発症機序が解明され,多様な責任遺伝子産物の相互作用からcommon pathway(s)を探りゆく手法がsPDにおいて主たる研究の流れとなっている.本総説では通例の順序とは異なり,fPD各論を臨床的特徴と分子生物学的特徴について述べたのち,責任遺伝子産物の機能をまとめ,sPDの分子生物学的発症機序を考察したい.

研究

小児頭蓋内動静脈シャントの治療経験

著者: 石黒友也 ,   小宮山雅樹 ,   中村一仁 ,   吉村政樹 ,   山本直樹 ,   山中一浩 ,   岩井謙育 ,   國廣誉世 ,   松阪康弘 ,   坂本博昭

ページ範囲:P.543 - P.550

Ⅰ.はじめに

 小児期に頭蓋内動静脈シャントを伴う疾患は頻度の高い順に広義の脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM),ガレン大静脈瘤(vein of Galen aneurysmal malformation:VGAM),硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dural AVF)がある1-3,6-10).AVMはnidusをもつ狭義のAVMとnidusをもたずに栄養血管が直接に流出静脈につながるpial AVFとに分けられる10).狭義のAVMはnidusを伴うのに対し,VGAM,dural AVF,pial AVFはfistulaのみからなる動静脈シャントである.また狭義のAVMが症候性になるのは年長児以降に多く,その臨床症状や管理は成人例と大きな違いはない.VGAM,dural AVF,pial AVFを対象とした小児頭蓋内動静脈シャントの臨床症状と治療成績を報告する.

破裂前交通動脈瘤の治療に対するクリッピング術とコイル塞栓術の症例分配について

著者: 数又研 ,   牛越聡 ,   寺坂俊介 ,   桜井寿郎 ,   菊地統 ,   横山由佳 ,   浅岡克行 ,   板本孝治 ,   丸一勝彦

ページ範囲:P.553 - P.558

Ⅰ.はじめに

 International Subarachnoid Aneurysm Trial(ISAT)の研究結果は,これまで主に開頭手術で行われてきた破裂前交通動脈瘤の治療にコイル塞栓術という選択肢を加えた12,13,21).しかし,ISATの結果を一般化しコイル塞栓術を第一選択とすることには批判もあり,破裂前交通動脈瘤は,pterional approachで開頭手術を第一選択として行っている施設が大多数と思われる4,5,17).開頭手術,血管内治療それぞれの利点を高め,リスクを最小限にとどめるような症例の選択を具体的にどうすべきかは不明確である7,15,18,19,21)

 われわれは2004年4月より破裂動脈瘤は“コイル塞栓術”“開頭手術”それぞれの治療を専門とする医師が動脈瘤の形状,病態を考慮し治療法を決定し,いずれの方法でも治療可能と判断された場合にはコイル塞栓術を第一選択とする方針を採用した13).今回,2004年以後の当院における破裂前交通動脈瘤の治療現状を,decision-making processと各治療に分配される頻度についてretrospectiveに検討し両治療の適切な選択に関する考察を行った.

同時多トラック微小電極記録法定位脳手術による脳内出血

著者: 宮城靖 ,   森岡隆人 ,   橋口公章 ,   村上信哉 ,   左村和宏 ,   吉田史章 ,   庄野禎久 ,   佐々木富男 ,   山崎亮 ,   川口美奈子

ページ範囲:P.559 - P.564

Ⅰ.はじめに

 脳深部刺激療法(DBS)では,リード植込み手術時に微小電極記録(microelectrode recording,MER)による生理学的検索が行われる.MERには,①1本の微小電極を1回のみ穿刺する単一トラック法(single-track MER),②1本の電極で標的座標を変えながら複数回穿刺する連続多トラック法(sequential multi-track MER),③複数の微小電極を同時に刺入して検索する同時多トラック法(simultaneous multi-track MER)がある21).欧米では同時多トラック法が広く用いられているが1,3,6),最近はわが国でも多くの施設が同時多トラック法を用いるようになった.多トラック法の弱点は脳内出血の危険性が危惧されることであるが,カドリニウム(Gd)造影剤で脳血管を強調したMRIによる手術計画が推奨されており12),われわれもこれに従っている.しかし術前の造影MRIで血管構造を回避するpathを設定したにもかかわらず,やはり脳内出血は起きうる.われわれの遭遇した3例の脳内出血(皮質下,深部白質,基底核)をもとに,同時多トラック法に伴う出血性合併症について注意を喚起する意味で報告する.

症例

短期間に急激な再発を反復した慢性硬膜下血腫の1例

著者: 関貫聖二 ,   白川典仁 ,   戸井宏行

ページ範囲:P.567 - P.572

Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫の再発はしばしば経験されるが,通常その背景には高齢,アルコール多飲,血腫被膜の新生血管増生6),術後血腫残存4)や空気の貯留2)を伴う場合が多い.最近われわれは,それらの因子を有さない41歳女性で,術後翌日のCTスキャンで血腫腔が完全に消失しているにもかかわらず,髄液の流入により10日間,8日間という非常に短期間に急激な再発を反復した1例を経験した.再発の機序に関し検討・考察を加え,報告する.

ガンマナイフ治療後にcyst formationを生じた三叉神経鞘腫の1例

著者: 加藤宏一 ,   鰐渕博 ,   渡辺淳志

ページ範囲:P.573 - P.578

Ⅰ.はじめに

 三叉神経鞘腫は手術による全摘出で治癒が得られるが,neuropathyによる顔面感覚障害などの術後合併症が出現する危険もある.Gamma knife radiosurgery(GKR)をはじめとする定位放射線治療の前庭神経鞘腫に対する有効性が確立され,脳幹圧迫などを伴わない小さな三叉神経鞘腫へのGKRも行われるようになってきたが,その長期的な効果,合併症についての報告は未だ少ない5,8).また,GKRの合併症の1つとして,脳動静脈奇形(arteriovenous malformation;AVM)における遅発性囊胞形成(delayed cyst formation)があるが2-4,6,10,11),脳腫瘍例では報告が少ない9).今回,われわれは三叉神経鞘腫のGKR後,6年経過しcyst形成を生じ手術施行した例を経験したため文献的考察を含め報告する.

比較的短期間にダンベル状に増大した無症候性円蓋部髄膜腫の1症例

著者: 川原一郎 ,   中本守人 ,   松尾義孝 ,   徳永能治 ,   安部邦子

ページ範囲:P.579 - P.585

Ⅰ.はじめに

 近年における画像診断技術の進歩に伴い無症候性髄膜腫に遭遇する機会は確実に多くなった.一般的に髄膜腫は,全脳腫瘍の約26%を占め緩徐に発育する良性腫瘍であると考えられており12),無症候性髄膜腫の多くは,症候性となるか,急速な増大を呈さない限りその多くは経過観察として扱われる.特に高齢者においては,合併症や術後の神経脱落症状出現などの懸念のため手術適応はより慎重となる14)

 今回われわれは,高齢者で比較的短期間においていわゆる“ダンベル状”に増大した無症候性円蓋部髄膜腫の稀な症例を経験した.

小脳に発生したpleomorphic xanthoastrocytomaの1例

著者: 眞野唯 ,   金森政之 ,   園田順彦 ,   隈部俊宏 ,   渡辺みか ,   冨永悌二

ページ範囲:P.586 - P.590

Ⅰ.はじめに

 Pleomorphic xanthoastrocytoma(PXA)は1979年に報告された,若年に発症する星細胞腫の一亜型でWHO gradeⅡに分類される腫瘍である.好発部位はテント上,特に側頭葉であり,その好発部位より痙攣発作やてんかんの長期経過のうちに発見されることが多い3,7,12).一方で小脳の発生例は現在までに16例の報告があるのみである1,2,4-6,8-11,14-19).一般に予後良好であるが,10~20%に再発あるいは悪性転化がみられるとの報告もある13)

 今回われわれは,成人の小脳虫部に発生したPXAの1症例を経験したので,画像所見,病理所見について文献的考察を加え報告する.

脳幹梗塞を合併した髄膜炎の1例

著者: 竹内誠 ,   高里良男 ,   正岡博幸 ,   早川隆宣 ,   大谷直樹 ,   吉野義一 ,   八ツ繁寛 ,   菅原貴志 ,   青柳盟史 ,   鈴木剛

ページ範囲:P.591 - P.595

Ⅰ.はじめに

 髄膜炎はときに脳梗塞を発症することが報告されているが小児例に多く,成人例は少ない2-6,8-25).さらに,脳幹梗塞は非常に稀である2-4,6,8-12,13,15-17,19,22-25).今回われわれは,成人発症髄膜炎の経過中,脳幹梗塞を併発し,四肢麻痺を認めた症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

連載 脳神経外科疾患治療のスタンダード

7.不随意運動症に対する脳深部刺激療法

著者: 上利崇 ,   伊達勲

ページ範囲:P.597 - P.607

Ⅰ.脳深部刺激療法の最近の動向

 脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)は定位脳手術手技を用いて深部電極を留置し,脳のさまざまな標的部位に対して電気刺激を行う治療法である.

 不随意運動症に対する外科治療としてこれまで定位脳手術による破壊・凝固術が主であったが,DBSは①脳を破壊することなく,破壊・凝固と同等の効果を得ることができる,②両側の手術が破壊術と比較して安全に行える,③刺激条件を変更することで刺激による副作用を消失させ,症状の変化に合わせて調整することが可能である,という大きな利点があり,現在,破壊・凝固手術に取って代わっている.

続・英語のツボ

(4)ネット/Eメール上でよりよく論文を書くcommunicationの改善テクニック

著者: 大坪宏

ページ範囲:P.609 - P.616

はじめに

 インターネットとEメールがこれほど全世界に普及して,医学の世界でも日常的に使われている時代,論文の書き方は,すべてPCとネット上で行われているといっても過言ではないでしょう.筆者はPCで論文を書き,Eメールでsupervisorやcoauthorたちと推敲して,ネット上で論文を提出する.雑誌の編集者からの返事もEメールで届き,ウェブ上に掲示される.ネット上だけで公開される雑誌もあれば,印刷に時間がかかるためにオンラインで先行公開され,abstractまでネット上で見られるものもある.まさに,ネット上で論文が作成されるようになっているのが現実です.

 印刷した原稿に赤ペン(私は青ペンを使っていました,赤は注意をひきつけますが,目に痛く,青は目に優しいというのが理由)で書き込み,マーカーで色を付けたり,ステッカーを貼って推敲していたのは,それほど遠くない昔でしたが,現在は紙の節約のためと,推敲回数の多さから,最終稿直前になってしか印刷は行いません.

 今回は,このインターネットとEメールで行う論文の書き方の秘訣,これだけはやってほしい,これだけはやってはいけないこと,論文執筆のテクニックを向上させてcommunicationを上手に取るためのコツを書いてみたいと思います.

コラム:医事法の扉

第38回 「名誉毀損・侮辱」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.617 - P.617

 近年の情報化社会では,インターネットなどを介しさまざまな情報が掲示されますが,その中には,医師の名誉を傷つけるものもしばしば散見されます.また,医師自らが情報発信者となって,無意識に他人の名誉を傷つけてしまうこともあります.そこで,今回は,「名誉毀損」と「侮辱」の定義,判例などを検討し,自己の名誉が毀損された場合にいかに回復するか,あるいは,自分がインターネット掲示板などで他人を侮辱しないようにするにはどうすべきかなどについて考察します.

 「名誉毀損」とは,他人の社会的評価を低下させる行為を言い,民法と刑法にそれぞれ規定され,民法を根拠として,被害者が損害賠償を求め,刑法を根拠として,検察官が刑罰を求めてきます.民法では,「他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合…,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない.」(710条)と定められ,名誉毀損は不法行為(709条)の1つとされています.そして,「他人の名誉を毀損した者に対しては,裁判所は,被害者の請求により,損害賠償に代えて,又は損害賠償とともに,名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる.」(723条)という名誉回復請求権が認められています.具体的には,謝罪広告等の掲載を求める方法があります.

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編集後記

著者: 伊達勲

ページ範囲:P.626 - P.626

 本号の扉には,落合慈之先生から『Decursus Morbi』をいただいた.神経救急の診療に関して,一般国民に代表的疾患のDecursus Morbi(発症様式)の知識を広めることによって,不必要な救急受診を減らし,必要な救急受診をし損なうことを避ける,という示唆に富んだ提言である.先生のご指摘のように,病名と代表的症状は情報として流されているが,疾患ごとに発症様式がある程度タイプ分けできることを国民に周知することも重要であろう.その他,本号の斉木先生による『パーキンソン病の分子生物学』では,家族性については遺伝子の面から,孤発性については分子生物学的分析と発症形式の面から,詳しく解説されている.

 立場上,計画を練ったり,文章を作成したり,ということがよくある.ところが,その最中に携帯電話,院内PHS,インターネットなどでしばしば中断が入る.さて,それに対応した後,もとの思考過程に戻ろうとすると,どこまで考えていたのかを忘れていたり,いいアイデアが浮かんでいたはずなのに思い出せない,という経験がある.もともと勉強の時に音楽を聴きながらという「ながら族」より自分は少し上の世代であり,思考過程に入るとどちらかといえば静かな環境が必要である.最近の,携帯・PHS・インターネット常時接続状況では,これらの呼び出しによって中断された際に,終了後リカバリーできるよう,いつも気をつけるようにはしている.米国のオバマ大統領はブラックベリーというスマートフォンの愛好家で,大統領職に就いた後もその使用を続けるかどうか注目されていたが,家族などごく親しい者との間だけの連絡に限定するという条件で,現在も使っているとのことである.米国の大統領の重要事項決定思考過程に,スマートフォンの呼び出し音がじゃまをしては大変である.ニューズウィーク最新号によれば,情報を短期記憶に蓄積したあと,長期記憶に移動させる段階で分類が必要だが,このプロセスの間に中断が入ると情報が失われる可能性があるのだという.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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