文献詳細
文献概要
研究
脳腫瘍におけるフルオロチミジンPET
著者: 河井信行1 香川昌弘1 三宅啓介1 西山佳宏2 山本由佳2 白石浩利2 市川智継3 田宮隆1
所属機関: 1香川大学医学部脳神経外科 2香川大学医学部放射線科 3岡山大学大学院医歯薬総合研究科脳神経外科
ページ範囲:P.657 - P.664
文献購入ページに移動PET(positron emission tomography:陽電子放出断層シンチグラフィ)は,ポジトロン(陽電子)を放出する放射性核種を検出して断層撮影を行うもので,生体の生理・化学的情報を定量的に描出することが可能である.脳腫瘍,特に悪性脳腫瘍の診断における18F-FDG(2-deoxy-2-[18F]fluoro-D-glucose:以下FDG)と11C-MET(L-[methyl-11C]methionine:以下MET)は広く研究されており,その有用性はすでに確立している.
一般に脳腫瘍では,悪性度が高い腫瘍ほど腫瘍細胞が密で糖代謝も活発なため,FDGは強い集積を示し,悪性度の評価や治療効果判定,予後の推測などに有用であるとされている.一方,脳腫瘍患者に対するMET-PETは,腫瘍のアミノ酸代謝(蛋白質合成能)の指標として広く用いられている.神経膠腫では,MET-PETによる代謝情報をもとに術前に腫瘍の悪性度や進展状態を正確に把握し,定位的生検術のtargetの設定や摘出すべき腫瘍範囲の設定を正確に行うことが可能である8).またMETの集積は,腫瘍の増殖能や血管新生とも良く相関することが報告されている8).術後にも,MET-PETは残存腫瘍の確認や治療効果の判定,予後予測などに応用されている.さらに神経膠腫と転移性脳腫瘍における腫瘍再発と放射線壊死の鑑別に,METの集積状態の違いが有用であることも示されている15).このように現在,METは悪性脳腫瘍の核医学診断における最も信頼できるtracerの1つと考えられているが,最大の問題点は,METを標識する11Cはその物理的半減期が20分と非常に短いため,サイクロトロンを有する施設でのみ使用可能であり,その利用が限られていることである.
近年,分裂細胞は細胞周期のS期にさかんにDNAを合成することを利用し,細胞の増殖能をDNAレベルで評価可能なヌクレオシド誘導体標識薬剤が開発され臨床応用されている14).その中でチミジン誘導体である18F-FLT([18F]-fluoro-3’-deoxy-3’-L-fluorothymidine:以下FLT)は最も研究が進められており,脳腫瘍,特に神経膠腫での有用性が報告されている.チミジンはピリミジンデオキシヌクレオチシドに属し,細胞分裂の際DNAに取り込まれる.その誘導体であるFLTは,受動的拡散とヌクレオチシド移送体による能動的移送により細胞に取り込まれ,thymidine kinase 1(TK1)によりリン酸化されFLT-monophosphateとなり,以後の代謝を受けず細胞内にとどまる(Fig. 1).TK1活性は細胞周期で厳密に調節されており,S期に強く発現する.また悪性細胞におけるTK1活性は正常細胞の3~4倍高いことが知られており,そのため悪性脳腫瘍では,リン酸化活性の亢進とその後の細胞内への停留により強いFLT集積を示す.TK1活性はDNA合成活性を反映するため,FLT-PETは腫瘍のDNA合成を評価し,その集積は腫瘍の細胞増殖能を反映すると考えられている1,14).
われわれは,2006年6月より倫理委員会の承認の下,FLTの臨床応用を行っている.検査の目的と意義,合併症などを記載した書面によるインフォームドコンセントを行い,承諾が得られた症例に検査を施行している.本研究では,脳腫瘍,特に神経膠腫の悪性度や増殖能診断におけるFLT-PETの有用性を,自験例を提示しながら概説する.
参考文献
掲載誌情報