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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科37巻8号

2009年08月発行

雑誌目次

どげんかせんといかん

著者: 竹島秀雄

ページ範囲:P.725 - P.726

 私が宮崎に赴任した3年前,時期をほぼ同じくして東国原知事が誕生した.彼は元芸能人という知名度の高さと明るいキャラクター,さらに“宮崎をどげんかせんといかん”というわかりやすいスローガンのもと県民の圧倒的な支持を取り付けた.就任後は,エネルギッシュにマスメディアに出演しては県産品のPRを行うだけでなく,議会での応対も堂々としたもので着実に実績を積み重ねており,現在でも新聞の世論調査では県民の支持率80%以上をキープしている.選挙時に掲げたマニフェストも中間時点で85%の達成率を上げているらしい.

 ところが,十分に光の当たっていない部分も多い.その代表に地域医療崩壊の問題がある.特に,地域における1次救急システムが未整備であったことに加えて,コンビニ受診の増加により,これまで地域を一身に支えてきた県立病院などの基幹病院から過重労働などを理由にドミノ倒し式に医師の辞職や大学病院への引き上げが相次いだ.その結果,県南部や県北部では地域医療が危機に陥っており,しばしば地方紙の1面を飾っている.もちろん,このことはわが県に特有のことではなく,程度の差こそあれ大多数の地方が抱えている共通問題であると思われるが.

総説

先天性水頭症の診断と治療

著者: 山崎麻美 ,   埜中正博

ページ範囲:P.729 - P.740

Ⅰ.はじめに

 先天性水頭症は胎児超音波診断機器の進歩により,そのほとんどが胎児期に診断されるようになり,胎児期水頭症とほぼ同義になりつつある.胎児期水頭症のより正確な診断は,今後も大きな課題である.それでも,先天性水頭症が幼児期後期になって見つかることもあり,そのときの手術適応については次の課題である.治療の問題点は,先天性水頭症の治療選択として第三脳室底開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)の適応,シャント合併症のなかの大きな問題である感染の回避,slit ventricle syndromeの治療,そしてシャント手術をした水頭症の予後についてなどである.ここでは先天性水頭症の診断と治療の中で,これらの最近の話題について述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脳下垂体腺腫の被膜外摘出

著者: 堀智勝 ,   川俣貴一 ,   天野耕作

ページ範囲:P.743 - P.754

Ⅰ.はじめに

 脳下垂体腺腫は原発性脳腫瘍の約18%を占める良性の疾患である.しかしその外科的治療に関しては患者の視機能をはじめ,間脳下垂体機能に重大な影響を及ぼすので脳神経外科医にとって非常に重要な分野である1,7-16,18,28).筆者らは1998年6月以来2008年末まで,東京女子医科大学脳神経外科において,一側鼻孔より経蝶形骨アプローチにて腺腫摘出術を行い,704例に達した.筆者の1人堀は鳥取大学で1996年以来,すべての経蝶形骨洞手術を一側経鼻で現在まで連続して行っており,鳥取大学の経鼻症例数38例を加えると,現在約750例の連続一側経鼻経蝶形骨洞手術例を経験したことになる(関連病院での手術は除く).この10年間を,Ⅰ期1998~2001年,Ⅱ期2002~2005年,Ⅲ期2006~2008年,の3つの時期に分けて成長ホルモン産生腺腫の手術成績を治癒判定規準(コルチナコンセンサス)による治癒基準(75g oral glucose tolerance test(OGTT)でgrowth hormone(GH)<1ng/mlに抑制・IGF-1正常域sex-age matched)で比較する18)と,段階的に治療成績の向上がみられ,Knosp grade 0~1ではⅢ期治癒率100%を達成した.一方,術後のホルモン検査ではこのⅢ期において,ホルモン障害を含めた合併症には差がなかった.

 なぜこのような治療成績の向上がこの10年間でみられたのかを考察したところ,特に被膜外摘出法6,14,24,26,27)が有効であったと考えられた.そこで本稿では,解剖に基づいた被膜外摘出法について,特に摘出組織の組織学的所見に関連して説明し,われわれの手術法について詳述する.

研究

破裂脳動脈瘤に対する慢性期クリッピング術を前提にした急性期意図的部分塞栓術

著者: 西村真実 ,   藤田智昭 ,   坂田洋之 ,   堀恵美子 ,   三野正樹 ,   西嶌美知春 ,   緑川宏

ページ範囲:P.757 - P.763

Ⅰ.はじめに

 近年,人口の高齢化とともにデバイスの改良,治療技術の進歩とあいまって破裂脳動脈瘤に対する血管内治療の果たす役割が重要になってきている.さらにInternational Subarachnoid Aneurysm Trial(ISAT)の報告18)以降,血管内治療の適応は拡大している.当院においては局所麻酔(局麻)下で破裂脳動脈瘤に対するcoiling治療を施行しており,その治療数は年々増加しつつある.

 しかしながら,動脈瘤の形状からcoilingのみで根治不能な症例では,最終的にclippingにて根治術を施行する必要がある.以前より,意図的に初回coiling,追加治療clippingの方針を立てて破裂脳動脈瘤の根治にあたる方法については,種々の報告例がある1,3,11,15)

 当科において慢性期clippingを前提に,急性期意図的部分coilingを行い,最終的にclippingによって根治し経過良好であった6症例について報告する.

慢性硬膜下血腫に対する五苓散の有用性

著者: 宮上光祐 ,   賀川幸英

ページ範囲:P.765 - P.770

Ⅰ.はじめに

 近年,高齢人口の増加,ならびにCT,MRなどの画像解析検査の増多などにより,慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma:CSDH)が発見される機会も増えている.一方,CSDHの治療は,基本的に外科的手術が確立された方法として認められている.しかし,CT画像上CSDHを認めても無症候,または軽微な症状しかみられない場合や,患者が手術を希望しない場合もある.さらに,手術後の再発も10~20%にみられることや,出血傾向や合併症などがあり手術を躊躇することもある.一方,CSDHは自然治癒のあることも念頭に置かねばならない.自然治癒の頻度は無症候または軽微な症状でmass signの少ない例では,2.8~21%と言われる3,11,12).これらのことからCSDHの症例によっては非手術的治療を選択することがある.これまでにCSDHの非手術的治療については,マンニトールによる高浸透圧療法6,16),ステロイドホルモンによる治療1,2)が報告されている.また最近では,脳神経外科領域においても漢方治療が見直され,CSDHに対しても漢方薬による治療7,8,10,15,18)が散見される.しかし,未だその報告例数は少なく確立された治療には至っていない.

 われわれは2006年1月以降,CSDHの症例によっては漢方薬の五苓散を用いた治療を行い,その有効性について検討してきた.今回,CTによる長期の追跡検査によりCSDHに対する五苓散の治療効果について検討したので報告する.

初回脳血管造影検査で出血源不明の,非外傷性くも膜下出血症例の検討:特に中脳周囲槽くも膜下出血症例のCT上の血腫の局在について

著者: 仲川和彦 ,   青柳傑 ,   前原健寿 ,   玉置正史 ,   稲次基希 ,   河野能久 ,   武川麻紀 ,   山本信二 ,   大野喜久郎

ページ範囲:P.771 - P.778

Ⅰ.はじめに

 初回のdigital subtraction angiography(DSA)で出血源が不明の非外傷性のくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)は,約5~20%の頻度でみられるとされ,これまでも数多くの報告がある2,6,7,10,13).通常,入院時のcomputed tomography(CT)上の血腫の分布所見から,perimesencephalic nonaneurysmal SAH(PMSAH)と,それ以外のnon-PMSAHに分類され,前者は再出血もなく予後良好とされる.PMSAHはオランダのグループのvan Gijnらによって初めて報告され14),その後同グループのRinkelらによってそのCT所見の血腫の特徴的な分布様式が定義された9)

 しかし,PMSAHのCT所見の定義に関して表現上のあいまいさの問題があり,また,必ずしもその定義を満たさないvariantの報告もある12).これらのことを念頭に置き,今回われわれは,当科で経験した初回DSAで出血源が不明のSAH症例を検討した.

症例

笑い発作が改善した視床下部過誤腫の1手術例

著者: 藤田智昭 ,   西村真実 ,   坂田洋之 ,   古野優一 ,   三野正樹 ,   堀恵美子 ,   貝森光大 ,   白根礼造 ,   西嶌美知春

ページ範囲:P.781 - P.785

Ⅰ.はじめに

 視床下部過誤腫は視床下部に発生する稀な疾患である.特に笑い発作を伴っている場合,放置すれば全般発作へ移行し,痙攣重責発作や知能発達障害などの原因にもなり得る.治療法に関しては従来の摘出術に加えガンマナイフや内視鏡使用などによるdisconnectionなどの報告は蓄積されてきているものの,症例数が少なく,外科的治療法選択に関してのプロトコルは未だ確立していない.今回,薬物療法に抵抗性で発作回数が増大する傾向にあった笑い発作を症状とするValduezaの分類でtypeⅡaの視床下部過誤腫で,開頭術によるdisconnectionが有効であった症例を経験したので,若干の文献的考察とともに報告する.

中大脳動脈閉塞に伴うleptomeningeal anastomosis上に発生した破裂脳動脈瘤の1例

著者: 成澤あゆみ ,   高橋俊栄 ,   齋藤竜太 ,   佐藤健一 ,   遠藤英徳 ,   野下展生 ,   金子宇一

ページ範囲:P.787 - P.792

Ⅰ.はじめに

 主幹動脈閉塞に伴う脳動脈瘤はしばしば報告され,その発生機序の1つとしてhemodynamic stressが考えられている.これらの動脈瘤はWillis動脈輪に発生する場合が多いが,皮質枝に生じる症例も稀ながら報告されている.また,脳動脈瘤破裂は通常くも膜下出血(SAH)で発症するが,動脈瘤の位置や過去の出血歴などにより,脳内血腫のみで発症する場合もあり,診断を進める上で注意が必要である.今回われわれは,中大脳動脈(MCA)の閉塞に伴い,同側後大脳動脈(PCA)から側副血行路として発達したleptomeningeal anastomosis上に生じた脳動脈瘤の破裂により脳内血腫を生じた症例を経験したので報告する.

頭部外傷後に中枢性塩類喪失症候群と外傷性脳血管攣縮を合併した2症例

著者: 勝野亮 ,   小林士郎 ,   横田裕行 ,   寺本明

ページ範囲:P.793 - P.796

Ⅰ.はじめに

 中枢性塩類喪失症候群と外傷性脳血管攣縮の発生機序は未だ詳細不明である.今回われわれは頭部外傷後に中枢性塩類喪失症候群と外傷性脳血管攣縮を来した2症例を経験したので,その発生機序に関して文献的考察と解剖学的見地から考察し報告する.

不安定性のないC5/6頚椎症性変化に起因する頭位回旋時の椎骨動脈閉塞から脳虚血を来した1例

著者: 大坂美鈴 ,   瀧上真良 ,   小柳泉 ,   金相年 ,   寶金清博

ページ範囲:P.797 - P.802

Ⅰ.はじめに

 頭位回旋時に椎骨脳底動脈循環不全を来す病態としては,頚椎C1/2レベルでの回旋を原因とするBow Hunter's syndromeがよく知られているが,C5/6レベルでの頚椎病変による報告は渉猟し得た範囲では少ない.今回われわれは,頭位回旋による右椎骨動脈の閉塞が,一過性の脳幹虚血症状の原因と考えられた1症例を経験した.当初は心房細動を伴っていたため心原性塞栓症として加療していたが,頭位回旋時に脳虚血症状を呈することから頚部を精査したところ,C5/6の頚椎症性変化により椎骨動脈が閉塞することが判明し,前方アプローチによる椎骨動脈減圧術を施行した.症例を呈示し,発症機序について手術所見をもとに文献的考察を加え報告する.

重症感染性心内膜炎に併発した細菌性脳動脈瘤の1例

著者: 有島英孝 ,   細田哲也 ,   半田裕二 ,   久保田紀彦 ,   山田就久 ,   森岡浩一 ,   井隼彰夫 ,   石田健太郎 ,   見附保彦 ,   李鍾大

ページ範囲:P.803 - P.809

Ⅰ.はじめに

 細菌性脳動脈瘤は感染性心内膜炎を有する患者に合併することが多く2,5,15,17),破裂した場合に致死的になる確立が高いとする報告があるが1,2,8,15,16),治療方針および重症感染性心内膜炎を有する場合の開心術のタイミングについて統一した見解がないのが現状である1-4,7,8,15-17,23).今回われわれは,重症感染性心内膜炎の患者において早期に未破裂細菌性脳動脈瘤を診断し,心臓血管外科で僧帽弁置換術を先行させた後,頻回な画像観察と抗生剤の長期投与で動脈瘤の消失を確認した1例を経験したので報告する.

読者からの手紙

第3回国際スポーツ脳振盪会議

著者: 荻野雅宏

ページ範囲:P.810 - P.810

 昨年(2008年)10月末,スイスのチューリッヒで第3回国際スポーツ脳振盪会議が開かれました.過去2回の会議を共催した国際サッカー連盟(FIFA),国際オリンピック委員会(IOC),国際アイスホッケー連盟(IIHF)に加え,今回は国際ラグビー評議会(IRB)も主催者に名を連ねました.このほど同会議の共同声明3)が発表され,今後もあわせると計9つの雑誌に掲載される予定1)です.

 今会議での注目すべき点として,前回のプラハ声明2)で提唱された重症度分類(単純型と複雑型)が廃止されたこと,小児(5~18歳)に対しての慎重な対応がより明確に記載されたこと,現場での判断基準となるスポーツ脳振盪評価ツール(Sport Concussion Assessment Tool:SCAT)2,5)が改訂されたこと,などが挙げられます.従来の神経学的スクリーニング(言語機能,眼球運動と瞳孔,上肢のBarré徴候,歩行)に代わって,姿勢安定性検査(バランステスト)と指鼻試験が取り入れられた一方,改訂SCAT2のみに頼った脳振盪の診断や復帰の判断は不可,とも明記されています.評価は個々に応じて総合的に行われるべき,という基本姿勢は変わりません.

連載 脳神経外科疾患治療のスタンダード

9.意識障害

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.811 - P.820

Ⅰ.はじめに

 かつて脳疾患の診断・治療には,十二分の神経学的知識と経験が必須で,病変の有無・存在部位の診断に,神経学的知識を駆使し一生懸命診察した.その後,CTやMRIの導入により,病変部位は形態学的に微細かつ正確に診断可能となり,したがって,外科的治療に未踏の領域(no man's land)はなくなりつつある.

 このように病変に関する形態学的情報が充実することで,それに伴う機能的情報の把握が極めて重要となってきた.特に,脳卒中や頭部外傷などにおける意識障害の重症度判定とその時間的推移の観察・記載は,これまで以上に迅速性かつ正確性が要求され,時機に後れた対応が治療予後を左右する最重要因子の1つになってきた.

コラム:医事法の扉

第40回 「文書提出命令」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.822 - P.822

 民事裁判では,証拠資料として「文書」の提出を求められることがしばしばあります.医療訴訟では,「文書」として診療録や看護記録のほかに,医療事故報告書などの内部資料の提出を求められることもありますが,このような資料には個人情報や医療関係者の自由な意見などが記載されていることから,はたして常に提出義務を負うのかが問題となります.

 民事訴訟法には「文書の所持者は,その提出を拒むことができない」(220条柱書)と規定され,訴訟関連文書に関して裁判所が発した文書提出命令(223条)を受けた当事者(原告・被告)または第三者は,原則として,当該文書の提出義務を負うこととなります.この決定には即時抗告という不服申立てもできますが(同条7項),命令に応じない場合,当事者は,「当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる」(224条1項),第三者は,「20万円以下の過料に処する」(225条1項)といった不利益・罰則が課せられてしまいます.

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編集後記

著者: 佐々木富男

ページ範囲:P.830 - P.830

 本号の総説「先天性水頭症の診断と治療」を読んでいて,ふとわが人生の不思議な経緯を思い起こした.私は,東大卒業時には新生児の神経系外科医療に携わることを決心して脳神経外科に入局した.最初の研修病院は脳血管障害を専門にしている三井記念病院であった.そこで素晴らしい先生方に指導していただき,脳卒中の外科医療にのめりこんでいった.また,講師として東大へ帰ってからは,頭蓋底外科ならびに良性脳腫瘍の手術も専門とした.このように初期の志とは異なった道を辿っているが,よき先輩方との出会いがその後の進路を決める重要な要因となった.竹島教授が「扉」の中で,困難なことにチャレンジする覇気のある学生が少ないことや研修制度の問題などに危機感を持ち,「どげんかせんといかん」との思いを述べている.全国の先生方の共通した思いであろう.学会が中心となって研修制度改革や脳神経外科医の待遇改善を強く訴える運動を継続する必要があることは言うまでもないが,私達が日常できることとして,学生や研修医に「この先生方と巡り会えたことが自分の進路を決定させる要因となった」と言ってもらえるような教育,つきあいをすることも重要ではないだろうか.われわれが必死になって,診断,手術,術後のケアーに携わっている姿をみせていれば,そうした姿に感動し,やりがいを感じて脳神経外科を目指す人は必ずいると思っている.

 連載:脳神経外科疾患治療のスタンダードには,太田富雄名誉教授が「意識障害」について概説されている.読み応えのある内容で感服しました.じっくり時間をかけて真面目に書いてくださったことがよくわかります.失礼な表現になるが,こうした現役を退官した先生方をもっと活用させていただき,含蓄のある紙面作りを計画することも重要ではないだろうか.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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