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文献概要
解剖を中心とした脳神経手術手技
仮想的3D画像を用いた脳腫瘍に対する手術シミュレーション
著者: 藤井正純1 林雄一郎1 伊藤英治2
所属機関: 1名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科 2福島県立医科大学脳神経外科
ページ範囲:P.847 - P.861
文献購入ページに移動脳神経外科手術は,1960年代の手術顕微鏡の導入,80年代以降のX線CTおよびMRIの普及に伴って著しい進歩を遂げてきた.しかし,脳という臓器はいったん内部へ入ると道しるべが乏しいため,手術顕微鏡の微視的世界の拡大だけでは正確な航海が難しい.90年代にニューロナビゲーターが登場し,マイクロサージェリーに正しい脳内の進路と位置を示す画像誘導手術という羅針盤を得たことで,脳神経外科手術の新たな地平が切り開かれた.当初,術前画像に基づくニューロナビゲーションは術中のブレインシフトにより大きく精度低下が起こることが大きな問題であったが,95年以降導入が始まった術中MRIなどの術中診断技術により,ブレインシフトのない正確な画像誘導手術が可能になった1).また,鍵穴手術や内視鏡手術の発展があり,より低侵襲な脳神経外科手術実現への流れがある.なかでも内視鏡は,経蝶形骨洞手術や脳室内手術に積極的に応用され普及している.
一方コンピュータ技術を基盤とする情報工学の発展は目覚しく,特に高速3D描画技術の発展により,これまで2D画像の3断面表示が主であった画像提示が,より直観的インターフェイスの構築とあいまって,さらにユーザーフレンドリーで理解しやすいものへと発展することが期待されている2).3D画像を用いた術前の手術シミュレーションが自由に可能になれば,これまで手術教科書と経験を基にした脳神経外科医の想像力に頼っていた術野でのオリエンテーションが,術前および術中に手に取るようにわかるようになる.経験の少ない脳神経外科医にとって有効であることは無論のこと,特に鍵穴手術や内視鏡手術のように小さな術野から内部を観察する際や深部腫瘍のシミュレーションは,あらゆる脳神経外科医にとって有用である.さらに,こうした進んだ3D技術は,画像誘導手術との融合により,術中,顕微鏡下の肉眼的情報の他に,例えば術野の裏に隠れる重要な血管や神経などの構造を透見するようなことが可能になる.さらに,術中MRI手術でしばしば経験される問題として,特に残存腫瘍が散在するような場合,従来の3断面画像表示に頼るニューロナビゲーターでは,それぞれの腫瘍部分が術野のどこにあたるのかを迅速に把握することが困難である.しかし,3Dのバーチャルイメージによるガイドがあれば,直観的にこれらを把握することが可能となる.本稿では,名古屋大学大学院情報科学科で開発された医用高速3D画像処理ソフトウェアNewVESを中核に3D画像による手術計画+ナビゲーションソフトウェアへと発展させたバーチャルサージスコープを用いて,画像誘導手術近未来像を提示する.
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