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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科38巻10号

2010年10月発行

雑誌目次

維新,…それから

著者: 鈴木倫保

ページ範囲:P.877 - P.878

 小生も,山口大学に赴任して10年が過ぎ,振り返る余裕も少々出てきました.赴任当初びっくりしたのは,当時150万の県民人口に対して顕微鏡手術を行っている施設が40余あったことです.なんとか集約化をお願いしてきましたが…


 今,NHK大河ドラマの「龍馬伝」が人気です.物語の後半にさしかかり,「萩往還」や「下関砲台」,奇兵隊の「功山寺」などが頻繁に出てきてますますうれしくなっていますが,一方で,現在における山口の状況は,長い歴史と地勢の知識なしには理解できないこともわかりました.ここは吉田松陰,高杉晋作など多くの傑物を生み,薩長土肥の争いからも抜け出した,維新最後の勝ち組であります.このエネルギーの源を土地の方に聞くと「関ヶ原の戦に負けて萩に押し込められた300年の鬱憤」と事も無げに答えられます.維新後も,伊藤博文をはじめ8人の総理大臣を輩出しましたが,合計在任期間は約半世紀で,この間日本を思うように動かしてきたのかもしれません.第二次世界大戦では,軍港・航空隊基地・軍需工場が集中していたために焦土となりましたが,国による太平洋ベルト地帯構想の恩恵を受けて速やかに復興しました.そこには,兄弟宰相の地元への支援が十二分に効いていたと伝えられています.都市の分布とインフラにも驚きました.最大の都市は20万人余で,残りはいずれも数万~十数万人の中小都市13市(いずれも合併前)が存在しています.都市は2本の高速道路と複数の自動車専用道路で結ばれ,最長でも1時間半で移動可能です.多くの都市に文化施設や進学校が整備されており,子弟の教育も問題ありません.医療環境も良好で,救急患者のたらい回しもありません.言ってみれば,中小都市で生活が完結している幸福な土地なのでしょう.その基盤は,都市ごとに企業が誘致されることで可能になっている,全国13位の県民所得かもしれません.

総説

癌と癌幹細胞―脳腫瘍発生のメカニズム解析とターゲット療法開発への試み

著者: 中野伊知郎 ,   佐谷秀行

ページ範囲:P.879 - P.889

Ⅰ.はじめに

 癌が発生臓器に存在する幹細胞様の未分化な正常細胞を源とするという概念は古くからあり,脳腫瘍に関しても1960年代には既に,脳室壁(subependymal region)に存在する分裂能をもった細胞を脳腫瘍の発生源と示唆する複数の論文が発表されている1,2).それから約30年の時を経て,白血病を初めとして複数の癌種から幹細胞様細胞が実際に同定されてきた3).現在までに幹細胞様腫瘍細胞が同定された癌種としては,白血病のほかに,乳癌,悪性グリオーマ,前立腺癌,メラノーマなどがある4-9)

 セルソートの技術とモノクローナル抗体の開発の発展から,血球系幹細胞の分野を中心に進んだ臓器特異的幹細胞の同定と解析は,臓器内細胞の細胞階層性(ヒエラルキー)の詳細な解明へとつながった.その知見の蓄積から,血球系幹細胞同定の手法を白血病細胞に適応する形で,癌における細胞階層性の研究が進み,白血病幹細胞の存在が1997年に同定された3).そしてその手法を固形癌に適応して,2003年以降,固形癌でも乳癌や脳腫瘍をはじめとするさまざまな臓器由来の腫瘍幹細胞の存在を見い出すに至っている.

 特にこの数年で急速に積み上がってきたさまざまな研究データから,脳腫瘍に幹細胞様細胞が存在することはほぼコンセンサスとなっている.しかし同時に注意が必要なのは,クローナルに発生し,かつ多様な分化段階に位置する細胞から構成される1つの腫瘍が,正常幹細胞にみられるように厳密に制御された不可逆性の階層性をもっている(ヒエラルキーモデル)のか,あるいは分化した細胞も可逆的に幹細胞様性質を獲得できるのかについては,まだ議論がある.実際,分化した腫瘍細胞が幹細胞様腫瘍細胞に「脱分化」するという知見から幹細胞様腫瘍細胞は可逆性のある「状態」であることを示唆するデータも提示されている10,11).脳腫瘍に関して言うと,現在のところ腫瘍幹細胞の特異的マーカーがないこと(その単離法がないこと)から,さまざまな研究から提示される知見にはばらつきがみられる状態である.

医療訴訟予防論

著者: 福永篤志

ページ範囲:P.891 - P.901

Ⅰ.はじめに

 医療訴訟は予防できるのだろうか.医療事故が生じても,すべて医事紛争となるわけではない45).医事紛争となっても,そのうち裁判にまで進展するのは約10%という報告もある31)

 紛争を解決し医療訴訟を予防するためには,患者側の理解と納得が得られなければならない.われわれ医療者側が具体的にどうすればよいかについては,事故後の適切な対応の重要性を説くもの1),医師-患者関係を重視するもの28),メディエーションの有効性を説くもの32),クレームへの対応を重視するもの34)などさまざまな角度からの対策が示されているが,全体をまとめて論じた報告はない.

 そこで,本稿では,比較的最近の論文を引用しながら医療訴訟を予防するための具体策について論じる.

研究

Striatocapsular hemorrhageに対する開頭血腫除去術による治療成績

著者: 数又研 ,   横山由佳 ,   浅岡克行 ,   板本孝治 ,   牛越聡 ,   長内俊也

ページ範囲:P.903 - P.912

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科医は被殻出血において浮腫,周辺組織の壊死,圧迫による二次的損傷を外科的に軽減することにより病態を改善する試みを続けてきた2-6,8-10,12,15-27,30,32-37).しかし方法,適応,有効性について議論は分かれ,概して外科的治療は有効とは言えないという文脈で語られることも多い1,7,13,14,28,29,35).その根拠とされしばしば引用される代表的な研究はrandomized controlled trial(RCT)の6報告,1990年に行われた日本脳卒中学会での大規模研究,2005年のSTICH(Surgical Trial in Intracerebral Hemorrhage)trialなどである2,3,13,15,18,23-25,33,36),しかし,対象を被殻出血に限定したものは3研究のみであり3,18,33),軽度の神経脱落症状や自立した状態を機能回復のゴールとした研究は基底核部の出血の病態生理を反映したものとは必ずしも言えない3,13,15).STICH trialでは重症例で治療転帰のゴールを低く設定したprognosis based outcome analysisが用いられているが,治療法に迷う症例における外科的治療の優位性は証明できなかった25).手術手技の多様性,救急現場で生命に関わる治療法選択の無作為割付は倫理的,統計学的に困難であることも外科治療の効果の解析を困難にしている26)

 近年,より低侵襲とされる内視鏡手術が施行される機会が増えているが,われわれは止血の確実性を優先し,現在でも被殻出血の外科的治療は急性期に行う開頭血腫除去術のみで対処している2,17,19,20).今回,被殻出血における開頭血腫除去術の治療成績を検討した.対照群を設定していないobservational studyだが,単一施設で施行された手術手技にばらつきの少ないデータは他の治療との比較を行う際の参考になると思われる2,27).本論文ではtranssylvian transinsular approachによる血腫除去の手術法について概略を記述した.転帰は当院退院時と発症6カ月後に理学療法士など脳神経外科医以外による客観的なactivities of daily living(ADL)の評価を行った.

頚部放射線照射後の頚動脈狭窄症に対するステント留置術

著者: 江頭裕介 ,   佐藤徹 ,   桝田宏輔 ,   大川将和 ,   大西宏之 ,   岡崎貴仁 ,   高橋淳 ,   村尾健一 ,   飯原弘二 ,   宮本享

ページ範囲:P.913 - P.920

Ⅰ.はじめに

 頚部放射線照射後の頚動脈狭窄症(radiation induced carotid stenosis:RI-CS)は,よく知られた合併症であり,現在ではステント留置術(carotid artery stenting:CAS)が治療の第一選択とされている.しかしながら,その治療成績については報告によってやや差異があり,いまだ統一された見解は得られていない.今回われわれは,自験例よりRI-CSにおける病変の特徴,治療成績について検討を行い,治療に際しての留意点について考察を加えた.

症例

遅発性骨弁陥没による脳ヘルニアの1例

著者: 安栄良悟 ,   上森元気 ,   折本亮介 ,   齋藤仁十 ,   広島覚 ,   三井宣幸 ,   林恵充 ,   佐藤正夫 ,   程塚明 ,   鎌田恭輔

ページ範囲:P.923 - P.926

Ⅰ.はじめに

 外減圧開頭術後に皮膚弁が著しく陥凹し脳機能に影響を与える病態はsinking skin flap syndromeとして知られている2,5)が,骨弁を戻したにも関わらず,遅発性に骨弁全体が落ち込み神経症状を来したものはわれわれが文献を検索する限りない.今回,初回の手術から15年後に骨弁全体が落ち込み,神経症状を来した1例を経験したので文献的考察をふまえ報告する.

Occipital transtentorial approachによって松果体部腫瘍摘出後に静脈洞交会部血栓症による視野障害を起こした1例

著者: 目黒俊成 ,   佐々木達也 ,   春間純 ,   田邉智之 ,   村岡賢一郎 ,   寺田欣矢 ,   廣常信之 ,   西野繁樹

ページ範囲:P.927 - P.931

Ⅰ.はじめに

 松果体部腫瘍に対する手術アプローチとしてoccipital transtentorial approach(OTA)によって腫瘍摘出を行うことは今や一般的な方法として行われている3,7,10).OTAによる手術合併症として視野障害,複視・眼球運動障害が報告されてきたが,原因としては術中の後頭葉障害や脳幹部障害によるとされている10)

 今回われわれは,松果体部腫瘍に対してOTAによる腫瘍摘出を行ったところ,術後に一過性の同名半盲を起こした症例を経験した.手術による直接の後頭葉障害ではなく,上矢状静脈洞から静脈洞交会部の血栓症が原因に関与していると考えられたため報告する.

アクセスルートの蛇行を伴う症候性脳底動脈狭窄症に対し血管内治療と積極的内科療法により狭窄の良好な改善を認めた1例

著者: 河野健一 ,   伊藤ゆい ,   宮崎雄一 ,   安森弘太郎 ,   矢坂正弘 ,   岡田靖 ,   詠田眞治

ページ範囲:P.933 - P.937

Ⅰ.はじめに

 症候性頭蓋内動脈狭窄症(symptomatic intracranial artery stenosis:SIAS)の予後は不良であり,バルーンによる経皮的血管形成術(percutaneous balloon angioplasty:PTA)やステント留置の有効性が示されている.一方で内科的治療も年々進歩し,外科的治療や血管内治療と同じレベルで積極的内科療法(aggressive medical intervention:AMI)の重要性が主張され,SIASに対してもAMIのみで狭窄進行予防や狭窄改善の効果を示した報告があり,着目されている.今回,われわれはアクセスルートの蛇行を伴った症候性脳底動脈狭窄症に対しPTAとAMIの併用で良好な経過を経た1例を経験したので報告する.

術前の内頚動脈閉塞試験にてtoleranceがあったにもかかわらず,術中閉塞にて劇的に運動誘発電位(MEP)が変化した内頚動脈眼動脈分岐部動脈瘤の1例

著者: 秋山義典 ,   瀬川義朗 ,   谷正一 ,   時女知生 ,   多喜純也 ,   荻野英治 ,   西田誠

ページ範囲:P.939 - P.944

Ⅰ.はじめに

 比較的大きな内頚動脈眼動脈分岐部動脈瘤に対するネッククリッピング術に際しては,前床突起の切除や動脈瘤の視神経からの剝離が必要となる場合が多い.これらの操作を安全に行うために,手術中に内頚動脈を一時的に閉塞し,動脈瘤への血流を減らすことが有用となる.このような場合,内頚動脈の一時閉塞が可能かどうかを判断するために,術前検査として,バルーンカテーテルを用いた内頚動脈閉塞試験が行われる.通常,内頚動脈閉塞試験にて神経症状が出現しない場合には,術中の一時閉塞は可能と判断される.しかし,今回われわれは,30分間の内頚動脈閉塞試験にて神経症状の出現を認めなかったにもかかわらず,術中に内頚動脈の一時閉塞を施行したところ,運動誘発電位(MEP)の急激な変化を来した症例を経験したので報告する.

連載 臨床神経心理学入門

第5回 脳外傷:Diffuse Axonal Injury(びまん性軸索損傷)と脳梁病変

著者: 近藤正樹

ページ範囲:P.945 - P.950

Ⅰ.はじめに

 重度の閉鎖性脳外傷の回復過程は以下の3段階により特徴づけられる13).①発語,随意運動,自発開眼のない昏睡の時期,②患者が錯乱し,進行中の出来事が記憶できず,行動障害を起こしやすい時期,③病前の状態には戻っていないが,認知機能や日常生活活動が回復してくる時期.本論文では,この第2から第3の時期の高次脳機能障害に焦点を当てる.

 脳外傷の高次脳機能障害について考える時,大脳の構造の理解が重要となる.大脳の構造はリンゴに似ている.140億の神経細胞体の集合である大脳皮質を表面の皮であるとすると,神経線維(軸索)からなる白質は果肉,基底核が芯にあたる.大脳皮質は厚さ1.5~4.5mmの薄い層である3)が,Penfield以来機能の局在が明らかにされている.このため,皮質損傷ではその部位に局在している機能の障害が出現すると考えられる.一方で白質は皮質間の連絡(連合線維),左右の大脳半球の連絡(交連線維),下位の神経系との連絡(投射線維)を行っているため,白質損傷では局在機能部位の連絡が遮断され,いわゆる離断症候と呼ばれる機能障害(例えば,視覚皮質と言語野との離断による純粋失読など)が生じる.

 一方,Gentryらは,外傷性の一次性脳損傷をMRIの所見により,びまん性軸索損傷(diffuse axonal injury:DAI),大脳皮質挫傷,皮質下灰白質損傷,一次性脳幹損傷の4型に分類し,DAIが最も高頻度であると報告している8)

 本論文では,外傷性脳梁損傷を来した症例を紹介し,脳外傷による脳梁病変とびまん性軸索損傷について概説する.

海外留学記

Division of Pediatric Neurosurgery, Children's Memorial Hospital, Northwestern University Feinberg School of Medicine

著者: 近藤聡英 ,   荻原英樹

ページ範囲:P.951 - P.956

■Research section(研究部門)

 2008年11月4日夜,CNNが米国史上初の黒人大統領誕生の速報を伝えた瞬間,わが家に近くの勝利演説会場から地響きのような歓声が届いた.この歓声は今も耳に残っている.時代の動きを肌で感じ,自分が米国にいることを実感した時であった.

報告記

第18回国際脳腫瘍カンファレンス(Asilomar 2010)報告記(2010年5月18~20日)

著者: 宮武伸一

ページ範囲:P.958 - P.959

 「第18回国際脳腫瘍カンファレンス」は,2010年5月18日から20日まで,北ドイツの保養地であるTravemundeでHumburg大学のWestphal教授を会長として開催された.副題として掲載している“Asilomar”は,1975年に米国サンフランシスコ郊外の保養地Asilomarで,脳腫瘍の研究者が一同に集まり,早朝から深夜にわたり,1カ所で缶詰になりながら,最新の知見の発表とfrankなdiscussionを闘わせたカンファレンスに由来するものである.その後時を重ね,ほぼ2年に一度,米国,日本,ヨーロッパで交互に開催されている.写真1に示すように,出席者はノータイで,気楽に参加している様子がわかっていただけると思う.このスタイルが日光脳腫瘍カンファレンスを経て,日本脳腫瘍学会に引き継がれるのである.

 今回の演題数は151題であり,日本からは33題の発表がなされた.雰囲気はカジュアルであるが,内容は先進的であり,講演を拝聴していて,期待を裏切られることはない.今年の発表のkey wordsは3つ.“IDH1”,“stem cell”,“hypoxia”であった.前2者はまさに「生き馬の目を抜く」競争がなされており,updateな発表が相次いだが,小生の語学力,勉強不足のため,いささか消化不良であった.個人的には,現在放射線壊死の病態と治療に関して研究を進めていることもあり,“hypoxia”の演題が非常に興味深かった.

コラム:医事法の扉

第54回 「頭部外傷」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.960 - P.960

 頭部外傷は,特に急性期診療における画像検査,読影・結果説明,指導内容,経過観察,そして手術に関する説明についてそれぞれ問題となります.

 まず交通事故で頭部を打撲した6歳の男児に対し,頭部単純X線のみを施行し,「何か変わったことがあれば来院するように」などの一般的指示をしただけで帰宅させ,その夜,急性硬膜外血腫で死亡したケースがあります.最高裁は「療養指導義務」(医師法23条参照)について,「症状を具体的に説明し,事故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と,前記症状の疑いが発見されたときには直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示,指導すべき義務」があると判示しています(平成13年3月13日判決)1)

書評

『《脳とソシアル》発達と脳―コミュニケーション・スキルの獲得過程』―岩田 誠,河村 満●編

著者: 小林登

ページ範囲:P.901 - P.901

 本書は,東京女子医科大学名誉教授岩田誠先生と,昭和大学医学部教授河村満先生によって編集され,序論を含めて4章からなり,わが国の発達領域にかかわる脳研究の第一人者である18人の専門家により執筆された272ページからなるものである.

 全体として,その構成を見ると,岩田誠先生のアイデアが光っているように見える.評者は折々,先生のお考えを伺う機会があったからそう思うのであろうか.脳からみたヒトの発達について先生が書かれた興味深い序論,さらには冒頭の「発刊に寄せて」,そして巻末の「あとがきにかえて」の河村先生との対談を読むと,それがよく理解される.すなわち,文化人類学的,さらには進化論的な発想で医学・医療問題をとらえようとする立場である.評者も,脳の働きを理解するには,それなしでは成し得ないと考えている.

『脊椎腫瘍の手術[DVD付]』―富田 勝郎●監修,川原 範夫●編

著者: 野原裕

ページ範囲:P.944 - P.944

 ついにすごい本が出た.これは富田勝郎先生の勇気と挑戦の記録であり,冷静な眼力と忍耐力の記録でもある.富田先生の開拓した「total en bloc spondylectomy(TES)」は,Capnerのcost-transversectomyを両側から行うものであり,また同時に開発したT-sawも羊羹を糸で切るところから発想したという,いずれも謂わばコロンブスの卵である.さらにTESのすごさは,腫瘍を一塊として取り除くその卓越した手術手技がエビデンスによって裏付けされていることである.

 序文の中で,「助さん」「格さん」に代表されるチームワークを強調し,治療計画,手術の実施,優れた術式開発のエビデンスによる裏付けの原動力となったチームワークに謝辞を述べており,茶目っ気がありほのぼのとした温かい先生の人間味が伝わってくる.

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編集後記

著者: 高安正和

ページ範囲:P.968 - P.968

 本号の“扉”の「維新,…それから」は長州藩が維新を経てその後の日本の最大の勝ち組になり,それが現在の山口県の医療制度に繋がる歴史の妙を,鈴木倫保先生が斬新な切り口で語られており,明治維新前後の歴史に最近関心をもっている私としては,たいへん興味深く読ませていただいた.ちなみに今年の夏休みは妻と共に3度目となる東北温泉めぐりの旅をした.東北の温泉はたいへん変化に富み何度行っても楽しませてくれるが,途中,五所川原,黒石,小坂,角館などの小都市に立ち寄ってみると,こういった日本の小さな町には明治前後のそれぞれの歴史がりっぱに保存されていることが実にうれしい.

 さて,中野伊知郎先生らの総説「癌と癌幹細胞」では脳腫瘍の分野では未だ発展途上である腫瘍幹細胞の最新の研究について明快に解説していただき,この分野の今後の発展が大いに期待された.福永篤志先生には「医療訴訟予防論」という興味をそそられるタイトルで医療安全全般にわたっての予防策という難しいテーマを論じていただいた.その他,2編の研究論文と4編の症例報告はいずれも興味深く,一読に値する.連載中の臨床神経心理学入門では,近藤正樹先生に脳外傷におけるdiffuse axonal injuryと脳梁病変における高次脳機能障害を取り上げていただき,たいへん有益であった.また,宮武伸一先生の「第18回国際脳腫瘍カンファレンス」報告では,自分には畑違いの脳腫瘍分野の国際学会の雰囲気がよく理解でき興味深かった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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