文献詳細
文献概要
総説
医療訴訟予防論
著者: 福永篤志1
所属機関: 1慶應義塾大学医学部脳神経外科
ページ範囲:P.891 - P.901
文献購入ページに移動Ⅰ.はじめに
医療訴訟は予防できるのだろうか.医療事故が生じても,すべて医事紛争となるわけではない45).医事紛争となっても,そのうち裁判にまで進展するのは約10%という報告もある31).
紛争を解決し医療訴訟を予防するためには,患者側の理解と納得が得られなければならない.われわれ医療者側が具体的にどうすればよいかについては,事故後の適切な対応の重要性を説くもの1),医師-患者関係を重視するもの28),メディエーションの有効性を説くもの32),クレームへの対応を重視するもの34)などさまざまな角度からの対策が示されているが,全体をまとめて論じた報告はない.
そこで,本稿では,比較的最近の論文を引用しながら医療訴訟を予防するための具体策について論じる.
医療訴訟は予防できるのだろうか.医療事故が生じても,すべて医事紛争となるわけではない45).医事紛争となっても,そのうち裁判にまで進展するのは約10%という報告もある31).
紛争を解決し医療訴訟を予防するためには,患者側の理解と納得が得られなければならない.われわれ医療者側が具体的にどうすればよいかについては,事故後の適切な対応の重要性を説くもの1),医師-患者関係を重視するもの28),メディエーションの有効性を説くもの32),クレームへの対応を重視するもの34)などさまざまな角度からの対策が示されているが,全体をまとめて論じた報告はない.
そこで,本稿では,比較的最近の論文を引用しながら医療訴訟を予防するための具体策について論じる.
参考文献
1)江原一雅:医療事故が起こった.あなたは,あなたの部署は,あなたの病院はどうする?日臨麻会誌27:713-718, 2007
2)福家伸夫:医師による医療事故の実態.pp13-34(財団法人日本学術協力財団編:医療事故は予防できるか.第Ⅰ章,1節,財団法人日本学術協力財団,東京,2005)
3)福永篤志,古川俊治,大平貴之,須田 清,河瀬 斌:脳神経外科領域における医療過誤─下級裁主要判例の検討─.No Shinkei Geka 34:85-94, 2006
4)福永篤志,河瀬 斌:第1回「善管注意義務」.No Shinkei Geka 34:526, 2006
5)福永篤志,河瀬 斌:第9回「医療水準」.No Shinkei Geka 35:93, 2007
6)福永篤志,河瀬 斌:第22回「医師の裁量権」.No Shinkei Geka 36:171, 2008
7)福永篤志,河瀬 斌:第24回「患者の期待権」.No Shinkei Geka 36:353, 2008
8)古川俊治:医療安全対策は実効をあげたか.外科67:308-312, 2005
9)橋本信也,堀原 一:医学部志望動機と高校の進路指導.pp21-28(橋本信也編:よき医師養成を考える.第一部,第3節,篠原出版,東京,1999)
10)橋本信也:医師と患者のコミュニケーション.日医雑誌135:1506-1510, 2006
11)日笠和彦,菅谷理一:交通事犯受刑者処遇の現状.ジュリスト1330:32-37, 2007
12)樋口範雄:フィデュシャリー[信認]の時代.有斐閣,東京,1999, pp183-186
13)平川亮一:医事紛争はなぜ増加しているか.pp14-18(宮澤俊夫編:医事紛争解決の手引.第1章,新日本法規出版,東京,1995)
14)Houkin K, Baba T, Minamida Y, Nonaka T, Koyanagi I, Iiboshi S:Quantitative analysis of adverse events in neurosurgery. Neurosurgery 65:587-594, 2009
15)稲葉一人:医療安全と司法の役割.医療の質・安全学会誌1:43-48, 2006
16)石川ひろの,佐伯みか:医師に対する投書の内容分析とその活用可能性─医療訴訟予防の観点から─.病院管理42:39-47, 2005
17)木ノ元直樹:医療事故が起こったら─医師に望むこと─医事紛争を弁護する立場から.ペインクリニック23:1088-1091, 2002
18)木ノ元直樹:医療事故訴訟における留意点─医療記録の問題を中心として─.pp237-261 (伊藤文夫,押田茂實:医療事故紛争の予防・対応の実務─リスク管理から補償システムまで─.第2章,第8節,新日本法規,名古屋,2005)
19)児玉安司:医療訴訟からみた診療の質.日医雑誌133:220-223, 2005
20)Kohn KT, Corrigan JM, Donaldson MS:To err is human:Building a safer health system. National Academy Press, Washington DC, 1999
21)小松秀樹:2.医療事故調査委員会─厚生労働省案のもたらすものと議論の動向.外科70:733-738, 2008
22)久貝信夫:医療安全管理:医療事故防止.防医大誌27:1-8, 2002
23)畔柳達雄:21世紀の医療訴訟.pp321-346(畔柳達雄,高瀬浩造,前田順司編:わかりやすい医療裁判処方箋.医師・看護師必読の書.第5章,18-2節,判例タイムズ社,東京,2004)
24)前田正一:医療過失の法理論と過失等を問題にする訴訟の情況.ペインクリニック31:41-48, 2010
25)Mello MM, Studdert DM, DesRoches CM, Peugh J, Zapert K, Brennan TA, Sage WM:Effects of a malpractice crisis on specialist supply and patient access to care. Ann Surg 242:621-628, 2005
26)宮澤 潤:弁護士から見た医療ADR.病院66:476-479, 2007
27)望月浩一郎:医療事故紛争を生じ深刻化させる要因─患者,家族の立場から─.治療83:2363-2368, 2001
28)Moore PJ, Adler NE, Robertson PA:Medical malpractice:the effect of doctor-patient relations on medical patient perceptions and malpractice intentions. West J Med 173:244-250, 2000
29)森田茂穂:医学界と法曹界との見識の連携と交換の必要性─医療訴訟の増加に対して,われわれ医師はいま何をすべきか─.日臨麻会誌27:318-325, 2007
30)森山 満:医療過誤・医療事故の予防と対策.中央経済社,東京,2002, pp3-10
31)中村勝己:医療裁判の現状と課題─法律家の視点から─.日集中医誌15:497-502, 2008
32)中西淑美,萩原明人,和田仁孝:わが国の医事紛争における医療メディエーションの有効性認知および習得性認知に関する検討.病院管理44:55-66, 2007
33)日経メディカル:実践・医事紛争予防学─保身医療に陥らないために─.日経マグロウヒル社,東京,1986, pp15-20
34)西塚 至,石川雅彦,木村佑介,築山 節,中西 泉,横山隆捷,嵯峨 泰,杉本成子,鈴木 宏,石原 哲,小泉和雄,河北博文:都内病院における医療紛争の実態および医療安全支援センターの紛争解決支援に関する基礎調査.日医雑誌137:2482-2488, 2009
35)岡井清士:医療事故・紛争─最近の情勢と対策─.pp1-6(岡田 清,岡井清士,木下健治:病院における医療事故紛争の予防.第2版.第1章,医学書院,東京,1997)
36)岡井清士:前医批判1,2.pp48-49(岡田 清,岡井清士,木下健治:病院における医療事故紛争の予防.第2版.第4章,医学書院,東京,1997)
37)Rovit RL, Simon AS, Drew J, Murali R, Robb J:Neurosurgical experience with malpractice litigation:an analysis of closed claims against neurosurgeons in New York State, 1999 through 2003.J Neurosurg 106:1108-1114, 2007
38)鈴木龍太,与芝真彰,柴田雅子,小田澤幸雄:医療事故に対する新聞報道の偏りの検証.綜合臨牀56:3237-3240, 2007
39)高久史麿,五島雄一郎:医師の適性について.pp3-10(橋本信也編:よき医師養成を考える.第一部,第1節,篠原出版,東京,1999)
40)田辺 功:医療危機と新聞報道.綜合臨牀56:3241-3244, 2007
41)田邉 昇:クレーマー患者への対応.臨皮63:136-138, 2009
42)植木 哲:「医療と法」をめぐる新たな状況と課題.病院66:462-469, 2007
43)植木 哲:医療(診療)契約概念の必要性.病院66:700-702, 2007
44)横田美幸,関 誠,平田善康:無過失補償制度の雛型,「産科医療補償制度」の一考察.日臨麻会誌29:901-904, 2009
45)横田美幸:医事紛争解決事案からみたリスクマネージメント.ペインクリニック31:21-32, 2010
掲載誌情報