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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科38巻11号

2010年11月発行

雑誌目次

創薬に関わって

著者: 渋谷正人

ページ範囲:P.971 - P.972

1.生化学のはじめ

 1968年,横須賀米海軍病院でのインターンを終え,名古屋大学脳神経外科大学院に入ったが,研究テーマは暗中模索.医局では杉田虔一郎先生がフライブルグ大学から帰り,パーキンソン病に対するステレオの手術を盛んに行い,視床の下端を決めるのに電気刺激による散瞳反応を用いていた.私が電気生理は得意でないことと,先生の「これからは生化学の時代だな!」の一言で,当時愛知県コロニーにおられたサッカー部先輩の日高弘義先生のもとで研究することになった.日高先生は米国ロッシュ研究所時代の,カテコラミン代謝から,当時最先端であったcAMPの研究に移り,研究室をあげて,代謝酵素のフォスフォジエステラーゼ(PDE)をやっておられた.後に大阪大学に帰ってこられた垣内史郎先生がカルモジュリン(CaM)と呼ばれることになるPDEの活性化物質を発見された頃である.

総説

脳動脈瘤に対する血管内治療の長期成績

著者: 大石英則 ,   山本宗孝 ,   吉田賢作 ,   新井一

ページ範囲:P.973 - P.982

Ⅰ.は じ め に

 1991年のGDC(Guglielmi detachable coil)導入以降21,22),脳動脈瘤に対する血管内治療,特に離脱型プラチナコイル(Fig. 1)を用いて脳動脈瘤を選択的に塞栓する“コイリング術”はクリッピング術とならんで重要な治療オプションとなっている.わが国でも1998年以降からコイリング術の施行が可能となった.現在までに,その効果や安全性などについて数多くの報告がなされているが8-10,15,42,54),それらの中で欧米,主に英国を中心に行われた多施設共同無作為試験であるISAT(International Subarachnoid Aneurysm Trial)42,44)の結果は,急性期破裂脳動脈瘤に対する治療法選択に大きな影響を与えた.これらを背景にわが国でも脳動脈瘤治療における破裂予防法としてコイリング術を第一選択治療とする施設が増加しつつある.しかし一方で,コイリング術後の出血,再開通,動脈瘤増大に関する報告は多く5,24,42-44,46),クリッピング術に比べて長期的な出血予防効果が劣ること,解剖学的根治率が低いことなどが問題視されている.そこで本稿では脳動脈瘤に対するコイリング術の長期成績について文献報告を中心に概説する.

研究

非腫瘍性脳病変におけるメチオニンPET

著者: 河井信行 ,   岡内正信 ,   三宅啓介 ,   笹川泰弘 ,   山本由佳 ,   西山佳宏 ,   田宮隆

ページ範囲:P.985 - P.995

Ⅰ.はじめに

 11C-メチオニン(L-[methyl-11C]methionine:以下MET)は,脳腫瘍に特異性の高いPET(positron emission tomography)標識化合物(トレーサ)であり,MET-PETは悪性脳腫瘍の核医学診断における“gold standard”と考えられている6).必須アミノ酸であるメチオニンは,中性アミノ酸の一種で,METは元々組織の蛋白質合成能を評価する目的で開発されたトレーサであるが,PETで撮影する時間内(投与後20~30分間)では組織へのアミノ酸輸送を主としてみていると考えられている.

 METの組織への集積は,viableな腫瘍細胞に特異性が高く,非腫瘍性の脳病変にはMET集積が認められないことが報告されている2,12).METは局所での炎症反応の影響を18F-FDG(2-deoxy-2-[18F]fluoro-D-glucose:以下FDG)より受けにくいが7),マクロファージなどの炎症細胞や反応性に増殖したグリア細胞にもMET集積が認められる5).また投与されたMETは,主に中性アミノ酸輸送機構(L-type amino acid transporter 1)により血液脳関門(blood-brain barrier:以下BBB)を通して脳に能動的に取り込まれるが,一部は障害されたBBBを介した受動的な拡散もMET集積に関与している.そのため,非腫瘍性の脳病変においても局所の炎症反応やBBB破綻によりMET集積が認められ,ときに腫瘍性病変との鑑別が困難なことがある.

 サイクロトロンを併設したPET施設の増加で,MET-PETが全国的に普及しはじめているが,METは腫瘍性脳病変以外でも陽性所見を示すことがあり,自験例を提示しながら概説し,注意を促したい.

ICE(イホマイド・シスプラチン・エトポシド)療法の安全性:単一施設の108連続症例の検討から

著者: 金森政之 ,   隈部俊宏 ,   斎藤竜太 ,   山下洋二 ,   園田順彦 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.997 - P.1005

Ⅰ.はじめに

 固形腫瘍に対する化学療法は,膠芽腫に対するテモゾロミド単剤投与29)を除き,一般的には多剤併用療法が用いられている.この中でアルキル化剤(イホマイド)・白金製剤(シスプラチン)・トポイソメラーゼⅡ阻害剤(エトポシド)を併用したICE療法は,1986年にGöbelら13)が精巣外原発の胚細胞腫瘍への有効性を示して以来,頭蓋外胚細胞腫,非小細胞性肺癌,小細胞性肺癌,非ホジキン性悪性リンパ腫,卵巣癌,再発ユーイング肉腫1,9-12,15,19)などで広く有効性が示されてきた.

 一方で頭蓋内腫瘍に対しては,MAKEI 89 Studyにて精巣外胚細胞腫瘍に対するICE療法の有効性が報告されたが,その一部に頭蓋内胚細胞系腫瘍が含まれ14),その後,髄芽腫25,31),原始神経外胚葉性腫瘍31),嗅神経芽腫18),脳幹部膠芽腫5,26)などで有効性が報告されてきた.

 本報告では当科における1997年以降のICE療法施行症例を後方視的に検討し,有害事象について明らかにすることを目的とした.この中で,2005年5月から骨髄抑制,腎機能障害,聴力障害を参考にした減量基準に従った投与量の調整を行ったが,減量による治療効果,有害事象への影響にも着目した.

小児頭部外傷患者の画像検査施行基準と初期診療方針

著者: 塩見直人 ,   岡田美知子 ,   越後整 ,   岡英輝 ,   日野明彦

ページ範囲:P.1007 - P.1012

Ⅰ.はじめに

 頭部外傷患者の多くは軽症例であるが,初期診療における画像検査の必要性については議論が多く,一定の見解が得られていない4,6,10,12,13).特に小児の場合は成人と比べて訴えがわかりにくく,神経所見の把握も困難なことが多いため,画像検査を施行しておいたほうがよいと考えられるが15),放射線被曝や体動などの問題で検査が困難なことが多いのも現状である.また,受傷直後に施行したCTで頭蓋内に異常がなくても,受傷後しばらく経過してから異常所見が出現することもあるため,受傷後数時間は経過観察を指示する場合が多い11).このような点を考慮すると,小児頭部外傷患者の初期診療では,画像検査よりも受傷後の経過観察のほうが重要とも考えられる.

 われわれは,小児頭部外傷患者の初期診療において画像検査施行基準を設定し,一定期間その基準に従って診療を行うことを試みた.画像検査が不要と判断した患者は,検査を行わずに自宅で経過観察する方針とし,数時間後に電話で状態の確認を行った.今回,画像検査施行基準と初期診療方針の妥当性について考察したので報告する.

症例

巨大転移性頭蓋骨腫瘍に対しサイバーナイフ7分割定位放射線治療を施行した1例

著者: 福田直 ,   須藤智 ,   北原功雄 ,   小松大介 ,   小林信介 ,   阿部琢巳 ,   福島孝徳

ページ範囲:P.1013 - P.1017

Ⅰ.はじめに

 癌治療の進歩により癌患者の生存期間が延びており,それに伴い転移性脳腫瘍を合併する患者も増加している.転移性脳腫瘍は癌のStageⅣの状態であり,生存期間中央値は1年程度であるものの,神経症状出現によるquality of life(QOL)低下を来すことから,生命予後も重要であるもののいかに神経症状の改善を得てQOLを向上させるかが,癌に対する全身治療の中での脳神経外科医の役割ではないかと考えている.

 特にQOLの低下を招く症候性巨大転移性脳腫瘍に対しては全脳照射では腫瘍を制御することは困難であることが多く,ガンマナイフなどの単発照射では,10cm3以上の大きな腫瘍に関してはコントロール不良であることから6),6カ月以上の生命予後が期待される症例に関しては手術治療が選択されることが多い.

 当院では全身状態や年齢などの条件から手術治療が困難と考えられた巨大症候性転移性脳腫瘍に対しサイバーナイフによる5~8分割定位放射線治療を施行してきた.その中で236cm3の巨大腫瘍に対し7分割定位放射線治療で良好な治療結果が得られた症例を経験したので報告する.

側頭骨原発軟骨芽細胞腫の1例

著者: 堤佐斗志 ,   三島有美子 ,   野中康臣 ,   阿部祐介 ,   安本幸正 ,   伊藤昌徳

ページ範囲:P.1019 - P.1024

Ⅰ.はじめに

 軟骨芽細胞腫は原発性骨腫瘍の約1%を占める良性腫瘍(WHO grade Ⅰ)である.手術により全摘できれば治癒が期待できる一方,部分摘出ないし掻破術後では再発が臨床上問題になることがある.頭蓋骨原発の軟骨芽細胞腫は稀で,現在まで頭蓋底腫瘍として約60例,側頭骨原発例が45~56例報告されているのみである1,4,6).またその大半が5例以下の報告である2-5,7-9).軟骨芽細胞腫の治療は機能温存を図りつつ可能な限り全摘出を目指すことを原則とし,頭蓋底外科手技を駆使した手術も積極的に行われている5,6,8).病理診断上好酸性の胞体をもち,ときに核にくびれがみられる腫瘍細胞と破骨細胞様多核巨細胞の増殖,間質の軟骨器質,細胞間の石灰沈着などが特徴的所見とされる1-9).巨細胞腫,軟骨肉腫,動脈瘤様骨囊腫,軟骨粘液性線維腫などとの鑑別が必要となるが,近年S-100染色の診断上の有用性が認識されるようになった1,9).今回われわれは伝音性聴力障害で発症,手術により治療した中頭蓋窩軟骨芽細胞腫の症例を経験したので報告する.

腰椎術後の鼠径部痛の原因であった仙腸関節障害の1例

著者: 下田祐介 ,   森本大二郎 ,   井須豊彦 ,   茂木洋晃 ,   今井哲秋 ,   松本亮司 ,   磯部正則 ,   金景成 ,   菅原淳

ページ範囲:P.1025 - P.1030

Ⅰ.はじめに

 仙腸関節障害は,腰痛と表現される仙腸関節部の疼痛に加えて,関連症状として下肢の疼痛や痺れを呈する.今回われわれは,腰椎変性疾患の術後に出現した鼠径部痛の原因であった仙腸関節障害の1例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.

連載 脳神経外科手術手技に関する私見とその歴史的背景

7.アプローチ再考

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.1031 - P.1045

Ⅰ.はじめに

 前回はpositioning,instrumentsがテーマであった.今回は別の予定があったが急拠,予定を変更してapproachについてである.このテーマに変更するきっかけとなった手術がこの間にいくつかあった.1つは,craniopharyngiomaの再発でtrans-rostrum corporis callosi-lamina terminalis approach(TRCLA),さらにはglossopharyngeal neuralgiaに対するtrans-vertebralis dural ring approach(TVDRA)である.そして,dominat hemisphere hippocampus headに対応するgyrus papahippocampalisに位置するcavenous angiomaに対してselective amygdalohippocampectomy approach(SAHEA)ではなくsupracerebellar transtentorial approach(SCTTA)を用いたりした.P2 segmentの動脈瘤をSAHEAで,すなわちabpreparieren剝離したが,dissection aneurysmであるための術中破裂でaneurysmorrhaphyを行わざるを得ず合併症に遭遇した.SCTTAで動脈瘤にapproachしていればそれが防げたのではないかと思った.このようにapproachについて改めて考えざるを得ない状況に多く遭遇したので,思いの褪せないうちに,書きとどめてご参考にしていただければと思った.

 Approachといえば,私の定年退官記念シンポジウムの時に,かつて1970年代にZürich大学脳神経外科で一緒に修練したTübingen大学神経病理のMeyermann教授が参加,講演してくれた.彼には,当時,腰椎椎間板ヘルニアの手術の手ほどきをしたのだが,その後,彼は神経病理学に転進した関係上,私の得手とする分野,新しく開拓した手技などがわからなくなっていた.私の定年前の科のスタッフに聞き合わせて,種々のapproachの開拓もその分野に入るとわかったらしい.そのシンポジウムでは脳神経外科領域でのapproachへの私の寄与について言及してくれた.その基本的なことは,本誌でも,Zürich大学脳神経外科の現状ということで,当時のactivityとともに紹介した26)

 種々のapproachに,多少自分の考えが固まってきたのが2000年を過ぎてからである.これらについては,チェコ・スロバキア合同の脳神経外科continuing education(これがこのシリーズ執筆のきっかけとなった),京都の日本脳神経外科学会(第65回,橋本信夫会長,2006年)などで,日常頻用するapproachに関して留意点,問題点をまとめて講演する機会があった.

 本稿はそれ以後も,工夫し実施してきたもので,過日,「京都─Zürich脳神経外科セミナー(主宰:塚原徹也 京都医療センター脳神経外科部長)」で述べたものに準じて,SEAC,TVDRAにプラスして応用範囲の多いTSCIAを加えて述べることにする.

臨床神経心理学入門

第6回 脳腫瘍

著者: 鶴谷奈津子

ページ範囲:P.1057 - P.1063

Ⅰ.はじめに

 本稿では脳腫瘍における高次脳機能障害について,症例報告を中心に概説する.脳腫瘍による症状は大きく分けて2つある.1つは,頭痛,嘔吐,視力障害,けいれん発作などの一般症状である.これらは腫瘍の増大,浮腫,静脈還流障害,髄液循環障害などに起因して頭蓋内圧が亢進することにより出現する.もう1つは腫瘍による脳組織の圧迫や損傷が原因で生じる局所症状である.脳腫瘍における高次脳機能障害を一括して論ずることは困難であるが7),脳は部位ごとに機能が異なるため,どのような症状が生じるかは腫瘍が発生した部位によってある程度予測できる.例えば運動野が障害されれば病変と反対側の運動麻痺が生じ,視覚野が障害されれば反対側の半盲を来す.さらに,頭頂葉では計算や読み書き・空間認知の障害,側頭葉では記憶や物体の認識の障害,前頭葉では性格変化・意欲低下などが生じる.そのほか,脳腫瘍の組織像,経過,腫瘍周囲の浮腫の程度なども局所症状に影響を及ぼす.したがって,脳腫瘍を罹患した患者がどのような症候を呈するかはケースバイケースと言える.以下では,脳腫瘍の中でも代表的な神経膠腫および髄膜腫の症例をとりあげ,それらの病変と高次脳機能障害を紹介する.

海外だより

脳腫瘍の遺伝子を追って―スウェーデン経由イギリス行き

著者: 市村幸一

ページ範囲:P.1047 - P.1055

Ⅰ.はじめに

 私は現在イギリスのケンブリッジ大学Department of Pathologyに勤務している.最初は2年の予定で1991年にスウェーデンに留学したのが,2つの国,3つの都市,4つの研究所を回りまわって海外生活が今年で19年目になる.この間一貫して脳腫瘍,特に神経膠腫の発生にかかわる遺伝子を研究してきた.もともとは脳神経外科医の道を歩みはじめたものの,留学後研究に専念するようになって以来臨床を離れて久しい.したがって以下は私の海外遍歴と脳腫瘍をめぐる研究の話になる.臨床の第一線で働いておられる読者の方々には少々退屈に感じられるかもしれないが,脳腫瘍の基礎研究のほとんどが脳神経外科医によってなされているという日本の研究環境を考えると,興味をもっていただける方もおられるのではないかと期待して筆を進ませていただく.

報告記

第19回欧州脳卒中学会(2010年5月24~28日)

著者: 佐藤光夫

ページ範囲:P.1064 - P.1065

 2010年の第19回European Stroke Conference(ESC)は5月24日(火)~28日(金)の会期でスペインのバルセロナで開催されました.スペインでのESC開催は2003年のバレンシア以来2度目で,今回はUniversity Hospital of Barcelona, Comprehensive Stroke CenterのAngel Chamorro教授が会長を務め,学会場は新市街にあるPalau de Congressos de Catalunyaでした.ここは大学や研究機関などがある緑豊かな学園地区の一角にあり,最寄りの地下鉄から数分程度で会場に到達でき,比較的快適に学会参加が可能となるよう設営されていました.

 初日は午後から例年通り10題の教育講演が組まれていました.夕方から開会式,その後会場に隣接するHotel Rey Juan Carlosで懇親会が行われました.ホテルのプールサイドを利用したこのガーデンパーティーは,天気にも恵まれ,名物のピンチョスをおつまみに芳醇なスペインワインを飲んでいるとアトラクションとして三体のヒガンテス(巨人)が登場し,その後「人間の搭」も披露され,カタルーニャ色豊かなものでした(写真1).

読者からの手紙

ドイツ留学で感じたこと―Heidelberg大学脳神経外科留学記

著者: 魚住洋一 ,   島克司

ページ範囲:P.1066 - P.1067

 2009年5月から1年間,Andreas Unterberg教授が主宰されるドイツのHeidelberg大学脳神経外科に留学させていただきました.留学生活で感じたこと,思ったことが色あせないうちに報告いたします.この拙文が,1人でも多くの方がドイツ留学を決断される際の一助となれば幸甚です.

 Heidelberg大学は1386年に設立された,ドイツ最古の大学です.Heidelbergは,同大学内にドイツ癌研究センターが併設されている他,市内には欧州分子生物学研究所やマックス=プランク財団の4つの研究所があり,幅広い分野の研究が盛んなアカデミックな街です.街の治安もよく,家族で住むには最適です(私は幼児2人を含む家族4人で留学しました).同大学の脳神経外科は年間2,500~2,800件の手術を行っており,国内だけでなく東欧,中東,西アジアからの患者も多く受け入れています.主宰されるAndreas Unterberg教授は現在ドイツ脳神経外科学会の会長です.Unterberg教授と当科の島教授は25年前に米国Verginia医科大学で一緒に研究された間柄で,以来親交が深かったことから今回の留学が実現しました.

コラム:医事法の扉

第55回 「顔面痙攣・三叉神経痛」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.1068 - P.1068

 顔面痙攣・三叉神経痛の根治術として,microvascular decompression(MVD)が行われます.顔面痙攣の場合,通常,顔面神経のroot exit zoneにおける除圧ないし減圧により,痙攣の消失を図ります.まず,乳様突起下端近傍の開頭が必要であることから,太い導出静脈やS状静脈洞などの損傷による出血と,乳突蜂巣の開放による術後の髄液漏に注意しなければなりません.そして,小脳のretractを最小限とし,下位脳神経症状,小脳症状,耳鳴,聴力障害,顔面神経麻痺などの各神経障害をできる限り回避するように注意が必要です.術野が深く,細かなテクニックが要求されるデリケートな手術の1つといえるでしょう.同様に,三叉神経痛の場合も,三叉神経に対する圧迫の除圧ないし減圧により,痛みの消失を図ります.開頭部位は,顔面痙攣のときよりも上方なので,上錐体静脈や周辺の静脈洞,橋静脈などの損傷による出血に注意が必要です.

文献抄録

Phase Ⅱ trial of continuous dose-intense temozolomide in recurrent malignant glioma: RESCUE study

著者: 百田洋之

ページ範囲:P.1069 - P.1069

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編集後記

著者: 吉峰俊樹

ページ範囲:P.1076 - P.1076

 「よくぞここまで…」と感じ入りながら渋谷正人先生の『扉』を拝読しました.渋谷先生は私にとって臨床に厳しい,こわもての外科医という印象がありますが,実は基礎研究にも大きな力を注がれています.本稿には名古屋大学時代,生化学,薬理学の世界に入り,cAMPの研究から血管拡張薬の開発に没頭し,現在,脳血管攣縮に最も有効と考えられる塩酸ファスジル(エリル®)の製品化に成功するまでの経緯が紹介されています.基礎研究を臨床の場で結実することは私どもにとってめったに叶えることができない夢のまた夢です.「昼夜を問わず膨大な実験」を重ねてこれを達成した渋谷先生のグループのお力に感服します.塩酸ファスジルはその後,Rhoキナーゼの阻害を主作用とすることが明らかとなりました.Rhoキナーゼは細胞の分裂や増殖,肥大,遊走,接着などに関わり,酸化ストレスの亢進,血栓形成,線維化,動脈硬化,高血圧,肺高血圧,虚血再還流障害など多くの病態に関与していることが知られてきました.Rhoキナーゼ阻害剤というきわめて特異な薬剤として,塩酸ファスジルにはさらに新たな応用が期待されています.

 もう1つ,「よくぞここまで…」というのは,『海外だより』をお寄せいただいた市村幸一先生のご活躍ぶりです.ヨテボリにおける研究室の整備に始まり,Collins教授の右腕としてストックホルム,ケンブリッジへと研究室を移動しつつ活躍されていくさまには感嘆するばかりです.また先生の解説になる「神経膠腫の分子遺伝学」は込み入った遺伝子変異の細部について,わかりやすく,しかも全体像を把握しやすい形で解説していただきました.十数年前に私どもが夢見た脳腫瘍の遺伝子異常の解明や遺伝子診断の時代がいよいよ到来したことを実感させてくれるものです.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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