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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科38巻3号

2010年03月発行

雑誌目次

新型インフルエンザに思う

著者: 甲村英二

ページ範囲:P.207 - P.208

 脳神経外科誌の扉への原稿依頼をいただいていたが筆が進まないまま,2009年も年末を控えて何かと忙しい時期となった.本年は,流行語大賞となった政権交代をはじめとして話題に事欠かなかったが,医療関連では新型インフルエンザをめぐる話題が最近も世の中を賑わせている.春先の海外での流行からゴールデンウィーク前後のいわゆる水際阻止作戦,その後の国内第一感染者発生などの頃は,国中が大騒ぎでパニック寸前といった感があった.重装備をした医療スタッフによる空港での機内検疫の映像は,国民の不安感をより一層にあおるものであった.海外メディアは奇異な国日本として映像を流していたように思う.国内発生は関西地区で先行していたので,私の居住地近辺では通勤者はほとんどがマスクをし,薬局・売店からはマスクが消え,電車の中で咳でもしようものなら冷ややかな視線を浴びせられた.小中高校は一斉に休校し,大学でも休校措置がとられた.感染者は感染病室に隔離され,感染ルート探しは犯人探しのような様相で,感染の疑いが晴れた学校関係者が涙ながらにインタビューに答えていた.修学旅行が軒並みキャンセルされ,学会の開催も中止,大学からは海外出張禁止令が出た.今からすれば,必要以上で滑稽とさえ言える社会の対応,過剰なまでのマスコミの報道であったように思われる.専門家とされる人々は評論家的な立場でさまざまなコメントをしていたようにも思う.世界からみればわが国での対応はまったく異様なものに映ったであろうと推測する.これも日本のオリジナリティであろうか.

総説

痙縮に対する機能的脊髄後根切断術

著者: 師田信人

ページ範囲:P.209 - P.228

Ⅰ.はじめに

 痙縮(spasticity)は筋過緊張(hypertonia)の一種であり「相同性筋伸張反射(phasic stretch reflex:反応の強度が筋の伸展速度に比例する)の病的亢進状態」と定義される42,83).痙縮は中枢神経損傷後の運動機能回復に対する大きな阻害因子となる.それゆえ,痙縮の克服は障害児医療,とりわけ脳性麻痺小児の治療に携わるものにとって大きな課題であった8)

 本邦における痙縮も含めた筋過緊張の治療は,この10年あまりの間に大きな変遷を遂げている.これまで直接治療の対象とならなかった痙縮そのものに対し,機能的脊髄後根切断術,バクロフェン髄注療法,ボツリヌス毒素局所注入療法が導入され,治療法の選択(戦術)が広がっただけでなく,段階を踏んだ(戦略的)治療を展開することが可能となった3,8,11,21,96).これは同時に,筋過緊張を生じる病態(小児では固縮は極めて稀なので,痙縮またはジストニーおよび両者の混合)を理解し,治療法の適応を選択する時代になったことを意味する34,66,83)

 痙縮の代表的疾患である脳性麻痺(以下,特に断りがない場合,痙直型脳性麻痺の意味で使う)小児の治療法も,例外なくこの歴史的変換点に直面している.すなわち,脳障害から派生する2次的運動機能障害の原因である痙縮治療を第1段階でどうコントロールするかが問われる時代となった.この分野において,整形外科の果たしてきた役割は改めて強調するまでもない.また,整形外科治療とあわせて神経運動発達を促進することを目的にしたさまざまな神経リハビリテーション手技も唱えられてきた.脳性麻痺治療において,障害の要因である痙縮治療が重視されるようになったことは,いわば脳性麻痺治療戦略上の大きな変化である.機能的脊髄後根切断術の受け入れについて本邦では紆余曲折はあったが,痙縮軽減における重要な治療法の1つとして脳性麻痺リハビリテーションガイドラインに初めて記載されるようになってきたのも,このような状況を反映していると言える46)

 ここでは,痙直型脳性麻痺小児に対する機能的脊髄後根切断術について,歴史的背景,手術手技,手術成績,および痙縮治療戦略における位置づけを中心に述べる.なお,呼称については直訳となる「“選択的”脊髄後根切断術」が用いられることが多いが,本文中では“機能的”で統一した.

難治性てんかんに対する脳神経外科手術の歴史と今後の展望

著者: 大槻泰介

ページ範囲:P.229 - P.241

Ⅰ.はじめに:てんかん外科とJackson-Horsley

 てんかんの外科治療は,Victor Horsleyが1886年にHughlings Jacksonにより紹介され手術を行った,部分運動発作を伴う外傷性てんかん患者に対する運動野近傍の瘢痕切除に始まるとされる3).Jacksonは既にこの時代,部分てんかんが大脳皮質灰白質の“発射病巣(discharging lesion)”によることを認識しており59,102),Horsleyに手術を依頼した2例目では,結核腫を摘出した後,術中皮質電気刺激の結果に基づき“てんかん原性焦点(epileptogenous focus)”として拇指領域の運動野皮質の切除が追加されている37).Jacksonの“発射病巣”の概念は,その後“てんかん原性焦点”94),および“てんかん原性領域(epileptogenic zone)”55)に引き継がれるが,Jackson-Horsley以来の120年間,てんかん原性領域をいかに同定し切除するかという課題が,てんかん外科の基本命題であり続けてきたと言える.

研究

人工椎骨動脈付き3次元立体頭蓋底モデルを用いたfar lateral approach,顆窩経由法(transcondylar fossa approach),後頭顆経由法(transcondylar approach)の比較検討

著者: 森健太郎 ,   山本拓史 ,   中尾保秋 ,   江崎孝徳

ページ範囲:P.243 - P.250

Ⅰ.はじめに

 大後頭孔前半部髄膜腫や斜台部脊索腫などの腫瘍性病変や椎骨動脈─後下小脳動脈分岐部動脈瘤などの血管性病変の外科的治療の場合,通常の外側後頭下開頭術(lateral suboccipital retrosigmoid approach)による開頭では不十分な場合がある.これら脳幹部・頚髄移行部の外側部から前面斜台部に存在する病変部へのアプローチ方法として,Herosは後頭骨外側部の骨削除を環椎後頭関節(atlanto-occipital joint)の後端まで加えるfar lateral approachを提唱した4).また,Bertalanffyらはfar lateral approachの骨削除範囲を広げて,環椎後頭関節を含む後頭顆(occipital condyle)の後方3分の1の骨削除と頚静脈結節(jugular tubercle)の硬膜外からの骨削除を加える後頭顆経由法(transcondylar approach)を提唱した2).一方,Matsushimaらは6,7),環椎後頭関節を温存しながら顆窩(condylar fossa)を削開し,頚静脈結節の硬膜外からの削除を加える顆窩経由法(transcondylar fossa approach)を提唱しており,この方法はGilsbachら3)の提唱する後頭顆上頚静脈結節経由法(supracondylar trans-jugular tubercle approach)にほぼ一致する方法と考えられる.これら後頭骨外側部から頭蓋・頚椎移行部にかけての骨削開を行う3つの代表的な手術方法の違いや,硬膜内病変の展開程度の差や手術適応の違いについては,MatsushimaやRhotonなどの優れた研究がある8,9,15).しかしながら,これらの比較検討はcadaver dissectionや実際の手術写真を基にしており,初心者にはややわかりづらいことも事実である.

 そこでわれわれは,レーザー溶融粉末積層造形法(selective laser sintering:SLS法)によって作製されたヒト頭蓋骨モデル(大野興業,東京)を用いて,これに人工の硬膜,静脈洞,脳神経,内頚動脈などを付けたモデルを開発し,頭蓋底外科手術のシミュレーションなどに応用する方法を報告してきた10-14).このモデルは,頭蓋底外科に必要な頭蓋骨の表面構造物のみならず,三半規管や含気蜂巣などの骨内部構造も再現されている.さらに,これらの頭蓋骨モデルの人工骨材料はガラスビーズを含み,実際の手術用ドリルを用いて骨削開が可能である.今回われわれは,第1頚椎および第2頚椎上半部が附属した3次元立体頭蓋底モデルに人工椎骨・脳底動脈を再現したモデルを作製し,lateral suboccipital retrosigmoid approachを基に,後頭骨外側部から頭蓋・頚椎移行部にかけての骨削開を順次拡大しながら,far lateral approach,顆窩経由法,後頭顆経由法を再現し,これら3つの後頭骨外側部からのアプローチの違いについて比較検討したので報告する.

頚椎神経根診断におけるcurved coronal MPR imaging の有用性

著者: 犬飼千景 ,   犬飼崇 ,   松尾直樹 ,   清水郁男 ,   五島久陽 ,   高木輝秀 ,   高安正和

ページ範囲:P.251 - P.257

Ⅰ.はじめに

 頚椎神経根症において,骨棘や椎間板ヘルニアによる椎間孔部での圧迫による神経根症状は,脊髄症や神経筋疾患との鑑別が困難な例もあり,正確な画像診断が必要とされる.また,外科的治療を選択するにあたり責任病巣の正確な同定が最も重要である.しかし,通常のMRI撮影法では責任病巣の同定が困難な症例も多い.

 今回われわれはtrue fast imaging with steady-state precession(true FISP),3D T2 weighted sampling perfection with application optimized contrasts using different fillip angle evolution(3D T2W SPACE),3D multi-echo data image combination(3D MEDIC)という3次元MRIを用いたcurved coronal multiplanar reconstruction(MPR)imagimgという新しい手法を用いることが頚椎神経根症の画像診断に非常に有用であると思われたため,おのおのの手法の画像特徴も含め紹介する.

症例

出血発症の左A1解離性動脈瘤に対しproximal clippingにA3-A3バイパス術を併用した1例

著者: 芝田純也 ,   上野泰 ,   足立秀光 ,   國枝武治 ,   今村博敏 ,   小柳正臣 ,   坂井信幸 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.259 - P.264

Ⅰ.はじめに

 動脈解離(解離性動脈瘤)は脳卒中の原因として重要であるが,診断や治療が困難な症例が存在する.本邦では,動脈解離は内頚動脈(ICA:internal carotid artery)系より椎骨脳底動脈系に多く,また頭蓋内に多いとされている9).動脈解離の原因として,先天的要因による動脈壁の異常,動脈の走行異常,軽微な外傷,感染などが考えられている5)

 今回,われわれは出血発症の左A1解離性動脈瘤を経験した.その治療としてproximal clippingにA3-A3バイパス術を併用し,良好な経過を得た.前大脳動脈(ACA:anterior cerebral artery)の動脈解離の報告は少なく,未だその治療法は確立していない11).そこで文献的考察を加え,本症例を報告する.

頭皮下neurofibromaからの高度の出血を認めたneurofibromatosis-1の1例

著者: 柚木正敏 ,   平松匡文 ,   平下浩司 ,   合田雄二 ,   吉野公博 ,   藤本俊一郎 ,   田中均 ,   溝渕光一 ,   高田尚良 ,   守都敏晃

ページ範囲:P.265 - P.272

Ⅰ.はじめに

 神経線維腫はカフェオレ斑とともにneurofibromatosis type 1(NF-1)に附属して認められる代表的外表異常の1つである12).今回われわれは軽微な外傷により,頭皮下神経線維腫からの高度出血を認めたNF-1患者を経験した.同様の報告は文献上これまでに4例を認めるのみであり11,19),非常に稀なケースであると考えたので,文献的考察を加えここに報告する.

脳梗塞とくも膜下出血を同時に来し,保存的治療により治癒が得られた非外傷性前大脳動脈解離の1例

著者: 木村重吉 ,   五十嵐崇浩 ,   小谷昭夫 ,   片山容一

ページ範囲:P.273 - P.278

Ⅰ.はじめに

 非外傷性頭蓋内動脈解離に対する治療法の選択は,発生部位と発症様式により多岐にわたる.一般的に虚血発症には保存的治療が行われ,出血発症には外科的治療が施行されることが多いが,虚血と出血を同時に来した場合の治療法の選択は困難である.前大脳動脈において,脳梗塞とくも膜下出血を同時に発生した頭蓋内動脈解離の報告は過去に2例のみであり,いずれも外科的治療が行われている.われわれは,脳梗塞とくも膜下出血を同時に来し,保存的治療により治癒させることができた症例を経験したので報告する.

髄腔内播種所見を伴わない頚髄転移性乏突起膠腫の1例

著者: 大城真也 ,   小松文成 ,   継仁 ,   鍋島一樹 ,   安部洋 ,   大川将和 ,   井上亨

ページ範囲:P.279 - P.285

Ⅰ.はじめに

 悪性神経膠腫での髄腔内播種は,原発巣の悪化に伴う腫瘍伸展の最終段階で多くみられ,その終末期においてはときに経験する病態である.その際は,大部分の症例において脳室壁や脳・脊髄くも膜下腔の異常造影所見,leptomeningeal enhancementを伴うことが多く,容易に診断可能となる1,3,8)

 今回われわれは,小脳の退形成性乏突起膠腫の術後に,原発巣の再発兆候や脳・脊髄くも膜下腔のleptomeningeal enhancementを伴わず,頚髄レベルへの髄内転移巣を形成した比較的稀な症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

片頭痛様発作で発症した海綿状血管腫の1例

著者: 榊原陽太郎 ,   田口芳雄 ,   内田一好

ページ範囲:P.287 - P.291

Ⅰ.はじめに

 海綿状血管腫とグリオーシスおよびヘモジデリンは周囲脳に対し病理学的影響を及ぼし,てんかん発作の発生源と成り得る1,2,4,5,14)

 われわれは拍動性頭痛で発症し幻視と同名半盲を訴えた患者を,不十分な検査のまま古典的片頭痛と診断し,スマトリプタンを投与したため症状の増悪を認め,後に精査の結果,海綿状血管腫を検出した1例を経験した.初期診断を誤った反省点も踏まえ,文献的考察を加え報告する.

金属製鈍的器物による経眼窩的穿通性脳損傷の1例

著者: 奥永知宏 ,   出雲剛 ,   吉岡努 ,   清水正 ,   山下弘巳 ,   横山博明

ページ範囲:P.293 - P.298

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内への穿通性損傷は経眼窩的あるいは経鼻的なものが多いが,頭部外傷の中で穿通性脳損傷は0.4%とされ10),比較的稀に発生する外傷である.

 経眼窩的穿通性脳損傷の創部はときに外観上軽微であることがあり,加えて無症状であれば脳損傷は見過ごされる可能性がある.一方で経眼窩的脳損傷はその診断および治療が遅れなければ比較的予後は良好であるとされ7),初期診療は重要である.

読者からの手紙

宮上光祐先生の「慢性硬膜下血腫に対する五苓散の有用性」の論文(37(8):765-770)について

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.299 - P.300

 1965年のある日,医局には数人の若手脳神経外科医が集まり,見知らぬ道に入り込んだような困惑した顔で,首を傾げていました.

 当時教室では155例の慢性硬膜下血腫を経験していましたが,その中で脳神経外科手術を嫌がり,軽度から中等度の症状を持ったまま自己退院して自宅に帰った患者が6名あり,私達は「血腫が増大して病状が悪化し,やがて6例とも死亡しただろう」と思っていました.そこでそれぞれの家族にその後の話を聞こうと,埼玉県や東京都内の実家を探して訪れましたが,どの実家でも予想外の事実に腰を抜かしてしまいました.6名の全員が退院後何も治療はせずに自宅で休んでいましたが,やがてすっかり元気を取り戻し,筋肉労働を含む慢性硬膜下血腫の発生以前の職に復帰し,その後肝炎で死亡した1人を除き皆毎日元気に働いていたのです.

中村 紀夫先生へのお返事

著者: 宮上光祐

ページ範囲:P.300 - P.301

Chronic subdural hematoma(CSDH)の自然治癒について

 臨床的にCSDHの自然治癒例の報告は,Bannwarth(1949年)以来,中村ら,平川ら,Naganumaら,Horikoshiら,Parlatoらなどいくつかの報告はありますが,CSDHに対し初期より無治療で経過をみた多数例の検討はほとんどみられません.また,われわれも2例のCSDH自然治癒例を経験していますが,多数例の無治療群の検討は行っていないので,自然治癒の頻度については不明です.

 われわれの経験した2例の自然治癒例も報告しておきます.

報告記

第6回日独脳神経外科学術会議報告記(2009年10月16日)

著者: 櫻田香 ,   嘉山孝正

ページ範囲:P.302 - P.302

 2009年10月16日,日本医科大学教授寺本明会長のもと,第68回日本脳神経外科学会学術総会と第6回日独脳神経外科学術会議が開催されました.日独脳神経外科学術会議は,1994年に高倉公朋教授,Fahlbusch教授が創設された会で,ドイツ・エルランゲンで第1回会議が開催されました.その後は日本とドイツで交互に開催され,今回が第6回目となります.日本医学の歴史を振り返ってみても,偉大な先人たちがドイツで勉学に励み大きな業績を残しましたが,脳神経外科領域においてもたくさんの脳神経外科医がドイツにて学び,日本の脳神経外科のレベルを引き上げ,近年では日独が手を取り合い世界の脳神経外科の発展に貢献しています.

 学術集会の演題は全部で26題あり,ドイツ側演者16名,日本側演者10名でした.発表は,悪性脳腫瘍の腫瘍幹細胞研究の最先端,脳血管障害,脊髄外科,外傷などからBrain Machine Interface(BMI)など未来につながる内容まで多岐にわたりました.多彩な分野の最先端の講演を1日で集中的に聴くことができ,非常に勉強になりました.脳神経外科学の奥深さにも改めて感動いたしました.また,発表された先生の他にも,ドイツにゆかりのある先生方が大勢出席され,ときにジョークを交え楽しい笑い声も聞かれる中で活発な討論がなされました.前回の第5回学術会議(2006年)はドイツ・エッセンでの開催でしたが,ドイツ脳神経外科学会総会の全演題の中に日本からの演題が入るという形で,学会のofficial languageがドイツ語だったためなかなかdiscussionをするのが困難でありました.

コラム:医事法の扉

第47回 「一般条項」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.303 - P.303

 医療行為の過失の有無は,通常,当該行為が当時の臨床医学の実践における医療水準に照らし,危険防止のために経験上必要とされる最善の注意義務を果たしていたかどうかで判断されます(「未熟児網膜症事件」,最高裁平成7年6月9日判決).この場合の「注意義務」とは,善管注意義務(民法644条)を指します.しかし,医療者が負担するのは注意義務だけではなく説明義務などもあり,それぞれの外延が不明,あるいは,法には直接規定がないケースもあり,このとき,「一般条項」が適用ないし補助的に使われることがあります.

 「一般条項」とは,法律行為の要件や権利行使の方法などを抽象的・一般的に定めた法規定をいいます.具体的には,民法1条2項「権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない」,同3項「権利の濫用は,これを許さない」,90条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする」,民事訴訟法2条「当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」などがあります.特に,民法1条2項と民事訴訟法2条は「信義誠実の原則」(略して「信義則」といいます),90条は「公序良俗の原則」としてそれぞれ原則化されています.

書評

『神経診断学を学ぶ人のために』―柴﨑 浩●著

著者: 田代邦雄

ページ範囲:P.272 - P.272

 神経学,神経内科学,神経症候学,神経生理学,神経病理学など,神経に関する書名のある教科書はわが国においても数多く出版されているが,「神経診断学」を冠するものとしては,本書の著者である柴﨑浩先生らがまとめられた「ダイナミック神経診断学」(柴﨑浩,田川皓一,湯浅龍彦 共編)とする分担執筆があるのみである.

 このたび,柴﨑浩先生(著)の単行本が世に出ることとなったことは画期的であり「神経診断学とは何か!」が語りかけられることとなった.本書の意図,特徴はその序に詳しく述べられており,その内のエッセンスの一部をそのまま引用すれば,“少し熟練した神経内科医であれば,典型的な疾患をもつ患者が診察室に入って来た場合,その瞬間にほとんど直感的に診断をつけられることが稀でない”,しかし“症候から種々の可能性を考慮に入れて病歴聴取と診察に当たり,理論的・系統的に考えて正しい診断に到達するのが妥当な方法である(序より一部引用)”という言葉に集約されると思われる.

『脳波判読に関する101章 第2版』―一條 貞雄,高橋 系一●著

著者: 越野好文

ページ範囲:P.285 - P.285

 1998年に,一條貞雄先生は臨床の現場で出会う脳波がどのような意味を持つのか,それをどう解釈するのかに重点を置いて書かれた『脳波判読に関する101章』を私たちに届けてくださった.長年にわたる臨床脳波判読のご経験から生まれた,臨床にすぐに役に立つ,実にわかりやすいご本であったが,このたび10年ぶりに改訂された.手にとってまず気がついたことは,初版も読みやすい本ではあったが,第2版は文字サイズの工夫と色刷りの活用で,さらに一段と見やすくなったことである.これまで脳波になじみのなかった人も興味をそそられることであろう.

 本書では脳波判読の基礎から臨床までが,豊富な,そして貴重な脳波図によって具体的に示されている.読者は脳波に親しみを覚えるに違いない.内容としては,脳波判読に関する解剖・神経生理,脳波の記録方法・賦活法・アーチファクト,正常・異常な脳波波形,小児・思春期および老年期の脳波,てんかんと関連した疾患および意識障害など各種疾患の脳波,薬物による脳波,睡眠脳波,さらに誘発電位・脳電位分布と脳磁図が取り上げられている.第2版では,新しい脳波図も加わり,さらに充実した.

『下垂体腫瘍のすべて』―寺本 明,長村 義之●編

著者: 森昌朋

ページ範囲:P.298 - P.298

 脳腫瘍患者ではその占拠性病巣のために,脳細胞障害による種々の脳機能低下が生来する.一方,下垂体腫瘍は脳腫瘍に属するが,下垂体には種々の内分泌ホルモン産生細胞が局在する特徴を有することより,下垂体腫瘍患者では下垂体由来のホルモン過剰分泌による下垂体機能亢進症を呈することが多い.また,逆に非機能性下垂体腫瘍の増大により下垂体に局在するホルモン産生細胞が圧迫障害され,下垂体機能低下症で発見される患者も存在する.下垂体細胞由来のホルモンとしてプロラクチン(PRL),ACTH,GH,LH,FSH,TSH,Oxytocin,ADHなどが挙げられ,下垂体から分泌されたこれらのホルモンは末梢血中に放出されて,全身に分布する標的臓器に達して生理作用を発揮する.また,これらの下垂体ホルモンは視床下部に存在する視床下部ホルモンによって,合成と分泌が制御されている.下垂体ホルモンのなかで生命維持に必要なホルモンはACTHとTSHであるが,他のホルモンも日常の恒常的機能維持には必須であり,下垂体ホルモン分泌の過剰や低下により種々の症状や臨床所見が生ずる.また,下垂体機能亢進症を惹起する最も頻度の高い腫瘍はPRL産生腫瘍である.剖検時に下垂体検索を行った報告によると,腫瘍径が1cm未満のmicroadenomaを含めた際のPRL腫瘍の女性での発見率は25%以上の頻度であるという報告がなされており,日常の一般臨床を行う上でも,下垂体疾患は大変身近な存在であると言える.

 さらに,わが国において最近,間脳下垂体腫瘍に基づく下垂体機能障害は特定疾患医療給付の対象疾患として認定された.このことは,下垂体疾患に悩む患者さんにとっては朗報であり,診療現場に携わる医師にとっては治療が行いやすくなった利点がある.一方,その反面医師は,下垂体疾患に関するupdateを常に把握して臨床にあたる責任も課せられている.

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編集後記

著者: 岡田芳和

ページ範囲:P.312 - P.312

 初めて本誌の編集後記を書かせていただきます.年明け早々に分厚い封筒でゲラ刷りの資料が送られてきました.

 甲村英二先生からの扉欄では新型インフルエンザを主題材とした日本人の反応,対応策,行動の特徴,古くはオイルショック時のパニック反応を世のリーダー,大衆,マスコミのトライアングルでとらえ,その中に問題解決の糸口がありそうな見解は一読,一案の開扉の言葉となっています.総説欄では師田信人先生から「痙縮に対する機能的脊髄後根切断術」,大槻泰介先生から「難治性てんかんに対する脳神経外科手術の歴史と今後の展望」と題した力作をいただきました.お2人のライフワークとしてこれらの疾患に対する取り組みと歴史的背景から新たな診断治療技術を駆使してQOLの改善を目指されているエネルギーを感じます.犬飼千景先生,森健太郎先生の研究論文,芝田純也先生,奥永知宏先生,榊原陽太郎先生,大城真也先生,木村重吉先生,柚木正敏先生の症例報告は,いずれも日々の診療に役立つ興味あふれる力作でぜひ一読をお願い致します.本誌で特に目を引いた中村紀夫先生の「読者からの手紙」に触れておきます.これは“慢性硬膜下血腫に対する五苓散の有用性”に関して先生のご研究から病態ならびに治療経過に関して詳細なご意見をいただいたものです.まず詳細に本誌の論文を一読いただき,かつ方法論,結果,考察に至るまでご意見をいただけたことに編集委員として御礼を申し上げます.多くの研究論文で最初に結果ありきの形で“…は有用であった”という論文にしばしば遭遇します.しかし自然経過を含め各疾患の臨床経過と治療効果など多くの点で厳密な検討が求められるようになっていることも事実です.Randomized controlled studyは臨床治療効果の検討法のgold standardではありますが,多くの臨床現場での研究においては困難が伴います.したがって,宮上光祐先生のお返事のようにCTなどの新たな手法を導入し経時的な変化の把握などからより質の高いデータを収集し,目的とされる結論を明らかにしてゆくことは日々の臨床では特に重要と思われます.

 掲載論文を熟読いただき,個々の意見を発信していただくことは編集者としては最も望ましい雑誌の姿であり,本誌の意義を再確認いたしました.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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