文献詳細
文献概要
扉
医療の最後の砦の現状
著者: 中瀬裕之1
所属機関: 1奈良県立医科大学脳神経外科
ページ範囲:P.501 - P.502
文献購入ページに移動米国は世界第1位の経済大国でありながら,先進国で唯一公的健康保険制度をもたない国である.一方,日本には国民皆保険制度があり,窓口での一部負担はあるが,健康保険証1枚あれば,いつでも,どこでも,誰でも,医療を受けることができる.この制度のおかげで,日本は今日の長寿社会を作り上げることができた.1993年にClinton health care planを掲げた当時のヒラリー・クリントン上院議員は,国民皆保険の導入を提言した.しかし,彼女は来日して日本の医療を観察し,「日本では医療従事者が聖職者さながらの自己犠牲で働いているから医療がもっている」と,米国での国民皆保険の導入を断念した.当時私は,「日本には医は仁術という心が残っている」とこの報道をうれしく聞いたが,最近ではいつまでも自己犠牲に頼っているだけでは成り立たないのではないかと思うようになった.ましてや,これからの若い人にそれを強いることは無理であろう.われわれ脳神経外科医は,その厳しい職務に見合うだけの社会的,経済的な評価を受けているであろうか.若い人に脳神経外科に入局してもらうためには,現在のスタッフの労働環境を改善しないといけない.スタッフの生き生きとした仕事ぶりをみて,学生は入局を希望するのである.まずは,一教室でできることから始めたい.
掲載誌情報