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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科38巻8号

2010年08月発行

雑誌目次

日本発世界へ―医療機器の開発

著者: 渡辺英寿

ページ範囲:P.693 - P.694

 先日脳神経外科手術と機器学会(CNTT)を主催させていただく機会を得,企画を進めてゆくうちに,わが国の先輩たちの医療機器の開発にかける熱い思いに接し,改めてわが国の機器開発についての今後をじっくり考えることができました.

 まずは私自身が関わってきた機器開発についてご紹介しつつ,医療技術開発にまつわる課題をお話しします.

総説

頭部爆傷の特徴

著者: 松本佳久 ,   波多野弁 ,   松下芳太郎 ,   苗代弘 ,   島克司

ページ範囲:P.695 - P.702

Ⅰ.は じ め に

 爆傷は,何らかの爆発に伴い発生する.近年は世界的にテロ攻撃に伴う爆発で民間人が負傷する例も目立つ.戦傷における爆傷の発生頻度も増加している.爆傷の中でも,頭部爆傷は傷害機序が未解明な部分が多い.本稿では,頭部爆傷の疫学,病態,治療,近年の基礎研究について概説し,頭部爆傷のもつ特徴や問題点について考察する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Orbitozygomatic approachにおける顔面神経損傷を防ぐための微小解剖

著者: 野口明男 ,   塩川芳昭 ,   Johnny B Delahaw

ページ範囲:P.703 - P.713

Ⅰ.は じ め に

 Orbitozygomatic approachは,cavernous sinusやparasellar,petroclival,middle fossaなどの病変に対して行われるが,その利点は古くから①look up:脳底部高位病変を下方から見上げることができる,②surgical view:広い進入口が得られる,③modified:subfrontalやsubtemporalなどのapproachを加えることができる,などと言われている7,17,19,20).この開頭方法については,過去さまざまなvariationが報告されているものの,基本的な皮切はほとんど変わりない1,4,6,8,9,14,17,20,25).ここで重要なのは,どのvariationを用いようとも通常の前頭側頭開頭に加え眼窩縁orbital rimや頬骨弓zygomatic archを露出させなければならないため,どうしても顔面神経facial nerveを損傷しやすい点にある.また最近less invasiveが流行になり,前方循環動脈瘤などに対しkey hole surgeryが広く行われるようになってきたが,これには顔面神経facial nerveほか正確な解剖学的熟知が必要である.これらのためには顔面神経facial nerveと側頭筋temporal muscle,またはそれに関わる脂肪層fat padなどの各組織層構造layers structureを理解することが重要であることは論をまたない.本稿では屍体解剖標本を用いてその実際を示し,さらにこれに加え他の論文も引用しながら説明したい.

研究

非心原性脳主幹動脈高度狭窄~閉塞例の急性期臨床経過―脳血流検査は予後予測に有効か?

著者: 穂刈正昭 ,   黒田敏 ,   安田宏 ,   岩﨑素之 ,   中山若樹 ,   岩﨑喜信 ,   阿部悟 ,   斉藤久壽

ページ範囲:P.715 - P.722

Ⅰ.は じ め に

 脳虚血領域の可逆性の閾値は,残存血流量と虚血持続時間に依存すると言われる9,11).一般に,心原性塞栓症では側副路の発達は悪く,血流は高度に低下するため,脳虚血領域の可逆性の閾値は虚血持続時間の影響が大きい.一方で,非心原性の閉塞性頚動脈疾患においては,側副路の発達程度により残存血流の程度はさまざまであり4,8),脳虚血領域の可逆性の閾値は残存血流量の影響が大きくなる.また,非心原性の閉塞性頚動脈疾患の症例の一部では,数時間から数日の経過で進行性に症状が悪化したり,症状の増悪と寛解を繰り返したりすることも,臨床の場ではしばしば経験する.これらの症例に対する残存血流量の初期評価は,急性期~亜急性期の治療方針や予後などにとって非常に重要と考えられるが1,2,14),急性期の脳血流評価に基づいた,臨床経過の詳細な報告はいまだに少ないのが現状である.

 今回,われわれは非心原性閉塞性頚動脈疾患の超急性期に脳血流量を評価し,積極的な内科的治療下における,脳梗塞の拡大の有無や神経症状の変化などとの関連を検討したので報告する.

家庭用永久磁石磁気治療器の磁場が圧可変式シャントバルブに与える影響

著者: 中嶋浩二 ,   大石敦宣 ,   糸川博 ,   藤本道生

ページ範囲:P.725 - P.729

Ⅰ.は じ め に

 現在,本邦の特発性正常圧水頭症診療ガイドラインでは,脳室─腹腔シャント手術のバルブとして,圧可変式バルブが推奨されている.そのため,水頭症治療におけるシャントシステムとして,圧可変式バルブが最も使用頻度の高いバルブである.利点としては,患者の状態に応じて,バルブ開放圧を経皮的に変更できることが挙げられる.一方,磁気を発する器具を用いてバルブの設定圧を変更するため,日常生活において,さまざまな磁場の影響を受け,圧設定の予期せぬ変化を来す危険を伴うことが欠点である.

 本邦では,多種多様な家庭用磁気治療器が市販されている.特に,径が10mm程度の小型の永久磁石を絆創膏で体表に貼り付けるタイプの磁気治療器が広く普及している.このような磁気治療器の説明書には,圧可変式バルブを使用している場合,誤作動を招く可能性があるため使用禁忌と記載されている.しかし,患者自身の認識不足でシャントバルブ近傍に磁気治療器を貼付する可能性や,磁気治療器を頚部,肩から上肢にかけて貼付した成人が,圧可変式バルブを埋め込まれた小児患者を抱きかかえる可能性もある.その場合,磁気治療器から発生する磁場によりバルブ開放圧設定が変化する恐れがある.本研究では磁気治療器と圧可変式バルブ間の安全な距離について検証を試みたので,文献的考察を加え報告する.

症例

頚動脈内膜剝離術後,過灌流症候群高リスクの内頚動脈狭窄症に対して,dexmedetomidineを用いて術後管理を行った2症例

著者: 末廣諭 ,   河野兼久 ,   井上明宏 ,   山下大介 ,   鄭菜里 ,   松重俊憲 ,   山口佳昭 ,   市川晴久 ,   河野啓二 ,   武智昭彦 ,   白石俊隆 ,   大田正博

ページ範囲:P.731 - P.738

Ⅰ.は じ め に

 頚部内頚動脈狭窄性病変の治療法には,頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)や頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)があり,その重要な術後合併症の1つとして過灌流症候群が報告されている7,8,13).現段階では過灌流症候群の診断,治療に関する明確な指針は存在していないが,一般的には過灌流症候群と判断された場合,プロポフォールを用いて挿管・呼吸管理下に鎮静を行い,厳重な血圧管理を行っている施設が多い2).今回,われわれは,CEA術後に脳血流検査で過灌流の所見を認めた高度内頚動脈狭窄症の2例を経験し,術後デクスメデトミジン(プレセデックスTM)を使用して鎮静,血圧管理を行うことで,気管内挿管を術後2日以内ですませ,重篤な合併症を起こすことなく良好な結果を得ることができたので報告する.

内頚動脈閉塞術にて治療した外傷性錐体部内頚動脈瘤の1例

著者: 佐々木尚 ,   堀恵美子 ,   坂井聡太郎 ,   冨子達史 ,   高田久

ページ範囲:P.739 - P.744

Ⅰ.は じ め に

 外傷性頭蓋内動脈瘤は非常に稀な疾患であり,全脳動脈瘤の0.15~0.4%といわれている4).この早期発見は困難であり,臨床所見や治療も囊状動脈瘤とは異なる.今回われわれは,重症頭部外傷により発症した錐体部の外傷性内頚動脈瘤の1例を経験した.また,併発した周囲の出血,外傷性髄液漏により動脈瘤の発見が遅れ,注意が必要と思われたため,文献的考察を加えて報告する.

錐体路近傍のAVM摘出術に対してneuronavigation systemが有効であった1例

著者: 種井隆文 ,   竹林成典 ,   西畑朋貴 ,   中原紀元 ,   若林俊彦

ページ範囲:P.745 - P.750

Ⅰ.は じ め に

 近年,腫瘍性病変の摘出術のみならず,脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)摘出術に対してもfunctional MRI(fMRI)やdiffusion tensor tractography(DTT)を併用したneuronavigationの有効性が報告されている.今回,錐体路近傍のAVM摘出術に対して,これらの技術を用いて後遺症なく病変摘出が可能であった1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

脳動静脈奇形の定位放射線治療後に発生した囊胞に対し囊胞─腹腔シャントを施行した1例

著者: 森廣雄介 ,   加藤祥一 ,   井本浩哉 ,   野村貞宏 ,   原田啓 ,   梶原浩司 ,   藤井正美 ,   藤澤博亮 ,   斎藤研一 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.751 - P.756

Ⅰ.は じ め に

 脳動静脈奇形に対する定位放射線治療は,外科手術,血管内治療とならび有効な治療法として知られている.しかし治療原理の違いから,定位放射線治療の合併症には放射線壊死や囊胞形成など,ほかの治療法にはない特殊な病態が含まれる.なかでも囊胞形成は定位放射線治療後に起こる合併症としてよく知られるようになってきたが,麻痺症状を呈する報告例は多くはない.

 今回われわれは脳動静脈奇形に対する2回の放射線治療後に発生した囊胞により神経症状を呈し,これに対してcystoperitoneal(C-P)シャント術が奏功した症例を経験したので報告する.

脳内出血と硬膜下血腫で発症した硬膜動静脈瘻の1例

著者: 北薗雅敏 ,   山根冠児 ,   豊田章宏 ,   沖田進司 ,   熊野潔 ,   橋本尚美

ページ範囲:P.757 - P.762

Ⅰ.は じ め に

 頭蓋内硬膜動静脈瘻は,これまでの報告ではすべての頭蓋内動静脈奇形病変のうち10~15%を占めるとされ19),50~60歳代の女性に優位に多く(全患者のうち61~66%)発症している1).Cognardら3)は硬膜動静脈瘻を導出静脈の流出部位と方向により7型に分類している(Table).硬膜動静脈瘻の中でも,導出静脈が皮質静脈に逆流するタイプ(Cognard分類typeⅡb~Ⅳ)は頭蓋内出血の危険性が高いとされ,死亡率は10.4%と高くなっている.この報告の中で,追跡期間中(平均4.3年)の頭蓋内出血と非出血性での臨床症状の発現は,それぞれ8.1%と6.9%とされ,合わせると年率15%でなんらかの臨床症状が発生している18).一般的には硬膜動静脈瘻の原因は後天性で,多くは静脈洞血栓症から側副血行による血管新生・増生により発生するとされるが,その他の原因として感染,外傷あるいは開頭術なども報告されている9,16)

 硬膜動静脈瘻に対する治療はこれまで外科療法が主体であったが,近年,血管内治療により治療面で進展がみられている.われわれは頭蓋内出血で発症したCognard分類のtypeⅣの硬膜動静脈瘻で頭蓋内出血で発症した症例を経験し,このtypeでは早期に再出血を来す可能性が高いことから7),発症より10日目で手術を行い良好な転帰を得たので報告する.

連載 臨床神経心理学入門

第3回 中毒性疾患と高次脳機能障害

著者: 高橋伸佳

ページ範囲:P.763 - P.767

Ⅰ.は じ め に

 大脳を障害する中毒性疾患には種々のものがあるが,高次脳機能障害を主徴とする疾患はそれほど多くはない.本稿では,頭頂葉を中心として比較的広範に大脳白質を障害し,視空間失認を呈する一酸化炭素中毒と,脳梁の障害によりさまざまな半球間離断症候を呈するMarchiafava-Bignami病の2つをとりあげる.

海外留学記

Department of Neurological Surgery, Mayo Clinic

著者: 田中將太

ページ範囲:P.769 - P.772

 私は,2007年9月よりMinnesota州RochesterにあるMayo Clinicに,脳神経外科のクリニカルフェローとして留学しております.今回留学記をというお話をいただきましたので,全米一の規模を誇るMayo Clinicにおける臨床の様子を少しご紹介します.

コラム:医事法の扉

第52回 「破裂脳動脈瘤」

著者: 福永篤志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.773 - P.773

 破裂脳動脈瘤は,手術のタイミングの問題や,再破裂,脳血管攣縮,水頭症などの合併症を伴うという複雑な臨床経過をたどる特徴があるため,未破裂脳動脈瘤とは異なった法的紛争がしばしば起こります.「手術・検査手技の過失」が最も多い争点ですが,原告の主張の全部または一部が裁判所に認められた割合(認容率)は17%と比較的低くなっています2).これは,手術・検査手技の専門性と閉鎖性,合併症との鑑別などから,原告側にとって過失を証明することが困難であるためと考えられます1)

 手術手技の過失を認定したうえで,後遺障害との因果関係が問題となった最近の判例があります.

書評

『脊椎腫瘍の手術[DVD付]』―富田 勝郎●監修,川原 範夫●編

著者: 戸山芳昭

ページ範囲:P.756 - P.756

 金沢大学整形外科主任教授をこの3月末に退官された富田勝郎先生が,在任中に取り組んでこられた先生の業績の集大成とも言うべき書「脊椎腫瘍の手術」が医学書院よりこの度発刊された.本書の序文にも書かれているように,この書は正に金沢大学整形外科,富田先生をリーダーとした一門が一つの目的に向かって脊椎腫瘍,特に転移癌と戦ってきた実録であり,手引き書,参考書である.教室の脊椎外科グループと骨腫瘍グループが一体となって基礎から臨床へと進め,実際の手術として世に送り出した術式であり,正真正銘の世界に発信すべき脊椎腫瘍手術書である.従来は全く手がつけられず,対症的治療を余儀なくされてきた転移性脊椎腫瘍,痛みに耐えられずに苦しみ,またまひのために寝たきりとなっていた患者さんへ,金沢大学富田チームが一つの光を差し入れた業績は見事という以外,言葉はない.痛みから解放し,まひも救え,生命予後をも大きく改善させ得る「total en bloc spondylectomy(TES)=腫瘍脊椎骨全摘術」の開発は称賛に値する.思い起こせば十数年前であったか,私がアメリカ整形外科学会(AAOS)に出席した折,確か富田先生の本手術に関する講演が行われていた.その会場の最後列で私もそっと先生の講演を拝聴していたが,講演終了後に満席の会場でいわゆる“standing ovation”により,しばらく拍手が鳴り止まず鳥肌の立つ想いで見ていたことが昨日のように感じられる.私にはその時の素晴らしい光景が今でも鮮明に焼き付いており,自分もいつか先生のように…と感じたことを思い出す.

文献抄録

Transvenous embolization of dural carotid cavernous fistulas: a series of 44 consecutive patients

著者: 高田能行

ページ範囲:P.775 - P.775

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編集後記

著者: 佐々木富男

ページ範囲:P.782 - P.782

 本号には,私の個人的興味をひく論文が数編掲載されており興味深く拝読した.扉に掲載された「日本発世界へ─医療機器の開発」は,渡辺英寿先生の数々の苦労と,その苦労が報われた喜びが素直に表現されており,渡辺先生に敬意を表したい.総説「頭部爆傷の特徴」は,大変勉強になった.国際的テロ攻撃のみならず繁華街の飲食店などでの爆発など,私はニュースで見聞きするだけで幸い遭遇することはなかったが,一般的知識は備えておかなければならず,その点で大いに役立った.ピップエレキバンの磁場が圧可変式シャントバルブに与える影響について検討した中嶋浩二先生の論文も興味をひかれた.まず,着眼点とその発想に驚かされた.結論は,圧可変部直上に磁石が位置する場合を除いて,バルブ開放圧設定に影響を及ぼす可能性は極めて低いというもので一安心した.連載「臨床神経心理学入門」第3回の「中毒性疾患と高次脳機能障害」も,曖昧となっている知識の整理に役立つものであった.海外留学記は,東京大学の後輩(サッカー部の後輩でもある)が書いたものであり,元気にやっているのかどうか心配しつつ読ませてもらったが,世界で活躍することを目標に頑張っている様子がうかがえ,安堵するとともにその若さを羨ましく思った.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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