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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科39巻3号

2011年03月発行

雑誌目次

世阿弥の「稽古哲学」に学ぶ脳神経外科学の訓練

著者: 橋本卓雄

ページ範囲:P.227 - P.228

 近代脳神経外科学の歴史は,医学の中ではまだ浅い分野である.しかしわが国の脳神経外科専門医制度は麻酔科に続いて2番目に専門医制度が確立しており,最も厳しい,qualityの高い専門性を求めてきた.必要な知識・技術を身につけ,将来的にはsubspecialtyをもち,指導的立場に立つ優れた専門医を養成することを目標にしている.2011年からはA項,C項が廃止され,「病院群研修プログラム」の基幹施設,研修病院,関連施設で訓練することになる.しかし重要なことは,単に知識・技術を身に付けるだけでなく,いかに精神面で人格を涵養し,社会のニーズに応えながら次世代に継承していくかであろう.

 日本の伝統的な芸能である能は,観阿弥,世阿弥の時代から現在まで600年以上にわたり脈々と続いている.世阿弥が書き残した,『風姿花伝』,『花鏡』,『伝書』には「いかにして伝統芸能が生き残るか」「どのように伝統を守り,代を重ね,代を乗り越え知と技を蓄積していくか」の厳しい心構えが書かれている.これらの書物は後継者向けのマニュアルではなく,すでに芸を完成したプロフェッショナルの人間に問いかけているように思える.最近,西平直著『世阿弥の稽古哲学』(東京大学出版会,2009年刊)を読んだ.教育学の立場から世阿弥の言葉を見直しているが,能にまったくの「目利かず」の私にも,あらためて脳神経外科の訓練が『世阿弥の稽古哲学』に学ぶ多くの点があることに気づいた.

総説

小児虐待の頭部画像診断

著者: 相田典子

ページ範囲:P.229 - P.242

Ⅰ.はじめに─小児虐待の診断の特殊性─

 小児虐待による頭部損傷は致死率も後遺症の頻度も高く,大きな社会問題であるとともに,われわれ医療者にとって診療上も,子どもの保護という点でも重要である.しかしながら,医学生の時代から習ってきた臨床医学の診断プロセスである「まず問診をして,理学的診察をし,異常部位や鑑別疾患を考慮したのちに,それに沿って画像診断を行う」という方法では小児虐待の診断をつけることができないことが多い.なぜなら,この王道の診断プロセスは患者あるいは代わりに状況を説明する保護責任者は医師・看護師などの医療者に対し嘘をつかないという患者─医師間の信頼関係に基づいているからである.考えてみていただきたい.虐待を行った保護責任者がその子を病院に連れてくる場合に「私がいついつこのように虐待して具合が悪くなりました」と最初から正直に話すことがあるであろうか? ある英文の小児画像診断の教科書によると小児虐待はそのほとんどが6歳以下に起こり半数以上は1歳以下に起こると記載されている16).つまり半数以上は自分でほとんど言葉を話せず,ほとんどの被虐待児が状況を的確に説明できるとは考えられないのであり,たとえ話せる年齢であっても初対面の医療者に親の行為を伝えることはまずないのが現実である.つまり,問診で正しい病歴が得られることはほとんどないのであり,どんなに善良そうに見える両親であろうとも,けがをした子どもを見たわれわれ医療者が「少しでも虐待の可能性はないだろうか?」と毎回疑わない限り小児虐待の発見は前進しないのである.また,医師は児童福祉法25条により,被虐待児(疑いを含む)を診療した場合には児童相談所に通告する義務がある.疑いがあれば通告しなければならないのであり,虐待でない可能性があるからという理由で通告しないのは厳密には違法なのである.

 画像診断は客観的であり,虐待診断の契機にも証拠にもなり得るとともに虐待以外の鑑別疾患を診断するためにも有用である1).前述の教科書では被虐待児の2/3は放射線学的に何らかの有所見をもつとも書かれており,正確な病歴を得ることがほとんど不可能な小児虐待の診断における画像診断の意義は大きい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

延髄の血管芽腫の手術

著者: 斉藤延人 ,   越智崇

ページ範囲:P.245 - P.254

Ⅰ.はじめに

 血管芽腫(hemangioblastoma)はWHO grade 1の良性の腫瘍である.通常は小脳に発生する腫瘍だが,脳幹や脊髄にも発生し,脳幹では延髄のものが多い.脳幹に発生した場合の症状は,感覚鈍麻,歩行障害,嚥下困難,反射亢進,小脳症状などである.遺伝性のvon Hippel-Lindau病はVHLの遺伝子異常が原因で,中枢神経系の血管芽腫に網膜血管芽腫,腎細胞癌,褐色細胞腫,膵囊胞などを合併し,病変が多発することがある.

 画像検査では腫瘍がよく造影されるのが特徴的である.また,囊胞を伴うことが多く,腫瘍本体は壁在結節として認められる.単純CTで血管芽腫の実質部分は等吸収域,囊胞部分は低吸収域である.造影剤で強く造影される.MRIで腫瘍実質部分はT1強調画像で等~低信号,T2強調画像で等~高信号である.やはり造影剤で均一に強く造影される.囊胞部分はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号である.栄養血管や流出静脈がflow voidとして認められることも多い.脳血管撮影では強い腫瘍濃染像を認めるのが特徴的である.

 治療は外科的摘出が第一選択である21).壁在結節のみを摘出すればよく,囊胞部分は切除しなくてよい.この腫瘍は血流が豊富で腫瘍内に切り込むと出血が多くなりがちである.延髄というクリティカルな部位では周囲の脳幹へのダメージを最小限に抑える必要があり,手術摘出は必ずしも容易ではない.本稿では,まず延髄の解剖を概説し,延髄血管芽腫の手術戦略について解説する.

研究

Probabilistic diffusion tensor tractographyを用いた腫瘍性病変による圧迫三叉神経描出の試み

著者: 石田剛 ,   大石誠 ,   福多真史 ,   佐藤光弥 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.255 - P.262

Ⅰ.はじめに

 頭蓋底部の腫瘍性病変の手術治療において,腫瘍に圧迫された脳神経の走行が確認できれば手術アプローチの決定や術中の神経損傷の回避に有用である.脳槽内正常脳神経の描出に関してはMRIの解像度と撮像法の進歩,とりわけconstructive interference in steady state(CISS)に代表されるHeavy T2強調画像の応用により飛躍的に向上し,腫瘍性病変に圧迫された脳神経の描出に対してもさまざまな取り組みがなされているが9,20),現状ではまだ十分とは言えない.近年拡散強調画像における拡散テンソル解析によるdiffusion tensor imaging(DTI)が発展し,特にfiber tracking tractography(FTT)による大脳白質線維の描出は,錐体路を中心に脳腫瘍などの術前評価法として臨床現場でも汎用され1,2,11,13,15,18),脳神経の描出においても期待されるところである.しかし髄液の流れや空気によるアーチファクトが無視できない頭蓋底部において細かな脳神経を対象とするには通常の撮像や解析では難しく,今までもいくつかの工夫が試みられてきた12,14).今回われわれはFTTと異なるDTI解析法の1つであるprobabilistic diffusion tractography(PDT)により腫瘍性病変に圧迫された頭蓋内三叉神経の術前評価を試み,術中所見との整合性を検討したので,その経験につき報告する.

Basal interhemispheric approachによる前交通動脈瘤クリッピング術での髄液漏および嗅覚障害

著者: 中山博文 ,   石川達哉 ,   山下真吾 ,   福井一生 ,   武藤達士 ,   引地堅太郎 ,   吉岡正太郎 ,   河合秀哉 ,   玉川紀之 ,   師井淳太 ,   鈴木明文 ,   安井信之

ページ範囲:P.263 - P.268

Ⅰ.はじめに

 当施設の安井により考案されたbasal interhemispheric approach(BIH)18)は,前頭蓋底病変ならびに視交叉近傍正中病変へのアプローチとして優れた手術方法で,前交通動脈瘤手術を中心に汎用されている.BIHでは開頭時に前頭洞が開放されるため,理論的に術後髄液漏と頭蓋内感染症の発生のリスクを伴う.また同時にアプローチの途中に出現する嗅神経の損傷による術後の嗅覚障害(anosmia)の危険もあり,これらの合併症は治療予後や術後のADLの悪化に直結する.

 前頭蓋底の腫瘍性病変では,腫瘍自体の浸潤などによる髄液漏や嗅神経障害の要素も加味される.今回,純粋にBIHのアプローチによる合併症の頻度を調べるため,前交通動脈瘤への根治手術例での上記合併症の発生頻度を調べ,治療成績や問題点につき考察した.

書評

『しびれ,痛みの外来Q&A―脊椎脊髄外来の疑問に答える―』--井須 豊彦(釧路労災病院脳神経外科部長)●編著

著者: 阿部俊昭

ページ範囲:P.262 - P.262

 昨今の国会答弁を拝聴していると,前置きがやたらと長く,いつになったら質問に対する答えや結論に到達するのかわからず,いらいらすることがしばしばあります.何となく国民は政治家にはぐらかされている感じが拭いきれません.われわれ医師たるものは患者さんからの質問をはぐらかしてはなりません.井須豊彦先生はこのことを肝に銘じてこの本「しびれ,痛みの外来Q&A─脊椎脊髄外来の疑問に答える─」を編集したものと思います.先生はこれまでも脊椎脊髄外科医としての手術技量に関しては定評がありますが,それだけではなく患者さん一人一人の話をよく聴き,親身になって治療している姿勢がこの本から垣間みることができます.患者さんからの質問は1.症状ならびに病気に関すること.2.検査ならびに診断に関すること.3.診療に関すること.4.治療に関すること.5.手術後の経過に関しての5章に分かれ,合計で47の質問が設定されています.これらの質問に対して,真っ向から立ち向かい,まず結論ありき,次いでその説明,さらに説明に至った学問的背景が述べられています.したがってしびれ,痛みを担当する総合診療医から脊髄専門医まで,幅広い読者層に対応できる本となっています.

『《脳とソシアル》ノンバーバルコミュニケーションと脳─自己と他者をつなぐもの』--岩田 誠,河村 満●編

著者: 津本忠治

ページ範囲:P.292 - P.292

 のっけから個人的な話であるが,小生,朝起きて真っ先にすることは,以前はテレビのスイッチを入れることだったが,最近はまず電子メールを見ることとなっている.また,世の中では,すぐ隣の部屋の同僚に用件を伝えるのにドアを開けて顔を見ずに電子メールを使う人が多いという.

 ことほどさように高度情報化時代では,人と人とのコミュニケーションは主に言語,特に文字情報によって行われるようになった.しかし,日本語でも「顔色をうかがう」,「顔が広い」,「目顔で知らす」等々多くの言い回しがあるように,表情,アイコンタクト,身ぶりなどはコミュニケーションの重要な手段である.その重要性は,大脳皮質の中でも顔や視線に関与する領域の広さからも推測されよう.

症例

医原性椎骨動静脈瘻に対して外科治療が奏功した2例

著者: 石黒太一 ,   川島明次 ,   米山琢 ,   山口浩司 ,   川俣貴一 ,   岡田芳和

ページ範囲:P.269 - P.274

Ⅰ.はじめに

 椎骨動静脈瘻は頭蓋外の椎骨動脈とその周囲の静脈や静脈叢との間に生ずる動静脈瘻である.頻度は比較的稀であり,成因としては,特発性の他に外傷性,動脈硬化,血管炎,放射線などがある6,12).このうち最も多いのは医原性を含む外傷性(60%)であり,頚静脈への中心静脈カテーテル挿入時の椎骨動脈誤穿刺はよく知られた原因である2,9).治療に関して,近年は血管内治療が優先的に選択される傾向にあり,直達手術の報告例は少ない2,5).血管内治療は有効ではあるが,根治性や合併症など問題点も少なからず存在する.今回われわれは低位病変の医原性椎骨動静脈瘻に対して外科治療を行った2症例を呈示し,文献的検討を含めて報告する.

rt-PA投与後,一過性に症状増悪を認めた虚血発症中大脳動脈解離の1例

著者: 矢木亮吉 ,   杉江亮 ,   小畑仁司

ページ範囲:P.275 - P.279

Ⅰ.はじめに

 2005年10月よりわが国でも発症3時間以内の超急性期脳梗塞における遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(rt-PA)が保険認可され,治療効果と合併症に関する知見が集積されつつある13).しかし,虚血発症の脳動脈解離性病変に対するrt-PA投与の是非については一定の見解がない.われわれは,脳動脈解離による脳虚血との診断を得ることなくrt-PA静注療法を施行し,症状の緩解増悪を来した中大脳動脈解離の1例を経験したので,文献的考察を含め報告する.

脳動脈瘤の血流動態解析後にクリッピングを行った破裂中大脳動脈瘤の1例

著者: 川口奉洋 ,   金森政之 ,   高沢弘樹 ,   面高俊介 ,   米澤慎悟 ,   前田紀子 ,   佐藤兼也 ,   緑川宏 ,   佐々木達也 ,   西嶌美知春

ページ範囲:P.281 - P.286

Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は脳神経外科救急疾患の1つであり,現在の医療水準でも予後不良例も多い2).その死亡率は10~67%と報告されており,発症後の再破裂はさらに予後を悪化させる9,17).そのため,重症でない例(Hunt & Kosnik分類GradeⅠ~Ⅲ)では,年齢,全身合併症,治療難度などの制約がない限り,早期(発症72時間以内)に再破裂予防処置を行うことが勧められている3,9,10,15,16)

 破裂脳動脈瘤に対する手術において,術前に破裂点を予測することは安全に手術を行う上で有用である4).これまで,脳動脈瘤における破裂点の検討は,blebの存在や親血管との角度など,形態学的および解剖学的情報をもとに予測されてきた.一方で,脳動脈瘤は常に血行力学的ストレスにさらされており,これらが血管壁に生理的作用を起こしていることは想像に難くない.そのため近年,血行力学的因子と動脈瘤破裂との関連性が注目されている.

 血行力学的因子は剪断応力(wall shear stress:WSS)や壁圧,流線に代表され,なかでもWSSは血管壁面に沿って流れる粘稠な血液によって発生する摩擦力であり6),脳動脈瘤の形成や既存の脳動脈瘤の破裂・増大に関与すると考えられている4,6,14).しかしながら,動脈瘤破裂には高いWSSの関与と4),低いWSSの関与の報告があり14),未だ議論のさなかである.最近では剪断応力の心拍に伴う変動幅(振動剪断指数,oscillatory shear index:OSI)と動脈瘤破裂の関連も報告されている7,8)

 これまでの血流動態解析の多くは,未破裂脳動脈瘤を中心に行われてきた.血流情報の収集は脳血管造影検査により行われ,また得られたデータを解析するために特殊な技術と経験を要し,解析自体に時間を必要とした.そのため,突然発症し緊急で外科治療を要するくも膜下出血患者の術前精査として施行し難かった.

 今回われわれは,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者に対して,発症後術直前にMRIを用いた脳動脈瘤の血流動態解析を行い,術中所見と直接比較検討し得た1例を経験したので報告する.

上矢状静脈洞前半部の閉塞により出血性梗塞を来したハンマーによる頭蓋骨陥没骨折の1例

著者: 中川敦寛 ,   刈部博 ,   小沼武英 ,   平野孝幸 ,   亀山元信 ,   石井清

ページ範囲:P.287 - P.292

Ⅰ.はじめに

 重症頭部外傷治療のガイドラインでは,閉鎖性,開放性いずれも陥没骨片による静脈洞圧迫に起因する静脈灌流障害が存在する場合,あるいは1cm以上の陥没や高度の脳挫滅の存在がある場合は手術の適応を考慮すること,としている9).しかし,頭蓋骨陥没骨折による静脈洞の損傷・閉塞は稀であり,治療方針の決定は必ずしも容易ではない.特にsuperior sagittal sinus(SSS)上の頭蓋骨陥没骨折では,静脈洞から大量出血を来す可能性があることから,保存的治療を選択したとする報告が多いものの,止血が得られない場合,あるいは静脈洞閉塞による頭蓋内圧亢進や重篤な神経症状を呈する場合は緊急手術を要する11).また,中1/3から後1/3の部分にかけてのSSSの圧迫閉塞は急性期以後も頭蓋内圧亢進を生じ得ることから注意を要する3,7,13).今回,ハンマー殴打による頭蓋骨陥没骨折が原因でSSS前1/3の圧迫閉塞と静脈圧亢進によると思われる遅発性の出血性梗塞を呈した症例を経験した.前1/3の圧迫閉塞においても厳重な経過観察を要することが示唆されたため,神経放射線学的所見,病態,治療について若干の考察を加えて報告する.

連載 先天奇形シリーズ

(4)二分頭蓋

著者: 五味玲

ページ範囲:P.295 - P.304

Ⅰ.疾患の概説

1.発生と病態

 二分頭蓋は神経管の頭側の閉鎖不全症であり,二分脊椎と同様に開放性と潜在性に分類することができるが,開放性二分脊椎(脊髄髄膜瘤・脊椎披裂)に相当するものは,皮膚や頭蓋骨の欠損を伴って脳が露出した状態であり,無脳症に相当する20)

 一方,潜在性二分頭蓋は一般に「脳瘤」と呼ばれ,頭蓋骨と硬膜の欠損部に頭蓋内容物の突出を伴う病態である.これは神経管の閉鎖不全ではなく,神経管閉鎖後,神経管の背側の何らかの欠損に加え間脳組織の発達障害・形成不全によって瘤が発生し,頭蓋内容物が頭蓋外へ脱出することが原因と考えられている23).また,前頭・篩骨部と頭蓋底脳瘤では,局所的な頭蓋底骨の発生の障害が原因とも考えられている23)

脳神経外科保険診療の展望・3

PMDAの役割と今後の展望

著者: 近藤達也

ページ範囲:P.307 - P.315

Ⅰ.はじめに

 本稿では,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)の役割と今後の展望について概説する.

 まず,自身の紹介をさせていただきたい.私の大学卒業当時,まさに現在と同じく社会の変革期であった.社会が大きな問題点を抱え,医療や医局のあり方についても多くの議論がなされていた.このような時代背景の中,脳神経外科の医師として,専門医であるとともに,救急や臨床研究,さらに基礎研究と2足,3足のわらじを履くがごとくさまざまな職を務めた.その後,海外留学の機会を得て,先進国における医学のあり方,研究所のあり方に触れたことで,大学以外の機関でも研究はできると考えるようになり,国立病院医療センターに勤務した.国立病院医療センターでは当時,国際協力が大きなテーマとなっていたため,国際協力として開発途上国に赴くこととなり,結果的に各国の状況を見る機会を得た.その後,国立国際医療センター病院長を経て,2008年4月にPMDAの理事長に就任,現在に至る.

 昔から複雑,混乱した状況を論理的かつわかりやすく解決し,さらに創造にもつなげるといったことに非常に関心が高い性格である.その一方,社会的な正義はやはり重要であると考え,公平感を保つように工夫をしてきた.今後も,これまでの医師の経験を活かしつつ,PMDAにおいて孤独を怖れず,筋を通したことを行っていきたいと考えている.

報告記

Japan-Asia Friendship Conference報告記(2010年10月25日)

著者: 本郷一博

ページ範囲:P.316 - P.317

 2010年10月25日(月),日本脳神経外科学会第69回学術総会に先立ち,福岡のヒルトン福岡シーホークにて,佐々木富男会長のもとJapan-Asia Friendship Conferenceが,日本とアジア諸国の脳神経外科医の学術的交流および文化的交流を目的として開催された.福岡は東南アジアにとても近く,特に韓国とは以前から学術的な交流が盛んであったとうかがっている.学術総会に先立ち,このようなカンファレンスを企画されたのは,佐々木会長らしい素晴らしいアイデアと敬意を表したい.

 本会では100名近い参加者があり,25題の発表および熱気あふれるディスカッションが行われた.アジア諸国からは,Dae-Hee Han(韓国),Jizong Zhao(中国),Man-Bin Yim(韓国),Yong-Kwang Tu(台湾),Suresh Nair(インド)先生をはじめ,30名ほどが参加された.日本で勉強している留学生の姿も何名もみられた.日本国内からは,端和夫,太田富雄,児玉南海雄,河瀬斌先生らが参加され,大畑建治,村山雄一,川原信隆,金彪,冨永悌二先生とともに私も発表の機会を与えていただいた.講演の内容は,脳血管障害,頭蓋底外科,脳腫瘍,脊髄,機能脳神経外科,脳血管内治療など広い範囲がカバーされていた.

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欧文目次

ページ範囲:P.225 - P.225

ご案内 第45回日本てんかん学会(新潟)開催のお知らせ

ページ範囲:P.274 - P.274

会   期 2011年10月6日(木)~7日(金)

10月5日(水):プレコングレス・イブニングセミナー

10月8日(土):第6回てんかん学研修セミナー,市民公開講座

会   場 朱鷺メッセ:新潟コンベンションセンター

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.279 - P.279

お知らせ

ページ範囲:P.286 - P.286

お知らせ

ページ範囲:P.317 - P.317

文献抄録 Treatment of pituitary neoplasms with temozolomide: a review

著者: 種村衣里子

ページ範囲:P.319 - P.319

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.320 - P.320

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.321 - P.322

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.323 - P.323

次号予告

ページ範囲:P.325 - P.325

編集後記

著者: 宮本享

ページ範囲:P.326 - P.326

 本号も力のこもった多くの原稿をいただいた.斉藤延人先生の「延髄の血管芽腫の手術」は実際に役立つようなわかりやすい記載となっている.連載の先天奇形シリーズでは五味玲先生が主な最近の話題もふくめて脳瘤について解説されている.「扉」では橋本卓雄先生が世阿弥のことばを引用しながら,脳神経外科医の自己鍛錬の要とでもいえる哲学を紹介されている.脳神経外科医の育成には,本人の素質・無心の懸命さ・指導者の3因子が大切と述べておられる.3つの因子の中で指導者が最後の因子としてそっと付け加えられているところが絶妙である.教育といえば,なぜかいつも教える側すなわち「教」が注目され,評価までされ教育プログラムが見直される.一方でわが国では「育」すなわち本人が伸びるのをサポートすることについては苦手なようである.幼少時より効率良く情報を詰め込まれて成人し,教えられることに慣れていて自ら学ぶ力が足りない若者がしばしばいる.教え込むとその分スタート地点は高いかもしれないが,自分で考える姿勢が足りないと新しいものは創れず,結局到達点は低くなる.それでは教育の逆効果である.人間相手の医療は教育システムを整備すれば事足りるほど甘くはなく,医学教育は大切であるが万能ではない.われわれは自分で考えて学んでゆく脳神経外科医を育まねばならない.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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