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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科39巻4号

2011年04月発行

雑誌目次

マイシューズのすゝめ

著者: 秋山恭彦

ページ範囲:P.329 - P.330

 2011年度からいよいよ全国の大学医学部で,医学部学生の定員が増えることとなった.各大学の医学部キャンパスには医学生の活気があふれ,そして10年後には医師数も増加する.医療政策の変化によって,脳神経外科医のライフスタイルは今後どのように変わっていくだろうか.過去の歴史に分け入るつもりはないが,医学部定員は1981年度の8,280人をピークに,「将来の医師需給に関する検討委員会」などの政策によって減らされていき,2007年には7,625名まで減ることとなった.しかし同年の緊急医師確保対策,そして2008,09年度の経済財政改革基本方針などによって再び医学部定員増加の方向に転じ,近年の「産科,小児科医不足」「外科医不足」「地域医療崩壊」のキーワードに煽られるようにして,一気に2010年度入試から大幅増に振れ,定員数は8,846名となった.今後10年間の2019年度入試まではこの定員増を維持する方針となっている.前述の3キーワードは,2004年4月の国立大学独立法人化と新臨床研修制度が原因となった.今後願わくは,医学教育システムについては安易な政策転換がないことを期待する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頚椎神経根症の手術手技

著者: 原政人 ,   西村由介

ページ範囲:P.331 - P.343

Ⅰ.はじめに

 頚椎神経根症の手術をするにあたって念頭に置かなければならないこととして,神経根症状を発症した多くの症例で経時的に症状が軽快することである.頚椎神経根症に対し,投薬すら行わずに自然経過を観察したという報告(本当の意味でのnatural history)は,これまでにはみられないが2),腰椎神経根症同様,約8割の症例で症状が消失もしくはほぼ消失するとの報告は散見される17).したがって,神経根症の治療では,以下のことを念頭に置くべきである.急性期と言われる1カ月間は少なくとも保存的治療(薬物療法,装具療法など)を行うことが勧められる.例外として,筋力低下が著しい場合や,痛みが重度で日常生活がまったく成り立たない場合は手術を勧めて間違いないと考える.一般的に手術治療を考慮するのは,亜急性期と言われる1カ月から3カ月の間である.慢性期である3カ月を超えてなお神経症状を認める場合には手術治療を勧める.手術を勧めるにあたっては,神経学的高位診断と画像所見が一致し,手術によって神経症状の改善もしくは消失の可能性が極めて高くなければならない.

研究

痙縮に対するITB(intrathecal baclofen)療法でのbaclofen至適投与量の検討

著者: 輪島大介 ,   平林秀裕 ,   西村文彦 ,   本山靖 ,   中瀬裕之

ページ範囲:P.345 - P.350

Ⅰ.はじめに

 痙縮は錐体路障害に伴い生じることが多く,筋の伸張速度に依存した伸張反射の亢進状態と解釈され,関節を他動的に速く動かそうとすればするほど伸張された筋の収縮抵抗が増す状態(相動性伸張反射亢進状態)である.その原因疾患は,脊髄損傷,脳性麻痺,頭部外傷,脳血管障害,遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia:HSP)など多岐にわたる.さらに痙縮は,重症化すると拘縮や締め付け感や呼吸・睡眠の障害の原因となり,看護やリハビリテーションの妨げとなるので,患者の自立度を高め,介護者の負担軽減のためにも治療する必要がある8,17,18).治療としてはbaclofenの経口投与が行われてきたが,眠気などの副作用により十分な投与が困難で,重篤な痙縮には有効ではなかった.1980年代にPennらが,baclofen持続髄注(intrathecal baclofen:ITB)療法の有功性を示した14,15).しかしながら,症例によっては痙縮を改善したことで,逆に支持性が悪くなり,歩容が悪化する場合もある.これは薬剤の過量投与が原因とも考えられるが,各疾患におけるITB療法の至適baclofen投与量に関しては不明な点も多い.そこでわれわれは,自験16例で,病態ごとの至適baclofen投与量に関して検討したので報告する.

テクニカル・ノート

頭蓋形成術後感染症例に対する自家頭蓋骨およびチタンメッシュプレートを併用した頭蓋形成術

著者: 鴨嶋雄大 ,   澤村豊 ,   川嶋邦弘 ,   長内俊也 ,   柏崎大奈 ,   山内朋裕 ,   寳金清博

ページ範囲:P.351 - P.358

Ⅰ.はじめに

 頭蓋形成術は多くの脳神経外科医にとって日常数多く経験する手術法であるが,形成方法(形成素材,固定方法)も日々変化しており,個々の症例に対する適切な手術法の選択は悩ましい問題の1つである.頭蓋骨欠損部位を補塡する素材として大きく開頭術後保存骨を含む自家骨 (autologous bone)と人工骨(alloplastic materials)に分けられるが,人工骨は容易な形成能,強度,緊急時における易準備性,広範なカバー範囲などその優れた特性からこれまで多くの脳神経外科医に用いられてきた.頭蓋形成に用いられてきた主な人工骨素材としてアクリル樹脂,ハイドロキシアパタイト,チタンプレートなどが挙げられる12,17,18).加えて最近では生体内でハイドロキシアパタイトに変化するリン酸カルシウム骨ペーストが開発され,その良好な組織親和性と術中の自由度の高い成型性から頭蓋顎顔面外科領域でも使用されてきている23).しかし人工骨の使用はときとして術後感染の併発,骨移植部位における局所液貯留の出現など自家骨と比べ問題となることも多い.人工骨に伴う感染のリスクに関しては人工骨素材だけではなく,頭蓋形成施行時期が重要な要因であるという意見もあるが11),1度感染を起こした場合,人工骨は表面にバイオフィルムを形成し,抗生物質治療に抵抗性を生じるため感染治癒には多くの場合移植人工骨自体の除去が必要となる.このため感染既往患者,感染ハイリスク患者に対するインプラントとして人工骨を第一選択として使用することは難しい10).自家骨はこれら感染既往の症例や,複数回の手術既往による低血流部位などに使用されてきたが,骨採取のため新たな切開が必要なことや,肋骨(rib)24),腸骨(iliac crest)を用いる場合,採取方法,採取骨サイズ,採取骨形状,骨採取に伴う術後合併症など人工骨使用に比べ脳神経外科医を悩ます要因は多い.一方,自家頭蓋骨を移植骨とした場合,レシピエント側同様に膜性骨であること,優れた骨形状かつ十分な採取骨量が得られること,同一術野での採取が可能であることなど他部位自家骨に比べ利点は多い10).今回われわれは頭蓋形成術後感染症例3例に対し自家頭蓋骨(全層・分層骨)を移植骨として,骨欠損部位に補塡し,骨採取側新規骨欠損部に人工骨であるチタンメッシュプレート(titanium mesh plates)を使用し良好な成績を得た.ここに文献考察をふまえ報告する.

症例

合併する椎骨動脈瘤破裂によるくも膜下出血で発症したと考えられるcerebrovascular fibromuscular dysplasiaの1例

著者: 冨士井睦 ,   高田義章 ,   森本卓史 ,   木野智幸 ,   武川麻紀 ,   大野喜久郎

ページ範囲:P.361 - P.366

Ⅰ.はじめに

 線維筋異形成症(fibromuscular dysplasia:FMD)は腎動脈や頚動脈などの中小動脈の,特に中膜に変化を伴う,非動脈硬化性,非炎症性の血管病変である22).頭頚部FMDの患者の平均発症年齢は約50歳で16,21),欧米の報告例に比べわが国における発症例は少ない6,14).頭頚部FMDはほとんどが頚部内頚動脈に生じ,頭蓋内の血管へ病変が出現する例は稀である11,12,23).今回われわれは合併する頭蓋内椎骨動脈の動脈瘤破裂によるくも膜下出血で発症し,血管撮影では多彩な血管像を呈したFMDの1例を経験したので報告する.

正常圧水頭症におけるシャント圧調整とcortical reorganization--fMRIを用いた脳機能評価

著者: 平本恵子 ,   工藤弘行 ,   村中博幸 ,   平田直樹 ,   甲田宗嗣 ,   村上恒二 ,   近藤浩

ページ範囲:P.367 - P.374

Ⅰ.はじめに

 正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus,以下NPH)を合併した脳卒中・頭部外傷例において,シャント術を行い適切な圧調整がなされることで機能回復がみられるのは周知の通りである.しかし重症脳卒中・頭部外傷例のNPH合併例では,原疾患による症状とNPH症状がオーバーラップするため両者の鑑別に難渋することが多い.また,シャント術後亜急性期~慢性期にかけても至適な脳圧が変動する場合もあるため,シャント例においては急性期を過ぎたのちも画像や身体機能をこまめに評価し,適正な脳環境を維持する必要がある.

 われわれはNPHを合併した頭部外傷例に対し圧可変式バルブを用いてVPシャント術が行われ,回復期リハ期間中に脳圧調整を行い急激に身体機能が改善した1例を経験した.この症例においては,リハビリテーション経過中の臨床評価に加え圧調整前後での脳室サイズ,およびfunctional magnetic resonance imaging(以下fMRI)を用いて下肢運動タスクにおける大脳皮質での賦活領域を経時的に評価した.

 脳圧調整と大脳皮質の機能的再構築の関連性について究明するため,このたび損傷脳における個人脳のfMRI解析結果を文献的考察を交え報告する.

脊髄円錐部および馬尾に複数のAV shuntを形成した脊髄辺縁部動静脈瘻の1例

著者: 齋藤久泰 ,   飛騨一利 ,   浅野剛 ,   矢野俊介 ,   青山剛 ,   岩﨑喜信 ,   寳金清博

ページ範囲:P.375 - P.380

Ⅰ.はじめに

 脊髄動静脈奇形(spinal AVM)は,AV shuntの解剖学的部位よりintramedullary AVM,perimedullary arteriovenous fistula(AVF),dural AVFの3つに大別される1,8,10,11)

 Perimedullary AVFは前脊髄動脈,もしくは後脊髄動脈からの分枝が脊髄静脈路とAV shuntを形成するが,その分枝は脊髄軟膜動脈であることが多く,AV shuntは脊髄表面で形成される.

 今回,脊髄円錐部に複数の短絡路を形成し,さらに3椎体尾側の馬尾上でもAV shuntを形成した稀なperimedullary AVFの症例を経験したので報告する.

脳膿瘍および脳室内出血を呈した虚偽性障害Munchausen症候群

著者: 後藤幸大 ,   笹島浩泰 ,   会田和泰 ,   古野優一 ,   大和田敬 ,   立澤和典 ,   井上靖夫 ,   峯浦一喜

ページ範囲:P.381 - P.386

Ⅰ.はじめに

 Munchausen症候群は,自らの身体に意図的に症状を作り,周囲の関心を引こうとする虚偽性障害である1,2,4,5,7,13).患者さんは通常,長期にわたって虚偽性行為を繰り返し,治療や入院を度重ねる.行為の対象はすべての臓器に及び,受診する診療科が多岐である1,4,13).診断は,多くの場合,症状および行為の虚偽性を立証することが困難で,苦慮することが多い5,7,13).今回,脳膿瘍で発症し,自傷行為によって脳室内出血を呈した本症候群の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

胚細胞腫瘍の放射線治療後20年以上経過し急激に発症したradiation-induced fibrosarcoma:2例報告

著者: 加藤宏一 ,   浪岡愛 ,   中川将徳 ,   門山茂 ,   兼子尚久 ,   木附宏 ,   氏家弘 ,   野村和弘

ページ範囲:P.387 - P.393

Ⅰ.はじめに

 放射線遅発性障害には脳血管障害,放射線壊死,線維化などがあり,なかでも放射線誘発腫瘍は稀であるがいったん発症すると致命的となることが多い二次障害である.1948年にCahanらは,11例の放射線誘発bone sarcomaを提示し,遅発性放射線障害の危険性を呼び掛けるとともに,放射線誘発bone sarcomaの条件として,①初めの骨の状態に悪性の所見がない,②照射野内に発生,③無症状の潜伏期間が5年以上ある,④sarcomaが組織学的に証明されている,の4点を挙げている4).それ以降,これらの条件を基としたものが放射線誘発腫瘍の定義として使用されている.また,照射から発症までの期間に関しては,照射線量が大きく,照射時年齢が若いほど短くなる傾向が報告されている8,11)

 放射線誘発sarcomaは原発のsarcomaと同様,またはそれ以上に悪性の性格をもち18),未だ有効な治療法が確立されていない.今回われわれは,胚細胞腫瘍に対し放射線治療を行い,20年以上,毎年画像検査を行っていたにもかかわらず,その定期検査の間に急激に発症した症候性の放射線誘発fibrosarcomaを経験したため,文献的考察を含め報告する.

連載 先天奇形シリーズ

(5)脊髄髄膜瘤

著者: 長坂昌登

ページ範囲:P.394 - P.408

Ⅰ.疾患の概説

 脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)は,一次神経管形成(primary neurulation)の閉鎖不全に由来する先天奇形(congenital malformation)と考えられている12,17).背部の体表に,neural placodeまたはneural plaqueと呼ばれる,開裂した脊髄が露出し,そこから脳脊髄液(以下,髄液)が漏れ出ている.Neural placodeが,その腹側のくも膜下腔に貯留した髄液により体表面よりドーム状に盛り上がっている状態(Fig. 1)を脊髄髄膜瘤,盛り上がらずに開裂した脊髄が体表に露出している状態(Fig. 2)を脊髄披裂(myeloschisis)と呼ぶが,本質的な差はないとされ12),一般には脊髄披裂は病変の広がりが大きく,胸腰椎レベルに多く,下肢運動障害が重度である47).このような病態は総称として,脊髄髄膜瘤,脊髄披裂,顕在性二分脊椎(spina bifida aperta),開放性二分脊椎,囊胞性二分脊椎(spina bifida cystica),神経管閉鎖障害(neural tube defect)などと呼ばれる.

 脊髄髄膜瘤の発生頻度は,出生前スクリーニングおよび女性の葉酸サプリメント摂取や葉酸処方薬内服の普及などにより,欧米では減少しているが,日本では減少せず,現在は出生10,000人に4~5人程度とされる22,65).脊髄髄膜瘤の多くは単発例であるが22),他の臓器奇形を合併する例40,51)や染色体異常を伴う例がある.

脳神経外科保険診療の展望・4

診療報酬の改定の仕組み(外保連の活動について)

著者: 神服尚之

ページ範囲:P.411 - P.421

Ⅰ.はじめに

 政権交代の影響もあり,10年ぶりのプラス改定となった2010年度の診療報酬であるが,「外科系領域に対する重点配分」は今次改定の特徴の1つといえる.脳動脈瘤頚部クリッピング術の大幅な増額を含め,約1,800の術式のうち約半数程度の点数が引き上げられた.これは,「外保連(外科系学会社会保険委員会連合)手術試案と現状の保険点数の乖離の大きい手術に対し,30~50%の手術診療報酬の増額を行う」という厚生労働省の評価の基に行われた結果である.厚生労働省が外保連手術試案を相対評価表として参考にし,2年ごとの改定に利用していたことは推測されていたが,今次改定で初めて「外保連手術試案は外科医の技術を客観的に評価できる根拠になりうる」と公式に発表している.このように,今後の保険診療報酬において,外保連の活動は重要視されていく傾向であるといえる.今回は,手術診療報酬改定のプロセスを中心に外保連および脳神経外科学会保険委員会の役割について説明させていただく.

書評

『高次脳機能障害のリハビリテーション第2版 実践的アプローチ』--本田 哲三●編

著者: 小川恵子

ページ範囲:P.408 - P.408

 本書の初版(2005年)が出版された後,2006(平成18)年の診療報酬の改定時には,リハビリテーションの長期にわたる継続が制限される中,高次脳機能障害は継続的なリハビリテーションが必要な障害と認められた.つまり国ですら,この障害が日常生活に与える影響は大きく,長期に適切なリハビリテーションを行うべき障害であると認めたといえる.当然,そのアプローチは,エビデンスをもった効果的なリハビリテーションであるべきであるが,高次脳機能障害の症状は多様で,さまざまな職種が手探りで個別に対応していたのが現実であったと思われる.

 そこで,現場のセラピストたちが実践の手引き書として活用できると感じたのが本書であった.診断の基準,評価の視点,日常生活の状態に合わせた対応と復職に至るリハビリテーションプログラムが具体的に提示され,「見えない障害」をどのようにとらえ,支援を行うかについて,即運用が可能な内容で,しかも読みやすい文章で紹介されていた.これは,医療福祉に携わる人間だけでなく,障害をもつ対象者の家族にも高次脳機能障害に対応する道標になったのではないかと思われる.しかしながら,高次脳機能障害の研究の発展は著しく,発刊から5年が経過して,その記載された知見に付け加えて他書を参考にすることがあったのは否めなかった.

報告記

第4回インド日本友好脳神経外科カンファランス(2010年10月9~10日),第12回インド頭蓋底外科学会(2010年10月7~8日)

著者: 中島正明

ページ範囲:P.423 - P.425

 2010年10月初旬,いまだ雨季のインド最南端のTrivandrum(トリバンドラム)にて,Nair会長のもと第12回インド頭蓋底外科学会(10月7~8日)が開催され,同時にCochin(コーチン)にて,Panikar会長のもと第4回インド日本友好脳神経外科カンファランス(印日友好カンファランス)が10月9~10日に開催されました.印日友好カンファランスは2年ごとに開催され,日本からは北から福島県立医科大学の齋藤清先生,佐久間潤先生,市川優寛先生,筑波大学の松村明先生,慶應大学の河瀬武先生,国立がん研究センターの渋井壯一郎先生,横浜市立大学の川原信隆先生,信州大学から本郷一博先生,名古屋大学からは吉田純先生,若林俊彦先生,夏目敦至先生,愛知医科大学からは高安正和先生,犬飼崇先生,名倉崇弘先生,藤田保健衛生大学から長谷川光広先生,神戸大学の甲村英二先生,広島大学の栗栖薫先生,大阪市立大学の大畑建治先生,そして岡山済生会から中島正明,髙橋健治で参加いたしました.筆者はインド頭蓋底外科学会に6回目の参加となりますが,毎年インド脳神経外科医のパワーとエネルギーには圧倒されてしまいます.彼らは豊富な症例を経験した上に,手術技術研鑽への熱い情熱,積極的かつ流暢な英語力により国外の脳神経外科医との熱心な交流を通して,毎年その手術レベルは年々確実に上昇しています.また彼らは1人で,脳腫瘍,脳血管障害,脊椎疾患など多数の症例の手術を,専門分野に偏ることなくオールラウンドに執刀しており,その知識量とレパートリーの広さには感心せざるを得ません.症例経験の少ない日本の脳神経外科医は,既に遅れをとっている部分もあると実感しました.

 インド頭蓋底外科学会において,河瀬先生のanterior transpetrosal approachは既に常識的な手術であり,彼らの技術は非常に高いと思われました.大きなpetroclival meningiomaでも,大変上手にかつ合併症もなく摘出されている症例が,相次いで報告されていました.経錐体アプローチは,もはや河瀬先生,白馬先生の偉大な先駆者の先生方の特殊なアプローチでなく,一般脳神経外科医もマスターすべき必須のアプローチであると再認識されました.日本のよさは,各地方の主要センターで優れた手術を,低い合併症と安い医療費で受けられる特徴がありますので,大学病院だけでなく市中病院に勤務するわれわれのような一般脳神経外科医も,常に向上心と世界に目を向けた姿勢で日々の診療・手術に励むべきであると思われました.学術集会に先立ち,齋藤先生と大畑先生によるlive surgeryは特に印象的でした.齋藤先生はclival chordomaをtransbasal approachで,大畑先生はtentorial meningiomaをretrosigmoid approachで手術されました.両症例とも脳幹にめり込んだ腫瘍で,通常夜中までかかる手術と思われましたが……,お2人とも午後2時には手術終了されたことには驚かざるを得ませんでした.日本のトップリーダーの先生方の手術は,依然世界最高レベルであり,会場にいるインド脳神経外科医たちの賞賛を受けられました.自分も含めて日本の若いドクターは,日本のトップリーダーの先生の手術をぜひ見学すべきであると痛感しました.手術書を読むだけでなく,「百聞は一見にしかず」です.

追悼

佐野圭司先生のご逝去を悼む

著者: 髙倉公朋

ページ範囲:P.426 - P.427

 東京大学名誉教授佐野圭司先生が2011年1月6日に享年90歳でご逝去になりました.

 先生は1945年に東京帝国大学をご卒業になり,同大学第一外科大槻菊男教授の下で外科学全般を学ばれました.その後清水健太郎先生が教授を継がれ,佐野先生は助教授として脳神経外科学の研鑽を積まれました.その間カリフォルニア大学サンフランシスコ校脳神経外科のNaffizigerとBaldrey教授の下へご留学,研究としては神経病理学のMalamed教授と精神神経発作のある患者脳のアンモン核の変性について研究業績を報告されています.清水教授のご退官後,1962年に脳神経外科学講座は第一外科学講座から独立し,先生はその初代教授に就任されました.先生のライフワークは脳腫瘍と機能的脳神経外科の分野でありましたが,特に定位的脳神経外科手術に関心をもたれ,てんかん,不随意運動,さらに凶暴症のような精神疾患の治療に精力的な研究をされ,多くの成果を発表されました.先生は国際会議で熱心に活躍され,1973年の第5回国際脳神経外科学会会長に選ばれて,その学会を東京で開催されました.その他にも日本脳神経外科学会総会,アジア・オーストラリア州脳神経外科学会など多数の学会を主催されました.先生のご業績は海外で広く認められ,全世界脳神経外科学会連合の名誉会長,米国,ドイツ,スカンジナビア脳神経外科学会など多数の学会の名誉会員に選ばれておられます.

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欧文目次

ページ範囲:P.327 - P.327

ご案内 第18回 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会学術集会

ページ範囲:P.343 - P.343

会  期 2011年9月23日(金)・24日(土)

会  長 伊藤昌徳(順天堂大学医学部附属浦安病院脳神経外科)

会  場 東京ベイ舞浜ホテルクラブリゾート

ご案内 第7回 新都心神経内視鏡症例検討会/お知らせ

ページ範囲:P.366 - P.366

開催日 2011年5月14日(土)午後3時より

幹  事 上川秀士(上川クリニック)

開催地 大塚製薬株式会社本社ビル9階会議室(東京都)

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.386 - P.386

お知らせ

ページ範囲:P.393 - P.393

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.430 - P.430

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.431 - P.432

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.433 - P.433

次号予告

ページ範囲:P.435 - P.435

編集後記

著者: 伊達勲

ページ範囲:P.436 - P.436

 今月号の扉,秋山恭彦先生の「マイシューズのすゝめ」は,若い脳神経外科医への激励として貴重な提言である.私は研究室時代,動物の胎仔脳から細胞移植のための組織を取り出す際に卓上型実体顕微鏡を使っていた.これがマイクロサージャリーの練習に最適であるのに気づき,早速1台自宅に購入してガーゼで吻合の練習を行った.高価なマイシューズだったが,秋山先生のおっしゃる「仕事に凝る」ことが充実した医師生活につながっていったと思う.本誌の人気シリーズ「解剖を中心とした脳神経手術手技」には,原政人先生が「頚椎神経根症の手術手技」をわかりやすい模式図つきで解説してくださった.臨床の場に役立てていただきたい.連載の先天奇形シリーズは,長坂昌登先生が豊富なご経験を基に多くの引用論文を網羅された「脊髄髄膜瘤」の総説であり,現時点での本疾患の知識を整理するのに極めて有用である.その他,研究,手技,症例報告など読み応えのある多くの論文が掲載されている.

 2010年から2011年にかけて,3Dと電子書籍に関する話題がマスコミを賑わせている.3Dについては顕微鏡画像のモニタを教育目的で3D化することや,神経内視鏡への応用などが,脳神経外科分野の直近の話題であり,電子書籍も大きな発展が望める領域である.各種の医学雑誌がPDFのスタイルで供給され,電子書籍として持ち歩けるようになった.さらに,書店で販売されている書籍や雑誌を電子書籍化してiPadなどに入れることが流行しつつある.自分で電子書籍化することを「自炊」と呼ぶようになった.「自炊」のためのスキャナーや裁断機も売られているし,新聞でも「自炊の仕方」という特集記事が掲載されるほどである.私はかつて本誌で「IT自由自在」という連載を担当し,2004年の連載開始時に両面スキャナーが書類の保存に有用であると書いたが,まさか,書籍まで自分で電子化する時代になってくるとは思わなかった.「自炊」すると,机の周りの書籍類の山が少しは片づくメリットもあるが,電子化自体が目的になってはいけない.自炊したものを食べる,すなわち読んで内容を吸収しないと意味がないことを改めて肝に銘じるべきであろう.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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