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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科39巻5号

2011年05月発行

雑誌目次

高次脳機能障害

著者: 渡辺高志

ページ範囲:P.439 - P.440

 高次脳機能障害は一般的に認知されてきてはいるが,われわれ脳神経外科医はこのような患者さんに対しては冷たい.日々,病棟でも外来でもそのような患者さんを数多く診察しているにもかかわらず.脳神経外科医が診る開頭手術をしたような患者さんは,ほとんどすべて多かれ少なかれ高次脳機能障害をもっていると言っても過言ではない.麻痺や失語症などのように見える障害には気が付き,PT,STなどのリハビリテーションを勧めている.しかし,高次脳機能障害の評価やリハビリテーションには目を向けようとしない.

 10数年前に,56歳女性,前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者さんを経験した.昏睡状態にて来院し,直ちに開頭クリッピング術を施行した.術後しばらくして意識は一桁となったが,失見当識を3週間ほど認めた.右前頭葉に脳血管攣縮によると思われる小さな脳梗塞を残し,脳室はわずかに大き目ではあったが4週間後には退院し,私たちには予後良好例と思われた.3カ月後に患者さんは,元の勤めに復帰したが,以前のように仕事ができないと感じ外来を受診した.前任の堀先生がてんかんの外科をされていた関係で,以前より,教室内に知能指数,記銘力などの神経心理テストができる環境にあったので,WAIS,WMSR,その他前頭葉機能などを検査してみた.全IQは110で正常範囲であったが,WMSRでは言語,数字の記憶力の低下(正常の下限)がみられた.また注意分配能力の低下も認められた.その障害の話をすると,患者さんは,仕事がうまくできないのはその障害によるものと納得し,その後はそれらの障害に注意することで,職場に復帰することができた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

グロームス腫瘍の手術手技

著者: 中溝玲 ,   赤木洋二郎 ,   渡辺高志 ,   川原信隆 ,   佐々木富男

ページ範囲:P.441 - P.457

Ⅰ.はじめに

 グロームス腫瘍は,自律神経の副腎外傍神経節にある神経堤細胞から発生する良性腫瘍である.頭頚部における好発部位は,①総頚動脈分岐部(頚動脈小体腫瘍,carotid body tumor),②頚部迷走神経領域(glomus vagale tumor),③頚静脈球部(glomus jugulare tumor),④中耳腔(glomus tympanicum tumor)の4つである(Fig. 1)3,7).Carotid body tumorとglomus vagale tumorはともに,頚部に発生するグロームス腫瘍であるが,carotid body tumorのほうが圧倒的に多い3).無痛性で緩徐進行性であるが,傍咽頭間隙に進展して増大するため,下位脳神経症状や交感神経障害を引き起こす.Glomus vagale tumorは,頚部迷走神経の上方で,頭蓋底近傍に存在する3個の神経節のいずれにも発生し得るが,通常は最も尾側かつ最も大きな節状神経節(ganglion nodosum)から発生する3).Glomus vagale tumorはcarotid body tumorより頭蓋底側に発生,増大するため,carotid body tumorより下位脳神経症状や交感神経障害を引き起こしやすい3,16).Glomus jugulare tumorは,頚静脈球付近に発生し,顔面神経,聴神経,下位脳神経の症状を引き起こし,増大すれば周辺骨の骨破壊を来す4,5).Glomus tympanicum tumorは,側頭骨内中耳腔で舌咽神経の鼓室枝である鼓室神経(Jacobson神経)や,迷走神経の鼓室枝である耳介神経(Arnold神経)から発生する3).その局在により,早期から聴神経や顔面神経の症状を呈するため,比較的小さい時期に診断されることが多い.

 グロームス腫瘍は組織学的には低悪性であるが,浸潤性であり大血管や神経を巻き込んでいることが多いため,神経放射線学的診断装置の進歩や術前腫瘍栄養血管塞栓術,麻酔法,頭蓋底手術手技の進歩にもかかわらず,合併症を来さずに全摘出することは困難であることが多い1,4,5).また,非常に血流に富んでいることが特徴であり,腫瘍は内頚動脈や外頚動脈,椎骨動脈から豊富な血流を受けて内頚静脈にシャントしているため,摘出に際しては脳動静脈奇形の手術の際と同様の剝離の手順を踏む必要がある1)

 グロームス腫瘍に対しては種々のアプローチが用いられているが,本稿では,posterior transjugular approachとtranscervical approachによるグロームス腫瘍の手術手技を順序立てて解説し,神経血管障害のリスクを減少させる工夫について概説する.

書評

『《脳とソシアル》ノンバーバルコミュニケーションと脳─自己と他者をつなぐもの』―岩田 誠,河村 満●編

著者: 鈴木匡子

ページ範囲:P.457 - P.457

 コミュニケーションは「自己と他者をつなぐもの」である.本書は,その中でも言語を使わないノンバーバルコミュニケーションのために脳がどんなしくみをもっているのかをさまざまな角度からみせてくれる.本書で取り上げられているノンバーバルコミュニケーションは多岐にわたる.目の認知や視線の方向から,顔の表情や向き,身体の姿勢,動きや行為,さらに社会の中での行動までカバーされている.そして,話題はこれらの機能を支える神経基盤だけでなく,ミラーシステム,脳指紋,社会的要因と脳機能の相互関係,脳科学の社会的意義にまで及ぶ.

 本書の斬新さは,広汎な研究をノンバーバルコミュニケーションという視座からとらえ直すことによって,それぞれの研究の意義を浮き彫りにしている点にある.例えば,顔認知を支える脳に関して,神経細胞活動記録,脳波,脳磁図,近赤外線分光法,機能的MRIなどを駆使した各研究は,それぞれ非常に読み応えがある.それだけでなく,岩田誠先生と河村満先生の対談で,ノンバーバルコミュニケーションとしての顔認知の位置づけが明らかにされることによって,個々の研究結果を統合的に理解することができる.

研究

頚動脈血行再建術における術前血小板凝集能測定の有用性

著者: 諸藤陽一 ,   宗剛平 ,   日宇健 ,   川久保潤一 ,   林健太郎 ,   北川直毅 ,   森川実 ,   陶山一彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.459 - P.463

Ⅰ.はじめに

 頚部頚動脈狭窄症では,危険因子の管理に加え狭窄の程度や症候の有無に応じて抗血小板剤の投与が行われる.頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)や頚動脈ステント留置術(carotid stenting:CAS)が必要となる症例では,ともに周術期の虚血性合併症を回避するため,術前からの抗血小板剤投与が勧められている4,6).抗血栓療法のなかで,ワーファリン内服による抗凝固療法ではINR(international normalized ratio)によるモニタリングがほぼ確立しているのに対し,抗血小板療法においては統一された効果判定の基準はなく,個々の経験に基づき投与法が決定されているのが現状である.今回,われわれは頚部頚動脈血行再建術(CEA,CAS)症例において,術前に測定した血小板凝集能と周術期合併症との関連についてretrospectiveに検討を行った.

脊髄後索電気刺激療法による遷延性意識障害の治療:10例の経験

著者: 雄山博文 ,   鬼頭晃 ,   槇英樹 ,   服部健一 ,   丹羽愛知

ページ範囲:P.465 - P.472

Ⅰ.はじめに

 脊髄後索電気刺激療法はこれまで難治性疼痛に対して用いられてきたが,疼痛のみならず遷延性意識障害に対しても有効な治療法であることが,近年わかってきた3,4,5,8,9,14,15,17).われわれは過去11年間に10例の遷延性意識障害患者に対し脊髄後索電気刺激療法による治療を行い,うち4例は明らかな意識の回復を認めたので報告する.

症例

同時多発性脳内出血で発症した転移性脳腫瘍の1例

著者: 木村重吉 ,   小谷昭夫 ,   滝本壽郎 ,   片山容一

ページ範囲:P.473 - P.478

Ⅰ.はじめに

 癌に対する治療法の進歩により,担癌患者の生存期間が延長するとともに転移性脳腫瘍の発生も増加傾向にある7).転移性脳腫瘍患者の予後に影響を及ぼす合併症として腫瘍性脳内出血が挙げられるが13),実際にはその頻度は低く,稀である2,5,23).また,多発性転移性脳腫瘍では出血も多発する頻度が高いとされるが13),そのほとんどが時期を異にして生じた出血であり,転移性脳腫瘍を原因として同時かつ多発性に脳内出血が発生した症例の報告は非常に少なく,病理学的検討を含めた詳細な報告は過去になされていない.

 われわれは同時多発性脳内出血で発症し,剖検による詳細な検討を行った腎細胞癌の脳転移症例を経験したので報告する.

神経皮膚黒色症と鑑別を要した巨大色素性有毛性母斑と星細胞腫が合併した稀な1例

著者: 鴨嶋雄大 ,   澤村豊 ,   斉藤伸治 ,   川堀真人 ,   寳金清博 ,   久保田佳奈子

ページ範囲:P.479 - P.483

Ⅰ.はじめに

 神経皮膚黒色症(neurocutaneous melanosis)は全身性に先天性巨大色素性有毛性母斑(congenital giant pigmented hairy nevi)あるいは獣皮様母斑を呈し,脳軟膜や実質におけるメラニン色素増殖部位および皮膚母斑部位から悪性黒色腫(malignant melanoma)を生ずる可能性がある稀な疾患である.今回,神経皮膚黒色症が疑われた先天性巨大色素性有毛性母斑を有する6歳女児において頭蓋内星細胞腫を合併した1例を経験した.巨大色素性有毛性母斑,星細胞腫瘍の合併例はこれまで報告がなく極めて稀であるが,神経皮膚黒色症における脳軟膜および脳実質原発悪性黒色腫と予後は大きく異なり星細胞腫は外科治療を含めた集学的治療対象となり得るため,両者の鑑別は非常に重要である.画像上の差異を含め過去の文献を踏まえ報告する.

1H-MRSにおける定量解析が放射線壊死とanaplastic oligodendrogliomaの再発の鑑別に有効だった1例

著者: 磯辺智範 ,   阿久津博義 ,   山本哲哉 ,   椎貝正成 ,   増本智彦 ,   中井啓 ,   高野晋吾 ,   阿武泉 ,   松村明

ページ範囲:P.485 - P.490

Ⅰ.はじめに

 脳疾患の存在および形態的診断には,X-ray Computed Tomography(X線CT)やMagnetic Resonance Imaging(MRI)がその優れた空間分解能やコントラスト分解能により有用であるが,それらは腫瘍の活性度など,代謝情報や機能的情報に関しては多くを提供してはいない.Magnetic Resonance Spectroscopy(MRS)は,信号強度は低いが特異的な代謝物そのものからの信号が利用され,生体中の生化学情報を非侵襲的に検出して,種々の病態解析を行うことが可能な臨床上有用な診断ツールである.MRSの対象核種は数多く存在するが,臨床レベルで用いられているのは水素原子核(1H)を対象とした1H-MRSであり,1H-MRSは脳梗塞1,9)や脳腫瘍5,19,24)の診断における有用性が報告されている.われわれは,これまでに1H-MRSによる脳内代謝物の定量手法を確立し,脳腫瘍の悪性度評価を中心に検討を重ねてきた14,17)

 放射線壊死と腫瘍再発の鑑別は,脳腫瘍における治療方針を決定する上で重要な問題であるが,画像診断では困難な場合が多い.今回われわれは,放射線壊死とanaplastic oligodendrogliomaの再発の鑑別において1H-MRSによる脳内代謝物の定量解析が有用であった症例を経験したので報告する.

自家頭蓋分層骨とリン酸カルシウムペーストを併用した頭蓋形成術

著者: 鴨嶋雄大 ,   寺坂俊介 ,   小山明彦 ,   寳金清博

ページ範囲:P.491 - P.495

Ⅰ.はじめに

 頭蓋骨欠損部に対する再建材料は,大きく自家組織(自家骨),人工骨に分けられる.自家骨は人工骨に対し感染に強く優れた再建材料であるが,採取部位への侵襲,採取骨の形状,移植部位に対する組織刺激性など少なからず問題も認められる1,7,10).一方チタンメッシュプレートやハイドロキシアパタイトに代表される人工骨は自家骨に比べ感染には弱いものの,材料の特徴を理解し使用することで手術侵襲の軽減が可能であり有用な再建材料となり得る.これら頭蓋再建材料の選択は各症例において経過を左右する重要なポイントであり,術前に十分な検討が必要である.今回われわれは交通外傷に伴い髄液漏を発症した前頭部骨欠損症例に対し,自家頭頂分層骨,リン酸カルシウムペースト(バイオペックス-R®)を併用し頭蓋再建を行った症例を経験した.短期経過観察期間において,両者の組み合わせにより美容的,機能的に良好な結果が得られたので,頭蓋形成方法の一選択肢として施行上の注意点など若干の文献的考察を加えて報告する.

Lumboperitoneal shuntに特有な術後合併症--脊髄側チューブ硬膜貫通部の脇漏れによる硬膜外腔への髄液漏

著者: 貝嶋光信 ,   福田博 ,   山本和秀

ページ範囲:P.497 - P.504

Ⅰ.はじめに

 Lumboperitoneal shunt(L-P shunt)は,ventriculoperitoneal shunt(V-P shunt)とともに,交通性水頭症の治療法として一般的に行われている11).とりわけ,近年治療の機会が増加して来ている特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus,iNPH)においては,その対象が高齢者であることが多いため,脳実質への直接的な手術侵襲がないL-P shuntを好んで選択する施設や術者が増えている20)

 われわれの施設ではこれまでに93例のL-P shuntを交通性水頭症の治療として行ってきた.そしてこのL-P shuntの術後合併症として,これまで言及されていない合併症に遭遇した.それは術後早期に起こる髄液過剰流出(CSF over-drainage)であり,その原因は,脊髄側チューブの硬膜貫通部からの髄液の硬膜外腔への髄液漏によるものであることを突き止めた.今後頻繁に行われると予測される本手術手技の合併症として警鐘的に報告する.

仙骨部硬膜動静脈瘻の4例

著者: 笹森徹 ,   飛騨一利 ,   浅野剛 ,   青山剛 ,   山内朋裕 ,   岩﨑素之 ,   矢野俊介 ,   岩﨑喜信 ,   寳金清博

ページ範囲:P.505 - P.511

Ⅰ.はじめに

 脊髄硬膜動静脈瘻(spinal dural arteriovenous fistula:SDAVF)は,椎間孔近傍の硬膜上で動静脈短絡を形成する比較的稀な疾患であるが,脊髄動静脈奇形の60~80%を占める1,5,10,13).また,中高年男性に多くみられ,venous congestionによる下肢の脱力・感覚障害といった緩徐進行性の発症形態をとることが多く,脊椎変性疾患との鑑別が重要となる5,8,14).SDAVFは,脊髄のあらゆる高位に発生しうるが,胸腰椎レベルに最も多く発生することが知られている7,8,11).ときに,頭蓋頚椎移行部や頚椎,仙骨部発生のSDAVFの報告も散見されるが,これらの病変は通常の肋間動脈および腰動脈撮影のみでは診断できず,適切な早期診断が未だ困難といえるSDAVFにおいて,さらに見逃されやすい病変といえる4,12,16-19).今回,われわれは,稀なSDAVFの1つである仙骨部病変に対する治療経験について報告する.

連載 先天奇形シリーズ

(6)潜在性二分脊椎(脊髄脂肪腫を除く)--先天性皮膚洞,緊張終糸,神経腸管囊胞,分離脊髄奇形,尾部退行症候群など

著者: 重田裕明

ページ範囲:P.513 - P.527

Ⅰ.二分脊椎の分類と発生機序

1.二分脊椎の分類

 二分脊椎spina bifidaはその外表所見から,顕在性と潜在性,あるいは囊胞性などに分類される.顕在性には神経組織が皮膚に覆われずに露出している脊髄髄膜瘤(脊髄裂)と皮膚で覆われている髄膜瘤が含まれ,囊胞性とほぼ同義で使用されることも多い.それ以外の瘤を形成しないものは潜在性に分類され,皮膚に覆われる脊髄脂肪腫,緊張終糸,先天性皮膚洞などが含まれる.また潜在性という用語は,閉鎖性(神経組織が皮膚に覆われて露出していない)と同義に使用される場合もある.潜在性二分脊椎spina bifida occultaは,本来は椎骨の癒合不全を指しており,神経系の異常も認める場合には潜在性脊椎閉鎖不全症occult spinal dysraphismの用語が適切である.本稿では,occult spinal dysraphismに分類される疾患のうち脊髄脂肪腫以外の病変について概説する.

報告記

第38回国際小児脳神経外科学会(2010年10月30日~11月4日)

著者: 稲垣隆介

ページ範囲:P.528 - P.529

 2010年の10月30日から11月4日まで韓国,済州島で第38回ISPN(国際小児脳神経外科学会)が開催されました.ISPNは学会会長(President)と学術集会の主催者が異なるので,すこしわかりにくいところがあります.2010年の学会会長はトルコ,イズミールのムトラー先生でした.学術集会終了後,次の学会後までの1年間はカナダ,バンクーバーのスタインボック先生が学会会長となります.学術集会の主催者は韓国ソウルの王先生で,次年度がインドのデオプジャイ先生となります.写真1は会長の王先生があいさつをされているもの,もう1枚(写真2)は赤い服(ポンチョですが,これは,ISPNの会長が毎年受け取っていって,次の先生に渡すのがしきたりになっています)を着ておられるのがムトラー先生,横に立っておられるのがスタインボック先生です.

 参加者は今までの学術集会と比べても多く427人,口演発表139演題,ポスター88演題(実際に発表をした演題数)でした.日本からの参加者は50人と韓国に次いで2番目でした.日本からの発表はMoyamoya symposiumでの講演12演題,看護セッションでの教育講演1演題,一般口演7演題,フラッシュ口演12演題,看護セッションでの一般口演5演題でした(現時点で,ポスターは実際に何人が発表されたかデータがありません).

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欧文目次

ページ範囲:P.437 - P.437

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.463 - P.463

お知らせ

ページ範囲:P.495 - P.495

お知らせ

ページ範囲:P.504 - P.504

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.532 - P.532

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.533 - P.534

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.535 - P.535

次号予告

ページ範囲:P.537 - P.537

編集後記

著者: 岡田芳和

ページ範囲:P.538 - P.538

 3月11日未曾有の東北関東大地震が発生し,便利な社会を目指して築かれてきた現代文明が電気やガソリンなどの不足からいとも簡単に混乱に陥り,人類の先端技術の粋を尽して築かれた原子力発電が無残な状態を晒すことにより人々の不安を一層増長している.過去に経験した大災害から全身全霊で築かれた防波堤の安心神話が犠牲者を増加させているように見える.大災害のたびに聞かれる想定外という言葉.自然の変動に対して人はそれを想定し得るのであろうか.想定内とは人の思い上がりとしか感じられないことを味わってしまった.

 このような大震災後の心落ち着かない時期に本誌の編集後記の依頼と資料が送られてきました.本号では「扉」には渡辺高志先生から高次脳機能障害に関するご意見をいただいております.すべて今回の大地震に結びつけて読んでしまうようですが,原発事故の説明を聞いても数字と専門用語ばかり並び,さっぱり現状が把握できません.「扉」に示していただいたように,患者さんを診察・検査し,病状とその対応,対策を分かりやすい言葉で説明し,確実な理解が得られることを臨床の現場においては肝に銘じたいものです.「解剖を中心とした脳神経手術手技」では,グロームス腫瘍の手術手技と題して腫瘍の発生,術前検査,頚静脈孔近傍の解剖,手術手技,周術期管理,治療成績に関して中溝 玲先生グループから力作をいただいています.特に手術手技に関してはstep by stepで分かりやすい解説をいただいており,本疾患の実践医療現場で想定外に陥らないように是非とも座右の文献としていただきたい.また連載「先天奇形シリーズ」では,潜在性二分脊椎に関して重田裕明先生に発生学的機序から診断・治療に関して豊富な経験から分かりやすく解説いただいており,皮膚病変からのtell-tale signのまとめとして活用いただきたい.諸藤陽一先生,雄山博文先生には研究論文,木村重吉先生,鴨嶋雄大先生,磯辺智範先生,貝嶋光信先生,笹森 徹先生には症例報告をいただいております.是非とも一読をお願いしたい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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