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文献概要
解剖を中心とした脳神経手術手技
グロームス腫瘍の手術手技
著者: 中溝玲1 赤木洋二郎1 渡辺高志2 川原信隆3 佐々木富男1
所属機関: 1九州大学大学院医学研究院脳神経外科 2鳥取大学医学部附属脳幹性疾患研究施設脳神経外科部門 3横浜市立大学大学院医学研究科脳神経外科
ページ範囲:P.441 - P.457
文献購入ページに移動グロームス腫瘍は,自律神経の副腎外傍神経節にある神経堤細胞から発生する良性腫瘍である.頭頚部における好発部位は,①総頚動脈分岐部(頚動脈小体腫瘍,carotid body tumor),②頚部迷走神経領域(glomus vagale tumor),③頚静脈球部(glomus jugulare tumor),④中耳腔(glomus tympanicum tumor)の4つである(Fig. 1)3,7).Carotid body tumorとglomus vagale tumorはともに,頚部に発生するグロームス腫瘍であるが,carotid body tumorのほうが圧倒的に多い3).無痛性で緩徐進行性であるが,傍咽頭間隙に進展して増大するため,下位脳神経症状や交感神経障害を引き起こす.Glomus vagale tumorは,頚部迷走神経の上方で,頭蓋底近傍に存在する3個の神経節のいずれにも発生し得るが,通常は最も尾側かつ最も大きな節状神経節(ganglion nodosum)から発生する3).Glomus vagale tumorはcarotid body tumorより頭蓋底側に発生,増大するため,carotid body tumorより下位脳神経症状や交感神経障害を引き起こしやすい3,16).Glomus jugulare tumorは,頚静脈球付近に発生し,顔面神経,聴神経,下位脳神経の症状を引き起こし,増大すれば周辺骨の骨破壊を来す4,5).Glomus tympanicum tumorは,側頭骨内中耳腔で舌咽神経の鼓室枝である鼓室神経(Jacobson神経)や,迷走神経の鼓室枝である耳介神経(Arnold神経)から発生する3).その局在により,早期から聴神経や顔面神経の症状を呈するため,比較的小さい時期に診断されることが多い.
グロームス腫瘍は組織学的には低悪性であるが,浸潤性であり大血管や神経を巻き込んでいることが多いため,神経放射線学的診断装置の進歩や術前腫瘍栄養血管塞栓術,麻酔法,頭蓋底手術手技の進歩にもかかわらず,合併症を来さずに全摘出することは困難であることが多い1,4,5).また,非常に血流に富んでいることが特徴であり,腫瘍は内頚動脈や外頚動脈,椎骨動脈から豊富な血流を受けて内頚静脈にシャントしているため,摘出に際しては脳動静脈奇形の手術の際と同様の剝離の手順を踏む必要がある1).
グロームス腫瘍に対しては種々のアプローチが用いられているが,本稿では,posterior transjugular approachとtranscervical approachによるグロームス腫瘍の手術手技を順序立てて解説し,神経血管障害のリスクを減少させる工夫について概説する.
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