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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科39巻7号

2011年07月発行

雑誌目次

手術の期待値と手術適応

著者: 齋藤清

ページ範囲:P.639 - P.640

 一般に手術適応は,個々の患者さんについて手術の必要性や危険性を総合的に判断して決めると思う.例えば,慢性硬膜下血腫で脳の圧迫が強い高齢者の場合には,手術の必要性は高く危険性は低いため,手術適応との判断にほとんどの場合異論はない.脳ドックでみつかった無症状の脳幹部海綿状血管腫の高齢者であれば,手術の必要性よりも危険性が高く,経過観察とすることが多い.一方,脳幹を強く圧迫し脳底動脈を巻き込む大きな錐体斜台部髄膜腫の若年者の場合にはどうであろうか.手術の必要性も高いが危険性も高い場合に,手術の判断は難しい.自分の手術経験と成績を踏まえた上で,本人および家族に危険性を説明してよく相談し,結論を出すことになる.

 期待値については学生時代に数学で習った記憶がある.確率論における確率変数の期待値とは,確率と確率変数を掛けた総和と定義される.例えば,サイコロを1回振るときに出る目の期待値は,出る目の確率がすべて1/6とすれば,1×1/6+2×1/6+3×1/6+4×1/6+5×1/6+6×1/6=3.5で3.5となる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

眼窩内腫瘍の鑑別診断に基づいた手術手技の選択

著者: 深見忠輝 ,   野崎和彦

ページ範囲:P.641 - P.655

Ⅰ.はじめに

 眼窩および眼窩内を形成する解剖学的構造物は多様性をもっており,結果として生じてくる眼窩内腫瘍性病変は,良性・悪性含め,非常に多彩である.眼窩内腫瘍に対する手術戦略を立てる際には,手術によって視力・視野・眼球運動・涙腺機能など患者のADL(activities of daily living)に直接関係する症状が悪化する可能性を考慮しなければならない.実際に手術を遂行する際のポイントとして,①単独で全摘出を目指すのか,adjuvant therapyも考慮に入れた上で全摘出を目指すのか,減圧を目的とするのか,確定診断を目的とした生検にとどめるのかという手術摘出度,②病変の存在部位,手術侵襲度,コスメティックな観点から総合的に選択されるべき手術アプローチ,③摘出後必要となる再建方法,の3点が挙げられる.

 眼窩病変は,脳神経外科医だけではなく,眼科医,形成外科医,耳鼻咽喉科医など,他科による執刀も行われる部位であり,合同手術が必要となることもある.脳神経外科が単独で手術を行う際の手術アプローチとして,これまでさまざまな変法も報告されてはいるが,大きく分けると経頭蓋アプローチと側方アプローチの2つに集約できる.さらに眼窩外に連続性をもつ腫瘍性病変の場合は,頭蓋底外科手技の導入も必要である.重要なことは,病変の最大限の摘出を行うとともにADL維持・機能温存,コスメティックな問題の解決を一期的に解決することであり,このためには眼窩周辺の複雑な骨構造はもとより,特に眼窩内外の脈管・神経,腺組織などの重要解剖構造物の知識を十分に理解しておくことが必須となる.

 今回われわれは,眼窩内腫瘍の自験例66例をretrospectiveに検討し,手術アプローチの選択,手術摘出度,合併症について考察するとともに,眼窩外科解剖について検討した.

研究

びまん性脳損傷における頭蓋内圧と生命転帰について

著者: 宮田圭 ,   三上毅 ,   浅井康文 ,   森和久 ,   小柳泉 ,   三國信啓 ,   寳金清博

ページ範囲:P.657 - P.662

Ⅰ.はじめに

 重症頭部外傷治療・管理のガイドライン2006(JSNTガイドライン2006)9)によると,重症頭部外傷の治療を開始するintracranial pressure(ICP)の閾値は15~25mmHg程度が望ましいとされている.また重症頭部外傷における神経学的増悪の予測因子としてもICP亢進が強く関与しており,ICP値を20mmHg以下に維持すべきとされている.今回われわれは重症頭部外傷のうち,びまん性脳損傷(diffuse brain injury:DI)における頭蓋内圧と生命転帰について後向きに検討し,頭蓋内圧亢進を伴うびまん性脳損傷の治療戦略について文献的検討を踏まえ考察した.

症例

胸腺腫の頭蓋内転移―3例の報告

著者: 雄山博文 ,   鬼頭晃 ,   槇英樹 ,   服部健一 ,   丹羽愛知

ページ範囲:P.663 - P.668

Ⅰ.はじめに

 胸腺腫は浸潤性に富む縦隔腫瘍である15).その転移形態としては,局所浸潤の頻度が高く,主には肝臓,腎臓などの他臓器に転移するが,中枢神経系への転移は非常に稀である2,3,4,13,19).今回われわれは,3例の胸腺腫の頭蓋内転移を経験したので報告する.

乳癌原発転移性脊髄髄内腫瘍の1例―円錐部病変への外科治療

著者: 堤佐斗志 ,   阿部祐介 ,   安本幸正 ,   伊藤昌徳

ページ範囲:P.669 - P.674

Ⅰ.はじめに

 転移性髄内腫瘍は中枢神経系への転移の8.5%2),全脊椎転移の0.9~5%6)を占めると考えられており,原発巣は肺,乳房の報告が多い1-3,5,8,13).転移性脊髄髄内腫瘍は稀で現在までの報告は限られている1-3,5,6).担癌患者は一般的に生命・機能予後が不良であるため,外科治療は躊躇される傾向があり9),放射線治療を推奨する傾向8,9,13)がある一方,外科治療が有効であった,あるいは外科治療有効例が存在するとの報告1,3-5)もみられ,治療方針に関する統一した見解がないのが現状である.今回われわれは,手術により良好な結果が得られた脊髄円錐部への転移性髄内腫瘍の症例を経験したので報告する.

全身性エリテマトーデスと二次性抗リン脂質抗体症候群に合併した内頚動脈前壁破裂動脈瘤の1例

著者: 長南雅志 ,   藤村幹 ,   井上敬 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.675 - P.680

Ⅰ.はじめに

 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は若年女性に特に多くみられる自己免疫疾患であるが,閉塞性脳血管障害や脳動脈瘤などの脳血管性障害を稀ならず合併することが知られている1,3,6,7).脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(SAH)はSLEのさらに稀な合併症として報告が散見されるが1,3,7,12),最近の報告によるとSLE患者の約1%にSAHの合併がみられることが明らかとなった1).加えて二次性抗リン脂質抗体症候群も伴っている場合には閉塞性脳血管疾患の合併はさらに高頻度との報告があるが6,7),破裂脳動脈瘤と二次性抗リン脂質抗体症候群の関連については不明な点が多い.

 今回,われわれはSLEと二次性抗リン脂質抗体症候群に合併した内頚動脈前壁脳動脈瘤破裂によるSAHの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

厳格な術後血圧管理にもかかわらず術後過灌流により遅発性脳出血を呈したもやもや病の1例

著者: 伊藤明 ,   藤村幹 ,   井上敬 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.681 - P.686

Ⅰ.はじめに

 もやもや病は両側内頚動脈終末部,前および中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞し,その付近に異常血管網の発達を認める原因不明の疾患である14).浅側頭動脈・中大脳動脈(STA-MCA)吻合術は本疾患による脳虚血を改善するための確立した治療法であるが9),もやもや病に対する直接バイパス術後急性期の潜在的合併症として過灌流症候群が注目されている1-3,5,6,8,11,12)

 われわれは,2004年3月以降もやもや病にてバイパス術を行った全症例に対して術後急性期にN-isopropyl-p-123I-Iodoamphetamine SPECT(123I-IMP-SPECT)による脳血流の評価を行い,バイパス吻合部位周囲の局所的高灌流が虚血発作に類似した一過性局所神経脱落症状や術後遅発性の頭蓋内出血の原因となっていることを報告してきた1-3).さらに,術後過灌流症候群は動脈硬化性閉塞性脳血管障害患者と比較し,もやもや病において有意に高頻度であることを明らかにした5).今回,われわれは,術直後より過灌流症候群予防のために厳格な血圧管理を行ったにもかかわらず,無症候性の遅発性脳出血を呈したもやもや病の1例を経験したので報告する.

頭蓋内出血で発症した海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 目黒俊成 ,   佐々木達也 ,   春間純 ,   田邉智之 ,   村岡賢一郎 ,   寺田欣矢 ,   廣常信之 ,   西野繁樹

ページ範囲:P.687 - P.692

Ⅰ.はじめに

 海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻(cavernous sinus dural arteriovenous fistula:CS-dAVF)は眼球突出,眼球結膜充血・浮腫,拍動性耳鳴が三徴といわれ,その他眼球運動障害による複視や頭痛を起こすことが多いが,脳出血,静脈性梗塞,脳浮腫などのいわゆるaggressive featureを呈することは少ないことが知られている8)

 今回われわれは,頭蓋内出血で発症したCS-dAVFの1例を経験した.同様の報告は過去に13例しかなく,比較的稀な症例であるため文献的考察を加え報告する.

脳動脈瘤の新生および増大を観察し得た1症例

著者: 渡辺茂樹 ,   土谷大輔 ,   金城利彦

ページ範囲:P.693 - P.699

Ⅰ.はじめに

 以前の画像で認められなかった脳動脈瘤が新たに発見された場合,新生脳動脈瘤という.近年,いくつかの新生脳動脈瘤のシリーズの報告がある10,13,15,23)が,そのほとんどは,くも膜下出血から平均10年前後に破裂して診断されている.一方,1回目のくも膜下出血から2年以内の短期間に新生,破裂して発見された症例報告も散見される1,5,11,16,17,24).しかし,くも膜下出血後に定期的に画像検査を行い,脳動脈瘤の新生および増大を観察した報告はこれまでにない.われわれは家族歴のある若年女性の右内頚動脈瘤破裂によるくも膜下出血手術後に,残存した未破裂左中大脳動脈瘤を6カ月ごとに画像で観察したところ,6年後に右前大脳動脈遠位部に新生して増大した動脈瘤の1手術例を経験したので報告する.

書評

『イラストレイテッド脳腫瘍外科学』―河本 圭司,本郷 一博,栗栖 薫●編

著者: 堀智勝

ページ範囲:P.680 - P.680

 『イラストレイテッド脳腫瘍外科学』が,このたび河本圭司・本郷一博・栗栖薫の3先生によって共同で編集され,上梓された.本書は「A.術前」「B.術中」「C.脳腫瘍の手術」「D.その他の治療法」の章に分かれている.特に手術の項目ではわが国のトップの先生方に分担執筆していただいており,それぞれ非常にコンパクトではあるが,力作ぞろいの,濃い執筆内容になっている.専門医試験の受験者にとって,非常にためになる本であるといえよう.

 「A.術前」の章では,脳腫瘍外科の歴史,分類と発生頻度,画像診断が述べられている.歴史と分類は河本先生,発生頻度は渋井壮一郎先生,画像診断は藤井幸彦先生,画像鑑別診断は泉山仁先生,宮武伸一先生がそれぞれ執筆を担当されており,非常にわかりやすい.特に宮武先生のグリオーマ再発,放射線壊死,pseudoprogressionの項は,先生ご自身の最新の臨床経験に基づいた力作であり,一読に値する.私の患者さんで右帯状回を含んだ悪性グリオーマの部分摘出術後,宮武先生にBNCTを行っていただき,完治?している患者さんの結婚式に招かれた経験などを読んでいて思い出した.そのほかにも悪性髄膜腫などの難治例にもBNCTが効果ありと聞いているが,帝京大の故・畠中坦教授が精力的に行っていた治療法を,より最新のモダリティを使用して完成度の高い治療法に仕立て上げた情熱に敬意を払いたい.

読者からの手紙

組織的な若手研究者海外派遣事業を利用したPittsburgh短期留学記

著者: 石川栄一

ページ範囲:P.701 - P.703

 このたび,「組織的な若手研究者海外派遣事業」というプログラムにより2011年1月から3月の間,Pittsburghに短期留学しましたので,短期留学の有用性も含め紹介させていただきます.この事業は,実施計画が採択された一部の大学において若手研究者(講師,助教などで42歳以下の者など),大学院生,医員,医学類生を対象として,当大学の場合3年間でおよそ90名の海外渡航を補助するというものです.補助は,原則として2カ月以上1年未満の「研究」を目的とした渡航を対象とし,一定の渡航費と滞在費が補助されるという内容です.申請書,履歴書,グループ長教授の署名付きの推薦書,派遣先からの招聘状,全研究業績とその中で最も優れていると思われる論文2報の別刷などを提出し,審査に通ればこのプログラムを利用することが可能です.

 私の場合,脳神経外科領域の免疫研究のブラッシュアップのための非常によい機会と考え,本プログラムに参加させていただきました.学内の業務の関係もあり,3カ月弱の短期,しかも1月からというあまり一般的ではない時期の留学となりました.受け入れ先は,脳腫瘍免疫研究の主たる発信地であるPittsburgh大学の岡田秀穂先生の所(Pittsburgh大学がん研究所岡田研究室)にと,計画時から考えておりました.特別なコネクションもなく,ぶしつけながら目的と多少の業績を記したメールにて受け入れをお願いいたしましたが,非常に快いお返事をいただき大変感謝しております.

連載 先天奇形シリーズ

(8)Dandy-Walker症候群

著者: 下地一彰 ,   近藤聡英 ,   宮嶋雅一 ,   新井一

ページ範囲:P.705 - P.717

Ⅰ.はじめに

 Dandy-Walker症候群は,医学部在籍時代から名前を認識していた記憶がある.最近の学生が愛用するyearnoteといういわゆる「まとめ本」にも,Dandy-Walker症候群は「第四脳室の囊胞状拡大と小脳虫部の低形成を呈した先天奇形をいう」と記載され,水頭症,脊髄髄膜瘤とともに中枢神経に発生する先天奇形の代表格の1つとして扱われている58).しかし実際,日常診療を行っている中でDandy-Walker症候群に遭遇する機会は非常に少ない.本稿では,有名ではあるにもかかわらず診療する機会の少ないこの病態に関してまとめてみたい.

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欧文目次

ページ範囲:P.637 - P.637

お知らせ

ページ範囲:P.674 - P.674

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.720 - P.720

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.721 - P.722

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.723 - P.723

次号予告

ページ範囲:P.725 - P.725

編集後記

著者: 片山容一

ページ範囲:P.726 - P.726

 本号の扉で,齋藤 清教授が手術をすべきかどうか決断することの難しさを述べておられる.まったく同感である.私も,最善の決断をするために,何か普遍の論理がないものかといつも思う.

 しかし,そんな普遍の論理などは存在しない.個々の患者の病態は,あまりにも多様で,しかも予測できない要素を含んでいる.リスクの高い手術に挑戦するとなると,自分の技量の的確な評価も必要である.患者を天命に委ねてしまえば,自分の責任からは逃れられる.それでも,私たちは,天命に逆らって,自分から責任を負うという決断をする.そんな決断は,疑問の余地のない論理によるものではないことも少なくない.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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