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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻1号

1976年01月発行

雑誌目次

TO DO OR NOT TO DO

著者: 西村周郎

ページ範囲:P.5 - P.6

 先日の新聞で,また身体障害者殺人事件が報道されていた.脳性小児麻痺で寝た切りの16歳の少年の命を,その父親が思い余って奪ってしまったのである.たとえ不治の病を背おい,ただ生の希望のみを与えられていた子どもでも,その命を奪うことは殺人であり,絶対に行うべきでないのは言うまでもない.しかしこの父親のこれまでの苦労がどれほどであり,一方少年の16年間の人生は果たして幸福であったかなど,考えるべき問題も数多く存在すると思われる.
 このような問題は,われわれ脳外科医にとっても無関係ではない.積極的な治療を行ったために,かえって不幸な人をつくるようなことはないであろうか.たとえばグリオブラストーマで,すでに麻痺,失語症などが発現している症例でも,たしかに手術により延命せしめることはできるであろうが,症状の改善がなければ生存の意味はなくなる.肺癌の脳転移などでは別の問題がおこる.肺の原発腫瘍が切除不能であっても,転移脳腫瘍が切除できれば,症状は改善され,ある期間は延命するかもしれない.しかし一方では,「肺癌で苦しんで死ぬよりも,転移脳腫瘍のために死ぬ方が意識障害もおこり患者にとっては楽であろう.だから脳の手術を行わぬ方がよい」と考える者もいるかもしれない.

総説

RI-cisternography

著者: 西本詮 ,   松本皓 ,   石光宏

ページ範囲:P.7 - P.17

1.はじめに
 Radioisotope(以下RI)-cisternographyとは,脊髄クモ膜下腔に注入されたRIが,髄液のbulkflowに従って,頭蓋内へ上昇し,次いで頭蓋内の各髄液槽を経た後,上矢状洞域より吸収消褪してゆく過程を経時的にscintigramとして描写し,髄液の循環動態を視覚的に把握する方法である,本論文では,本法の概略を述べると共に,特に成人の交通性水頭症におけるshunt手術の適応決定に本法がどの程度藻で役立つかという点について,自験例を加え総説してみたい.

手術手技

テント上グリオーマの手術

著者: 谷栄一

ページ範囲:P.19 - P.24

テント上グリオーマ手術の原則
 テント上グリオーマは通常境界が不鮮明なため全別出は不可能であり,たとえ境界鮮明な腫瘍を全別出したと思っても,少数例を除き術後の再発は必至である.従って,グリオーマの手術適応には種々の問題点があるが,腫瘍の種類の如何を問わず,出来るだけ根治的に別出する方が生存率の点ですぐれていることは,諸家の意見の一致するところである.その前提条件として,術後患者に神経脱落症状を与えず,生存期間中のuseful lifeの保障が必要である.現在実施される非手術的治療も,手術の補助的治療法と言って過言でなかろう.
 現在,グリオーマ手術手技の改善にも限度があるとはいえ,常に工夫洗練されなければならない.この点microsurgeryの応用により,術後の神経脱落症状の発生は減少し,深部グリオーマの若干例も剔出可能である.同時にグリオーマの病理の理解が手術遂行上有益であることは言うまでもない.テント上グリオーマ中,optic gliomaおよびchoroid plexus papillomaは紙面の都合上割愛させていただく.

診断セミナー

失語症

著者: 大橋博司

ページ範囲:P.25 - P.31

 失語症の症型分類については最近Hecaenのそれを中心に紹介する機会があったが,ここでは拙著「失語症」の分類に従って一応記述する.

研究

脳動脈瘤破裂後の水頭症

著者: 水上公宏 ,   金弘 ,   荒木五郎 ,   美原博

ページ範囲:P.33 - P.41

はじめに
 脳動脈瘤破裂後にしばしばcommunicating hydrocephalusを来すことはよく知られている.このcommu-nicating hydrocephalusは急性期においては意識障害をもたらす原因の1つとなり,慢性期においては精神機能の低下や,さまざまな神経症状をひき起す原因となり得る.したがって破裂脳動脈瘤の治療成績の向上をはかるためには,このcommunicating hydrocephalusを早期に診断し,これに対処することが重要である.
 本論文では,著者らの臨床データをもとに種々の検討を加え,この破裂脳動脈瘤後のcommunicating hydrocephalusの発現機序,病態の解明を試みるとともに,その診断ならびに髄液短絡手術の適応について述べる.

脳血管造影による小児非腫瘍性中脳水道閉塞症の診断

著者: 奥寺利男 ,   高橋睦正 ,   副島徹 ,   朝長正道 ,   米増祐吉 ,   北村勝俊

ページ範囲:P.43 - P.55

Ⅰ.はじめに
 非腫瘍性Aqueductal stenosisの神経放射線学的診断について,気脳,および脳室造影による所見はよく研究され,数多くの報告がある17,20,23,26,29).しかし,脳血管造影による本病変について検討したものは極めて少ない.
 一方,15歳以下の小児においては、検査による侵襲の上からも,脳血管造影が,頭蓋内占拠病巣の診断のために,気脳および脳室造影よりも先に行なわれることの多い現在,本病変を脳血管造影上で的確に把握することは診断上,非常に重要であり,今回,私共が経験した小児例4症例の脳血管造影所見について検討した.

Atlanto-Axial Dislocation—Instability Indexと手術適応

著者: 阿部弘 ,   都留美都雄 ,   三森研自 ,   角田実 ,   高木宏

ページ範囲:P.57 - P.72

Ⅰ.緒言
 最近注目をあびるようになったatlanto-axial dislocation(以下A.-A.1).と略す)は,成因については種々の説があり,歯状突起の形態異常の有無及び程度によって治療法も異り,論議の多い症候群である.
 1933年Robersts40)がodontoid agenesisを報告して以来,レ線診断,症状,成因,治療等に関する報告も数多くみられている,本邦では志田45)によるodontoidfractureの1例報告にはじまり,荒木4)は1961年歯突起欠損の1例を報告している.数例以上の経験をまとめたものは大河内36)による報告が最初であり,横田51)は小児例3例の経験を発表している.最近では長島による病態生理,手術等に関する報告32,32,34)がある.

下垂体およびその近傍腫瘍の内分泌学的検討(第2報)—術直後(照射前)の下垂体機能について

著者: 魚住徹 ,   森信太郎 ,   渡部優 ,   滝本昇 ,   最上平太郎 ,   橋本琢磨 ,   大西利夫 ,   宮井潔 ,   熊原雄一

ページ範囲:P.73 - P.78

Ⅰ.緒言
 トルコ鞍及びその近傍腫瘍の治療方法の主体は手術及び照射療法であるが腫瘍の局在従って治療の侵襲が視床下部,下垂体に直接及ぶ以上,予後を決定する因子のうち,下垂体機能の術前から術後にわたる変遷は重大な因子と言わなければならない.しかしながら,この分野の研究は末梢内分泌臓器機能を指標として行われてきたために必ずしも正確とは言い難い.
 我々は下垂体ホルモン直接測定を用いて下垂体ホルモン分泌能を術前,術直後,照射直後,更にその後長期間にわたって綿密に追求を続けている.我々の研究の第1報においては,その術前の機能を明らかにし,この第2報においては,術直後(照射前)の下垂体機能の実態を示したい.

症例

Alveolar soft part sarcomaの頭蓋転移例—5年間の経過をとった13歳の1例

著者: 高沢裕之 ,   伊藤寿介 ,   岡田耕坪 ,   植木幸明

ページ範囲:P.79 - P.87

Ⅰ.はじめに
 1952年Christopherson3)の最初の記載以来,Alveolarsoft part sarcomaの症例報告は徐々に増加してきている.1971年始めて脳転移例の脳血管写の詳細な報告がRosenbaum16)によってなされたが,我々はAlveolarsoft part sarcomaの頭蓋転移例を経験し,選択的外頸動脈撮影により脳血管写上興味ある所見を得たので報告し,本邦例を集録し臨床的特徴を考察する.

原発性クモ膜嚢腫の成人例

著者: 蛯名国彦 ,   三田礼造 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.89 - P.94

Ⅰ.はじめに
 クモ膜嚢腫の多くは,腫瘍あるいは炎症等に伴う,いわゆる続発性あるいは二次性クモ膜嚢腫といわれるものであり,嚢腫の成因不明な原発性,あるいは一次性クモ膜嚢腫といわれるものは比較的稀な様である,又,原発性嚢腫の多くは若年層に発症するとされて居り,成入に発症する症例となると更に少ない様であるが,我々は原発性クモ膜嚢腫と考えられる42歳の女性症例を経験したので,その症例及び若干の文献的考察を併せ報告する.

側脳室内Epidermoidの1症例

著者: 大畑正大 ,   桑原十南雄 ,   高橋俊平 ,   稲葉穣

ページ範囲:P.95 - P.99

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内Epidermoidは1856年Esmarch3,20)が最初に報告して以来現在迄多くの報告がなされ,約300例近くが発表されている.本邦においても1906年山村9,11),以後幾多の報告9,10,13,16,17)がみられ,それらの集計的考察も行なわれている.しかし側脳室内に原発したものは未だ1例も報告されていない.最近我々は左側脳室下角内に発生した1例を経験し,手術的に確認剔除したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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