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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻10号

1976年10月発行

雑誌目次

Ethicsと空気とDeontology

著者: 坂田一記

ページ範囲:P.921 - P.922

 この「扉」で西村,松本両教授が脳神経外科医のHamlet的苦悩について述べられたのは記憶に新しい.筆者はこの一文により屋上屋を架することになるかもしれない.否,屋上屋を架していくことがむしろ望ましいのでないかと考えるのである.
 某年某月某日,近在の総合病院の産婦人科で異様な顔貌の新生児が生まれ,教室の医師が依頼を受けて診察したところ,clover leaf skull syndromeであることがわかった.ところで困ったことに,父親はこの児の生存を希望せず,母親と対面させることすら拒否した.困惑した産婦人科医の依頼を受けて,患児を当科に引き取ることとし,経費は学用扱いとしたが,家族は一切付き添わないので,衣類やおしめの提供洗濯などすべて看護婦諸君の好意に負うこととした.患児は当初比較的順調に発育し,それがまた筆者らの悩みの種ともなったが,生後26日目突然呼吸困難をきたして死亡し,剖検にて左胸腔内感染症を認めた.

総説

不随意運動

著者: 松本圭蔵

ページ範囲:P.923 - P.931

 「百聞は一見に如かず,兵は隃に度り難し」と漢書(趙充国伝)にある.その正しい解釈は知らないが,自己流に理解する限り,この語ほど不随意運動の臨床と研究にうまくあてはまるものはない.不随意運動はいろいろさまざまで,その運動を適確に表現し記録することはきわめてむずかしい.つまり,その運動を一見すれば誰でもすぐ認識できるが,文章や言葉で描き出すことは困難である.また,その病態生理機構すなわち中枢神経系のいかなる異常によってこのような不随意運動が発現してくるのかということは,現代の進歩した神経科学をもってしても,にわかにはかりがたいものばかりである.
 神経化学的研究からParkinsonismにおいて,黒質線体系のdopamineの減少がみいだされた.このdopamincの減少した状態を補うL-DOPA療法は臨床治療学上,大きな進歩をもたらした.しかし,それではなぜdopamineの減少によってParkinsonismの振戦,固縮,無動などが起こってくるのかという,いわゆる病態生理機構に関しては,いかなる理論も全く想像の域を出ていないといえよう.すでにご承知のごとく,この不可思議で難治な不随意運動という病的運動の発生機序を病理学的立場から,あるいは生理学的立場から解明せんとして,多くの仮説がたてられ,また多くの研究者たちによって,いわばあらん限りの努力と業績がつみ重ねられてきた.しかし,現在までどれ1つとして完全な結論をえたものはない.

手術手技

Blow-out Fractureの手術

著者: 早川勲

ページ範囲:P.933 - P.940

Ⅰ.はじめに
 われわれ脳神経外科医が日常よく接する頭部外傷患者には,思いがけない病像をもったものがある.臨床検査の第一歩は文字通りstatus presensから始るが,外来を訪れる頭部外傷患者を気楽に診て,この鉄則をないがしろにすると思わぬ見落しをする.眼窩(底)破裂骨折blow-out fracture of orbitもそのような,うかつに診ると見落しを気づかずに過される頭部外傷に伴った病像の1つとみることができよう.しかし,その臨床像はきわめて興味深く,欧米でも比較的近年にいたって注目されたものである2,3,11,12,15,17)
 頭部外傷に伴った眼窩損傷は決して珍らしいものではないが,そのうちのおおよそ2/3は視障害や視野欠損などの視神経障害で,残りの約1/3が複視や眼球偏位などである7).このうち複視(眼球運動障害)は従来ややもすると動眼,滑車,外転神経など眼球運動神経の障害にその原因が求められていたきらいがある.たしかにそのような症例も少なくないが,軽微な頭部外傷でかかる原因の求め方はいささか不自然であり,他に原因を求めるのは当然であった.1943年,Pfeiffer11)は眼窩底骨折という機械的原因にもとつく眼球運動障害をはじめて記載した.

診断セミナー

Akinetic Mutism

著者: 大友英一

ページ範囲:P.941 - P.946

Ⅰ.はじめに
 akinetic mutism,無動性無言は1つの症候群といえるものであるが,たとえばHorrer症候群における眼瞼下垂,瞳孔縮小,眼球陥凹のごとき明確な徴候,またtriasともいうべき必須の徴候が必ずしも明らかに定義されているわけではない.その出現する疾患,病状も様々であり,冒された部位も動揺に富んでおり,最近注目されている類縁の状態,locked-in syndromeのごとくcriteriaの明確なものとは異なっている.また類似の症候群,失外套症候群,das apallische Syndrom(以後A.S.と略す)との異同についても議論が多い.
 akinetic mutism(以後A.M.と略す)は一言でいえばその語の示すごとくmutism(無言)とakinesia(無動)である.

研究

老人の髄膜腫—特に鑑別診断について

著者: 露無松平 ,   菅沼康雄 ,   大畑正大 ,   平塚秀雄 ,   稲葉穣 ,   布施正明

ページ範囲:P.947 - P.951

Ⅰ.はじめに
 老年者の脳腫瘍に関しては今日まで多くの報告がみられ,その中で老人であるがゆえの特殊性についてもたびたび論ぜられてきた9,10,13,17,23).今回われわれは最近の10年間に経験した脳腫瘍の中で老年者の髄膜腫16例について検討し,若干の考察を加え特に脳血管障害と鑑別する上で脳スャンが重要であることを強調する.

頭部外傷に伴う頭蓋内硬膜外内頸動脈瘤からの大量鼻出血について

著者: 石川進 ,   梶川博 ,   日比野弘道 ,   島健 ,   宮崎正毅 ,   吉本尚規 ,   桧垣重俊 ,   渡辺繁 ,   松山敏哉

ページ範囲:P.953 - P.961

Ⅰ.はじめに
 頭部外傷に伴う著明な鼻出血は多くの場合,前篩骨動脈あるいは蝶形口蓋動脈からの出血であり,通常致命的な大出血とはならず,tamponadeによって比較的容易に止血できるものである3).しかし穿通性あるいは閉鎖性頭部外傷により内頸動脈が損傷されると,鼻腔,口腔より致命的な大出血をきたしうる.なかでも内頸動脈海綿洞部および近傍に外傷性動脈瘤,動静脈瘻または亀裂を生じた場合,あるいはこの部に既にあった動脈瘤が外傷により損傷された場合には,後日大量の鼻出血をくり返し遂には死の転帰をとる恐れがある.このような症例は比較的稀なものであるが頭部外傷の合併症或いは広義の後遺症として重要なものの1つである.我々の経験した閉鎖性頭部外傷に伴う3症例を紹介するとともに,これまでの報告例をまとめ,とくに動脈瘤によるものを中心として考察を加えたい.
 閉塞性頭部外傷後に著明な鼻出血をきたし頸動脈写で内頸動脈瘤を認め,手術によりいずれも救命しえた3症例を報告するとともに,頭部外傷後に著明な鼻出血があり頭蓋内内頸動脈瘤,動静脈痩あるいは内頸動脈の亀裂が確実に証明されている46例(我々の3例を含む)をまとめ,とくに動脈瘤例についてその原因,臨床症候,診断,治療を論じた.

頭蓋骨骨折および頭蓋内血腫を伴わない外傷性両側性外転神経麻痺—3例の臨床報告とその発生機序についての考察

著者: 高木宏 ,   宮坂佳男 ,   蔵前徹 ,   大和田隆 ,   角田実

ページ範囲:P.963 - P.969

Ⅰ.はじめに
 頭部外傷により両側同時に損傷される脳神経として,外転神経はよく知られている4,10,11),一般的には,両側性外転神経損傷の発生機序として頭蓋底骨折による一次損傷といわれている10,12,13).しかしながら眼窩,頭蓋底部にも全く骨折の証明されない症例もある9,14)
 一方,両側外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進時によくみられることである18)が,両側性外転神経麻痺の発生機序としては2つの全く異なった見解がある14,18).我々は3例の眼窩および頭蓋底部に骨折がなく,頭蓋内血腫も証明されず,損傷された脳神経が両側の外転神経のみであるような症例を経験した.これらの症例の両側性外転神経麻痺の発生機序を解明するため,外転神経走行過程における局所解剖につき観察を行い,その損傷部位および発生機序につき検討を行ったので報告する.

Cervical Spondylosisと頸椎脊椎管前後径について(その2)

著者: 佐藤正治 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.971 - P.977

 symptomatic cervical spondylosis 96例について頸椎管前後径をレ線的に測定し,myelopathyの有無,manometric Queckenstedts's testにおけるくも膜下腔の閉塞の有無によって比較検討した.
 1)BoijsenおよびBurrowsの方法にしたがうAPD(Fig. 1-a)が15mm以下では椎体後縁中央のbony spurやdisc herniaによりmyelopathyとくも膜下腔閉塞の可能性が生じ,12mm以下では両者はほぼ必発する.
 2)myelogramから測定したTPD(Fig. 1-b)は11mm以下でmyelopathyの10mm以下でくも膜下腔閉塞の可能性が生じ,8mm以下ではmyelopathyは必発する.
 3)APDが15mm以下の狭い頸椎管では3mm以上のbony spurやdisc herniaが椎管腔中央部に突出するとmyelopathyおよびくも膜下腔閉塞をきたす可能性がある.
 4)myelopathyを呈するもののうちmanometric Queckenstedt's testにてくも膜下腔の閉塞がみられるものはより強い脊髄への圧迫が認められmanometric Queckenstedt's testはcervical spondylosisの手術適応の決定のよい指標となる.
 本論文は,昭和49年度,昭和50年度,文部省科学研究費補助金(一般研究C)による研究の一部である.

症例

異型性狭心症発作を伴ったトルコ鞍部腫瘍の1例

著者: 橋本卓雄 ,   窪田惺 ,   清水隆 ,   別府俊男

ページ範囲:P.979 - P.984

 58歳男性で異型性狭心症発作を伴ったトルコ鞍部dermoid cystの1例を報告した.腫瘍は視床下部に進展しており,臨床上も視床下部−下垂体系の機能障害が認められた.異型性狭心症の発生機序に関し,機能的要因が重視されているが,著者らは副交感神経優位状態がその発生に重要であることを報告した.

脳血管Moyamoya病の後脈絡叢動脈末梢部動脈瘤について

著者: 児玉南海雄 ,   峯浦一喜 ,   鈴木二郎 ,   北岡保 ,   倉島康夫 ,   高橋慎一郎

ページ範囲:P.985 - P.991

Ⅰ.はじめに
 脳血管Moyomoya病3,7-13)に脳動脈瘤が合併1,2,4-6)した報告は稀であるが,我々は大脳半球内のほぼ同様な場所に発生した3例を経験し,追跡脳血管写にて興味ある知見を得たので若干の考察を加え報告する.

興味ある脳室腹腔吻合術後合併症の1例

著者: 高木繁幸 ,   山下良禧 ,   中山顕児 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.993 - P.996

I.緒言
 現在水頭症やその他の疾患にshunt手術が広く積極的に行なわれている.ところが脳室腹腔吻合術(以後V-P shuntとする)の合併症は脳室心房吻合術(以後V-A shuntとする)と違って重篤な合併症が少ないという点からかあまり重要視されていないようである.最近,我々はV-P shunt術後に腹腔側tubeが腸穿孔を起し肛門より排出し,その後髄膜炎を併発した1例を経験したので,V-P shunt術後合併症特に腸穿孔に関して若干の文献的考察を加えて報告する.

同一動脈,同一領域に脳動脈瘤と脳動静脈奇形が存在した1例

著者: 土田博美 ,   宮崎雄二

ページ範囲:P.997 - P.1003

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤と脳動静脈奇形を併有した症例は1942年Walsh and King12)によって最初の報告が行われて以来,かなり報告されているが,両者が同一部位において同一動脈から発生した症例の報告は少ない,しかもこのような症例に対する手術的治療は両者が別個に発生した症例に比して複雑である.
 著者らは,脳動脈瘤と脳動静脈奇形が左頭頂葉において相接して存在し,しかも両者が中大脳動脈のAngulararteryから発生していた1例を経験したので,本例について報告するとともに,いささか文献的考察を行いたいと思う.

三叉神経症状を呈したadenoid cystic carcinomaの2症例

著者: 種子田護 ,   長尾勇 ,   滝本洋司 ,   生塩之敬 ,   金井信博 ,   池田卓也 ,   神川喜代男

ページ範囲:P.1005 - P.1010

Ⅰ.緒言
 頭蓋底に骨破壊が認められた場合には,患者を精査し,病歴,症状を十分に把握することが必要である.もしその骨破壊像の辺縁が不規則で,reactive sclerosisに乏しい場合には,鼻咽頭に発生した悪性腫瘍の頭蓋底への進展を念頭に置かねばならない.骨破壊像の辺縁が円滑で,reactive sclerosisが明白な場合は,発育の緩慢な良性腫瘍が考えられる.しかし,骨破壊像がこの両者の中間型を示す場合が多く,原因となる症患の鑑別診断は,必ずしも容易ではない.ここに報告する2症例は,三叉神経の障害を初発症状とし,頭蓋底に骨破壊が認められ,術前には,第1例は三叉神経節腫瘍と診断し,第2例は鼻咽頭の癌の頭蓋底への進展を疑い,術後にadenoid cystic carcinomaと組織学的に判明した症例である.
 Adenoid cystic carcinomaは,耳下腺,顎下腺,舌下腺の主唾液腺ならびに口腔や鼻咽喉腔のminor salivary glandから発生するものが多く,しばしば頭蓋底へ進展する.その報告例は,耳科領域では多数みられるが,脳外科領域ではそれほど多くは報告されていない.しかし,脳転移の報告例11)や,小脳橋角部腫瘍13)や三叉神経鞘腫7)のごとき症状を示した症例など,興味ある症状と経過を示すので,ここに報告する.

視交叉部クモ膜炎症状で発症した脳動静脈奇形の1例

著者: 伊藤建次郎 ,   三田礼造 ,   鈴木重晴 ,   松山秀一

ページ範囲:P.1011 - P.1017

Ⅰ.はじめに
 視交叉部クモ膜炎は,19世紀末初めて手術により確認されて以来,種々の名称で呼ばれているが3,17,23),本症が視神経障害の原因として注目されてきたのは,視交叉症状のために開頭され,この症状が,この部のクモ膜の炎症性癒着または嚢腫すなわち視交叉偽脳腫瘍によったものとして,しばしば報告されてきたからにほかならない.
 さて,本症の原因としては,従来、種々述べられているが,これが脳動静脈奇形に起因し視力障害を呈したものとしては,我々が文献的に調べた限りでは,現在まで報告されていない.

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日本脳神経外科学会事務局ニュース

ページ範囲:P.991 - P.991

第11回日本脳神経外科学会認定医認定試験
 昭和51年度第11回日本脳神経外科学会認定医認定試験は,去る7月31日,8月1-2日の3日間,東京で行われた.受験者は141名,合格者は92名で,合格率は65.2%であった.これで我国の脳神経外科認定医の総数は772名(現存766名,死亡6名)となった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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