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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻11号

1976年11月発行

雑誌目次

秀でたるものは義務(つとめ)多し

著者: 井奥匡彦

ページ範囲:P.1023 - P.1024

 『秀でたるものは義務(つとめ)多し』これは中世の騎士道精神のなかにうたわれた言葉である.そしてこの言葉が,幾多の有名な文豪によって小説の中にもとり入れられ,あるときには厳粛な,あるときには浪漫的な,そしてあるときには風刺的な場面にも用いられているのをよくみかける.
 義務(つとめ)というのは感情ではない.なすべきことをするというのは好きなことをするということではない.人間として優れ,才知にも卓越した男子が,あるときには国の為に平然として死地に赴かねばならぬこともあり,あるときには1人の女性の為に生命を献げることもあり得るという,当時の騎士の信条をうたったものである.文明が開け人間感情も極めて複雑化し,騎士の地位や身分を論じる世の中ではなくなった今日ではあるが,いつの世においても,優れた人間性の涵養に心掛けるならば,当然その時代に即応した形でこの言葉は生きていなければならない.

総説

血液脳関門の超微構造

著者: 谷栄一 ,   山形省吾

ページ範囲:P.1025 - P.1037

 1885年Ehrlich19)は酸性色素であるcoerulein-Sを静注した場合,種々の組織が染色されるにもかかわらず,脳組織は染色されないことを確認した.それ以後,種々の色素,コロイド,電解質を用いた実験でも9,27,38,47,54,63,75,88,92),これらの物質の血中濃度は高いにかかわらず,血中より脳組織へのとり込みはほとんどないか,ごく微量に過ぎないことが実証された.関門という言葉が始めて使用されたのは1921年SternとGautier81)で,彼らは血中有毒物質の脳内侵入を防禦する関門を想定し,barrièr hémato-encephaliqueと名づけた.もっとも当時は脳組織は髄液だけで栄養されるという考えが支配的で,彼らのいう関門も血液と髄液との間の関門を問題にした.
 その後,多くの実験的および臨床的知見から血液・髄液間および血液・脳組織間の物質交換は異なるという見解が支配的となり,関門という概念に関しても1929年Walter93)は,血液脳関門,血液髄・液関門および,この2者より若干不確実であるが,髄液脳関門の3つを想定した.従来,血液脳関門に関する研究は多数あるが,ここでは形態学的,ことに電子顕微鏡学的見地から,血液脳関門の中心課題を総括的に述べ,読者の御批判を仰ぎたい.

手術手技

頬骨骨折の手術

著者: 大野恒男

ページ範囲:P.1039 - P.1044

Ⅰ.はじめに
 顔面外傷—特に顔面骨々折のreconstruction—の治療は,本来ならば形成外科医が,あるいは眼科,耳鼻咽喉科,口腔外科の医師の協力の下に行われるべきである.しかし本邦では.未だ脳神経外科医が頭部外傷の治療と共に何らかの処置を行わなくてはならない場合も少なくないであろう.顔面外傷のうちでは頬骨々折の整復術は比較的容易な部類に入るとは言え,Kazanjian & Converse1)のSurgical Treatment of Facial Injuriesではzygomatic fractureの章のみで実に20頁を費やしているのであって,筆者にはそれらのすべてについて述べるだけの経験はない.
 そこで,我々Neurosurgeonでも何とか処理できるもの,さらに眼科や耳鼻科の協力を得ればより望ましいであろうと思われる程度の整復手術について記して責を果たすこととする.

診断セミナー

Dejerine-Roussy症候群

著者: 亀山正邦

ページ範囲:P.1045 - P.1049

I.定義
 Dejerine-Roussy症候群は,視床の主として後外側腹側核(Nucl.ventralis posterolateralis,VPLと略)がおかされたときにみられる症候群で,知覚中継核の障害を中心としたものである.この症候群は,視床障害の1つのMerkmalとして重要であるが,いうまでもなく,視床障害によるすべての症候がそれにつきるものではない.
 この症候群の特徴は,臨床的に比較的に多くみられること,各種の症候の組み合わせによって,臨床レベルにおいても病変部位の判定が比較的に容易になしうること,症状の中に,治療上問題となるものが少なくないことなどにある.従来述べられてきた視床症候群は,正しくはDejerine-Roussy症候群と称されるべきである1)

研究

脳腫瘍患者の血中polyamine—血中spermidineおよびspermine濃度と腫瘍の種類との関係について

著者: 寺林征 ,   谷村憲一 ,   植木幸明

ページ範囲:P.1051 - P.1056

I.緒言
 現在脳腫瘍の診断に用いられている各種補助診断法は,この数年間に著しく発達した神経放射線学を筆頭として,きわめて精度の高いものとなり,一方では脳神経外科医の臨床経験の蓄積も相まって日常の診療で診断に困ることはまずないといってよい.しかしこれらの各種診断法は脳腫瘍のmassとしての性質や循環動態の変化および脳機能障害に基づくものが大部分であり,存在する腫瘍の増殖状態を反映するものではない.その意味で脳腫瘍患者の体液より脳腫瘍の増殖状態に関連する物質の測定が可能であるならば,他の診断法と組合せてその消長をみることは非常に有用なことであろう.
 最近細胞増殖との関係が注目されてきているspermidineやspermineなどのPolyamineは,methionineやornithineを前駆物質として細胞内で生合成され,その生理的意義は主として核酸や蛋白合成に促進的に作用し細胞増殖を活発化するといわれている15).Polyamineは生体内に広くかつ比較的多量に存在するアミンであるが,鶏胚1,8,10)や再生肝4,9,10,11)などの細胞増殖が活発な組織ほどその含有量が高く,hepatomaやsarcomaなどの悪性腫瘍組織中でもpolyamine生合成に関与する酵素活性は著しく上昇していることが知られている10)

正常内耳道造影像

著者: 小林直紀 ,   斉藤由子

ページ範囲:P.1057 - P.1064

Ⅰ.はじめに
 Crabtree3)やScanlan25)が1964年にすでに『内耳道内に限局する腫瘍の早期発見は最早学問的重要性を有するのみではない』と述べているとおり,術中術後のmorbidityおよびmortalityの低下,顔面神経機能さらには聴神経機能の維持などの観点より,聴神経鞘腫の早期発見は,日常診療上常にこころがけねばならないことである.同腫瘍のX線学的早期診断には油性造影剤による脳槽撮影の寄与するところが大である.しかし,油性造影剤による障害は無視されるべきものではない.また血管撮影読影能の向上や,断層撮影を併用した緻密な気脳撮影手技の進歩により,小脳橋角に発育した腫瘍の診断には,これらの検査で充分目的の果たせる場合が多い.しかしながら,内耳道内に限局した腫瘍に関しては油性造影剤に頼らなければならないのが現状である15).著者は現在,聴神経鞘腫の疑われる患者に対する脳槽撮影は血管撮影および気脳撮影によっても否定できない症例にのみ用い,内耳道のみを造影する目的で,少量の造影剤を用いて行っている.
 手術または経過により,非腫瘍性と考えられた33名41例の内耳道造影像より,内耳道内腫瘍の早期発見の基となる内耳道の正常像およびX線解剖について検討した.

Dimer-X® Ventriculography

著者: 鎌野秀嗣 ,   天野数義 ,   花村哲 ,   畠中坦

ページ範囲:P.1065 - P.1073

 水溶性造影剤による脳室造影は1964年Campbell,Heimburgerら2)によってMeglumine iothalamate(Conray®)を用いてはじめて行われて以来,多くの報告がなされている.その主たる副作用は痙攣の発生であり16,17,19),造影剤が脳表を刺激することにより起こると考えられている.最近Fig.1に示したようなConray® 2分子を結合させた形のMeglumine iocarmate(Dimer-X®)が開発され,当初脊髄造影に用いられていたが5),1971年Gonsette4)が動物実験の結果,痙攣誘発性がConray®に比して低く安全性の高いことを確かめ,脳室造影に用いて以来,いくつかのDimer-X®による脳室造影の報告1,13,18,23)がなされている.著者らもこの新造影剤を1973年以来常用して,脳室撮影を行っている.その手技,特徴,診断的価値について論ずる.

症例

前脈絡動脈動脈瘤を合併した脳底部異常血管網症の1例

著者: 竹山英二 ,   松森邦昭 ,   杉森忠貫 ,   加川瑞夫 ,   福山幸夫

ページ範囲:P.1075 - P.1079

Ⅰ.はじめに
 脳底部異常血管網症と,脳動脈瘤の合併はまれである2,5,7,12).前者のいわゆる成人型はクモ膜下出血を初発症状とするものが多い15)といわれているが,脳動脈瘤を合併した場合,クモ膜下出血の原因をどちらに求めるかは,臨床的に重要な問題となる.最近,われわれは,前脈絡動脈の末梢に球状の動脈瘤をもった脳底部異常血管網症の1例を経験した.同症例を報告し,若干の考察を加える.

腰背部に左側方腫瘤を形成したMeningomyeloceleの1症例

著者: 岸原隆 ,   中川翼 ,   金子貞男 ,   斉藤久寿 ,   金田清志

ページ範囲:P.1081 - P.1084

Ⅰ.緒言
 小児中枢神経系の先天奇形の中で,spina bifida cysticaは,しばしば経験される疾患であるが4),cystの大部分は正中線上に位置するものであり,前方または側方に生じる例は稀である.特に,腰椎のレベルで外側に生じたspina bifida cysticaの報告は,我々の知る限りでは,本邦においてはなく,文献上4例2,3,5)を数えるにすぎない.
 このたび我々は,左,腰背部にcystを形成し,その上,多くの他の奇形を合併したsplna bifida cysticaの1症例を経験したので報告する.

頭蓋内に浸潤した篩骨洞癌の2例

著者: 成瀬昭二 ,   小竹源也 ,   山木垂水 ,   遠山光郎

ページ範囲:P.1085 - P.1093

Ⅰ.はじめに
 副鼻腔原発癌は少なく,全悪性腫瘍中,0.2%の頻度とされている(Martin13),Dodd et aL2)).その中でも,副鼻腔の部位別にみると,篩骨洞癌は全副鼻腔癌の5.6%(Larsson et al12)),5,5%(Hara5)),6.5%(FitzHugh et al.3)),33%(Osborn et al.15)),と少なく,残りのほとんどが上顎癌である.
 わが国では,犬山ら8)によると,上顎癌の比率がさらに高く,篩骨洞癌は全副鼻腔癌の2%で,総計しても34例の報告があるのみである.その内,頭蓋内へ浸潤したものは,わずか6例のみで,症例数の少なさのため臨床像に不明な所もある.最近,我々は,この篩骨洞癌の頭蓋内への浸潤例を2例経験したので,その詳細を報告し,文献的考察を加えて病態像を明らかにしたい.

骨折線拡大を示した新生児頭蓋骨折

著者: 大町純一 ,   福間誠之 ,   竹友重信 ,   垣田清人 ,   佐々木良造 ,   武美寛治

ページ範囲:P.1095 - P.1100

Ⅰ.はじめに
 乳幼児の場合,頭蓋骨の線状骨折後,時間の経過と共に,骨折部位が異常に拡大し,又拡大した骨欠損部に相当して軟かい腫瘤が触れてくることがある.
 1816年,John Howship8)が"Partlal absorption of the right parietal bone, arising from a blow on the head"in a child aged 9 month.の症例を報告して以来,

脳内血腫を伴った外傷性中硬膜動脈偽動脈瘤の1例—中硬膜動静脈瘻の合併

著者: 渡辺博 ,   工藤吉郎 ,   伊藤和文 ,   石井昌三

ページ範囲:P.1101 - P.1106

Ⅰ.はじめに
 外傷性偽動脈瘤が頭蓋内血腫形成の原因となる頻度はかなり少なく,更にそれが,中硬膜動脈偽動脈瘤の破裂に起因したとする報告は現在まで約30例を数えるに過ぎない.また,この外傷性中硬膜動脈偽動脈瘤は外傷急性期での血管撮影では造影され難く,症状の発現が亜急性期ないしは慢性期における急激な頭蓋内出血の形を取り,放置すれば致命的ともなり得るなど,臨床上いくつかの問題点を持つ.
 一方,外傷性中硬膜動静脈瘻に関しても外国,本邦を合わせて約30例とその報告は決して多くはない.しかもそれら疾患によって起こる頭蓋内血腫の大部分は硬膜外あるいは硬膜下血腫であり,脳内血腫の発生を見たとする報告は数例に過ぎない.今回我々は頭部外傷後,中硬膜動脈偽動脈瘤と中硬膜動静脈瘻を併発し,更に右側頭葉内に脳内血腫を形成した興味ある1例を経験したのでここに報告するとともに,若干の文献的考察を加えたい.

長期にわたって観察しえた内頸動脈瘤の増大像

著者: 鎌田健一 ,   堀純直 ,   原野秀之 ,   篠原利男 ,   八木久男 ,   外山香澄

ページ範囲:P.1107 - P.1111

Ⅰ.はじめに
 現在,脳動脈瘤に関してはその外科的治療方針もほぼ確立され,優秀な手術成績も報告されている.また,脳血管撮影の普及とともに斜位撮影法,頭蓋底撮影法などを行なうことにより脳動脈瘤の発見率もさらに高くなりつつある.
 しかしながら脳血管写上しばしば認められる動脈瘤様の小膨隆像がしだいに大きさを増しはっきりとした脳動脈瘤へと成長した過程を追求し得た症例の報告は少なく,このような小膨隆像の運命に関する報告もまた少ない.

Redundant Nerve Root Syndrome—症例報告と文献考察

著者: 小山素麿 ,   花北順哉 ,   石川純一郎 ,   近藤明悳

ページ範囲:P.1113 - P.1117

Ⅰ.はじめに
 脊髄血管撮影が脊髄血管腫の診断にきわめて有効な検査法であることはすでに良く知られており,その普及とともに発見率あるいは手術成績が向上してきている.myelogramで蛇行した陰影欠損がみられるときまず考えられるのは血管腫であり,血管撮影によってその性状,大きさ,分布などが確かめられる6,7,10,13)
 もしmyelogramでみられた蛇行状の陰影欠損が当を得た血管撮影で造影されないとき,例外的に adhesive arachnoiditis2)あるいはhypertrophic interstitial neuritis of Dejerine-Sottas1)を考慮しなければならないし血管腫自身の血栓形成という報告もある12).

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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