icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻12号

1976年12月発行

雑誌目次

啐啄同時

著者: 松本圭蔵

ページ範囲:P.1123 - P.1124

 研究でも事業でも物事が進歩し発展するためには,そのためのいろいろな要素がうまくかみあう必要がある.それは事の大小,種類を問わないと思う.良き師は良き弟子をえて,すぐれた着想はそれを実現する研究者の努力と研究成果とともに,それを理解し,評価できる人々をえて,はじめて世に出ることとなる.
 碧巌録に「啐啄同時(そつたくどうじ)」という言葉がある.峰は鳥の卵がかえるとき雛が内から吸ったりつついたりすることをいい,啄は親鳥が外からつつくことを言う.禅宗では師家(先生)が修行僧の機の熟したのをみて,悟りの動機を与えることを言っている.不得意の手術を苦心しながら幾度か行い困っているとき,その手術の名手から一言助言をもらっただけで,それからは気持よくうまく行えるようになったという経験をもつ人は,私ばかりではないと思う.啐啄同時とはもともとは宗教的なものではなくて中国の民間でいわれていた諺のようである.要するに,目的を一にする両者が機をえて相応ずるとき飛躍的な前進のエネルギーが生まれることを言っているのであろう.

総説

髄液系出血による頭蓋内圧亢進

著者: 山本信二郎 ,   林実 ,   藤井博之

ページ範囲:P.1125 - P.1136

はじめに
 頭蓋内出血において血液が髄液系に出た場合には,特に重篤な症状の形をとる.高血圧性脳出血の脳室穿破,動脈瘤破裂によるクモ膜下出血,外傷性急性硬膜下血腫などがその例である.
 脳内出血,硬膜外出血,あるいは実験における硬膜外加圧などによる症状には,頭蓋内占拠物質,脳の偏位あるいは,局所的損傷などに起因する二次的症状の役割が大きい.これに対し,髄液系出血の典型的なものでは,頭蓋脊椎腔内のisometricな圧亢進の他に,血液物質そのものの物理化学的作用による現象が加わり,特異な色彩をもつといえる.しかし実際には,a)出血そのものによる脳の機械的障害ならびに髄膜刺激,b)出血の第一次作用としての頭蓋内圧亢進,c)二次的頭蓋内圧亢進,d)血管攣縮,などが多少にかかわらず合併し,これらの器質的,あるいは機能的な脳障害によって頭痛,意識障害,脳の刺激,あるいは脱落の症状が発現する.

手術手技

視神経管開放術

著者: 深道義尚

ページ範囲:P.1137 - P.1142

Ⅰ.はじめに
 視神経管開放術は,視神経管の骨壁を除去して,内部にある視神経の減圧を目的とする手術である.視神経の解剖的な走行を考えた場合,この手術法には,原則的に異なる2つの方法の存することが理解できると思う.すなわち,開頭して視神経管の上壁を除去する方法と,前方の筋骨洞を経て,その内側壁を除去する方法である。いずれにしろ,管壁の一部を除去して視神経の減圧を行うことには変わりはないが,視神経管の全長にわたって減圧を行うためには,開頭による方法がすぐれていると考えられる.経筋骨洞法による場合には,全長の2/3程度開放できるのみである.
 ところで,私の行っている視神経管開放術は,この経篩骨洞法である.この方法は,1960年に佐藤爾氏が考え,仁保氏が行った方法であるが,原理的にはその約20年前から一部には知られていた方法である.私の手術法は,原理的には佐藤氏の方法によっているが,手技としては,仁保氏の方法とは少々異なるようである.以下にその手術法と一部の手術成績を述べてみたいと思う.

診断セミナー

小児の嘔吐—鑑別診断

著者: 福山幸夫 ,   北原久枝

ページ範囲:P.1143 - P.1147

Ⅰ.はじめに
 おそらく嘔吐をしたことのない子どもはいないであろう.嘔吐は日常ごく普通にみられる症状であり,一種の生理現象ともみなされる一過性の嘔吐が日常生活の中でしばしば起こっている.
 「吐きっぽい子」というレッテノレの子どもがいる.たとえば咳をしたり,錠剤を無理して飲んだり,診察で舌圧子を口内に入れようとしただけで吐いてしまう手合いの子どもである.これは神経質な子どもがいやなことを無理強いされるときに示す心理的反射的嘔吐であり,医学的にはあまり重大な問題ではない.

研究

神経鞘腫および神経線維腫の組織培養

著者: 久保長生 ,   上条裕朗 ,   氷室博 ,   喜多村孝一 ,   沖野光彦

ページ範囲:P.1149 - P.1155

I.緒言
 Harrison(1907)による蛙の神経の培養に始まる神経系の培養は培地などの改良により非常な進歩をみせている.脳腫瘍の組織培養はKredel(1928)1),Bruckley(1929)3)らによって本格的に研究が始められ,これ以後,脳腫瘍の分類,細胞構成の解明,cell kineticsなどの研究に大きく貢献している.神経鞘腫については,Kredel(1929)2)が7例のacoustic neurinomaを培養して以来,Cox and Cranagc(1937)4),Murray(1940)5),Takeuchi(1973)12)らによって報告されている.今回,我々はacoustic neurinma,spinal cord neurinoma,von Recklinghausen's diseaseのいわゆるneurofibromaの組織培養を行なった.組織培養は単なるmonolayer methodとgelfoamを用いるorgan culture methodを行ない,これらの所見よりneurinomaの細胞成分について若干の知見を得,またneurinomaとneurofibromaとの共通点および相異点について興味ある所見をえた.

椎骨動脈・後下小脳動脈分岐部動脈瘤の外科

著者: 唐澤淳 ,   菊池晴彦 ,   古瀬清次 ,   榊寿右 ,   吉田泰二 ,   大西英之

ページ範囲:P.1157 - P.1163

Ⅰ.緒言
 椎骨動脈・後下小脳動脈分岐部動脈瘤(以後VA・PICA動脈瘤と略す)は後頭蓋窩動脈瘤の内で,脳底動脈分岐部動脈瘤,脳底動脈幹動脈瘤と同様に多く見られる.しかし,その診断に際しては,後頭蓋窩底骨陰影と血管像が重なるため読影困難で,原因不明のくも膜下出血として放置されている場合もある.
 我々は椎骨動脈動脈瘤が疑われる場合,または原因不明のくも膜下出血の場合の椎骨動脈撮影に際し,必ず開口位撮影を行い,椎骨動脈・後下小脳動脈分岐部の動脈瘤の有無を観察している.

"Diencephalic Cyst"—特に他のmidline dysraphismとの関係について

著者: 苧坂邦彦 ,   佐藤倫子 ,   大洞慶郎 ,   玉木紀彦 ,   松本悟 ,   児玉宏

ページ範囲:P.1165 - P.1176

Ⅰ.はじめに
 1973年Broklehurst1)は巨大な異常腔が頭の正中部で頭蓋骨に接し,時には頭蓋骨外にも延びている奇形4例を紹介し,これを"diencephalic cyst"と命名し,独立の疾患群として取り扱うべきであると主張した.胎生初期第3脳室天井,すなわちdiencephalic roofは大脳上端とほぼ同じ高さにあるが,大脳の発達とともにこのdiencephalic roofは前下方に沈下する.
 Brockdehurstの説明によれば,当奇形での正中部異常腔はdiencephalic roofの正常な前下方への沈下が行われなかったために,胎生初期の位置にとどまった本来の第3脳室である.当奇形は前脳胞の障害によるanterior encephaloceleおよびholoprosencephalyなどの症例群と菱脳胞の障害によるDandy-Walker cystおよびArnold Chiari malformationの中開に位置するもので,神経管が閉鎖してから脳梁の発達の始まる60mm期までの時期の障害によって生じたものであろうと彼は推定している.

急性頭蓋内圧亢進時の脳腫脹に関する実験的研究—とくに,Cerebral vasoparesisにおよぼす呼吸,循環動態の影響について

著者: 重森稔 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.1177 - P.1184

Ⅰ.緒言
 急性頭蓋内圧亢進時の脳腫脹は脳神経外科の臨床でしばしば遭遇する病態であり,従来より脳循環や脳代謝などの面から多くの検討がなされてきている.しかしながら,その原因や病態生理の面で現在なお不明の点も多く,その予防や治療上にも種々の困難性を秘めている.一般に,急性頭蓋内圧亢進時の脳腫脹は脳血管トーヌスの減弱ないし消失,すなわちcerebral vasomotor paresis or cerebral vasomotor paralysis(以下cerebral vasoparesis)による脳血管床内血液量の急速な増大が主役をなすと考えられている10).そして,このcerebral vasoparesisないし急性脳腫脹の病態解明のために,調節呼吸のもとでかなり高い頭蓋内加圧を行う多くの実験が行われているが,これらの病態の進展をみてみると少なくとも初期の段階において呼吸障害の影響がきわめて重要な要素の1つとなっていることに関しては諸家の意見が一致している4,6,20)
 私どもは,急性頭蓋内圧亢進時のcerebral vasoparesisの発生,進展の状態を観察,検討する目的で,より実際の臨床例に類似させるために自発呼吸下に実験を行い,あわせて呼吸,循環動態の影響,脳静脈系や全身循環動態の変化などの面から観察を行い興味ある知見を得たのでここに報告する.

症例

天幕内硬膜動静脈奇形—1治験例と文献的考察

著者: 宮城航一 ,   岩佐英明 ,   吉水信裕 ,   増沢紀男 ,   石島武一 ,   佐藤文明

ページ範囲:P.1185 - P.1191

Ⅰ.はじめに
 特発性硬膜動静脈奇形はNewton(1968)23)の報告したごとく,後頭蓋窩に生じることが多く,症状,治療,病理所見とも脳実質内動静脈奇形とは明らかに区別すべき疾患である.
 最近本邦においても注目され,後頭蓋窩に限定すると22例を数えるに至った11,12,15,16,25,26,30,36,38-41,43,44,47).我々も最近本例を経験したので,これまで報告のあった外国例90例1-10,13,14,17-24,27-29,31-35,37,42,44-46)と本症例15)を含め合計112例の検討結果を併せ報告する.

被膜骨化を認めた慢性硬膜下血腫の1治験例とその文献的考察

著者: 遠藤俊郎 ,   佐藤壮 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1193 - P.1197

Ⅰ.はじめに
 慢性硬膜下血腫の発生あるいはその消長過程に関してはいまだに定説はないが,ひとたび吸収過程に人った血腫被膜には結合織性の成分が増殖し,器質化していき,一部のものでは被膜の石灰化,さらには骨化へと変化が進むものと考えられている.しかし実際には被膜の石灰化や骨化を認める症例は決して多くはなく,特に組織学的に骨化を認めた症例はきわめて稀である.最近我々は血腫被膜に骨化を認めた興味ある慢性硬膜下血腫の1例を経験したので報告し,若干の考察を加える.

正常圧水頭症によりパーキンソン様症状を呈した側脳室内subependymal glomerate astrocytomaの1例

著者: 若井晋 ,   青井信彦 ,   久保田勝 ,   水谷弘

ページ範囲:P.1199 - P.1203

Ⅰ.はじめに
 正常圧水頭症(以下NPHと略す)は痴呆,歩行障害,尿失禁1)をその特徴的な臨床症状とするが,最近では他の症状をも伴ったりあるいは必ずしも下記3徴候がそろわない例が報告されており,他疾患との鑑別診断および治療上の問題となってきている.1973年Sypertら15)はparkinsonismdementia complexを呈したNPHの3例を報告しているが,今回我々は,入院時,痴呆およびバーキンソン様症状を呈しV-Pシャントにて症状の消失した症例を経験した.更にこの例では精査により右側脳室内の腫瘍が発見され全摘出した.組織学的にはBoykinら2)の言う"subependymal glomerate astrocytoma"と言えるものであった.本邦では今のところこの様な症例の報告は見当らず,文献的考察を加えて報告する.

脳腫瘍を疑わせた放射線脳壊死の2症例

著者: 池田宏也 ,   金井信博 ,   神川喜代男

ページ範囲:P.1205 - P.1211

Ⅰ.はじめに
 中枢神経系はradioresistantと考えられ,その放射線障害に対しては,あまり問題とされない時期があった.頭頸部の悪性疾患に対する放射線治療後,数カ月から数年を経過して生じた脳障害があいついで報告され,遅発性放射線脳壊死(delayed radiation necrosis of the brain)として重視せられるようになった.このradiation necrosisは,脳内占拠性病変として頭蓋内圧亢進など,脳腫瘍と類似した症状と所見を示すことがある.そのため脳腫瘍として手術され,組織学的検査によってradiation necrosisと診断された報告が散見される.わたくしたちも頭蓋外悪性腫瘍の術後に放射線治療を行った後,脳のradiation necrosisを生じた2症例を経験した.それぞれ放射線治療後2年2カ月,3年を経過したあと脳腫瘍を疑わせる症状を呈し,開頭術をうけ,組織学的に診断された.この2症例を報告し,あわせて類似せる報告例について文献的考察を述べる.

--------------------

「Neurological Surgery 脳神経外科」第4巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?