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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻2号

1976年02月発行

雑誌目次

To treat or not to treat

著者: 松本悟

ページ範囲:P.105 - P.106

 胸椎部にまでおよぶ巨大脊髄髄膜脱,あるいはHydroanencephalon, Holoprosencephalonに対する治療方針をどうするか.さらに,高度水頭症を合併した腰仙部完全麻痺の脊髄髄膜脱の新生児に対し,どんな治療を施すべきか,先天性神経奇型にかぎらず,脳挫創後のいわゆる植物人間に対する治療はどうあるべきか,言語中枢,脳幹におよぶ脳腫瘍や血管奇型に対して,具体的にどんな治療がのぞましいのか.
 診断技術や,治療手技の改良進歩がいかにつづいても,治療の可否についての判断に迷う経験は,脳外科医である限り,だれしも持っているであろう.「それは,脳外科医個人の治療に対するphylosophy, policyで決定されるべきだ」と言ってしまえばその通りである.内外の脳外科医にお聞きすると,一人一人の経験と信念にもとづいたpolicyが返ってくる.「生きとし生きる者すべて可能なかぎり治療をほどこし,1分1秒たりとも生命を永らえるべきだ」との理想論の実践から,「遷延性昏睡をふくめ,精神神経機能の一定限度以上の脱落があれば,治療の対象とすべきでない」との現実的解決法まで,いろいろである.

総説

脳のきずの治り方

著者: 北村勝俊 ,   澤田浩次 ,   大田秀穂

ページ範囲:P.107 - P.114

 モントリオール神経学研究所の玄関ロビーの天井は一面小脳のGolgi標本を図案化してデザインされているが,その中央に脳を象徴する牡羊の頭と,同じく脳を表わすものとして古代エジプトのEdwin Smithのパピルスから取った象形文字が画かれ,それを取り巻いてGalenから引用したギリシヤ語が書いてある."I have seen a wounded brain healed"という意味だそうである.Galenは脳のきずがどのように治るのをみたのであろうか.外科は手術的療法を追求するものであるが,手術的療法とは,きずの治ることを期待して,人工的に新しいきずを作ることにほかならない.したがって外科学がまず教える所は創傷治癒である.このことは脳神経外科でも同じであり,われわれ脳神経外科医も,自身患者の脳に加えたきずがどのような治癒過程を経て,どのような形の瘢痕に落ち着くのかを知った上でメスを振るうべきではなかろうか.脳外傷の形態学的観察は数多くなされているが,脳の手術創についての報告は意外に少ない.著者の一人北村4)は人脳手術創について,各時期の組織像を光顕的に調べたことがあるが,その後次第に電顕的観察も盛んに行われている一方では,脳に対して単に切開,穿刺等の機械的組織断裂のみでなく,諸種の金属あるいはプラスチック等の異物を永久に留置することも,新しい脳外科技術として益々広く行われるようになっており,これら異物に対する脳の組織反応もまた重要な課題である.

手術手技

脳動静脈奇形の手術

著者: 松角康彦 ,   丸林徹

ページ範囲:P.115 - P.123

Ⅰ.緒言
 脳動静脈奇形の外科的療法を現在のように積極的な摘出手術として完成させるまでには,およそ半世紀に近い努力が払われたといえる.その点では脳動脈瘤の外科治療と軌を一にするところがあるが,現今,脳動脈瘤の手術がclippingを主とする術式に,ほぼ公式化されたのと比較すると,脳動静脈奇形の手術療法には,いまだ多くの未解決の問題があり,手術適応の決定にも相一致せざる立場がある.もちろん手術手技の向上には,近代麻酔学の発展や,神経放射線学における診断技術の進歩,また特に手術用顕微鏡の導入など,脳動脈瘤と等しく恩恵を蒙るものであるが,脳動静脈奇形の手術は,それ以前に問題の動静脈奇形が技術的に摘出可能であっても,摘出することが,是か非かを決定する必要がある.手術々者の技術的水準は措くとしても,当面する脳動静脈奇形の存在が,いか程患者の神経学的異常所見と関連があり,また同時に周辺脳組織の正常機能の維持に無関係でないかを判定するのは,容易なことではない.
 最近ようやく積極的全摘出の症例が増加し,優位半球の運動領に存在するような動静脈奇形の摘出症例の報告すらみられるようになった背景には次第に全摘出手術が必ずしも周辺脳組織の循環阻害を招くものではなく,また脳動静脈奇形に包含された.脳組織はしばしば機能的に無意味の組織であることが多いと判明したからにほかならない.

診断セミナー

失行症

著者: 岩田誠

ページ範囲:P.125 - P.133

Ⅰ.行為(praxies)とは何か1,2)
 "行為(praxies)"は,反射のごとく生来備わったものではなく,獲得されていくものである.Piagetによれば,単なる反射の段階から,獲得性の"行為"への進化は,外来の事物を,既存の反射的な運動系の中にとりこむこと(同化:assimilation)1,2)によって始まる.例えばsucking reflexは生来性の反射であるが,たまたま自分の母指が口のそばにいった時,それをくわえて吸う,ということが行われるとき,sucking reflexという生来性の運動系に,自分の母指という物体が同化され,1つの行為が成立すると考えるのである.この段階では,未だ行為の意図はなく,偶然性の支配が大きい.しかし,外界の事物が,既存の反応シェーマの中にくみいれられる(同化)ことによって,結果的に反応シェーマの可能性が拡げられてくる.このようにして改良されてきた反応のシェーマを,今度は新しい事物に対してあてはめていくこと(調節:accommodation)1,2)により,行為に1つの目的が生れ,意図的な行為が可能となる.例えば,目にみえるものを手でつかむような行為は,外界の事物に対する意図的な調節として理解されるのである.

研究

破裂脳動脈瘤の早期手術—特に48時間以内の手術

著者: 鈴木二郎 ,   吉本高志

ページ範囲:P.135 - P.141

 破裂脳動脈瘤の手術時期は,再破裂を防ぐために,破裂後の早期が理想的である.しかし,早期に手術を施行した症例の手術成績は,2週間以後に行なった症例に比して明らかに悪く7,11,14,15),このため早期特に1週間以内には手術を行うべきでないとする人が多い4,10,13).しかし一方,破裂脳動脈瘤のnatural historyをみると,2週間以内に既に全死亡例の半数以上が死亡しており9),ここに我々脳神経外科医のジレンマがあったのである.
 東北大学脳神経外科に於て,1971年より1973年の3年間に経験した脳動脈瘤症例を,破裂発作より手術日迄の期間を,24時間以内に根治手術を施行した群を1日目症例,24時間以降48時間迄を2日目,48時間以降72時間迄を3日目として検討したところ,手術成績は,1週間以内に手術を施行した群が,最も高い死亡率を示していた.しかし,1週間以内に手術を施行した症例を,さらに術日毎に調べると,術日によって結果は異なり,破裂発作後24時間(1日目)に手術を施行した症例は死亡例はなく,48時間(2日目)の症例も死亡例は10例中1例のみであったが,3日目が最も死亡率が高く,4日,5日目の順で続いていた.

下垂体およびその近傍腫瘍の内分泌学的検討(第3報)—Prolactin分泌性嫌色素性下垂体腺腫について

著者: 魚住徹 ,   森信太郎 ,   渡部優 ,   滝本昇 ,   最上平太郎 ,   大西利夫 ,   橋本琢磨 ,   宮井潔 ,   熊原雄一

ページ範囲:P.143 - P.148

Ⅰ.緒言
 下垂体ホルモンのうちprolactin1)は人では催乳ホルモンとして知られ,その分泌機構が主にprolactin inhibiting factorによって調節されていると言われている.下垂体腫瘍にprolaetinが分泌せられているらしいことは,例えば,acromegalyの患者にgalactorrheaのあることから想像されてきた.acromegalyや巨人症等hormone過剰分泌症状のない下垂体腺腫において,稀れにgalactorrheaのあることが報告2,3,4)されているが,いわゆる臨床的に日常最も遭遇することの多いchromophobe adenomaの患者におけるprolactin分泌の実態は全く明らかにされていない.
 本報告は我々が遭遇した25例のchromophohe adenomaについてprolactin分泌の実態を明らかにしたものである.

正常圧水頭症におけるshunt術の効果—特にその神経症状の推移について

著者: 露無松平 ,   菅沼康雄 ,   大畑正大 ,   平塚秀雄 ,   稲葉穣 ,   岡田洽大 ,   星豊 ,   布施正明

ページ範囲:P.149 - P.154

Ⅰ.はじめに
 1965年Adamsら1)により初めて正常圧水頭症なる概念が提唱されて以来数多くの報告が見られてきたが本疾患の発生機序に関してなお幾多の問題があり,必ずしも解明されたとはいいがたい.また本疾患の概念,シャント手術の適応のcriteria,臨床的な諸検査や補助診断法の限界等に関する見解にもかなりの混乱が見られている.
 われわれはくも膜下出血後の髄液循環動態については今まで報告してきたが今回は主として脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後,およびその他の原因で起こる正常圧水頭症(以下NPHと略す)にshunt手術を行なって何らかの効果発現の認められた18例についてその神経症状の推移を詳細に検討し興味ある知見が得られたので報告する.

小児のRI-cisternographyとその特殊性について

著者: 国保能彦 ,   牧豊

ページ範囲:P.155 - P.162

Ⅰ.緒言
 ラジオアイソトープ(RI)を髄腔内に投与して脳脊髄液(CSF)の流れを体外から観察する検査法をRI-cisternographyと命名し,現在の如き臨床面での発展の基礎を築いた研究者はDiChiro5,6,7)とその協力者達である.彼等を含め多くの研究者達の報告を通覧してみると,病態生理学的な検索に関してはかなり詳細な事項についても報告されており,ことに成人及び小児の水頭症についての報告は多い.しかし,対象を臨床例とする以上当然ではあるが,正常のRI-cisternography1),なかでも小児の場合を論じた報告を見ることはできない.
 著者等は過去4年半(1970年8月−1974年12月)に430例(成人201例,小児229例)のRI-cisternographyを経験してきたが,その過程で,本検査法の適応をはじめとし核種の選択,手技,被曝管理更には診断の基準となるべきcisternogram上の正常pattern等々が未だ充分確立されていないことによる不都合を痛切に感じてきた.とくに正常patternについては,成人の場合は一応確立されているが,小児では未だ確立されたとはいえない.細部においては両者は異るpatternを示す.著者等はこの事実に遭遇し評価に戸惑った.

急性頭蓋内圧亢進時における脳血流量,頭蓋内圧,全身血圧および脳波におよぼすソルコセリルの影響

著者: 窪田惺 ,   朝倉哲彦 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.163 - P.173

Ⅰ.緒言
 頭蓋内病変の治療においては,原疾患に対する治療を行うことが第一義であるが,そのほか原疾患に伴う,或いは外科的侵襲後に生じる脳浮腫に対する予防および治療も忘れてはならない重要な問題である.
 現在脳浮腫対策として,手術的療法と薬物療法とがあるが,外科的療法についてはその適応に限界があり,また外科的処置を加えた後も薬物療法に頼らざるを得ないことが多い,薬物療法としては,副腎皮質ステロイドおよび高張液療法が現在主体となっているが,著者らはソルコセリル(高度に細網内皮系を賦活した幼牛血液の除蛋白抽出物:東菱薬品)の生化学的特性に着目し,本剤を臨床的に重症脳損傷患者に投与し,その有効性を先に報告した2)

症例

ほぼ完全な自然消失をきたした脳動静脈奇形の1例

著者: 佐々木潮 ,   板垣徹也 ,   清水英範 ,   高橋勝

ページ範囲:P.175 - P.181

Ⅰ.はじめに
 脳動静脈奇形(AVM)は,脳動脈瘤と共にクモ膜下出血をきたす2大疾患ではあるが,保存的治療の予後も,脳動脈瘤に比べれば比較的良好であり,種々の条件により保存的,対症的な治療に終ることも多い13).このように自然放置されたAVMの形態的変化について検討した報告は意外に少なく,このなかでもAVMの自然治癒の報告例は極めて稀であり,文献上10例に満たない3-6,8,9,11,18)
 我々は,左半身麻痺で発症した右頭頂部のAVMが3年後のangiographyでほぼ完全に自然治癒した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

経口的斜台切除法による脳底部動脈瘤手術の経験

著者: 端和夫 ,   白馬明 ,   生野弘道 ,   西村周郎

ページ範囲:P.183 - P.189

Ⅰ.はじめに
 椎骨脳底動脈瘤で正中部にあり,しかも斜台の尾側1/3の高さにあるものは,上方よりsubtemporal transtentorialに接近すれば頸静脈隆起にさえぎられ,下方より後頭下開頭を行なえば,下位脳神経,延髄に障害されて接近することが難しく,手術的にno man's landとなっている.したがって,直接この部位に到達するにはtranscervicalあるいはtransoralの経路のいずれかを用い斜台の前面に達し,斜台切除を行なう必要がある.Transcervical transclival approachはStevensonら6)により始めて報告され,動脈瘤に対しては,Fox3),Wissingerら7)による成功例が報告されている.一方,transoral routeによる動脈瘤手術は佐野ら5)の成功例の報告があり,そのほか,Yasargil8),Drake1)らによっても試みられている.
 著者らは左椎骨動脈より発生した巨大紡錘形動脈瘤に対して,transoral transclival approachにより手術を行ない,動脈瘤のtrappingと内容吸引に成功したが,術後1カ月目に髄膜炎のために死亡した1症例を経験した.症例を報告するととともに,この手術法の問題点について考察,反省したいと考える.

頭蓋骨原発Osteosarcomaの1例

著者: 尾藤昭二 ,   榊三郎 ,   郷間徹

ページ範囲:P.191 - P.195

Ⅰ.緒言
 原発性頭蓋骨腫瘍は一般に少なく,脳腫瘍に比べて診断が比較的容易であることから関心がはらわれることが少ない,なかでもosteogenic sarcomaが頭蓋骨に原発することはむしろ稀であり,その根治手術は解剖学的位置関係から困難である場合が少なくなく予後は極めて悪い.
 著者らは前頭骨の左前額部,左上眼窩縁,左前頭蓋底にひろがったosteosarcomaを経験した.本例は摘出手術後2年7カ月経過した現在元気に就業しているが比較的長期間生存している症例であり報告する.

髄膜炎をくりかえした特発性髄液耳漏の1治験例

著者: 橋本卓雄 ,   間中信也 ,   名和田宏

ページ範囲:P.197 - P.201

Ⅰ.はじめに
 髄液耳漏は頭蓋底骨折の結果で生じるものが大部分である.その他,脳神経外科領域では聴神経腫瘍の術後に,耳鼻科領域ではstapectomyを施行した後に一過性の髄液耳漏が経験されるが,そのほとんどは自然治癒する.中耳,およびその附近の腫瘍や感染などにより側頭骨にerosionが生じ,髄液耳漏が惹起されることもある.
 これらの疾患に起因しない,いわゆる特発性髄液耳漏は,文献的には,1897年Escatによりはじめて報告されているが6),その後も15例の報告例をみるにすぎず,また本邦での報告例は著者の渉猟しえた範囲では類似例がなく,きわめてまれな疾患である.

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著者: 編集部

ページ範囲:P.202 - P.202

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基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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