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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻5号

1976年05月発行

雑誌目次

心の糧

著者: 斎藤義一

ページ範囲:P.417 - P.418

 卒業試験も終りに近づくと,よく卒業予定の学生諸君から,先生は何故脳外科を志望されたのかと聞かれます.これは私にとり甚だ具合の悪い質問であり,簡単明瞭な答を持ち合わせません.しかし過去に此の種の記事を読んだり人の話を聞くうちに,幾つかの答えが用意され,これらをとりまぜて参考までに答える習慣が身につきました.即ち脳外科治療の劇的な効果への驚きを語り,あるいはその深遠な研究へ敢えて挑戦をすすめるなどであります.
 私自身は終戦前年に卒業し東大第一外科に入局しましたが,そこで,アメリカ留学中を,開戦のため交換船で帰国後間もない,当時の講師清水健太郎先生を知り,その人間的魅力にひかれ,はたまた先生から常日頃わが国の脳神経外科が世界的レベルから如何におくれをとっているかを聞かされたりして,今後のわが国脳神経外科のあり方など自己流に判断したものでした.それが何時の間にか終世の恩師と仰ぎ門下の端に名を連ねさせて頂くに至ったのでありますが,学生時代から確固たる信念の下に,外科学以前に精神,病理学まで修得準備された恩師の目からはさぞかしはがゆい存在にみえたことかと思います.

総説

中枢神経系の感染症

著者: 坂田一記 ,   山田弘

ページ範囲:P.419 - P.429

Ⅰ.はじめに
 最近のめざましい抗生剤の発達にもかかわらず,なお耐性菌感染,opportunistic infectionなど難問題が存続していることは周知のごとくであり,中枢神経系感染の場合は,血液脳関門などの存在がさらに問題をむずかしくする要因となっている.ところで中枢神経系の感染症といえば,頭蓋腔内および脊椎管内の感染症を包含するが,ここでは後者についてはふれないこととし,前者のうち,「外科的治療の対象となるもの」および「外科的治療の結果としての感染」という観点から,脳膿瘍,硬膜下膿瘍,感染性水頭症および異物留置に伴う頭蓋内感染の4主題に限定して記述することとしたい.

手術手技

Cranium bifidumの手術

著者: 三輪哲郎

ページ範囲:P.431 - P.441

Ⅰ.はじめに
 二分頭蓋(頭蓋披裂)cranium bifidum(cranioschisis)は中枢神経系の先天性奇形,dysraphic stateの一型であり,胎生学的に神経管閉鎖障害とそれに影響を受けた中胚葉性組織--正常なら神経管をとりまいて支持する器官へ分化するものの形成不全に基づいて生ずるものと説明されている.
 これらの発生頻度は生存新生児3,500人から12,000人に1人の割でみられるといわれ,またspina bifidaに対して5:1-8:1の割合で発生しているとされ,まれな疾患である5,9,14,20,21,23,24,34)

診断セミナー

コルサコフ症状群

著者: 浜中淑彦

ページ範囲:P.443 - P.449

I.コルサコフ症状群の定義と研究史
 コルサコフ症状群Korsakoff(他にドイツ語圏,フランス語圏ではKorsakow,Korsakovとも転記)syndrome(以下K症状群と略す)は今日,健忘amnesia(英);Amnésie(独);amnesie(仏)*1),失見当disorientation;Desorienierung od.Desorientiertheit;désorientation,作話confabulation or fabrication;Konfabulation;fabulationの3主要症状によって特徴づけられる(必ずしも慢性・持続性ではないにしても)比較的安定した精神的状態像として定義されるのが一般である.
 もっともK症状群の定義については,いつの時代にも諸家の間に細部にまでわたる完全な一致があったわけではないし,今日でもその事情に変わりはなく,またほぼ同義の術語として等しく広く用いられているものに健忘症状群amnesic syndrome; amnestisches Syndrom; syndrome amnesiqueがあるが,それはあくまで症状理解に際して置かるべき力点の相違にすぎず,本質的な点にかかわる事柄ではない.

研究

脳底動脈血流に関する実験的研究

著者: 島健 ,   石川進 ,   佐々木潮 ,   宮崎正毅 ,   日比野弘道 ,   桑原敏 ,   魚住徹

ページ範囲:P.451 - P.457

Ⅰ.はじめに
 脳の内頸動脈領域,すなわちWillis輪の前半部に属する脳血行動態については,これまでに多くの事実が解明されてきた.しかし,椎骨・脳底動脈領域に関してはその血流測定が困難なことなどから,未だ不明の点が少なくない.一方,臨床面ではmicrosurgeryの進歩,普及につれて後頭蓋窩の動脈瘤,動静脈奇形に対しても積極的に手術療法が行われるようになり,脳底動脈を直接手術野に露出することが珍らしくなくなってくるとともに,椎骨・脳底動脈系の血行動態の研究の必要性が益々高まってきた,この論文ではイヌの脳底動脈血流量を直接電磁流量計で測定しながら,頭蓋内外の諸動脈の閉塞の影響,血中CO2分圧の副行循環に及ぼす効果,reactive hyperemia, subclavian steal現象などについて検討を加え,脳底動脈の血行動態を解明する上の一助としたい.

開頭術術前術後の神経耳科学的検査

著者: 田島正孝

ページ範囲:P.459 - P.464

Ⅰ.緒言
 脳神経外科を訪れる患者の中でも,めまいや平衡障害を訴える患者は多くいるが,これらの患者の中には神経学的所見に乏しく,いろいろの検査を行っても何ら病的所見を示さないものが珍しくない.このような場合に,神経耳科学的検査が診断上重要な役割を果すことがしばしばあり,このことはすでに従来より多くの報告がある.一方神経耳科学的検査は何回もくり返し検査することができ,経時的および定量的な変化を観察することができる.
 開頭術の術後に脳幹および大脳半球の障害が一過性に起こるであろうことは十分に想像されることであるが,手術直後の安静を要する状態で患者に負担のかかる検査をくり返し行うことは困難である.

下垂体およびその近傍腫瘍の内分泌学的検討(第6報)—Acromegalyの治療前下垂体ホルモン分泌能について

著者: 渡部優 ,   滝本昇 ,   最上平太郎 ,   橋本琢磨 ,   大西利夫 ,   宮井潔 ,   熊原雄一 ,   森信太郎 ,   魚住徹

ページ範囲:P.465 - P.470

Ⅰ.緒言
 acromegalyはその特異な臨床症状から臨床研究の歴史は古く,かつその本態が下垂体からの成長ホルモン過剰分泌によることも早くから明らかにされてきた.しかし他の成長ホルモン以外の下垂体ホルモン分泌能に関しては他の下垂体腫瘍,すなわちhormone非分泌性のchromophobe adenomaなどと同じく必ずしも正確な報告がない.その臨床像から末梢内分泌臓器の機能を介して下垂体ホルモン分泌能を推測するような成績はかなりの数報告されてきたが1),近年の急速に発達した下垂体ホルモン直接測定による成績は数少ない.本論文の目的は自験例のacromegaly,すなわち下垂体性GH過剰症におけるGH以外の下垂体ホルモン,すなわちACTH,LH,FSH,TSH,prolactin(PRL)の実態を明らかにすることである.

高血圧性脳出血例脳血管写像にみられる造影剤血管外漏出像とその意義—自験14例の検討

著者: 高田育郎

ページ範囲:P.471 - P.478

Ⅰ.緒言
 高血圧性脳出血例における脳血管写において造影剤の頭蓋内血管外漏出,すなわちExtravasationを初めて認めたのはWesterburg(1966)20)である.氏は脳血管写施行中に意識障害が増強した高血圧性脳出血の1例においてExtravasationを認め,脳内出血持続の現象であるとした.その後Bergstrom and Lodin(1967)3),Huckman et al.(1970)8),Leed and Goldburg(1970)11),Wolpert and Schatzki(1972)23)によって同様な症例が報告されているが総計10例にすぎない.他方,本邦においては水上ら(1971)14),古和田ら(1971)10)によって6例および5例がそれぞれ報告されているのみである.しかし諸家の報告の多くは単にExtravasationの事実を記載したにとどまり,Extravasationの意義については言及していなく,わずかに水上ら14)がExtravasationと血腫形成機転について,またWolpert and Schatzki23)がExtravasationの出現時期および出血源について検討しているのみである.

症例

Sinus Pericranii様の後頭部腫瘤

著者: 井沢正博 ,   間中信也 ,   名和田宏

ページ範囲:P.479 - P.482

Ⅰ.はじめに
 後頭部に腫瘤を形成する疾患は,epidermoid tumor,cavemous hemangioma,eosinophilic granulomaなど色々のものが挙げられ,しばしばその鑑別診断が困難な場合がある.今回われわれはその性質やレントゲン所見より,sinus pericranii(頭蓋骨膜洞)ときわめてまぎらわしい形をとった後頭部腫瘤の1例を経験した,この例は後頭部腫瘤の鑑別診断上,今後の参考になると思われるので報告する.

Meckel腔より発生したparatrigeminal epidermoidの1例

著者: 宮坂佳男 ,   森井誠二 ,   橘滋国 ,   斉藤武志 ,   大和田隆

ページ範囲:P.483 - P.488

Ⅰ.序論
 頭蓋内epidermoidは,頭蓋内腫瘍の0.6-2.5%4)を占めるまれな腫瘍とされ,本邦では,牧(1964)12).石森(1967)6),落合(1972)19),らの報告が散見されるにすぎない.本腫瘍の好発部位は小脳橋角部,旁鞍部であるが4,11),我々はMeckel腔より発生したいわゆるparatrigeminal area3)のepiderlnoidを経験した.このような報告例は文献上きわめてまれで,臨床的には他のpartitrigeminal tumorsとの鑑別がしばしば困難であり1,6,22),またtrigeminal neuralgia,atypical facial painとしてその診断,手術時期を失することが多い5,6).したがって自験例を中心に文献的考察を加え,その臨床症状,鑑別診断を中心に述べ,いくばくかの早期診断のために供したい.

Dural Arteriovenous Malformation of the Posterior Fossa—特にその本態および治療について

著者: 高久晃 ,   佐藤智彦 ,   坂本哲也 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.489 - P.501

Ⅰ.はじめに
 後頭蓋窩に発生し,内頸動脈天幕枝および硬膜枝,外頸動脈,椎骨動脈などの頭蓋外血管を流入動脈とし,横静脈洞あるいはS字状静脈洞へ流入する一連の動静脈奇形はその症状,動静脈血短絡動態の面で他の脳動静脈奇形とは明らかに区別されるべき疾患群である.
 しかしその報告は比較的新しく,主たその名称もまちまちであり,この疾患群に対しては2,3の異なった名称での報告が認められる1-7,9,11-16,19-21).1966年Newton11),1968年Nicola12)らはこの一群の動静脈奇形をdural arteriovenous malformation of the posterior fossaとして報告しているが,本疾患における動静脈血短絡の場が脳内ではなく天幕上下の硬膜,および大脳鎌,天幕などあくまでも硬膜そのものが主役であることを考えるとき,この名称が現在のところではこの疾患の病態をもっともよく表現しているように思われる.

脊髄動静脈奇形"glomus type"の1手術例

著者: 岩槻清 ,   吉岡純二 ,   久山秀幸 ,   西本詮

ページ範囲:P.503 - P.507

Ⅰ.はじめに
 近年脊髄動静脈奇形の外科的療法は選択的脊髄動脈造影の発達とmicrosurgical techniqueの導入により飛躍的に向上し,全摘出が可能なものも数多くみられ,本邦でもその報告が増加しつつある.しかし本邦例をも含めて,"single coiled type"の全摘出の報告が多く,intramedullary nidusをもつ"glomus type"の手術症例の報告は比較的少なく,全摘出は不可能とさえいわれている.
 われわれは最近前根動脈を輸入血管とし,intramedullary nidusをもち,前および後脊髄静脈を輸出血管とした脊髄動静脈奇形,すなわちDiChiroらのいうglomus typeの症例に輸入血管の電気凝固と亜全摘出の二者併用を試み,症状の改善をみたので若干の文献的考察を加え報告する.

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日本脳神経外科学会事務局ニュース

ページ範囲:P.508 - P.509

脳神経外科認定医認定試験
 第11回日本脳神経外科学会認定医認定試験は,昭和51年7月31日,8月1,2日に東京にて行うことになりました.本年度の受験資格は,昭和45年4月およびそれ以前の国家試験に合格し,且つ昭和45年6月15日以前に,所定の訓練施設において,脳神経外科およびその関連学科の研修を開始し,6年以上の訓練を受けたものとします.受験の申請要項は,脳神経外科認定医指定訓練場所の長あてに送付してありますが,詳細は日本脳神経外科学会認定医認定委員会事務所あてお問合せ下さい. 日本脳神経外科学会認定医認定委員会

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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