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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻6号

1976年06月発行

雑誌目次

創造性を育てる風土

著者: 松村浩

ページ範囲:P.515 - P.516

 我々が知りうるかぎりのCushingの最も古い論文が1902年に発表されていることから,近代脳神経外科が軌道に乗ったのは,1900年を少し過ぎた頃であったろうか.我が国のそれが約40年遅れて出発したとしても,もうかなりの歴史的重みを持つ学問となった,昭和20年代の後半に医局員として初めてこの学問に接することができた私どもにとって,この間の世界の,また日本の学問上の進歩には,振り返ってやはり驚かざるをえない.とともに,日本の脳神経外科学の進歩向上も,単に脳神経外科学者の努力ということだけでなく,日本の国力,特に日本全体の科学や経済の力の向上と,それによる日本人の自信獲得が大きく作用しているように思われる.
 私どもの医局時代,病院の窓ガラスの割れた所に板がはめられ,研究室には老旧化した研究器具しかなく,街には西部劇まがいの暫定的家屋が乱立していた.その頃でも,研究室ではかなり盛んな研究活動が日夜続けられていたはずで,なかには国際的視野からみて卓越した研究もあったであろうが,その頃は,日本人の論文が"Journal of Neurosurgery"に掲載されるなどと誰も考えてみなかった.最近のように,毎号数篇の日本からの論文が誌上を賑わすなど,その頃からみると夢のようなことである.

総説

正常圧水頭症

著者: 森安信雄

ページ範囲:P.517 - P.523

はじめに
 1964年Hakim14)が"Algunas observaciones sobre la presion del L.C.R.sindrome hidrocefalico en adulto conpression normal del L.C.R."なる論文で,成人における水頭症で髄液圧が正常な症候群をはじめて記載し,ついで1965年,Adams and Hakim2)らが"Symptomatic occult hydrocephalus with"normal"cerebrospinal fluid pressure;A treatable syndrome"のなかでさらに討細にこの症候群を述べ,ここに正常圧水頭症(以下N.P.H.と略記する)の概念が提唱された.
 この症候群は,成人において脳室が拡大しているにもかかわらず髄液圧は正常範囲内にあり,神経症候としては,健忘,自発性低下,失算などの精神症状を主とし,さらに徐行,ジグザグ歩行などの歩行障害が出現し.腱反射ことに下肢の腱反射が亢進し,症例によっては尿失禁を認めるもので,手術的に脳室心耳吻合術を施行することによりこれらの症候が著しく改善されるのを特徴とする.

手術手技

三叉神経痛の手術

著者: 最上平太郎 ,   池田卓也

ページ範囲:P.525 - P.531

Ⅰ.はじめに
 三叉神経痛の手術は欧米ではよく行なわれるありふれた手術の1つであり,これに関する文献は枚挙にいとまのないほど多数見られる.しかしながら,本邦ではそれほど多くは行なわれていない.これは痛みに対する欧米人と日本人の考え方の差によるものかもしれない.
 手術方法は三叉神経の末梢レベルから中枢レベルに至るまでの各段階で種々の方法がある.現在では麻酔科のペインクリニックなどで末梢枝や半月神経節へのブロックがよく行なわれており,その成績もきわめてよい.注射療法で効果のよくないというところはそれほど真剣に注射療法に取組んでいないからだという人もあるほどである.またテグレトールなどの薬物療法などもしばしば奏効する.手術はこれらの療法で効果がみられない場合に適応とされるが,アルコールなどの注射療法は再発があるということや観血的療法を行なう際にかえって癒着などのため支障をきたすことがあるといった理由のためこれを嫌う人もある.

診断セミナー

自動症

著者: 村崎光邦

ページ範囲:P.533 - P.542

Ⅰ.はじめに
 自動症automatismとは精神運動症状が発作として現われる精神運動発作の1つのタイプで,発作時に目的のない,あるいは秩序性を欠いた精神運動性現象が現われ,その間意識障害があって後に健忘を残すものである.発作自動症ictal au-tomatismと発作後自動症postictal automatismに分けられ,後者は大発作などの発作後の意識障害からの回復過程でのもうろう状態にみられるものであり,前者はてんかん発作として独立に起こる本来の自動症で,ここでとりあげるのがこれである.
 従来,精神症状や自動的な運動症状などがてんかん発作として現われてくるものは明確な概念規定がないままにてんかん等価症epileptic equivalentの中に一括されて,今日でいう独立したてんかん発作とはみなされていなかった.ところがJackson15)によって,今日では代表的な精神運動発作の1つである鈎回発作uncinate fit,すなわち何ともいやな臭いや味がしたかと思うと,意識の変容とともに錯覚,déjà vu,幻視などの精神症状を伴った夢幻様状態dreamy stateが生じてくる発作が,鈎回に限局した病巣の発作発射によるものであることが証明されていた.

研究

頭蓋内クモ膜下腔におけるDimer-X®(第1報)—その毒性

著者: 西川方夫 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.543 - P.547

Ⅰ.はじめに
 空気脳室造影の不確実さ,不鮮明さおよび油性造影剤使用時の操作のやっかいさなどのため,水溶性造影剤の出現とともに最近では前二者にかわり,水溶性剤が脳室造影に使用されることが多くなってきた.
 しかし使用例の増加とともに,種々の副作用の出現が報告されつつあり,ことに脳室造影術後の痙攣発作の出現がその最も重篤なものとして注目されている.これは種々の抗痙攣剤治療に抵抗し,まれならず患者は死に至るといわれている.

顎動脈・中大脳動脈枝間端側吻合術—犬における頭蓋外・頭蓋内動脈間吻合術の新しい実験モデルの試み

著者: 浅利正二 ,   小原進 ,   藤沢洋之 ,   景山敏明 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.549 - P.556

Ⅰ.はじめに
 近年,operating microscopeを用いるmicrovascular surgeryの発達,普及に伴い7,21,22,25),従来外科的処置のおよばなかった頭蓋内動脈閉塞症に対して,血栓除去術8,12,13,20),あるいは頭蓋外・頭蓋内動脈吻合術10,11,14,16,23,24)など積極的な外科的治療が試みられるようになった.
 一方,乏血脳に対して行った血行再建術後に起こる病態の変化に関する研究はいまだ十分ではなく,この点についての臨床的,実験的研究は現在もっとも関心のもたれているところである.すなわちこれまでもacute ischemic strokeの病態についての実験的研究には,各種動物を用いて多くの努力が払われてきたが,今後はさらにこれらに加えて,比較的長期間血流を遮断した後,各時期に血流を再開した時の病態を解明し,乏血脳に対する血行再建術の意義,ことに血流再開の時期と適応についての基本的な問題を検討する必要があると思われる.

下垂体およびその近傍腫瘍の内分泌学的検討(第7報)—下垂体腺腫内出血の4症例における内分泌学的検討

著者: 魚住徹 ,   森信太郎 ,   渡部優 ,   滝本昇 ,   最上平太郎 ,   橋本琢磨 ,   大西利夫 ,   宮井潔 ,   熊原雄一 ,   松本圭史

ページ範囲:P.557 - P.565

Ⅰ.緒言
 脳下垂体腺腫内にはしばしば腺腫内出血が起こり,比較的小さい出血が腺腫内壊死およびそれにひき続く嚢腫形成を惹起すると考えられている.もし,きわめて大きな出血が起こって腺腫外にあふれ出した場合は,くも膜下出血の病像を呈し,激烈な症状を伴いこれが典型的な脳下垂体卒中(pituitary apoplexy)と称されている.もちろんこの両者の間に位する腺腫内出血も存在するわけで,このような場合には髄液内に血液は証明されないけれども急激な下垂体腺腫の体積増大によって頭痛,嘔気,嘔吐,視力障害の急速な進行,意識障害,ショックなど病態の急変,増悪を示す症状が突発する.
 このような場合に,臨床的にこれを典型的なくも膜下出血を伴うpituitary apoplexyと厳密に区別している人1)もあり,pituitary apoplexyという言葉を比較的広義に解する人2)もある.

脳硬塞患者の脳脊髄液循環動態—Anger cameraによる定量的検索

著者: 竹山英二 ,   神保実 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.567 - P.576

Ⅰ.はじめに
 われわれは,従来,種々の脳疾患に対してRadio Isotope(以下RIと略す)cisternography施行時,同時にAnger cameraを用いて髄液循環動態を定量的に表示しており,その診断的価値をすでに報告した16).本研究では,主として慢性期の脳血管閉塞症12例を対象として,RI cisternographyを施行し,同時に左右シルビウス槽周辺クモ膜下腔の髄液流を定量的に測定した.その理由は,当疾患に関する脳血流動態に関する報告は多い6,7,9,11,12,14,15)のに反して,髄液循環動態に関してはHalpernら8),Alazrakiら1)の報告はあるが,比較的等閑視されていること,および,われわれのAnger cameraを用いたdata-store play back方式による髄液流の測定方法が,当疾患の臨床病態像を把握する有効な方法ではないか,という推論を確かめるためである.その結果,患側脳半球でのクモ膜下腔髄液流の低下を主とした所見を得るとともに,われわれの方法の臨床的有用性を確信することができた.また,当疾患にみられる髄液循環動態異常の出現機序に関して考察した.

小児の脳シンチグラフィー—脳腫瘍例53例と非腫瘍例199例の分析

著者: 能勢忠男 ,   国保能彦 ,   中川邦夫 ,   吉井与志彦 ,   有水昇 ,   内山暁 ,   牧豊 ,   秋本宏

ページ範囲:P.577 - P.584

Ⅰ.はじめに
 脳scintigraphyは,現在では頭蓋内疾患の安全な診断法としての価値は高い.しかしながら,本法に関する小児例の報告はきわめて少ない4,6,14,16,18,19,20,24,29,31,32,33,35)
 その理由のおもなものとしては,1)発育途上にある小児の被曝線量の問題28),2)長時間,小児を安静にかつ正しい位置に固定することの困難さ,3)一般に,小児には後頭蓋窩腫瘍が多いが,従来,本検査法では後頭蓋窩腫瘍の診断率が低いといわれていたことなどであろう.

症例

頭蓋内Collision Tumor(ChordomaとHemangioblastoma)の1例

著者: 深谷皓孝 ,   吉田純 ,   坂野達雄 ,   景山直樹 ,   伊藤元

ページ範囲:P.585 - P.591

Ⅰ.はじめに
 2腫類の腫瘍組織が相接して(collision)または互に混じて(mixed)現れることについてはかなりの報告がある.また近年,放射線治療の進歩に伴い局所に大量照射が行われるようになり,その照射部位にsarcomaの発生が認められたとの報告がいくつか認められる.最近当教室においてchordomaの放射線治療後にhemangioblastomaが照射部位のchordomaに接して発生したきわめて珍しい症例を経験したので,以下にその詳細を報告する.

同一動脈同一領域に認めた脳動脈瘤と脳動静脈奇形の併存例

著者: 藤野秀策 ,   梅田昭正 ,   佐藤宏二 ,   玄貴雄

ページ範囲:P.593 - P.596

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内において,いくつかの血管奇形の併存はさほど珍らしいものでなく同じ先天奇形という考えからするならしかるべきと思う.ことに脳動静脈奇形と脳動脈瘤の併存例の報告は,諸外国ではいくつかみられる1-7)
 最近の報告では,たとえば,Perret & Nishioka2)のCo-operative studyによれば,頭蓋内動静脈奇形502例の中で,34例(7.3%)に,動脈瘤を認めたと報告している.本邦でのかかる症例の報告は少なく,ことに,同一動脈,同一領域に発生した脳動静脈奇形と脳動脈瘤の併存例は,本邦文献上,私どもの渉猟しえた範囲では,村上ら8)に1例報告をみるほか,見当たらない.

左小脳半球外側に発生したDermoidの1例

著者: 松田功 ,   菊池晴彦 ,   古瀬清次 ,   唐沢淳 ,   真鍋武聰 ,   榊寿右 ,   吉田泰二 ,   大西英之 ,   川村純一郎

ページ範囲:P.597 - P.604

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内dermoidは1745年Verattusが最初に記載して以来7,25,28),それほどまれな腫瘍ではなくなったが,その好発部位とされる後頭蓋窩dermoidの本邦報告例のうち,部位を確認できたものは,桂(1958)5例8),松岡(1966)1例10),松角(1969)1例20),石井(1973)1例6),および中尾(1974)1例26)の9例を散見するのみである.我々が最近経験した後頭蓋窩dermoidは,小脳半球外側背面に発生したもので,比較的まれな症例と思われたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

外傷性内頸動脈閉塞症の3例

著者: 白井鎮夫 ,   伴野悠士 ,   大和田哲夫 ,   牧豊

ページ範囲:P.605 - P.610

Ⅰ.はじめに
 外傷性内頸動脈閉塞症は,Verneuil(1872)31)によって初めて報告された.以来,脳血管撮影法の普及にともない,多くの報告が相次いでなされた.それらによると,本症は,外見上軽微と思われる外傷といえども油断のならないこと,受傷後,潜伏期間をもって発症し,硬膜外血腫を疑わしめる徴候を示すこと,いったん発症した場合には,予後はきわめて不良であることなどが,一般に認められている.
 著者らは,頭蓋底骨折に合併した3症例を報告するとともに,文献上集計しえた頭頸部非穿通性外傷に合併した74例2-11,13-23,25-30,32-36)をもとに,本症の臨床的特徴について考察を加えたので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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