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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻7号

1976年07月発行

雑誌目次

第一線診療の奨め

著者: 青木秀夫

ページ範囲:P.617 - P.618

 われわれ脳神経外科医は臨床の医師である.臨床家としても最も基本的なものは診療である.これは勤務場所が病院であろうと,開業であろうと,あるいは大学であろうと変わりはない.といい切ってしまうと,いやそうではない,科学者として真理の追求こそが最も基本的なもので,したがって研究が第一で,その上に診療が成り立っているものだ,という考えを持たれる向きもあると思う.
 私どもは,大学は学問の府であり,真理探求の場であると教えられ,また科学としての医学を学んだ.卒業後大学の臨床教室に入局し,医局および研究室での生活を通じ,研究こそが最も大切で,研究さえしっかりできれば,あとは大した問題ではない,と考えていた.もちろんその間に臨床の経験を積み,診療は良心に恥じないものをやってきたつもりである.しかし心の内のどこかで,臨床医学というものは,一段低いものであるかのごとき印象をもって接してきたように思う.このような研究優先の傾向は,医学界全般にみられたのではなかろうか.おそらくそのことが病院,特に大学病院で診療を受ける患者に,医療としては高度のものであっても,何となく冷たい,非人間的なものを感じさせたものと思われる.自分で振り返ってみて,大学での診療は一所懸命やったのではあるが,何かもう一つ患者との一体感というか,直接の触れ合いというものが不充分だったように思う.

総説

反射検査法・1—筋伸展反射

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.619 - P.624

Ⅰ.はじめに
 反射の検査は,神経疾患の診断のなかで最も重要な検査法の1つである.その長所は客観性があること,患者の協力がなくても行えること,さらにハンマーという簡単なものでその異常をさぐり出すことができる点であろう.
 反射の種類には,反射弓の状態から正常者でみられる反射として,①筋伸展反射と②表在反射があり,病的状態下においてみられるものとして,③病的反射がある.また神経生理学的立場から,④脊髄自動機能反射,⑤姿勢反射,⑥臓器反射などの特異な反射もある.

手術手技

髄液瘻の手術

著者: 岩渕隆

ページ範囲:P.625 - P.634

Ⅰ.はじめに
 脳脊髄液腔が外界と交通して脳脊髄液が漏出する状態は,髄液瘻(漏)cerebrospinal fluid fistula,CSF fistula,Liquorfistelと呼びならわされて来た.更に外界への漏出経路によって髄液鼻漏CSF rhinorrh(o)ea,髄液耳漏CSF otorrh(o)ea,髄液皮膚瘻CSF-cutaneous fistulaなどと呼ばれている.
 古く17世紀後半に既に記載があるといわれ35),1923年にはGrantによって最初の手術例が報告され18),今日大抵の成書には記載があり,決して新しくも華々しくもない分野ではあるが,今日でも続発症に悩まされたり,反復する手術を余儀なくさせられる例があることも事実である32,43),そこで手術手技を中心に関連する問題を整理して,治療成績の向上に役立てたい.

診断セミナー

交代性および交叉性片麻痺

著者: 村井由之

ページ範囲:P.635 - P.639

 皮質脊髄路は,交叉することなく錐体交叉部まで下降し,ここで交叉して反対側の脊髄側索路を下降して,脊髄前角細胞とシナプス結合する.したがって皮質脊髄路(錐体路)を侵す脳幹部の病巣は病巣と反対側の片麻痺をきたす.脳幹部には皮質脊髄路の他にも各種の上行性,下行性の伝導路が存在する.脳幹部に病巣があって,そのために病巣と同じ側脳神経麻痺をきたし,同時に下降性または上行性の伝導路の障害によって,身体の反対側にlong tract signをきたしたものを交代性片麻痺(hemiplegia alternans)という。
 交代性片麻痺の分類は,19世紀後半から20世紀の始めにかけて盛んに試みられた.脳幹部には比較的狭い部分に,多くの機能に関係した構造が密に存在しているので,障害部位のわずかな違いによって,数多くの症候群が記載された.それにもかかわらず,日常の診療においてはこれらのどの症候群にも正確には一致しない症例がかなり多い.したがって,最初は患者の症状と徴候から病巣の場所と広がりを正確に診断し,次にどのタイプの交代性片麻痺の症候群に属するかを考えるのが実際的であろう.実際の症例について考えてみる。

研究

中枢性水電解質代謝異常—特にNa代謝に関して

著者: 大井静雄 ,   平山昭彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.641 - P.648

Ⅰ.はじめに
 中枢神経系の疾患に伴った水電解質代謝異常は,多くの症例報告および種々の実験により,近年,水電解質代謝の中枢性調節という点で論議の的となってきた.特に中枢神経系疾患に伴ったNa代謝異常はその中心となり,様々の疾患と中枢性調節機構の障害からADHの分泌および喝中枢への影響を観点に多くの推論がなされてきた1,2)
 ADH分泌の調節因子としてi)細胞外液の浸透圧,ii)有効循環血液量,iii)その他,疼痛,ストレスなどがあるが,i)はosmo-receptorによりii)はvolumereceptorによりそれぞれ感知される3).そして一般にはvolume-receptorは左心房に4),osmo-receptorはsupraoptic nucleiおよびparaventricular nuclei,あるいはその近辺にあるとされ5),血清浸透圧の変動に伴いたとえばその上昇がosmo-receptorおよび喝中枢を刺激することにより前者ではADH分泌,後者では経口水分摂取を促進し血清浸透圧の低下をもたらすとされている3)

下垂体およびその近傍腫瘍の内分泌学的検討(第8報)—Acromegaly患者のGH分泌に関する臨床的研究

著者: 森信太郎 ,   魚住徹 ,   渡部優 ,   滝本昇 ,   最上平太郎 ,   橋本琢磨 ,   大西利夫 ,   宮井潔 ,   熊原雄一 ,   松本圭史

ページ範囲:P.649 - P.661

Ⅰ.緒言
 末端肥大症あるいは巨人症における病気の本態が過剰なGH作用にあることは周知の事実であるが,そのGH分泌の病態に関しては必ずしも明確にされていない.
 すなわちacromegalyにおけるGH分泌がいわゆる腺腫からの自律性のGH分泌であるのか,あるいは視床下部からの調節下にあるのか,GH分泌が何らかの内因性,外因性の因子により変動するが,症状の激しさは血中GH濃度に平行するのか,GH過剰症の結果として二次的に他の下垂体ホルモンへの影響が起こりうるかなど手近な例をひいても不明確な点が誠に多い.

遷延性昏睡患者におけるtriphasic fiow patternの検討—133Xe局所脳血流量および131I-MAA脳短絡血流量の測定

著者: 馬場元毅 ,   竹山英二 ,   吉田滋 ,   上野一朗 ,   神保実 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.663 - P.671

 我々は従来より,種々の原因による遷延性昏睡患者の脳循環動態の解明のために,133Xe clearance法を用いて局所脳血流量を測定し,同時に131I標識大凝集アルブミン(macroaggregates of 131I-human serum albumin:以下131I-MAA)の内頸動脈内注入により相対的短絡血流量(relative shunt flow:以下RSF)をも測定してきた.そして頭部外傷などにより,遷延性昏睡の長期にわたって持続した患者では,脳実質内動静脈短絡機能が正常より充進している場合があることを報告した20).脳実質内動静脈短絡に関しては,現在では形態学的にも証明されているが,その短絡血管床の開閉については未だ不明の点が少なくない.
 今回,我々は遷延性昏睡患者の局所脳血流量測定に際して,前述の脳実質内動静脈短絡機能の充進を思わせる症例に三相性の血流パターン(triphasic flow pattern)を認めた.このtriphasic flow patternは1972年,Kasoffらが133Xe clearance法を用いて小児重症頭部外傷患者の局所脳血流量を測定した際,脳損傷部,またはその周辺部の灰白質の虚血に由来し,組織を灌流することのない血流を反映するものとして報告している9).そこで我々は,このtriphasic flow patternの成因,短絡血流との相関について検討し,あわせて若干の文献的考察を加えた.

開頭手術において脳血管写像上の頭蓋内天幕上病巣位置を患者頭皮上へあてはめる方法

著者: 宮崎雄二

ページ範囲:P.673 - P.678

 頭蓋内天幕上疾病に対する手術にあたっては個々の症例の病巣にまさしく適応した位置と範囲にわたる頭蓋骨窓を作製することがきわめて重要であり,このことが手術の成否に関与することさえある.しかして頭蓋骨窓の大きさは手術目的とする病巣の大小の他,病巣が表在性であるか深在性であるか,手術のスケール,周辺脳組織の浮腫程度,肉眼的手術であるか顕微鏡下手術であるかなどによって異なるが,どのような場合にも頭蓋骨窓を作製すべき位置は手術目的病巣の正確な位置とひろがりを諸検査資料から推定することによって決定される.
 頭蓋内天幕上病巣の位置とひろがりを知るための惜報を提供してくれる最も重要な検査資料は,現今においては脳血管撮影像であり,脳神経外科医は脳血管撮影像上に描出されている天幕上病巣の位置とひろがりを手術時に患者頭部へあてはめることによって頭蓋骨窓作製位置を設定し,これによって開頭手術の第1歩を踏み出すこととなる.しかし頭部は球体であるため頭皮上からの頭蓋腔内病巣位置の推定が必ずしも容易でない上に,脳血管撮影像は球体内構成体がX線フィルムという平面へ投映された像であるという欠点と問題点がある.

Fluorescein angiographyによる脳表微小循環動態の観察

著者: 柴田尚武 ,   森和夫

ページ範囲:P.679 - P.684

Ⅰ.Fluorescein angiographyについて
 Fluorescein angiographyとは螢光造影剤であるフルオレセインナトリウム液を内頸動脈に注入し,これが脳表循環系に到達した時に,フィルターで取出した紫外線を当て,血管より螢光を発生させて,これをフィルターにより吸収して脳表微小循環写真を撮影する方法である.
 Fluoresceinが血流動態の観察に使用されたのは1961年のNOvotony1)による眼底血管においてであり,以来眼科領域では広く利用されている,一方,脳外科領域においては1967年にFeindel,Yamamoto,Hodge2)によって脳表血管の観察が試みられたのが最初である.ただしFiuorescein angiographyによって観察できるのは,脳表血管の一部,すなわち軟膜の血管であり,あくまで定性的であるという欠点はある.しかし,軟膜の微小循環は開頭により直視下に観察しうる唯一の部位であるため,本法を用いて普通の肉眼またはX-ray angiogramなどでは全く見ることのできない,15から20μの血管の血流状態が良く観察できるばかりでなく,動脈と静脈を同じ条件にて経時的かつ瞬間的な血流動態を把握しうること,生体への侵襲が全くないことなどは実験例においても,また臨床例においても脳血流動態の観察にきわめて効果的な方法と考えられる.

症例

特発性脊髄硬膜外血腫

著者: 西川方夫 ,   ,   米川泰弘

ページ範囲:P.685 - P.688

Ⅰ.はじめに
 1869年,Jacksonが最初の報告をして以来すでに数多くの特発性脊髄硬膜外血腫について報告されており,現在ではすでに珍らしいものとは見なされなくなっている.
 種々の疾患に対して行われる抗凝固治療がその頻度を増大させたが,抗凝固治療が行われず,また外傷もなくこれが発現することも知られている.

脳動脈瘤,視交叉部直接圧迫による同名半盲

著者: 佐藤智彦 ,   児玉南海雄 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.689 - P.697

Ⅰ.はじめに
 同名半盲はその特異な視野変化から脳内病変の局所診断に重要な位置を占めているが,脳動脈瘤により同名半盲を呈したという報告は数少ない1-10,12,13,15-22).最近,われわれは脳動脈瘤により同名半盲を呈した2症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

鼻咽腔内進展をきたした巨大な嫌色素性下垂体腺腫の1例

著者: 代田剛 ,   牧野宏太郎 ,   後藤聡 ,   上野一義 ,   高村春雄

ページ範囲:P.699 - P.706

Ⅰ.緒言
 下垂体腺腫が,トルコ鞍内にとどまらず鞍外に進展した場合,White and Warren17)により,その進展方向から次のごとく6分類されている.すなわち,①pharyngeal extension,②hypothalamic extension,③temPoral extension,④invasion of cavernous sinus,⑤posterior subtentorior extension,⑥frontal extensionである.ところで,これらの中には,まれならず遭遇するものから,過去にごく少数例が報告されているにすぎないものまで,それらの頻度は様々である.またこれら鞍外進展と,臨床的見地からの悪性度との関連も,論議の多いところである.
 我々は,18歳男子に発生した巨大な下垂体腺腫が,下方は鼻咽腔内に進展し,上方は視床下部を挙上圧迫していたまれな1例を経験したのでここに報告し,あわせて文献的考察を加える.

小児後頭蓋窩結核腫の手術治験例

著者: 乙供通則 ,   三田禮造 ,   田村弘幸 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.707 - P.713

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内結核腫は,1790年にFord32)によって初めて記載され,1880年にはHahn38)によりその摘出術の試みもなされて以来,外科的治療を含め多くの症例に関する報告がある.
 広義の脳腫瘍にも列せられる本症は,当然外科的治療の良い適応ではあるが,抗結核剤の出現以前は,術後高率に結核性髄膜炎が併発するために,とりわけ後頭蓋窩の場合には予後不良とされ,かのCushing(1932年)をして減圧術に止めるべきであるとさえ言わしめている25).しかし,1944年WaksmanらによるStreptomycin(SM)の発見以来,相ついで種々の抗結核剤が開発され15),術後の髄膜炎併発率も低下し,積極的に全摘出術が行われるようになった.一方,近年抗結核剤の進歩のみならず,BCGなどの普及6)あるいは生活水準の向上など,環境予防衛生の進歩により,頭蓋内結核腫は現在ではむしろまれな疾患とさえ言われるようになってきている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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