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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科4巻8号

1976年08月発行

雑誌目次

手術される身になって

著者: 深井博志

ページ範囲:P.719 - P.720

 脳神経外科学は手術的治療を基本とする治療医学なので,治療の中心は手術となるのは当然である,この手術に関する冒頭の言葉は,昨年,亡くなられた目本脳神経外科学会の大先達である中田瑞穂先生が生前に好んで,私共に説かれた警句である.
 外科医になりたての頃は,とくに数年にして多くの手術症例を経験し,大過なく患者が癒っていた頃は手術に対する自信はむしろ過剰となり,先生にこの警句でいましめられ,頭の中で理解できても,症例の少かった時代の警句に過ぎないと思うことがあった.しかし,外科医となって四半世紀を経たこのごろになって,この警句は手術の決定と遂行を通じて,先達の長い臨床経験から得られた,外科医としての治療上の悩みが自づから吐露された,極めて謙虚な言葉として,重みを持って納得できるようになった.そうしてこの警句は最近のように,脳神経外科領域における対象症例の増大と診断技術および手術術式の進歩の顕著な現今にあっても真理であり,むしろ,手術適応の拡大と術式の進歩のゆえに再び問い直されるべき警句と信ずるようになった.

総説

反射検査法・2—表在反射・病的反射

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.721 - P.726

Ⅳ.表在反射(superficial reflex)
1.定義と種類
 皮膚または粘膜に加えられた刺激によって,反射的に反射弓に関与する筋に収縮反応がおこる.これを表在反射という.
 表在反射の発生機転は単純ではなく,多種類の刺激によって誘発される.また反射を誘発する範囲も広く,ときには刺激から遠くはなれた遠隔部に反応がおこり,多シナプス性である.さらに本反射は深部反射より潜伏期が長く,かつ疲労しやすいという特徴を有する.

手術手技

急性硬膜下血腫の手術

著者: 倉本進賢 ,   重森稔

ページ範囲:P.727 - P.732

Ⅰ.はじめに
 重症頭部外傷症例は医界一般の本症に対する認識が高くなったことと,救急搬送体制の向上などによって,最近では比較的短時間のうちに脳神経外科医の手にその治療がゆだねられるようになった.それにしても,早期発見,早期治療こそ治療成績向上につながるのではないかと考えられていた急性硬膜下血腫は,術中にみられる著明な脳浮腫,脳腫脹や術後の頭蓋内圧亢進症状になやまされ,現在なお手術成績が向上せず高い死亡率を示している1,3)
 私どもは,約10年前に本症に対して積極的に広範囲減圧開頭術を実施して,これは助からないだろうと思われた患者を救命し得た経験があり,急性硬膜下血腫に対する片側広範囲減圧開頭術に大きな期待をもったことを現在もはっきりと想い出すのである.その頃から,国の内外で急性硬膜下血腫に対する減圧開頭術の有効性が強調され,急性硬膜下血腫に対する広範囲減圧開頭術は一般に認められるに到っている.しかしながら,私どもの経験でも必ずしも全例に劇的効果が期待できないことや,幸いに救命し得ても遷延性昏睡症例の増加などが問題となって来ている.Ransohoffら1)は急性硬膜下血腫に対するhemicraniectomyの最近の成績を発表し,生存率が10%でfunctionalsurvival rateは4%であったとしprimary brainstem injuryを伴う症例では手術を行うべきでないという悲観すべき成績を発表している.

診断セミナー

眼球振盪(眼振)—病的自発眼振検査を中心に

著者: 渡辺勈

ページ範囲:P.733 - P.738

はじめに
 眼球振盪(眼振と略称:Nystagmus)は,反射性ないしは不随意的な,律動的な眼球の往復運動で,左右(水平),上下(垂直),左右回旋などの相反する2つの方向の動きを規則的に交互に繰り返すものである.
 眼振は本来は,外界の事物の動きや自己の動きに伴って,固視している状態を保持するために発現するものであり,この種の生理的眼振をJung(1948)は"Nystagmus dient zur Erhaltungoptischer Fixpunkte in den wechselnden Beziehungen von Korper und Umwelt"と表現している.

研究

脳組織圧(第1報)—脳組織圧測定時の問題点と測定方法の改良

著者: 林成之 ,   菅原武仁 ,   後藤利和 ,   竹内東太郎 ,   坪川孝志 ,   森安信雄

ページ範囲:P.739 - P.745

Ⅰ.はじめに
 組織圧の測定は,はじめ皮下組織や筋肉などで行われ,needle法(Meyer 1932)やmicropipette法(McMaster法)などの歴史的変遷を経た後,1963年Guytenらによるcapsule法が創始された,しかし,このcapsule法は,closed systemの中にある脳組織圧を測定する方法としては,1つの容積をなすボールを脳組織内に挿入する必要があるため,必ずしも満足すべき方法とはいえない.その後,1968年Scholanderらにより,測定カテーテルの中に綿線維を入れたwick法が開発され,Brodersen(1972)とBrock(1972)がこの方法を用いて,はじめて脳組織圧を測定した.しかし,安静時の脳組織圧は,Brodersenは-3から-12mmHgの陰圧であるといい,Brockらは,平均5.42±2.59mmHgの陽圧を示したと,全くあい反する報告をしている.
 しかも,その測定内容についても,Brodersenらは間質液圧とし,Brockらは組織圧と報告しており,wick法による脳組織内の圧測定内容について十分検討がなされないまま研究が進められているのが現状である.

頭蓋Histiocytosis Xの臨床病理学的検討

著者: 今川健司 ,   浅井昭 ,   林誠之 ,   戸田稲三 ,   森川篤憲 ,   野村隆吉

ページ範囲:P.747 - P.752

Ⅰ.緒言
 eosinophilic granuloma,Hand-Schüller-Christian氏病,Letterer-Siwe氏病の3疾患は頭蓋骨に骨破壊と破壊部に一致して腫瘤または腫脹をきたす一連の疾患として知られ,1953年Lichtenstein18)がこれら3疾患を包括する名称としてHlstiocytosisXなる語を提唱して以来,広く本名称が用いられている.
 本疾患は未だ本態不明な比較的稀な疾患で,その病因や病理学的所見について議論の多いところである.これら3疾患は同一疾患の異なる病相であるという考えが有力ではあるが,臨床症状,経過および予後も一様でなく,病理組織学的にもおのおの特徴がある.われわれは1969年以後6年間に13例の頭蓋骨Histiocytosis Xを経験したので,症例の検討ならびに若干の文献的考察を加え報告する.

頭部外傷患者の臨床経過と髄液酵素活性値

著者: 中村洋 ,   水野巧 ,   河村克彦 ,   上農哲朗

ページ範囲:P.753 - P.762

Ⅰ.緒言
 頭部外傷においてcreatine(Cr),creatinine(Crn),17-KS,17-OHCSなどの尿中排泄値と臨床像の推移との間にかなり相関がみられ,意識障害例・重症例では,正常時にはほとんどみられないCrが多く排泄され予後不良の指標となる点についてはすでに発表して来た17が,さらに脳脊髄液や血清の諸酵素GOT,GPT,LDH,CPKとの関連についても検索し始め予後経過を診る上で興味ある知見を得ており,この尿中排泄値変動との関連などをも含めて種々考察を加え述べてみる.

外傷性硬膜外血腫における脳血管撮影上のextravasationについて—その臨床的意義と手術適応

著者: 岡田慶一 ,   石川誠 ,   武田文和 ,   川淵純一 ,   狩野忠雄 ,   若尾哲夫 ,   熊谷紀元

ページ範囲:P.763 - P.774

Ⅰ.はじめに
 外傷性硬膜外血腫の出血源の大部分は硬膜動脈が頭蓋骨々折線と交叉する部にあり,この血管の破綻が脳血管撮影上,まれに造影剤の血管外漏出,いわゆるextravasationとして認められることがある.このextravasationの硬膜外血腫診断上の意義と病態については,今までにいくつかの検討がなされているが,多くは数例の報告にとどまっている.われわれはここに自験例20例について,その臨床的意義を手術適応との関連を中心に考察した.

常温平常血圧下,脳動脈瘤の直接手術—我々の血流一時遮断延長法を用いて

著者: 吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.775 - P.783

 破裂脳動脈瘤の根治手術の要点は,動脈瘤の柄部を確実に処理することである.そのためには,術中,流入動脈を一時的に遮断し,動脈瘤にかかる血圧を減少させ,柄部の剥離を容易にし,さらに,予期せざる破裂の場合には,流出動脈をも一時遮断し,完全なdry fieldとして動脈瘤の処理をすることが必要となる.しかし,常温下の全脳血上流遮断の許容時間は,約5分であり1,3,9,10),このため常温下では,血流遮断による脳損傷を恐れ,流脈の遮断を行わずに,動脈瘤を処理することが,今までの手入動術の常識であった.そして,一時遮断を行う際は,その許容時間を延長させる目的で,低体温麻酔法が広く用いられてきた2,15,21,23),低体温麻酔は,冷却,加温に長時間を要し,熟達した麻酔医による細心の管理が必要であり,かつ合併症を伴う危険性もあるが12),脳血流遮断の許容時間を延長させる方法としては,唯一のものであり,我々も十分の注意のもとに愛用してきた23).その後,あるaccidentにヒントを得て,常温平常血圧下における,脳主幹動脈の一時遮断につき検討した結果,遮断前でのmannitolの投与が,遮断許容時間の延長に有効であることが確認されている.本論文では,常温平常血圧下,mannitol前投与により,流入動脈の一時遮断を行い直接手術を施行した,181例の脳動脈瘤症例を基礎資料とし,脳主幹動脈の一時遮断の許容時間について検討し,あわせて,手術成績,追跡調査について,報告する.

症例

Craniolacunia(Lacunar skull,Luckenschadel)—2症例と文献的考察

著者: 重森稔 ,   本田英一郎 ,   正島和人 ,   永山清高 ,   高城信彦

ページ範囲:P.785 - P.790

Ⅰ.はじめに
 Craniolacunia(Lacunar skull,Luckenschadel)は,脊髄髄膜瘤や脳瘤の患者にしばしば生下時より認められ,欧米では髄膜瘤の頻度が高いこともありその原因,臨床的意義などに関してかなりの報告が認められる4,11,13).また,最近ではとくに脊髄髄膜瘤に対して早期手術を考慮する場合,craniolacuniaの有無がその適応の目安の1つになりうるとする報告も認められる12,13).しかしながら,本邦においては注目されることが少なく,その詳細に関する記述はほとんどみられない2,10)
 最近われわれは,腰部髄膜瘤,髄膜脳瘤を伴った2例craniolacuniaを経験したので,その特異なレ線像とともに原因,臨床的意義,予後などにつき多少の文献的考察を加えて報告する.

側脳室"colloid cyst"

著者: 島健 ,   石川進 ,   岡田芳和 ,   梶川博 ,   児玉安紀 ,   宮崎正毅 ,   原田廉 ,   日比野弘道 ,   魚住徹

ページ範囲:P.791 - P.797

Ⅰ.はじめに
 Colloid cystは第3脳室colloicl cystという疾患単位がもうけられているように,その多くは第3脳室前半部に発生する比較的まれな良性腫瘍である.この第3脳室colloid cyst自体も本邦においては報告例が少ないが18),最近,我々は側脳室"colloid cyst"と考えられる症例を経験したのでその臨床的および病理学的所見を示すとともに,その発生起源および第3脳室colloid cystに特徴的とされている急激な頭蓋内圧亢進症候の発現機序に関して若干考察してみたい.

頸髄ガラス片貫通の1例

著者: 宮崎雄二 ,   稲葉憲一

ページ範囲:P.799 - P.803

Ⅰ.いとぐち
 脊髄が異物の穿通によって損傷された症例は戦時外傷としては稀ではないが,家庭内事故によって発生した症例はきわめて稀である.
 著者らはガラス戸が頸部へ落下し,ガラス破片が串ざし状に高位頸髄内を貫通残留した1例を経験し,本例に対してガラス片の除去手術を行ったので報告するとともに,頸髄部部分的の損傷による特異な神経症状についても検討報告する.

嚢胞性髄膜腫の2例

著者: 森本益雄 ,   青木秀暢 ,   貞光信之 ,   中嶋玲子

ページ範囲:P.805 - P.809

Ⅰ.はじめに
 髄膜腫は神経膠腫についで多い頭蓋内腫瘍であるが,嚢胞を形成した髄膜腫に遭遇することはきわめてまれで,髄膜腫の1.218)−2.2%4)にすぎない.
 嚢胞性髄膜腫についてわれわれが知りえた限りでは,44例が報告されており,このうち,本邦では川淵9)の1例をはじめとして15例が報告されているにすぎない.

脳嚢虫症の1治験例

著者: 塚本泰 ,   村岡勲 ,   吉益倫夫 ,   吉岡真澄

ページ範囲:P.811 - P.815

Ⅰ.緒言
 脳寄生虫症は本邦では近年減少しているが稀に脳神経外科領域で遭遇することがあり,一応の常識を有することが必要である.
 当科ではGerstmann症候など多彩な神経症状を示し,開頭手術の結果脳嚢虫症であった例を経験したので報告し,手術法などにつき考察する.

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日本脳神経外科学会事務局ニュース

ページ範囲:P.762 - P.762

 医学賞ならびに研究助成金
 昭和51年度「日本医師会医学賞」ならびに「日本医師会医学研究助成費」について,脳神経外科学会より推薦を希望される向きは,脳神経外科学会会長群馬大学川淵純一教授あて,至急ご一報下さい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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